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chapter3
step.21-10 理想と現実
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帝人が心配そうにボクを見ている。
慌てて目元を手の甲で拭った。でも涙は意味もわからず溢れ出てくる。
ショック、だったのだろうか。
でも、何が?
その時、授業の先生と一緒に類ちゃんとソウちゃんが教室に戻ってきた。
いつもと変わらないふたりにボクはさっき見た光景は夢だったんじゃないかと思う。
しかし、さっきからギューッと痛む胸が、あれは現実だと訴えていた。
「せ、先生……! ボクお腹痛いので保健室行ってきます!」
そう言うやいなや、ボクは教室から逃げるように飛び出した。
それから保健室のベッドに横になった。深く詮索してこなかった保健室の先生に内心感謝を述べながら。
ボクは頭まで上掛けを引っ張り上げると、嘆息した。
瞼裏に先ほどのふたりの姿が蘇る。
ボクは笑った。いや、笑おうとして失敗した。
少し考えたら、涙の理由なんてすぐわかった。そこまでボクは子どもじゃなかった。
類ちゃんは同性で、バカをする友達で、一緒にいるとなんとなくホッとする相手だった。
だから、そういう発想すらしたことがなかった。でも。
唇に触れていたソウちゃんを見て、震えるほど嫉妬している。
ボクの恋は、気付いた時には終わってしまっていた。
* * *
色々と考えているうちに、ボクはどうやら眠ってしまっていたらしい。
ぼやぼやする意識の中で、扉が開く音を聞いた。
一言二言、先生とその人物が話す声がしてベッドを囲むカーテンが開く。
ボクはゆっくりと瞼を持ち上げた。
「ニャン太。ホームルーム終わったぞ」
類ちゃんだった。
「腹の具合どう? 今日のバイト、キツそうなら店長に言っとくから。真っ直ぐ家帰れよ」
「うん……」
ボクは上掛けを少しずらして、類ちゃんを見上げた。
ねぇ、ねぇ、類ちゃん。
実はさ、さっき……ソウちゃんとキスしてるの見ちゃったんだ。ごめん。
でもさでもさ、付き合ってたなら言ってくれても良くない?何で隠してたわけ!?
そんなにボク、信頼ないかな~。
別に男同士だからって、ありえないとかないし。
そんなんで友達付き合い変わるわけじゃないでしょ?
そう笑って言いたいのに、唇は無意味に開閉する。
「ニャン太?」
類ちゃんが心配そうにする。
ボクは腕を顔に押し付け歯を食いしばると息を引きつらせる。
こんなの予想もしてなかったよ。
青春は甘酸っぱいものじゃなかったの。甘くてふわふわした、綿菓子みたいなものじゃなかったの。
苦しいだけの恋なんて、つらすぎるよ。
押し付けたシャツの袖に、じわ、と涙が滲んだ。
「お、おい。そんなに痛いのか……?」
「ふぇ……ふぇええええ……」
情けない声を上げて、ボクは泣いた。
好き。好きだよ、類ちゃん。
涙と一緒に溢れ出しそうな気持ちを必死に押し止める。
好きだなんて、そんなこと言えるわけないよね。
だって、類ちゃんはソウちゃんと付き合っているのだ。
告白したってどうしようもない。
ボクはふたりを困らせたいわけじゃない。
「先生呼ぶか?」
優しく問う類ちゃんに、首を振る。
「いらない……」
彼は慰めるようにボクの髪を撫でてくれた。
ボクは「今だけ許してね」と心の中でソウちゃんに謝った。
入学式のあの日。
ボクは自分でも気付かないうちに恋に落ちていたんだろう。
今でもまざまざと思い起こすことができる。
彼の寂しそうな横顔。
驚くほど美しい、あの透き通った眼差し。
彼を知りたいと思った。
あの感情はまさしく、恋だった。
しばらくして、ボクは水野さんに別れを切り出した。
謝り通すボクに彼女はいつものあの控えめな笑顔を浮かべて「大丈夫」と言ってくれた。
――ボクはあの笑顔を時々思い出す。
* * *
ソウちゃんがボクらに何も言わず高校を中退したのは、それから半年後ーー翌年の秋のことだ。
ボクはやっと諦めがつきそうになってた類ちゃんへの想いに再び捕まった。
『ファミリア・ラプソディア』
step.21 理想と現実 Side:寧太 おしまい
To Be Continued
慌てて目元を手の甲で拭った。でも涙は意味もわからず溢れ出てくる。
ショック、だったのだろうか。
でも、何が?
その時、授業の先生と一緒に類ちゃんとソウちゃんが教室に戻ってきた。
いつもと変わらないふたりにボクはさっき見た光景は夢だったんじゃないかと思う。
しかし、さっきからギューッと痛む胸が、あれは現実だと訴えていた。
「せ、先生……! ボクお腹痛いので保健室行ってきます!」
そう言うやいなや、ボクは教室から逃げるように飛び出した。
それから保健室のベッドに横になった。深く詮索してこなかった保健室の先生に内心感謝を述べながら。
ボクは頭まで上掛けを引っ張り上げると、嘆息した。
瞼裏に先ほどのふたりの姿が蘇る。
ボクは笑った。いや、笑おうとして失敗した。
少し考えたら、涙の理由なんてすぐわかった。そこまでボクは子どもじゃなかった。
類ちゃんは同性で、バカをする友達で、一緒にいるとなんとなくホッとする相手だった。
だから、そういう発想すらしたことがなかった。でも。
唇に触れていたソウちゃんを見て、震えるほど嫉妬している。
ボクの恋は、気付いた時には終わってしまっていた。
* * *
色々と考えているうちに、ボクはどうやら眠ってしまっていたらしい。
ぼやぼやする意識の中で、扉が開く音を聞いた。
一言二言、先生とその人物が話す声がしてベッドを囲むカーテンが開く。
ボクはゆっくりと瞼を持ち上げた。
「ニャン太。ホームルーム終わったぞ」
類ちゃんだった。
「腹の具合どう? 今日のバイト、キツそうなら店長に言っとくから。真っ直ぐ家帰れよ」
「うん……」
ボクは上掛けを少しずらして、類ちゃんを見上げた。
ねぇ、ねぇ、類ちゃん。
実はさ、さっき……ソウちゃんとキスしてるの見ちゃったんだ。ごめん。
でもさでもさ、付き合ってたなら言ってくれても良くない?何で隠してたわけ!?
そんなにボク、信頼ないかな~。
別に男同士だからって、ありえないとかないし。
そんなんで友達付き合い変わるわけじゃないでしょ?
そう笑って言いたいのに、唇は無意味に開閉する。
「ニャン太?」
類ちゃんが心配そうにする。
ボクは腕を顔に押し付け歯を食いしばると息を引きつらせる。
こんなの予想もしてなかったよ。
青春は甘酸っぱいものじゃなかったの。甘くてふわふわした、綿菓子みたいなものじゃなかったの。
苦しいだけの恋なんて、つらすぎるよ。
押し付けたシャツの袖に、じわ、と涙が滲んだ。
「お、おい。そんなに痛いのか……?」
「ふぇ……ふぇええええ……」
情けない声を上げて、ボクは泣いた。
好き。好きだよ、類ちゃん。
涙と一緒に溢れ出しそうな気持ちを必死に押し止める。
好きだなんて、そんなこと言えるわけないよね。
だって、類ちゃんはソウちゃんと付き合っているのだ。
告白したってどうしようもない。
ボクはふたりを困らせたいわけじゃない。
「先生呼ぶか?」
優しく問う類ちゃんに、首を振る。
「いらない……」
彼は慰めるようにボクの髪を撫でてくれた。
ボクは「今だけ許してね」と心の中でソウちゃんに謝った。
入学式のあの日。
ボクは自分でも気付かないうちに恋に落ちていたんだろう。
今でもまざまざと思い起こすことができる。
彼の寂しそうな横顔。
驚くほど美しい、あの透き通った眼差し。
彼を知りたいと思った。
あの感情はまさしく、恋だった。
しばらくして、ボクは水野さんに別れを切り出した。
謝り通すボクに彼女はいつものあの控えめな笑顔を浮かべて「大丈夫」と言ってくれた。
――ボクはあの笑顔を時々思い出す。
* * *
ソウちゃんがボクらに何も言わず高校を中退したのは、それから半年後ーー翌年の秋のことだ。
ボクはやっと諦めがつきそうになってた類ちゃんへの想いに再び捕まった。
『ファミリア・ラプソディア』
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To Be Continued
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