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chapter2

step.10-8* 臆病な唇とトライアングル

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* * *

 驚きと戸惑いは、どんどん大きくなっていった。

「ふっ……」

 ニャン太さんの唇が露わになった僕の肌に押し当てられる。
 いつもの調子とはほど遠い、淫らな意思がこめられた感触。

 熱を帯びた中心が、ズボンの中で窮屈さを訴え出す。

 ……どうして嫌じゃないんだろう?
 これは正しい反応なのか?
 僕は……おかしいんじゃないか。

「伝。余計なことは考えなくていいよ。今はニャン太のことだけ感じてればいい」

「ん……」

 舌を撫でていた類さんの指が、2本に増えた。
 飲み下しきれない唾液が口の端からだらしなくこぼれ出る。

「はぁ……あ……」

 ズボンにニャン太さんの手がかかった。
 僕は咄嗟にその手を掴んだ。

 こちらを見上げてくる大きめの目が、どうする? やめる? と、問いかけてくる。
 今なら、ムリと意思表示すれば止められる気がした。

 類さんは何も言わない。
 しても、しなくても、彼は僕の選択を尊重してくれるということなのだろうか。

 ……好きってなんだろう?
 愛ってなんだろう?

 もし僕がニャン太さんとセックスをしたとして、そこに愛はあるのだろうか?
 いや、むしろ……僕らの間には何もないのか?
 この感情は一体なんなんだ?

 怖い、と思った。わからないことが。
 積み重ねてきた常識が、崩れてしまう。
 判断の寄る辺である諸々が意味をなさなくなる……

 僕は何度も浅い呼吸を繰り返し、結局、ズボンから手を離すと類さんのシャツを握った。
 それを肯定と受け取って、ニャン太さんが僕のズボンをくつろげる。

「ぁうっ……」

 優しくソコを握りしめられた。
 ついで、ちゅっと先端にキスをされる。
 それから彼はたっぷりと唾液を絡めた舌で、裏筋を舐め上げ、かと思うと、一気に喉奥まで咥え込んだ。

「ニャン太さっ……」

 それと同時に、類さんに顎を掴まれ唇を奪われる。

「んーっ、んっ、んんっ……!」

 恋人とキスをしながら、別の相手にしゃぶられている……
 こんな経験をするなんて、想像だにしなかった。

 気持ち良くて、足が開く。
 羞恥心のせいで目尻に涙が滲む。

 ああ……自分はなんて、ふしだらなんだろう。
 そう思う一方で、ニャン太さんに反応できることに安堵もしている。

「はっ、ぁ、ダメです……ん、イク、イッちゃ……」

 目を閉じる。
 腰にわだかまる熱が切なくうねる。

 類さんの指に胸の突起を優しく抓まれ、背がしなった。

「ニャン太さっ……ぁっ……」

 腰を持ち上げた勢いで、ニャン太さんの喉奥を突いてしまう。
 脳天を突き抜ける心地良さ。グラグラと世界が揺れる。
 と、熱が弾ける瞬間、ニャン太さんの唇が離れ、ギュッと根本を握られた。

「ぇ、や……なんでっ……」

 彼の手の中で熱情がビクビクと震えている。
 先端の隘路が戦慄いて、透明な汁が僅かに溢れる。

 頭が膨れたように、ドクンドクンと耳奥で音がした。
 出したい。出したい。出したいのに。
 
「ねえ、いつもどっちが上なの?」

「……俺が抱いてる」

「ふぅん……?」

 ニャン太さんが不思議そうな声を漏らす。

「ね、デンデンは……どっちで気持ち良くなりたい?」

「わ……わかりませ……」

「お尻で気持ち良くなりたい?前でイキたい? それとも両方?」

 両方?
 戸惑えば、ニャン太さんは僕から手を離した。

「真ん中ってこと」

 言って、シャツとズボンを脱ぎ捨てる。

「ボクに挿れて、類ちゃんにガンガンに突き上げて貰うんだよ」

「そ、それは……」

 そもそも動き方もわからないし。
 セックスとして成り立つ気がしない。いや、今も若干わけがわからなくなっているのに、挿れて挿れられてとなったらもう完全にキャパシティオーバーだ。

「……とりあえず、今日のとこは俺が真ん中でいいんじゃね」

 そんな僕の心中を見透かしたように、類さんが言った。

「うーん……まぁ、そっか。そっちのが、やりやすいか」

 ふたりは目配せをすると、僕を挟むようにして隣に寝転がった。
 ニャン太さんの指が、僕の恥骨をなぞる。
 類さんの手が下半身に伸びる。

「足開いて。伝」

「ひゃっ……」

 言われた通りにすると、ローションを塗りたくられた。

「はぁ、はぁ……あっ……」

「デンデンの感じてる声、すごく色っぽいよね。耳触りが柔らかくてゾクゾクする」

「感じてる顔もカワイイよ」

 類さんが裸になって覆い被さってくる。
 ゴム越しに、熱い脈動をお尻の間に感じて身体が硬直した。

 ぐちゅ、と水音がしてゆっくりと中を押し拡げられる。

「あっ……あ、ぁ……っ」

「キツ……最近、自分で弄ってなかった?」

 僕は唇を震わせる。
 弄ろうとしなかったわけではない。けれど……

「類さ……類さん、動いて……お願いします、から……」

 背に手を回す。今はもう、自分でしたかどうかなんてどうでも良かった。
 身体の中で渦巻く熱から解放されたい。……思いきり。

「ちょっと待ってろ。今、ニャン太が――っ」

「……っ!」

 突然、グッと身体が押し潰され、類さんが奥深くまで埋没してきた。

「おまっ……少しは、解せよっ……」

「だって、もうデンデン限界そうだし」

「だからって……んぐっ……」

 ギシギシとベッドが軋み出す。

 みっちりと奥まで隙間なく繋がりながら、僕は最奥を小刻みに突かれた。 
 一瞬で意識を刈り取られる快感ではない。
 けれど、じわじわと追い詰めてくるようなそれは、毒々しく身体の中を支配していく。
 極めつけは……

「く、ううっ……はっ……ニャン太っ……も、少し……ゆっくりっ……」

 ――僕の上で、悩ましげに眉根を寄せる類さんの表情だった。

「なんで……? 類ちゃん、これスキでしょ……ずっと、中、キュンキュンしっぱなしじゃん……」

「バカッ……ぁっ……!」

「ってかさ……この順番だと……デンデンの顔、よく見えないんだけど……。ボクが、真ん中のが……良かったんじゃないの……? ねえ……っ?」

「う、るせっ……しゃべるか、動くか……どっちかに、しろっ……」

「じゃあ、動く」

「はあっ、あっ……んぐっ、ぅあっ……!」

 つ、と類さんの唇からこぼれた唾液が口の端に落ちた。
 僕はそれをペロリと舐め取る。

 ぐちゅぐちゅと抽送による卑猥な水音が部屋に響いていた。
 類さんが抱かれている音だ。僕を抱きながら……

 余裕の笑みで僕を抱いていた人が、今、甘い吐息をこぼしている。
 苦しげに目尻に涙を浮かべ、恍惚として唇を半開きにして喘いでいる。

 僕は彼の頬を両手で包んだ。

「伝……?」

 思わず、唇を重ねていた。舌を伸ばして、口中を貪っていた。

「ん、んんっ、ん」

 何度も類さんにカワイイと囁かれたけれど……今、僕は彼に囁き返したい。
 カワイイです、めちゃくちゃにしたいです、って。

 僕は自分がまごうこと無きオスなのだと思い知った。
 自分も彼を抱きたいと強く思っている。 

「やば……出る、出るっ……」

 ぎゅうっと搾った粘膜を、肉槍が押し返してくる。

「伝……締めんな……」

「ちがっ……僕は何も……」

「ひとりでイッちゃうの? もう少し我慢してよ……後がつらいよ……?」

「じゃあ、動くなよっ……」

「動けって言ったのは、類ちゃんじゃん」

「俺は、どっちかにしろって――う……あ、」

 ズンッと重い衝撃。
 類さんが背をしならせ、ゴム越しに愛おしい脈動を感じた。

「しゃべっていられるってことは、まだまだ余裕だね」

「待っ……イッて、イッたからっ……」

 脱力した類さんが僕にしがみついてくる。
 陶然としながら彼を抱きしめれば、背後のニャン太さんと目が合った。

「あはは。類ちゃん、めちゃくちゃいい顔するでしょ……?」

 小首を傾げて、口の端を吊り上げる。
 それから彼は、類さんの両手を後ろに引っ張って彼の身体を起こした。

「デンデン。ちゃんとお尻抱いてて。抜けちゃうから」

「ま、待てっ……それっ……」

「カワイイ顔、たくさん見てもらおうね」

 ニャン太さんが激しく動き始める。

「あっ、あぁっ……あ……っ!」

 僕は必死になってニャン太さんに言われた通りに、くねる腰を押さえつけた。
 類さんは鼻にかかった声を溢れさせ、表情をとろかせていく。

 僕は彼の痴態に夢中になった。
 そうして……気が付けば、射精していた。
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