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chapter2
step.18-2 紙と水
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「こいつ、ニャン太の店のバイト1号」と、類さんがピアスの男性を紹介してくれる。
「また構成員増えたんすね」
「構成員ってな、お前……ヤクザじゃねぇよ」
「こんにちは。洞谷伝です」
頭を下げれば、彼はタバコの灰を灰皿に落とした。
「俺はコータっす。コータでも、コウくんでも、ゴミでもクソでもブタ野郎でもお好きなように呼んでください」
「え、ええと……それじゃあ、コータくんで」
年は同じか、下に見えたので無難な呼び名を選ぶ。というか、初対面で後半の呼び名を使う相手がいるのだろうか……?
そんなことを思っていると、彼は突然眉根を寄せた。
「待って。あんた何歳?」
「23ですけど」
「いつ誕生日?」
「3月12日です」
不思議に思いつつ応えれば、彼はやれやれと大仰に溜息をついた。
「さっきは好きに呼んでって言いましたけど、僕のが年上だったんでやっぱサン付けてください。目上の相手には礼儀正しく。これ、社会で生きてく常識でしょ」
「す、すみません。ええと、コータさん」
確かに、見た目で判断するのは良くなかった。
僕は慌てて言い直す。
「……」
すると彼はきょとんとした。
思わぬ反応に僕も戸惑ってしまう。
「あの……?」
彼はスパスパタバコをふかした。やがて首を振った。
「コータさんっていうのは、ちょっと……。恋人みたいでイヤっすね。ゾッとしました」
「じゃあ、どうすればいいんですか!?」
「コータくんさんでいきましょう。数ヶ月しか年変わんねぇし」
真剣な様子で言う彼に、僕は全身から力が抜けるような気がした。
「……はあ、わかりました」
そんな僕らのやり取りに類さんがクスクス笑う。
と、コータくんさんは類さんにタバコの箱を差し出した。
「あ。ハーレムさんもタバコ吸います?」
「ありがと。貰うわ」
トントンと叩くと、タバコが1本箱から飛び出す。
それを気さくな様子で受け取ると、類さんはタバコを口にくわえた。
「メガネくんは……一本、60円ね」
類さんのタバコに火を灯しながら、コータくんさんが言う。
「僕からはお金取るんですか!?」
「だってアンタにタバコやっても僕に1円も得ないでしょ」
「……類さんにあげたら、得があるんですか?」
訝しげにすれば、彼は深々と頷いて類さんを見た。
「あるでしょ。麗しい」
「イミわからん」と類さんが吐き捨てる。
でも、僕はちょっとコータくんさんの言わんとしていることがわかった。
だってタバコを吸う類さんは色っぽい。
タバコの持ち方だとか、煙を吐き出す仕草とか、やけに堂に入っているし。
「はぁーあ。今日はシャッターの掃除から仕事かー面倒くせ」
すっかり短くなったタバコを灰皿に押しつけて、コータくんさんが立ち上がった。
それから携帯灰皿を類さんに差し出す。
その時、ニャン太さんがやって来た。
「おつおつ~、コウく……」
ニコニコと人好きする笑みで手を振った彼は、類さんを見るやいなや、突然血相を変えた。
「ちょっと!!なんで類ちゃんにタバコ渡してんの!?やめろっつったじゃん!」
「あー、サーセン。忘れてました」
ニャン太さんは摑みかからん勢いで走り寄ってくる。それに類さんが答えた。
「俺がくれつったんだよ」
「……やめてよ。ボク、類ちゃんがタバコ吸うの嫌い」
「紙でも水でも同じでしょーに」
悲しげにするニャン太さんに、コータくんさんが事もなげに言う。
ニャン太さんは押し黙った。
それに、類さんは苦笑をこぼすと彼の肩を軽く叩く。
「ごめんって。配慮足りなかったわ」
灰皿にタバコを押し付けようとする。
それをコータくんさんが慌てても止めた。
「あー、待って。僕、残り吸いますから。もったいねーし」
「ええ……マジかよ……」
類さんからタバコを取り上げて、コータくんさんは美味しそうにそれを口にくわえた。
「間接ちゅう。なんつっ……」
言葉は途中で「いでぇっ!!」と悲鳴に取って代わる。
ゴスッとニャン太さんが彼の脇腹に肘鉄を食らわせたのだ。
「根子さん!? 今、肋骨折れたかと思ったんすけど!?」
「手加減してるに決まってるでしょ。これから仕事なんだから」
「え、ナニソレ、仕事なかったら折られてたんすか? マジこえー……」
ニャン太さんが店の裏から、シャッターの落書きを消す機材を持ってくる。
彼はひとことも喋らず黙々と落書きを消すと、店を開けた。
……そういえば、帝人さんも隠れて吸っていたっけ。
僕は類さんの誕生日の時のことを思い出す。
ニャン太さんはどうしてそんなに紙タバコが嫌いなんだろう?
彼のお姉さんは普通に吸っていたし、匂いが……とかそういうのが問題ではなさそうだ。
『ボク、類ちゃんがタバコ吸うの嫌い』
なんとなくその言葉が頭に残った。
「また構成員増えたんすね」
「構成員ってな、お前……ヤクザじゃねぇよ」
「こんにちは。洞谷伝です」
頭を下げれば、彼はタバコの灰を灰皿に落とした。
「俺はコータっす。コータでも、コウくんでも、ゴミでもクソでもブタ野郎でもお好きなように呼んでください」
「え、ええと……それじゃあ、コータくんで」
年は同じか、下に見えたので無難な呼び名を選ぶ。というか、初対面で後半の呼び名を使う相手がいるのだろうか……?
そんなことを思っていると、彼は突然眉根を寄せた。
「待って。あんた何歳?」
「23ですけど」
「いつ誕生日?」
「3月12日です」
不思議に思いつつ応えれば、彼はやれやれと大仰に溜息をついた。
「さっきは好きに呼んでって言いましたけど、僕のが年上だったんでやっぱサン付けてください。目上の相手には礼儀正しく。これ、社会で生きてく常識でしょ」
「す、すみません。ええと、コータさん」
確かに、見た目で判断するのは良くなかった。
僕は慌てて言い直す。
「……」
すると彼はきょとんとした。
思わぬ反応に僕も戸惑ってしまう。
「あの……?」
彼はスパスパタバコをふかした。やがて首を振った。
「コータさんっていうのは、ちょっと……。恋人みたいでイヤっすね。ゾッとしました」
「じゃあ、どうすればいいんですか!?」
「コータくんさんでいきましょう。数ヶ月しか年変わんねぇし」
真剣な様子で言う彼に、僕は全身から力が抜けるような気がした。
「……はあ、わかりました」
そんな僕らのやり取りに類さんがクスクス笑う。
と、コータくんさんは類さんにタバコの箱を差し出した。
「あ。ハーレムさんもタバコ吸います?」
「ありがと。貰うわ」
トントンと叩くと、タバコが1本箱から飛び出す。
それを気さくな様子で受け取ると、類さんはタバコを口にくわえた。
「メガネくんは……一本、60円ね」
類さんのタバコに火を灯しながら、コータくんさんが言う。
「僕からはお金取るんですか!?」
「だってアンタにタバコやっても僕に1円も得ないでしょ」
「……類さんにあげたら、得があるんですか?」
訝しげにすれば、彼は深々と頷いて類さんを見た。
「あるでしょ。麗しい」
「イミわからん」と類さんが吐き捨てる。
でも、僕はちょっとコータくんさんの言わんとしていることがわかった。
だってタバコを吸う類さんは色っぽい。
タバコの持ち方だとか、煙を吐き出す仕草とか、やけに堂に入っているし。
「はぁーあ。今日はシャッターの掃除から仕事かー面倒くせ」
すっかり短くなったタバコを灰皿に押しつけて、コータくんさんが立ち上がった。
それから携帯灰皿を類さんに差し出す。
その時、ニャン太さんがやって来た。
「おつおつ~、コウく……」
ニコニコと人好きする笑みで手を振った彼は、類さんを見るやいなや、突然血相を変えた。
「ちょっと!!なんで類ちゃんにタバコ渡してんの!?やめろっつったじゃん!」
「あー、サーセン。忘れてました」
ニャン太さんは摑みかからん勢いで走り寄ってくる。それに類さんが答えた。
「俺がくれつったんだよ」
「……やめてよ。ボク、類ちゃんがタバコ吸うの嫌い」
「紙でも水でも同じでしょーに」
悲しげにするニャン太さんに、コータくんさんが事もなげに言う。
ニャン太さんは押し黙った。
それに、類さんは苦笑をこぼすと彼の肩を軽く叩く。
「ごめんって。配慮足りなかったわ」
灰皿にタバコを押し付けようとする。
それをコータくんさんが慌てても止めた。
「あー、待って。僕、残り吸いますから。もったいねーし」
「ええ……マジかよ……」
類さんからタバコを取り上げて、コータくんさんは美味しそうにそれを口にくわえた。
「間接ちゅう。なんつっ……」
言葉は途中で「いでぇっ!!」と悲鳴に取って代わる。
ゴスッとニャン太さんが彼の脇腹に肘鉄を食らわせたのだ。
「根子さん!? 今、肋骨折れたかと思ったんすけど!?」
「手加減してるに決まってるでしょ。これから仕事なんだから」
「え、ナニソレ、仕事なかったら折られてたんすか? マジこえー……」
ニャン太さんが店の裏から、シャッターの落書きを消す機材を持ってくる。
彼はひとことも喋らず黙々と落書きを消すと、店を開けた。
……そういえば、帝人さんも隠れて吸っていたっけ。
僕は類さんの誕生日の時のことを思い出す。
ニャン太さんはどうしてそんなに紙タバコが嫌いなんだろう?
彼のお姉さんは普通に吸っていたし、匂いが……とかそういうのが問題ではなさそうだ。
『ボク、類ちゃんがタバコ吸うの嫌い』
なんとなくその言葉が頭に残った。
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