上 下
22 / 211
chapter2

step.9-3 腰痛とDIY

しおりを挟む
* * *

 その後は予定していたデスクを見て回った。
 さすがにデスクはふたつもいらないし、ふたりが揉めたらどうしようかと思っていたが……

「やっぱ作業スペースは広い方がいいよな」

「L字デスクなら角のスペース無駄にならないよね。あっ、棚もついてる方がいいか」

「引き出しとか、収納も多いと便利だよな」

 今のところ問題はなさそうだ。

 ……にしても。
 僕はデスクの値段を眺め歩きながら、内心、ホッと溜息をついた。
 たくさんお手頃価格なものがある。

 ホームセンターに行きたいと進言して本当に良かった。
 ……もしも類さんたちが普段行っているようなお店に出掛けたら、マホガニーとかウォールナットのデスクを勧められたりしたかもしれない。そんなことになったら恐縮し過ぎて死ぬ。

「伝、どうだ? 気に入ったのあったか?」

「はい。これがいいかな、と」

 僕は目を付けていたダークブラウンのデスクを選んだ。
棚も引き出しもついていない、小ぶりのものだが、とにかく1番安い。売れ残りなのか、15パーセントオフで税込3000円。

「えええっ!? それ、板に足ついてるだけじゃん」

「シンプルが一番いいんです」

「ノートパソコンくらいしか置けないよ?」

「十分ですよ」

「ふぅん……そーいうもんかねぇ……」

 欲を言えば、複数の資料が開けるようにもう少しだけスペースがあると助かるが……今使っているのに比べたら遙かにいい。

その時、ニャン太さんがこちらを覗き込むようにしてきた。

「ねえ、デンデン」

「……なんです?」

「本当はもっと欲しいのあるんじゃないの~?」

「い、いえ、これが欲しいんですよ」

「遠慮してない?」

「してません、してません」

 ブンブン首を振る。
 ニャン太さんは、顎に手を当てると何か考えるようにした。それからハッと顔を上げた。

「ごめん。ボク、ワガママ言ってもいいかな?」

「はい? なんでしょう?」

「引っ越し祝い……手作りデスクをプレゼントするよ」

「え!?」

「今、流行ってるじゃん! DV!」

「DIYな」

 すかさず、類さんが訂正する。
 ニャン太さんは目をキラキラ輝かせて続けた。

「手作りなら記念になるし、これくらいシンプルなら作れないこともなさそうだし! それに何より楽しそう!」

「まあ確かに、楽しそうではある」

「ま、待ってくださいよ。僕はこのデスクが……」

 手作りなんて手間が掛かりすぎる。
 材料費だって、眼前にあるデスクより確実に高くつくだろう。

「言ったでしょ、ボクのワガママだって」

 それを言われてしまったら、何も言えない。

「じゃあ、一旦デスクの話は家に持ち帰ってみんなで話してみるか」

「設計図?とか、決めなきゃだしね」

「そうそう」

「くぅ~……! テンションめちゃ上がる……!」

 楽しそうにするニャン太さんに途方に暮れる。
 そんな僕の髪を類さんがくしゃりと撫でた。

「帰るぞ、伝」

 颯爽と横切った類さんの背を見つめる。
 彼は少し進んでから、僕を振り返った。

「どうした?」

「いえ……」

 僕は、物理的にも精神的にも、たくさんのものを貰いすぎている。
 なのに、何も返せない自分が歯がゆくて情けない。
 せめて迷惑をかけないようにと思うのに……。

「家帰ったら忙しくなりそうだな。いろいろ調べねぇと」

「うちのお客さんにも聞いてみるよ。きっとDV趣味な人もいるだろうし!」

「DIYな。DV野郎は警察に突き出せ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

完食したいのはキミだけです

濘-NEI-
恋愛
若くして結婚した舞琴には、離婚を承諾してくれない別居中の夫、煌耶がいる。 ある日、幼なじみと飲みに行って 翌朝目が覚めると、全裸の煌耶が隣で眠ってた!? ※この作品はエブリスタさん、ムーンライトノベルズさんでも公開しています。 ※沢山の方のお目に留めていただきありがとうございます! 20220628:オマケを追加しました。 再会の夜の煌耶視点のストーリーです。ペロリと読んでみてください。

化粧

Akira@ショートショーター
大衆娯楽
1分から3分で読めます

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【幸せの条件】

黒雨
BL
男前で平凡(?)の主人公がただただ旦那たちとイチャイチャしてるだけの話です。 タグを見てから読むことをオススメします。それから本作品はあんまりエロくはございません、作者がエロ初心者なもので...。 まぁ、何はともあれ楽しん見てくださると嬉しいです。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

処理中です...