上 下
171 / 211
chapter4

step.31-6 クリスマスとお墓参り

しおりを挟む
 さすがに疲れたのか、いつの間にか類さんは僕らに寄りかかって寝ていた。
 ニャン太さんが彼を抱きかかえてベッドに運び、僕はみんなと後片付けをした。
 それから順番にシャワーを浴びた。

 前に買った手袋を類さんの枕元に届けに行けば、ソウさんが類さんの隣に潜り込んで寝ていた。
 あどけない様子で寝息をこぼすふたりを見下ろしていると、なんとなく微笑ましい気持ちになる。
 僕はこっそり手袋の入った袋をデスクに置くと、類さんの髪にキスを落として部屋を後にした。

 自室の扉が鳴ったのは、ベッドに寝転がってしばらくしてからだ。

「デンデン。今日、一緒に寝ていーい?」

 扉を開けると、枕を持ったニャン太さんがいた。

「構いませんが……どうかしましたか?」

 てっきり彼はソウさんと一緒に類さんのベッドに潜り込むだろうと思っていた僕は、意外に思う。

「どうもしないよ。ただデンデンにくっつきたかっただけ~」

 彼は足取り軽く僕のベッドに飛び込んだ。
 僕も慣れたもので、彼の隣に寝転がる。

 ニャン太さんはゴロゴロと心地良い位置を探してから一息つき、じっと天井を見上げた。

 束の間の沈黙。

「あの、さ。……デンデン」

「はい?」

 言葉を探すようにしてから、彼は僕の方を見た。

「いろいろ、ありがとね」

「え……?」

 お礼を言われる理由がわからずキョトンとすれば、彼は身体ごとこちらを向いた。

「この前ね、類ちゃんいつもの病院に行ったら……通院の間隔、長くしても平気って言われたんだ。次は、薬も減るかもって」

「それって……」

「うん」と、彼は嬉しそうに表情を綻ばせる。

「治るまではまだ時間かかるみたいなんだけど、かなり落ち着いてきてるみたい。ぶっちゃけ、類ちゃんよくお医者さんの前でムリすることあるから疑ってたけど……今日の見て、確信したよ。類ちゃん、ホントのホントに前に進んでるんだって」

「良かったです……」

 僕も身体ごとニャン太さんの方を向いた。
 ちょっと泣きそうだ。
 お医者さんが言うなら彼がいい状態へ進んでいるのは確かだろう。

 ニャン太さんは昔を思い出すように遠くへと視線を投げると、唇を開いた。

「高校出てからさ、類ちゃん、どんどん不安定になってっちゃってて……落ちてる時は、ボクとか帝人じゃどうしようもなくて。ソウちゃんばかりに負担かかっちゃってさ。なんとか代わりになろうとして頑張ったりしたけど、全然ダメで……
 ふたりして死んじゃうんじゃないかって、不安でたまらなく思うこともあった」

 続いて僕の手を取り、微笑む。

「でも、デンデンが来て類ちゃん変わったんだ。何が、って具体的には言えないけど、諦めないようになったっていうか、今を見てくれるようになったっていうか……。
 ボクさ……今日、凄く嬉しかったんだよ」

 僕はゆるく首を振った。

「僕は何もしていません。たまたまタイミングが合っただけです。みんなが類さんのことを支えてきたから、今があるんですよ」

 僕は何もしていない。類さんやニャン太さんに甘やかされてばかりだ。

「デンデン……」

「僕も今日、凄く楽しかったです。七面鳥もケーキも何もかも凄く美味しかったし、プレゼント交換もとても楽しかった。
 ニャン太さんたちといると、人生で1番の幸せがどんどん更新されていきます」

 類さんと出会い、心配に思うこともあるけれど、でも、毎日、怖いくらい幸せだ。
 心から笑って、好きが溢れていて……誰かと想い合うことはこれほどまでに安らぐものなのかと、驚きの連続だった。

「また、来年も今日みたいにステキなクリスマスを過ごそうね」

 ニャン太さんが小指を差し出してくる。

「はい。約束です」

「うん、約束」

 それに小指を絡めて、僕らは指切りをした。

 次いで、彼は僕の頬を両手で包み込んで額にキスをしてくれたから、僕もニャン太さんの鼻先に口付けを返した。

 視線が交錯し、どちらからともなく唇が重なる。

 触れるだけのキスを2度。
 ふと気が付くと、ニャン太さんに組み敷かれていて、僕はゆっくりと瞬きをした。
 彼とふたりきりでベッドにいるのは初めてだと思い至ったからだ。

 と、ニャン太さんは何か言いたげに僕の目を覗き込んできた。

 訝しげにすると、彼は困ったように眉根を下げてドサリと横に寝転がった。

「……おやすみ、デンデン。愛してるよ」

 囁いて、ニャン太さんは目を閉じ身体を丸めた。

「僕もです。おやすみなさい」

 僕は何故かホッと吐息をこぼすと、彼の肩まで毛布を持ち上げる。
 それからカーテンの隙間から覗く窓の外の雪を眺めた。

 来年も、再来年も、そのまた次の年も。
 みんなと一緒に過ごせればいい。

 他愛もないことで笑い合って、たくさんキスをして……
 そして未来の自分が、今日という日を温かな気持ちで振り返ることができるといい。

 僕は胸の上で手を組むと、瞼を閉じた。
 隣から聞こえる吐息とぬくもりは、速やかに僕を夢の世界へと連れ去っていった。



step.31「クリスマスとお墓参り」おしまい
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』 35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。 慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。 ・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35) ・のんびり平凡総受け ・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など ※本編では性描写はありません。 (総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

処理中です...