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日常6
妄想過激と誤算スパイス(5)
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「る、るる類ちゃん!? 帝人!? い、いつからいたのっ!?」
ニャン太さんの問いに「『キスはするな』辺りから」と、帝人さんが上着を脱ぎながら言う。
「ほぼ全部聞いてたんですね……」
僕は眼鏡を持ち上げて目をこすった。
自分の問題発言を全て聞かれていたと思うと、今すぐ灰になってしまいたい。
「ったく、お前らはまたくだらねぇことで盛り上がりやがって」
と、呆れながら、類さんはお土産だろう紙袋をローテーブルに放った。
それにニャン太さんが勢いよく立ち上がる。
「くだらなくないでしょ! ボクら、ひと月もセックスしてないんだよ!?」
僕とソウさんはそこまで気にはしていなかったが、黙ってふたりのやり取りを見守った。
「仕事だよ、仕事」
「仕事で何で帝人とつるむのさ!? 全然ジャンルが違うじゃん!」
「次の舞台、病院にしようと思ってるんだよ。
で、見学させてもらったり、いろいろ相談してたんだって」
「……本当に?」
ニャン太さんが帝人さんを振り返る。
疑わしげな眼差しで、じーっと見つめる彼に帝人さんは肩を竦めた。
「本当だよ。というか、つるむってほど一緒にはいなかったから。
知人にアポとって、繋げて、そのついでに食事したくらいで……」
「アヘアヘセックスしてないの?」
「ニャン太……俺は仕事だよ……」
帝人さんがガクリと肩を落とした。
僕は苦笑いを浮かべる。
まあ、そんなことだろうとは思っていた。
ニャン太さんは、類さんと帝人さんを見比べて、それから大きな大きな溜息をついた。
それから頭の後ろに手をやって、パッと笑顔を浮かべた。
「なーんだ、そっか~~。心配して損した~~!」
瞬時に沈鬱な気配を打ち払い、彼はニコニコ上機嫌でお土産の紙袋に手を伸ばす。
「ね、ね、何買ってきてくれたの?」
「チョコだよ。お前がこの前、食べたいーつってたネコの店の」
「わ、マジで!? チョー嬉しいんだけど!」
嬉々として、包装を破いていくニャン太さん。
ソウさんが対面の席から、その中身を覗き込む。
……良かった。
家族会議はひとまずお開きのようだ。
「じゃあ、僕はコーヒーを淹れてきますね」
言って、席を立てば、
「ま、帝人とアヘアヘセックスはしたけどな」
ソウさんの頬にただいまのキスをしてから、類さんが軽い調子で言った。
チョコの包装を取り除いていたニャン太さんの手が、ピタリと止まった。
「類……」
帝人さんが嘆息する。
「……帝人、嘘ついたってこと?」とニャン太さんが俯いたまま問い掛ける。
「したか、してないかは明言してないよ」
帝人さんは降参を示すように両手を上げた。
「それって嘘だよねぇ!?」
顔を上げたニャン太さんは、泣きそうな表情で唇を戦慄かせた。
類さんはケラケラ笑いながら、踵を返し――
と、その手を、ソウさんが掴んだ。
「ソウ?」
ソウさんは何も言わない。
類さんは小首を傾げた。その口元は少し嬉しそうに歪んでいる。
ああ……そういうことか……
僕は小さく笑った。
嫉妬って最高のスパイスだよな、と笑っていた彼を思い出したのだ。
「ソウちゃん、そのまんま捕まえてて。
ボクらには、説得する義務があるんだよ。そこそこサイズも悪くないってね……!」
ニャン太さんの言葉に、頷くソウさん。
「わかったわかった、シャワー浴びたらな」
「シャワーなんて浴びなくていいでしょ。どーせ汗だくになるんだから」
フラリと立ち上がったニャン太さんの目は据わっていた。
たぶん類さんが予想していたより、僕らが思っていたより、彼は本気で悩んでいたのだろう。
肌に感じる圧に、僕はひぇと息を飲んだ。
類さんも軽薄な笑顔を引き攣らせている。
「や、やっぱ、また今度にすっか。今日はもう遅いし……」
「うるさいうるさいうるさーーい!」
危機を察知しても、時既に遅し。
逃げようとする類さんの腕を、ソウさんはしっかり掴んだままで、そこへ歩み寄ったニャン太さんが軽々と彼を荷物みたいに背負った。
「ちょっ、ニャン太っ……!?」
「行くよ、ソウちゃん!」
鼻息をフンと吐き出す。
それから彼は僕を振り返った。
「デンデンも!」
「え、あ、僕は大丈夫ですっ……!」
「わかった! じゃあまた今度ね!」
本当にいいの~? とか、みんなでイチャイチャしよー! とか、
いつもの明るいお誘いはない。
それが彼の本気度合いを語っている気がする。
「やっ、待て! 伝! 伝も一緒にっ……!」
類さんが僕に手を伸ばし、そのままニャン太さんの部屋へと消えていった。
ソウさんが静かに扉を閉める。僕はそれをヒラヒラと手を振って見送った。
しばらくするとギャーと断末魔みたいな悲鳴が部屋から聞こえてきて、
やがて、静かになった。
「じゃあ……チョコは片付けますね」
僕はテーブルに広げられていたチョコの箱を手に冷蔵庫へと向かう。
「あの感じ、明日は夕方まで起きてこないだろうね」
帝人さんがソファにかけていた上着を手に取った。
「僕、ご飯用意しますよ。食べたいものあります?」
「カップラーメンかな」
彼はニコリと笑って答えた。
僕は口の端を引き攣らせる。
ソウさんの食事以外には、全く興味を示さない帝人さんの徹底ぶりには閉口するばかりだ。
ニャン太さんの問いに「『キスはするな』辺りから」と、帝人さんが上着を脱ぎながら言う。
「ほぼ全部聞いてたんですね……」
僕は眼鏡を持ち上げて目をこすった。
自分の問題発言を全て聞かれていたと思うと、今すぐ灰になってしまいたい。
「ったく、お前らはまたくだらねぇことで盛り上がりやがって」
と、呆れながら、類さんはお土産だろう紙袋をローテーブルに放った。
それにニャン太さんが勢いよく立ち上がる。
「くだらなくないでしょ! ボクら、ひと月もセックスしてないんだよ!?」
僕とソウさんはそこまで気にはしていなかったが、黙ってふたりのやり取りを見守った。
「仕事だよ、仕事」
「仕事で何で帝人とつるむのさ!? 全然ジャンルが違うじゃん!」
「次の舞台、病院にしようと思ってるんだよ。
で、見学させてもらったり、いろいろ相談してたんだって」
「……本当に?」
ニャン太さんが帝人さんを振り返る。
疑わしげな眼差しで、じーっと見つめる彼に帝人さんは肩を竦めた。
「本当だよ。というか、つるむってほど一緒にはいなかったから。
知人にアポとって、繋げて、そのついでに食事したくらいで……」
「アヘアヘセックスしてないの?」
「ニャン太……俺は仕事だよ……」
帝人さんがガクリと肩を落とした。
僕は苦笑いを浮かべる。
まあ、そんなことだろうとは思っていた。
ニャン太さんは、類さんと帝人さんを見比べて、それから大きな大きな溜息をついた。
それから頭の後ろに手をやって、パッと笑顔を浮かべた。
「なーんだ、そっか~~。心配して損した~~!」
瞬時に沈鬱な気配を打ち払い、彼はニコニコ上機嫌でお土産の紙袋に手を伸ばす。
「ね、ね、何買ってきてくれたの?」
「チョコだよ。お前がこの前、食べたいーつってたネコの店の」
「わ、マジで!? チョー嬉しいんだけど!」
嬉々として、包装を破いていくニャン太さん。
ソウさんが対面の席から、その中身を覗き込む。
……良かった。
家族会議はひとまずお開きのようだ。
「じゃあ、僕はコーヒーを淹れてきますね」
言って、席を立てば、
「ま、帝人とアヘアヘセックスはしたけどな」
ソウさんの頬にただいまのキスをしてから、類さんが軽い調子で言った。
チョコの包装を取り除いていたニャン太さんの手が、ピタリと止まった。
「類……」
帝人さんが嘆息する。
「……帝人、嘘ついたってこと?」とニャン太さんが俯いたまま問い掛ける。
「したか、してないかは明言してないよ」
帝人さんは降参を示すように両手を上げた。
「それって嘘だよねぇ!?」
顔を上げたニャン太さんは、泣きそうな表情で唇を戦慄かせた。
類さんはケラケラ笑いながら、踵を返し――
と、その手を、ソウさんが掴んだ。
「ソウ?」
ソウさんは何も言わない。
類さんは小首を傾げた。その口元は少し嬉しそうに歪んでいる。
ああ……そういうことか……
僕は小さく笑った。
嫉妬って最高のスパイスだよな、と笑っていた彼を思い出したのだ。
「ソウちゃん、そのまんま捕まえてて。
ボクらには、説得する義務があるんだよ。そこそこサイズも悪くないってね……!」
ニャン太さんの言葉に、頷くソウさん。
「わかったわかった、シャワー浴びたらな」
「シャワーなんて浴びなくていいでしょ。どーせ汗だくになるんだから」
フラリと立ち上がったニャン太さんの目は据わっていた。
たぶん類さんが予想していたより、僕らが思っていたより、彼は本気で悩んでいたのだろう。
肌に感じる圧に、僕はひぇと息を飲んだ。
類さんも軽薄な笑顔を引き攣らせている。
「や、やっぱ、また今度にすっか。今日はもう遅いし……」
「うるさいうるさいうるさーーい!」
危機を察知しても、時既に遅し。
逃げようとする類さんの腕を、ソウさんはしっかり掴んだままで、そこへ歩み寄ったニャン太さんが軽々と彼を荷物みたいに背負った。
「ちょっ、ニャン太っ……!?」
「行くよ、ソウちゃん!」
鼻息をフンと吐き出す。
それから彼は僕を振り返った。
「デンデンも!」
「え、あ、僕は大丈夫ですっ……!」
「わかった! じゃあまた今度ね!」
本当にいいの~? とか、みんなでイチャイチャしよー! とか、
いつもの明るいお誘いはない。
それが彼の本気度合いを語っている気がする。
「やっ、待て! 伝! 伝も一緒にっ……!」
類さんが僕に手を伸ばし、そのままニャン太さんの部屋へと消えていった。
ソウさんが静かに扉を閉める。僕はそれをヒラヒラと手を振って見送った。
しばらくするとギャーと断末魔みたいな悲鳴が部屋から聞こえてきて、
やがて、静かになった。
「じゃあ……チョコは片付けますね」
僕はテーブルに広げられていたチョコの箱を手に冷蔵庫へと向かう。
「あの感じ、明日は夕方まで起きてこないだろうね」
帝人さんがソファにかけていた上着を手に取った。
「僕、ご飯用意しますよ。食べたいものあります?」
「カップラーメンかな」
彼はニコリと笑って答えた。
僕は口の端を引き攣らせる。
ソウさんの食事以外には、全く興味を示さない帝人さんの徹底ぶりには閉口するばかりだ。
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