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chapter4
step.34-4 罪と罰
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「はえっ!?」と、ニャン太さんが素っ頓狂な声を上げる。
帝人さんは小さく噴き出してから、静かに微笑んだ。
「うん、愛してるよ。でもそれは、ニャン太も類も同じだろう?……君だってさ」
僕は素直に頷いた。
「もちろん、僕もソウさんのことを大切に思っていますよ。でも、あなたの愛は僕のとは違う。僕が類さんに抱く感情に近いと思います。それをあなたは……自覚しているはずです」
帝人さんの眉がピクリと震えた。それはもしかしたら僕の見間違いかもしれないほど、小さな反応だった。
「一応聞くけど……何を根拠にそんなことを?」
帝人さんは足を組み直してから問う。
僕は彼を真っ直ぐ見つめたまま口を開いた。
「あなたがついている嘘に気付いたんです」
「嘘?」
「あなたは……類さんのお父さんが亡くなった火事の時、放火を疑われていませんでしたか」
「え……?」ニャン太さんが息を飲む。
僕は努めてゆっくりと、先ほど聞いた話を口にした。
「類さんの実家の隣に住んでいた女性が教えてくれたんです。あなたがあの日……類さんの家に2度行っていたことを。
当時、警察は事故と自殺、事件の3つの面から捜査をしていたそうで……あなたの奇妙な行動は、捜査の対象になっていたはずです」
女性は以前、帝人さんと話したことがあったらしく、かなり強く印象に残っていたようだった。
「ニャン太さんはこのことを知らなかった。……そうですね?」
「う、うん……」
彼が前に話してくれたことはこうだーー
予備校に行っていた帝人さんに電話をし、ふたりで待ち合わせて類さんの家へ向かった。そして火事を見た。
けれど帝人さんは、類さんがバイトで留守をしている間に1度、彼の自宅を訪れていたのだ。
「帝人……本当なの? 放火を疑われてたって……」
「……本当だよ」
帝人さんは否定をしなかった。
「でも、あれは事故だった」
類さんが唇を開く。
僕は頷いた。
「もちろんです。警察は事故だと結論を下しました。ですが、問題はそこじゃないんです。大切なのは、帝人さんが1日に2度も類さんの家を訪ねた理由です」
「理由? そんなの決まっているだろう」
帝人さんは昔を思い出すようにとおくをみてから、ちらりと類さんへ目を向け俯いた。
「俺はあの時、類のことを助けたくて必死だったんだ。あのままお父さんと共依存の関係が続けば類はボロボロになってしまう……だから、話をしなくちゃならないと思って、訪ねたんだよ。全ては類を守りたかったから――愛していたからだよ」
彼は静かに目を閉じ、天井を仰いだ。
「それを誰にも言えなかったのは、火事が起こったからだ。怖かった……俺は結果的に類のお父さんを追い詰めてしまって、自殺させてしまったんじゃないかって……
類がどれほどお父さんのことを大事にしてたかは知っていたから、言い出せるわけがなかったんだ」
「帝人……」ニャン太さんが眉尻を下げる。
僕は首を左右に振った。
「そうだとするなら時系列がおかしいんです。だって、あなたはニャン太さんに誘われて同行したじゃないですか」
帝人さんが瞬きをする。
僕は慎重に言葉を進めた。
「同日に2度尋ねることは、かなりのプレッシャーをかける行為です。少なくともあなたならそれをわかっていたはずだ。
それなのに、どうしてニャン太さんと一緒にまた訪ねたんですか?」
「……」
「圧をかけるためだったんじゃないんですか」
「圧って……待ってよ、デンデン。帝人がどうしてそんなことしなくちゃならないの」
「……復讐、だったんじゃないかなと思います」
戸惑うニャン太さんに答える。
「は――」
彼は目を大きく見開いた。それからブンブンと顔を振る。
「ないよ、ないない。なんで帝人が類ちゃんのお父さんに復讐するのさ!」
「それは……」
僕は帝人さんに視線を戻すと続けた。
「ソウさんにケガを負わせたから、です」
帝人さんの唇から長く重いため息が落ちる。
彼は眉間を指先で揉むと、少し顎を持ち上げて困ったように眉をハの字にした。
「それが根拠? はは、妄想は大概にしなよ。確かに俺は類の家に2度行った。でもその理由を君の頭の中のシナリオに合わせられたらたまったものじゃないね」
「ですが、復讐だと仮定すると、あなたに感じた違和感のすべてを説明できてしまうんですよ」
「過去の話なんだ。何だって都合良く解釈できる」
「いえ、今のこともです。何故ならあなたの復讐は……まだ続いているから」
帝人さんの眼差しが鋭さを帯びる。
僕は自身の手を握りしめて彼の視線を受け止めると、唇を引き結んだ。
帝人さんは小さく噴き出してから、静かに微笑んだ。
「うん、愛してるよ。でもそれは、ニャン太も類も同じだろう?……君だってさ」
僕は素直に頷いた。
「もちろん、僕もソウさんのことを大切に思っていますよ。でも、あなたの愛は僕のとは違う。僕が類さんに抱く感情に近いと思います。それをあなたは……自覚しているはずです」
帝人さんの眉がピクリと震えた。それはもしかしたら僕の見間違いかもしれないほど、小さな反応だった。
「一応聞くけど……何を根拠にそんなことを?」
帝人さんは足を組み直してから問う。
僕は彼を真っ直ぐ見つめたまま口を開いた。
「あなたがついている嘘に気付いたんです」
「嘘?」
「あなたは……類さんのお父さんが亡くなった火事の時、放火を疑われていませんでしたか」
「え……?」ニャン太さんが息を飲む。
僕は努めてゆっくりと、先ほど聞いた話を口にした。
「類さんの実家の隣に住んでいた女性が教えてくれたんです。あなたがあの日……類さんの家に2度行っていたことを。
当時、警察は事故と自殺、事件の3つの面から捜査をしていたそうで……あなたの奇妙な行動は、捜査の対象になっていたはずです」
女性は以前、帝人さんと話したことがあったらしく、かなり強く印象に残っていたようだった。
「ニャン太さんはこのことを知らなかった。……そうですね?」
「う、うん……」
彼が前に話してくれたことはこうだーー
予備校に行っていた帝人さんに電話をし、ふたりで待ち合わせて類さんの家へ向かった。そして火事を見た。
けれど帝人さんは、類さんがバイトで留守をしている間に1度、彼の自宅を訪れていたのだ。
「帝人……本当なの? 放火を疑われてたって……」
「……本当だよ」
帝人さんは否定をしなかった。
「でも、あれは事故だった」
類さんが唇を開く。
僕は頷いた。
「もちろんです。警察は事故だと結論を下しました。ですが、問題はそこじゃないんです。大切なのは、帝人さんが1日に2度も類さんの家を訪ねた理由です」
「理由? そんなの決まっているだろう」
帝人さんは昔を思い出すようにとおくをみてから、ちらりと類さんへ目を向け俯いた。
「俺はあの時、類のことを助けたくて必死だったんだ。あのままお父さんと共依存の関係が続けば類はボロボロになってしまう……だから、話をしなくちゃならないと思って、訪ねたんだよ。全ては類を守りたかったから――愛していたからだよ」
彼は静かに目を閉じ、天井を仰いだ。
「それを誰にも言えなかったのは、火事が起こったからだ。怖かった……俺は結果的に類のお父さんを追い詰めてしまって、自殺させてしまったんじゃないかって……
類がどれほどお父さんのことを大事にしてたかは知っていたから、言い出せるわけがなかったんだ」
「帝人……」ニャン太さんが眉尻を下げる。
僕は首を左右に振った。
「そうだとするなら時系列がおかしいんです。だって、あなたはニャン太さんに誘われて同行したじゃないですか」
帝人さんが瞬きをする。
僕は慎重に言葉を進めた。
「同日に2度尋ねることは、かなりのプレッシャーをかける行為です。少なくともあなたならそれをわかっていたはずだ。
それなのに、どうしてニャン太さんと一緒にまた訪ねたんですか?」
「……」
「圧をかけるためだったんじゃないんですか」
「圧って……待ってよ、デンデン。帝人がどうしてそんなことしなくちゃならないの」
「……復讐、だったんじゃないかなと思います」
戸惑うニャン太さんに答える。
「は――」
彼は目を大きく見開いた。それからブンブンと顔を振る。
「ないよ、ないない。なんで帝人が類ちゃんのお父さんに復讐するのさ!」
「それは……」
僕は帝人さんに視線を戻すと続けた。
「ソウさんにケガを負わせたから、です」
帝人さんの唇から長く重いため息が落ちる。
彼は眉間を指先で揉むと、少し顎を持ち上げて困ったように眉をハの字にした。
「それが根拠? はは、妄想は大概にしなよ。確かに俺は類の家に2度行った。でもその理由を君の頭の中のシナリオに合わせられたらたまったものじゃないね」
「ですが、復讐だと仮定すると、あなたに感じた違和感のすべてを説明できてしまうんですよ」
「過去の話なんだ。何だって都合良く解釈できる」
「いえ、今のこともです。何故ならあなたの復讐は……まだ続いているから」
帝人さんの眼差しが鋭さを帯びる。
僕は自身の手を握りしめて彼の視線を受け止めると、唇を引き結んだ。
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