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chapter4
step.30-9 メイドとお邪魔者
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類さんは僕の背中を洗ってくれた。
代わりに僕も洗いたいと告げると、彼は小さく頷いてくれた。
タオルを泡立てて、そっと彼の背中に当てる。
前よりもずっと自分を曝け出すことが出来るようになったのは、こうして彼の柔らかくて、最もナイーブな部分に触れることが許されるようになったからだろう。
全身を洗って泡を流し、僕らは少しぬるめのお湯に浸かった。
お互い向き合うように座って、浴槽の端に背を預ける。
見つめ合い指を絡めた。足で悪戯したり、濡れた髪を撫でたりしていると、たぶん彼も同じような気持ちになっているんじゃないかと思った。
愛おしくて、少しくすぐったい。
「ねぇ、類さん。類さんにとって……幸せってなんですか?」
「ん? どうした? 急に」
「実は今日……」
僕は道端で将臣と会ったこと、相変わらずな彼が帝人さんを怒らせたこと、それから帝人さんが将臣にした問い掛けに自分も答えられるか考えてドキリとしてしまったことを話した。
「あんたのトモダチ、めちゃくちゃ一途だなぁ」
類さんはそう言ってひときしり笑ってから、「それでさっきの質問なわけか」と、思案げにした。
濡れた指先でこめかみを掻く。
「幸せ、なぁ。月並みだけど、家族が笑顔でいることが俺にとっての幸せかな。愛については……そうだな……与えること、だと、俺は思う」
「与えること……」
「ま、正直、愛とか俺自身もよくわかってねぇけど。……あ、いや、あんたのことを愛してないってことじゃない。ただ、その、時々……大事にするとか、いわゆる『愛する』行動にちゃんと気持ちは乗ってるか? って心配になることがある。義務になってやしないか? 下心はないか? って」
「僕は凄く愛されてるって感じますよ」
「……そか。そう言ってくれると安心できるよ」
類さんは優しく微笑んでくれたけど、あまり僕の言葉は意味がなかったように思う。彼自身がそれを認めるかどうかの問題だからだ。
「伝は? 幸せとか愛とかどう考えてんの?」
「僕は……」
思案を巡らせれば、いくつか偉人たちの言葉が脳裏を過った。
でも、それは僕の言葉ではない。
『俺は君の言葉で説明して欲しいんだけれど』
帝人さんの声が脳裏を過る。
いざ、自分にとっての幸せや愛を考えてみるとパツンと考えを絞れなかった。
僕は漠然とそれらを理解した気持ちになっていただけだったのだろう。
「僕は、ええと、今、凄く幸せです。類さんがいて、みんながいて。愛については……」
しどろもどろと言葉を紡ぎ、続いて曖昧に笑った。
「とりあえず……就職活動、頑張ろうと思いました」
「ん? なんでそうなる?」
僕は身体をずらして、お湯に顎まで浸かる。
「今のままだと不便なので。ほら、もっとお金にも心にも余裕があったら、もっともっと類さんに与えるってことが出来るでしょう? 金銭的なものばかりが愛情表現とは思ってはいませんが」
「ははっ、何を言ってんの。伝はいいんだよ。俺が与えたいだけなんだからさ」
「でもそれじゃあ、類さん的には、僕はあなたを愛していないことになりませんか?」
「愛なんてそれぞれの形がある。あんたはあんたの愛のカタチで俺を愛してくれ」
「もちろん僕は僕のカタチで愛しますよ。でも、類さんのカタチでも愛したいんです」
告げると彼ははたとした。
「それも……そうか」
次いで彼の整った顔に浮かんだのは、少し困ったような表情だった。
僕は少し不安を覚えて首を傾げた。
「ダメ、でしょうか?」
「ダメっつーかさ……ぶっちゃけると、与えられるってのは困る。うまく受け取れねぇから」
と、気恥ずかしそうに類さん。
僕はおずおずと彼の手を取った。ちゃぽん、とお湯が揺れる。
「……うん。俺には難しい。受け取るってのは」
「……どうしてですか?」
「怖いんだ」
じっと続きを待つ。
彼は僕の手に指を絡めると、誰にともなく呟いた。
「……俺はさ、幸せだって自覚して、それを両手で思い切り受け止めたら神様に気づかれちまいそうで怖い」
僕は彼の手を撫でた。
正確には、噛んで形の悪くなった親指の爪の輪郭を。
「気づかれるって、何をです?」
「俺が幸せだってこととか。大事な人がいることだとか。
それを真っ直ぐ見つめた瞬間に、目の前から取り上げられちまいそうで……」
類さんは、もしかしたら……自分に幸せでいる許可を出せないのかもしれない。
未だにお父さんの死で自分を責めているのを思うと、そんな気がした。
「……大丈夫ですよ。幸せだろうが、不幸だろうが、どんな時でも僕はここに――類さんの隣にいます。僕だけじゃありません。みんな、あなたと一緒です」
ギュッと手を握り締める。
類さんは俯いたままだ。
彼のお父さんの死は、誰のせいでもないのに。
類さんは家族の笑顔が一番と言っていたけれど、その中に自分を含めてはいない。
それがとても切なくて、悔しい。
「……僕ね、類さんと出会って凄く前向きになったんですよ」
類さんがふと顔を上げる。
僕は甘えるように彼の手に頬を寄せて続けた。
「類さんにたくさん甘やかされて、申し訳ないなってたくさん思ってきましたけど、今はちょっと違うんです。『申し訳ないな』って言葉を『幸せだな』って言い換えられるようになってきたんですよ」
不思議そうにする類さん。
僕はそっと淡雪に触れるような優しさで言葉を舌に乗せた。
「だって、好きな人と一緒にいられるだけで幸せなのに、その上、気を遣って貰えるなんて、最上級の幸せでしょう? それを申し訳ないって遠慮しちゃったらバチが当たるかなって」
声に出してみると、もつれていたそれがゆっくりと形を表す。
それはゆらりと燃え上がり、強い衝動に心が震えた。
「今、思ったんですけど……僕の『愛する』は『受け取る』なのかもしれません」
「受け取る?」
「はい。愛するって能動的なものだと思いがちですけど、受動的な愛するがあってもいいかなって。
僕が与えるものを、あなたが思いきり受け取ってくれたら嬉しいと感じるから……僕もしっかり受け止めて、幸せな気持ちになろうって思います。まあ、与えられ過ぎるとやっぱり困っちゃうんですけど」
「……あんたの言葉をそのまま返すなら、このままじゃあんたは俺に愛されてないってことになっちまうな」
「言葉上はそうはなっちゃいますけど……気にしなくていいですよ。十分愛されてる実感ありますから」
微笑みかけると、類さんも僕と同じように身体をズラしてお風呂に深く浸かった。
束の間の沈黙が落ちた。
類さんの濡れた前髪から、ポツリと水滴が落ちる。
やがて、彼は上目遣いで僕を見た。
「……なぁ。本当に……受け取って、いいと思う?」
どこかあどけなさを思わせる表情に、ちょっと面食らう。
僕は慌てて頷いた。
「いいに決まってるじゃないですか」
類さんは徐々に身体を沈ませて、最終的にはブクブクと頭まで湯船に浸かってしまった。
ちょっと長い潜水に心配しだせば、ザバッとお湯が跳ねる。
「わっ……」
腕を引かれ抱きしめられた。
「……俺、変わりたいよ」
「はい」
「あんたの愛し方で、愛してみたい」
僕は類さんの濡れた顔を……ちょっと赤くなった目元を見つめる。
「愛してください。僕も全力で幸せを堪能しますから」
「……ありがとな、伝」
泣きそうな顔で、類さんは笑った。
僕はその唇にそっと口付けた。
■ □ ■
「ふぅ。あらかた片付いたね~」
すっかり片付いた店内を見渡し、モップを手にした寧太は腰を伸ばした。
祭りの後の空間は少しだけ寂しい。今は帝人と寧太しかいないから尚更だ。
コータは酔い潰れて使い物にならず、カンナギは打ち解けた相手といい雰囲気だったので寧太が帰していた。
「後はもう明日にしよっか」
「了解」
「帝人はこれからどうする? ソウちゃんと同じベッドで無問題なら上の使っていいけど」
と、テーブルに腰掛け、お酒の缶を開けながら寧太。
「ニャン太はどうするの?」
掃除道具を片付けた帝人が首を傾げる。
「ボクは車で寝るよ」
「それ平気? 腰痛くなるよ」
「全然。慣れてるから平気」
「じゃあ、俺は遠慮なく上使っちゃうけど……」
「あ、そだ。明日は朝ご飯どうしよっか。ソウちゃん何食べたいかな」
「この前行った和食屋さんでいいんじゃないかな。ソウ、気に入ってたみたいだし」
「おけおけ。じゃあ、そうしよっか」
「おやすみ」と言って、帝人が踵を返す。
と、店の出口に向かった彼は、ふと歩みを止めた。
「……あのさ、ニャン太郎」
「んー?」
「……どうして伝くんだけ帰したの?」
「え? デンデンのカワイイ姿見たら類ちゃん元気出るでしょ?」
「ニャン太はさ……類に捨てられるかもとか、考えないの?」
帝人が振り返る。
寧太は大きな目を瞬かせた。
「捨てられる? どゆこと?……類ちゃんが僕らのことを捨てて、デンデンひとりを選ぶってこと??」
「そうじゃないよ。そうじゃなくて……」
言いよどむ彼は視線を彷徨わせる。
寧太はそんな彼を前に、力付けるように強く微笑んだ。
「ボクたちがバラバラになるとかないから。家族だよ?」
「……そうだね。ごめん、馬鹿なこと言った」
帝人は曖昧に笑って肩を竦めると、店を出ていく。
「……ありえないでしょ」
ポツリと呟いて、寧太は缶の唇を付けた部分を親指で拭った。
しんと静まり返る店内に外階段を上がる足音が聞こえて、やがて消えた。
step.30 「メイドとお邪魔者」おしまい
代わりに僕も洗いたいと告げると、彼は小さく頷いてくれた。
タオルを泡立てて、そっと彼の背中に当てる。
前よりもずっと自分を曝け出すことが出来るようになったのは、こうして彼の柔らかくて、最もナイーブな部分に触れることが許されるようになったからだろう。
全身を洗って泡を流し、僕らは少しぬるめのお湯に浸かった。
お互い向き合うように座って、浴槽の端に背を預ける。
見つめ合い指を絡めた。足で悪戯したり、濡れた髪を撫でたりしていると、たぶん彼も同じような気持ちになっているんじゃないかと思った。
愛おしくて、少しくすぐったい。
「ねぇ、類さん。類さんにとって……幸せってなんですか?」
「ん? どうした? 急に」
「実は今日……」
僕は道端で将臣と会ったこと、相変わらずな彼が帝人さんを怒らせたこと、それから帝人さんが将臣にした問い掛けに自分も答えられるか考えてドキリとしてしまったことを話した。
「あんたのトモダチ、めちゃくちゃ一途だなぁ」
類さんはそう言ってひときしり笑ってから、「それでさっきの質問なわけか」と、思案げにした。
濡れた指先でこめかみを掻く。
「幸せ、なぁ。月並みだけど、家族が笑顔でいることが俺にとっての幸せかな。愛については……そうだな……与えること、だと、俺は思う」
「与えること……」
「ま、正直、愛とか俺自身もよくわかってねぇけど。……あ、いや、あんたのことを愛してないってことじゃない。ただ、その、時々……大事にするとか、いわゆる『愛する』行動にちゃんと気持ちは乗ってるか? って心配になることがある。義務になってやしないか? 下心はないか? って」
「僕は凄く愛されてるって感じますよ」
「……そか。そう言ってくれると安心できるよ」
類さんは優しく微笑んでくれたけど、あまり僕の言葉は意味がなかったように思う。彼自身がそれを認めるかどうかの問題だからだ。
「伝は? 幸せとか愛とかどう考えてんの?」
「僕は……」
思案を巡らせれば、いくつか偉人たちの言葉が脳裏を過った。
でも、それは僕の言葉ではない。
『俺は君の言葉で説明して欲しいんだけれど』
帝人さんの声が脳裏を過る。
いざ、自分にとっての幸せや愛を考えてみるとパツンと考えを絞れなかった。
僕は漠然とそれらを理解した気持ちになっていただけだったのだろう。
「僕は、ええと、今、凄く幸せです。類さんがいて、みんながいて。愛については……」
しどろもどろと言葉を紡ぎ、続いて曖昧に笑った。
「とりあえず……就職活動、頑張ろうと思いました」
「ん? なんでそうなる?」
僕は身体をずらして、お湯に顎まで浸かる。
「今のままだと不便なので。ほら、もっとお金にも心にも余裕があったら、もっともっと類さんに与えるってことが出来るでしょう? 金銭的なものばかりが愛情表現とは思ってはいませんが」
「ははっ、何を言ってんの。伝はいいんだよ。俺が与えたいだけなんだからさ」
「でもそれじゃあ、類さん的には、僕はあなたを愛していないことになりませんか?」
「愛なんてそれぞれの形がある。あんたはあんたの愛のカタチで俺を愛してくれ」
「もちろん僕は僕のカタチで愛しますよ。でも、類さんのカタチでも愛したいんです」
告げると彼ははたとした。
「それも……そうか」
次いで彼の整った顔に浮かんだのは、少し困ったような表情だった。
僕は少し不安を覚えて首を傾げた。
「ダメ、でしょうか?」
「ダメっつーかさ……ぶっちゃけると、与えられるってのは困る。うまく受け取れねぇから」
と、気恥ずかしそうに類さん。
僕はおずおずと彼の手を取った。ちゃぽん、とお湯が揺れる。
「……うん。俺には難しい。受け取るってのは」
「……どうしてですか?」
「怖いんだ」
じっと続きを待つ。
彼は僕の手に指を絡めると、誰にともなく呟いた。
「……俺はさ、幸せだって自覚して、それを両手で思い切り受け止めたら神様に気づかれちまいそうで怖い」
僕は彼の手を撫でた。
正確には、噛んで形の悪くなった親指の爪の輪郭を。
「気づかれるって、何をです?」
「俺が幸せだってこととか。大事な人がいることだとか。
それを真っ直ぐ見つめた瞬間に、目の前から取り上げられちまいそうで……」
類さんは、もしかしたら……自分に幸せでいる許可を出せないのかもしれない。
未だにお父さんの死で自分を責めているのを思うと、そんな気がした。
「……大丈夫ですよ。幸せだろうが、不幸だろうが、どんな時でも僕はここに――類さんの隣にいます。僕だけじゃありません。みんな、あなたと一緒です」
ギュッと手を握り締める。
類さんは俯いたままだ。
彼のお父さんの死は、誰のせいでもないのに。
類さんは家族の笑顔が一番と言っていたけれど、その中に自分を含めてはいない。
それがとても切なくて、悔しい。
「……僕ね、類さんと出会って凄く前向きになったんですよ」
類さんがふと顔を上げる。
僕は甘えるように彼の手に頬を寄せて続けた。
「類さんにたくさん甘やかされて、申し訳ないなってたくさん思ってきましたけど、今はちょっと違うんです。『申し訳ないな』って言葉を『幸せだな』って言い換えられるようになってきたんですよ」
不思議そうにする類さん。
僕はそっと淡雪に触れるような優しさで言葉を舌に乗せた。
「だって、好きな人と一緒にいられるだけで幸せなのに、その上、気を遣って貰えるなんて、最上級の幸せでしょう? それを申し訳ないって遠慮しちゃったらバチが当たるかなって」
声に出してみると、もつれていたそれがゆっくりと形を表す。
それはゆらりと燃え上がり、強い衝動に心が震えた。
「今、思ったんですけど……僕の『愛する』は『受け取る』なのかもしれません」
「受け取る?」
「はい。愛するって能動的なものだと思いがちですけど、受動的な愛するがあってもいいかなって。
僕が与えるものを、あなたが思いきり受け取ってくれたら嬉しいと感じるから……僕もしっかり受け止めて、幸せな気持ちになろうって思います。まあ、与えられ過ぎるとやっぱり困っちゃうんですけど」
「……あんたの言葉をそのまま返すなら、このままじゃあんたは俺に愛されてないってことになっちまうな」
「言葉上はそうはなっちゃいますけど……気にしなくていいですよ。十分愛されてる実感ありますから」
微笑みかけると、類さんも僕と同じように身体をズラしてお風呂に深く浸かった。
束の間の沈黙が落ちた。
類さんの濡れた前髪から、ポツリと水滴が落ちる。
やがて、彼は上目遣いで僕を見た。
「……なぁ。本当に……受け取って、いいと思う?」
どこかあどけなさを思わせる表情に、ちょっと面食らう。
僕は慌てて頷いた。
「いいに決まってるじゃないですか」
類さんは徐々に身体を沈ませて、最終的にはブクブクと頭まで湯船に浸かってしまった。
ちょっと長い潜水に心配しだせば、ザバッとお湯が跳ねる。
「わっ……」
腕を引かれ抱きしめられた。
「……俺、変わりたいよ」
「はい」
「あんたの愛し方で、愛してみたい」
僕は類さんの濡れた顔を……ちょっと赤くなった目元を見つめる。
「愛してください。僕も全力で幸せを堪能しますから」
「……ありがとな、伝」
泣きそうな顔で、類さんは笑った。
僕はその唇にそっと口付けた。
■ □ ■
「ふぅ。あらかた片付いたね~」
すっかり片付いた店内を見渡し、モップを手にした寧太は腰を伸ばした。
祭りの後の空間は少しだけ寂しい。今は帝人と寧太しかいないから尚更だ。
コータは酔い潰れて使い物にならず、カンナギは打ち解けた相手といい雰囲気だったので寧太が帰していた。
「後はもう明日にしよっか」
「了解」
「帝人はこれからどうする? ソウちゃんと同じベッドで無問題なら上の使っていいけど」
と、テーブルに腰掛け、お酒の缶を開けながら寧太。
「ニャン太はどうするの?」
掃除道具を片付けた帝人が首を傾げる。
「ボクは車で寝るよ」
「それ平気? 腰痛くなるよ」
「全然。慣れてるから平気」
「じゃあ、俺は遠慮なく上使っちゃうけど……」
「あ、そだ。明日は朝ご飯どうしよっか。ソウちゃん何食べたいかな」
「この前行った和食屋さんでいいんじゃないかな。ソウ、気に入ってたみたいだし」
「おけおけ。じゃあ、そうしよっか」
「おやすみ」と言って、帝人が踵を返す。
と、店の出口に向かった彼は、ふと歩みを止めた。
「……あのさ、ニャン太郎」
「んー?」
「……どうして伝くんだけ帰したの?」
「え? デンデンのカワイイ姿見たら類ちゃん元気出るでしょ?」
「ニャン太はさ……類に捨てられるかもとか、考えないの?」
帝人が振り返る。
寧太は大きな目を瞬かせた。
「捨てられる? どゆこと?……類ちゃんが僕らのことを捨てて、デンデンひとりを選ぶってこと??」
「そうじゃないよ。そうじゃなくて……」
言いよどむ彼は視線を彷徨わせる。
寧太はそんな彼を前に、力付けるように強く微笑んだ。
「ボクたちがバラバラになるとかないから。家族だよ?」
「……そうだね。ごめん、馬鹿なこと言った」
帝人は曖昧に笑って肩を竦めると、店を出ていく。
「……ありえないでしょ」
ポツリと呟いて、寧太は缶の唇を付けた部分を親指で拭った。
しんと静まり返る店内に外階段を上がる足音が聞こえて、やがて消えた。
step.30 「メイドとお邪魔者」おしまい
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