上 下
102 / 211
chapter2

step.20-5* 火事と背中

しおりを挟む
 シャワーを浴びて戻ると、すかさず類さんに唇を塞がれた。

「ん……っ」

 もつれ合うようにふたりでベッドに倒れ込む。

 触れるだけの口付けを2度。
 額をくっつけて、ついばむように。続いて、じゃれ合うように舌を絡ませる。

 甘やかなものが胸に広がって、うっとりとすれば、類さんがふと問いかけてきた。

「……なあ。伝ってさ、タチしたことあんの?」

「え、な、なんですか、急に……」

 覗き込んでくる眼差しから目を逸らす。

「あるわけないじゃないですか。……キスしたのも、類さんが初めてなのに……」

 僕はボソボソと呟いた。

「そっか」

 類さんがはにかむ。
 それからいつものように僕を組み敷いた。

「じゃあさーー」

 熱い手が、すでに反応している下腹部をズボンの上から弄る。
 彼は意味深に口の端を持ち上げると続けた。

「こっちの初めても俺が貰っちまおうかな」

「え……えっ!?」

 思わず声が裏返る。
 彼はきょとんとして目を瞬いた。

「なんだよ。イヤ?」

「い、イヤとかではなく、そ、そ、それって……つまり……?」

「うん、伝が挿れんの」

 そう言うや否や、類さんは自分のズボンを脱ぎ捨て僕のも引っ張り下ろす。

「ま、待ってくださいよ。心の準備が……」

「大丈夫、大丈夫。尻に突っ込まれるより楽だから」

 ケラケラ笑って、彼は枕元にあったゴムの封を切った。

「楽とかそういう問題じゃないです! 普通って言ったじゃないですか……!」

「普通だろ。フツーのセックス」

 彼は僕の隆起した欲望にそれを被せると、いつの間に用意していたローションを手に取る。

「そうですけど……そうなんですけど……っ」

 確かに、オモチャを使ったりするわけではないし「普通」と言えば「普通」なんだろうけど……でも、挿れる挿れられるが逆転するって普通か? 普通なのか?

 戸惑い身体を強張らせる僕には構わず、彼は跨がってきた。

「それとも……伝は俺のこと抱きたいと思ったことねぇの?」

 少し前の僕なら「ない」と応えていたと思う。ずっと自分はネコだと思っていたからだ。

 でも……ニャン太さんに抱かれる類さんを見て僕の既成概念は崩れていた。
 もしも僕が、彼にあのとろけた表情をさせることができるのなら?

 彼の耳朶に可愛いですと囁いて、いつも彼にされてるみたいに……類さんを、めちゃくちゃに乱すことが出来るのだとしたら?

 考えるだけでズクンと身体の奥が震えた。

「……り、ます」

 震える唇が言葉を噤む。
類さんが小首を傾げる。

 僕は吸い寄せられるように両手で彼の腰を掴んだ。

「あ……あります。……あなたを抱きたいと思ったこと」

「……だろ?」

 類さんは何もかも見透かしたように嫣然と微笑んで唇を舐めた。

 ああ、この人は何もかもお見通しだ。
 きっと隠し事なんて、ひとつだって出来やしない。
 こういう時、僕はたまらなく嬉しくなるのだ。彼の心と繋がっている気がして……

 類さんは僕のソコを手で扱きながら、逆の手で後ろの準備をする。
 やがて、ゆっくりと腰を下ろしてきた。

「ん……」

 ゴム越しに、敏感な先端が熱い部分に触れた。
 グチュと水音がたった。
 焦らされながら、僕のソレは火傷しそうなほど熱い彼の中に埋まっていく。

「――奪っちゃった」

 先端が行き止まりに到達すると、冗談めかした呟きが落ちた。
 頬を上気させた類さんに見下ろされて、甘い吐息がこぼれる。

「……どうだ? 初めて突っ込んだ感想」

「あ、温かいです……」

「それだけ?」

 類さんが上下に身体を動かし始めて、ベッドが軋んだ音を立てた。

「ん、る、類さっ……そんな、動いたら……っ」

「悪い、痛かったか?」

「ちが……」

「じゃあ、イキそう?」

 脈動する粘膜が絞り取るみたいに収縮して、繋がってる部分からとろけてしまいそうだった。

 僕は躊躇いがちに頷く。
 彼は愛おしげに鼻を鳴らした。

「俺、あんたのそういうウソつかないとこ、めちゃくちゃ好きだよ」

「ぅあっ……!」

 腰遣いが激しさを増す。
 短い間隔でぶつかる最奥に、敏感な先端を舐め転がされる。

「身体の反応も、表情も……すげぇ素直で、たまんねぇ」

 甘い吐息と共に、唇を奪われた。
 僕の頬を指先でくすぐりながら、彼は悪戯っ子のような顔で「上見てみ?」と促す。

 天井の鏡に映る自分は、彼に抱かれているみたいにだらしなく蕩けた表情で、喘いでいた。だからこそ、いつもよりずっと恥ずかしくて、僕は腕で顔を覆った。

「……イケよ、伝。いつもみたいに可愛い声上げてさ」

 そんなセリフとともに、顔を覆った腕を退けられる。
 ちょっと悔しかった。だって、抱いているのは僕なのに。
 
「ん、んんっ、類さ……ぁ、は、げしっ……っ」

 でも……ああ、そうか。
 挿れる挿れられるが逆転したって、何も変わっていないのだ。
 僕はやっぱり類さんに抱かれている。甘く優しく翻弄されている。

「そうそう、腰、ちゃんと動かして……」

 類さんの挑発的な姿は蠱惑的だった。
 全身の血が沸騰して、凶暴な快楽神経を問答無用で煽られる。茹だるような快感に、今にも流されてしまいそうだ。

 僕は痛いくらいに唇を噛み締めて、彼の腕を引いた。

「お、どうした……?」

 力強く抱きしめる。
 それから、がむしゃらになって彼の唇を貪った。

「ん、んんっ……はっ、伝…………」

 繋がったまま、僕は彼を胸に抱いたまま反転した。
 類さんがとてもスマートに導いてくれたお陰で、僕はすんなりと正常位の体勢にシフトできていた。

 ドッドッドッドッと耳の奥で心臓が跳ねている。
 ふぅふぅと唇から荒い呼吸が漏れ出る。

 落ち着け。
 落ち着けよ。
 いつも類さんは僕にどうしてくれてる?
 優しく蕩かすように……ああ、ヤバイ、熱い柔らかい……類さんの中、ヌプヌプして……

 自分本位に身体は動いてしまう。

「ぅ……っ」

 類さんの唇から低い呻き声がこぼれて、僕は慌てて腰を引いた。

「す、すみません、類さん」

 彼を気持ち良くしたいのに、何もかもうまくいかない。知れず本能に飲まれて、自分だけが気持ち良くなってしまっている。

 類さんを気持ち良くしたいのに。
 いつも彼がしてくれるように、優しく、とろかすように愛したいのに。

 と、類さんの手が僕の髪に触れた。

「……遠慮してねぇで、まずは動いてみ?」

 彼は僕の顔からズレた眼鏡を取り上げた。
 それをすぐ横のチェストに置いてから、そっと僕の背に手を回す。

「全部、受け止めてやるから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...