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日常1
蒼悟とヤキモチ(5)
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類さんと帝人さんは、真っ青な顔をしていた。
「お~、意外! ふたりも楽しめたんだ!」
コチラに向かって真っ直ぐ走ってきた類さんに、ニャン太さんが目をぱちくりさせる。
そんな彼の両肩を、類さんはガシッと掴んだ。
「おまっ、おまっ、お前の友達頭おかしいだろ!?!?!?!?」
ガクガク揺らしながら、裏返った声で叫ぶ。
「本当だよ!」と、すかさず同意したのは帝人さんだ。
「お化け屋敷なのに、なんで虫とか蛇とか降ってくるわけ!?」
言って、両腕で自身を抱きしめる。
「信じられねぇ。信じられねぇ! 虫っ、む、虫にっ、さわっ……ああああああっ……!」
「大丈夫だよ、偽物なんだから」
「わかってるよ! それでも、キモイんだよ!!!」
「注意書きあったじゃん?」
「読むか、あんなもん!!!!」
類さんはニャン太さんを離すとその場をぐるぐる歩き、腕についた何かを払うようにした。
七部丈から覗く彼の腕は、激しく鳥肌が立っている。
「あ-、クソクソクソ……キモいキモいキモい……」
「……伝くんたちの方には、虫とかヘビとか出てこなかったの?」
帝人さんの問いに、僕は頷いた。
「はい。生首を持った生徒に追いかけられたりしましたけど、虫とかそういうのはなかったです」
「そうなんだ……お互い、苦手な方に当たっちゃったんだね……」
「苦手じゃない」と、ソウさん。
どっちにしても、彼は動けなくなっていただろうな……
「……ぅしっ! 気晴らしになんか食うぞ!」
大仰に溜息をついてから、類さんが気持ちを切り替えるように言った。
「あっ、じゃあボク、あっちにあるレストラン入りたい! めっちゃカワイイオムライスあったんだよね~」
「じゃあ、そこ行くか」
類さんが振り返る。
それから、キョトンとした。
いつも走り寄るソウさんが僕の隣から微動だにしなかったからだろう。
「ソウ? いつまで伝にくっついてんだよ。歩きづらいだろ」
「別にいい」
「いや、お前じゃなくて伝が歩きづらいって言ってんだよ」
「別にいい」
「いや、だからな……」
「あの、僕は大丈夫ですので」
さすがにもうソウさんは泣いていたりはしなかったが、まだ本調子ではないのは明白だった。
類さんにくっつかないなんて、よっぽどである。
「ソウさん、行きましょうか」
僕はソウさんを引き摺りながら、ニャン太さんの後を追った。
□ ■ □
類は、くっついて歩く蒼悟と伝を見て、ポカンと口を開けた。
「類? 何してるの。レストラン行くんでしょ」
帝人に促されてやっと歩き始める。
ついで類は腕を組み、うんと低く唸った。
「……なあ。俺はどっちに嫉妬してるんだと思う?」
「そんなの間に入れば解決するよ」
「いや、それは違う気がするんだよ……」
意味が分からないというように帝人は肩を竦める。それから彼も前を行く伝と蒼悟を見やった。
ひな鳥だって、親にはあれ程はくっ付かない。距離感的には背後霊だ。
「ってか、お前は平気なわけ。ふたりがあんなにくっついててさ」
類の問いに帝人はフッと微笑んでから、ギリと奥歯を噛んだ。
「平気なわけないだろ? 伝くんが妬ましいよ。髪の毛抜けそうだもの」
「え? そんなに?」
「伝くんになりたい……いや、もう、ふたりの間に挟まってる伝くんのバッグでもいい」
「……バッグでもいいんだ」
「うん。今すぐ人間やめたい」
力強く頷く帝人に、類は頭をかいた。
「お前、本当ブレねぇな」
* * *
その日の夜。
「ん……」
ベッドで眠っていた僕は、寝苦しさを覚えて意識を浮上させた。
なんだかベッドが狭くて、温かい。
「えっ!?」
それが人肌のぬくもりだと気付いて、飛び起きる。
隣を見れば、ソウさんが寝息を立てていた。
「ええええ、なんでソウさんがここに……!?」
身体を丸める彼は、怖い夢でも見ているのか、眉を寄せて、なんだか難しい顔をしていた。
テーマパークを一緒に巡っていた時は、ずっと後ろにくっついている彼をちょっと可愛い なぁ、なんて思ったのだが、ここまで怯えていると、さすがに可哀想になってくる。
「大丈夫ですよ、ソウさん」
頭にそっと手を置いて、よしよしと撫でる。
「怖くないです。傍にいますからね」
「ん……」
しばらくそうしていると、彼の愁眉は次第に晴れて、むにゃむにゃと寝言が聞こえた。
僕はホッと溜息をつく。
それから、ついでに水でも飲もうと彼を跨ぎ、ベッドを下りようとしてーー
「ぅうわっ……!」
唐突に腰に抱きつかれて体勢を崩した僕は、ベッドに倒れ込んだ。
「そ、ソウさん、水飲みに行くだけですから……」
答える代わりに、彼は僕の脇の下に潜り込んでくる。
「なんで!?」
押しやろうとしても、彼が諦める様子はない。
しばらくの攻防の末に、結局僕が折れた。
右腕を不自然に上げた空いたスペースに、ソウさんの頭がはまる。
彼はグイグイ頭を押し付けてきたり、頭の位置を変えたりしてから、動かなくなった。
「……そこ、寝心地いいんですか?」
「すぅ、すぅ……」
「狭くないですか……?」
「……すぅ」
「そうですか……」
ふと、脳裏を実家の犬が過った。
なんでだかアイツもよく隙間に身体を押し込んで眠っていたっけ。
僕はトントンと子供にするように、ソウさんの背中を撫でる。
「良い夢、見られますように」
カーテンの隙間から差し込む月の光が、彼の整った横顔を照らしている。
僕は上掛けをソウさんの肩まで持ち上げてから、再び夢の中に落ちていった……。
「お~、意外! ふたりも楽しめたんだ!」
コチラに向かって真っ直ぐ走ってきた類さんに、ニャン太さんが目をぱちくりさせる。
そんな彼の両肩を、類さんはガシッと掴んだ。
「おまっ、おまっ、お前の友達頭おかしいだろ!?!?!?!?」
ガクガク揺らしながら、裏返った声で叫ぶ。
「本当だよ!」と、すかさず同意したのは帝人さんだ。
「お化け屋敷なのに、なんで虫とか蛇とか降ってくるわけ!?」
言って、両腕で自身を抱きしめる。
「信じられねぇ。信じられねぇ! 虫っ、む、虫にっ、さわっ……ああああああっ……!」
「大丈夫だよ、偽物なんだから」
「わかってるよ! それでも、キモイんだよ!!!」
「注意書きあったじゃん?」
「読むか、あんなもん!!!!」
類さんはニャン太さんを離すとその場をぐるぐる歩き、腕についた何かを払うようにした。
七部丈から覗く彼の腕は、激しく鳥肌が立っている。
「あ-、クソクソクソ……キモいキモいキモい……」
「……伝くんたちの方には、虫とかヘビとか出てこなかったの?」
帝人さんの問いに、僕は頷いた。
「はい。生首を持った生徒に追いかけられたりしましたけど、虫とかそういうのはなかったです」
「そうなんだ……お互い、苦手な方に当たっちゃったんだね……」
「苦手じゃない」と、ソウさん。
どっちにしても、彼は動けなくなっていただろうな……
「……ぅしっ! 気晴らしになんか食うぞ!」
大仰に溜息をついてから、類さんが気持ちを切り替えるように言った。
「あっ、じゃあボク、あっちにあるレストラン入りたい! めっちゃカワイイオムライスあったんだよね~」
「じゃあ、そこ行くか」
類さんが振り返る。
それから、キョトンとした。
いつも走り寄るソウさんが僕の隣から微動だにしなかったからだろう。
「ソウ? いつまで伝にくっついてんだよ。歩きづらいだろ」
「別にいい」
「いや、お前じゃなくて伝が歩きづらいって言ってんだよ」
「別にいい」
「いや、だからな……」
「あの、僕は大丈夫ですので」
さすがにもうソウさんは泣いていたりはしなかったが、まだ本調子ではないのは明白だった。
類さんにくっつかないなんて、よっぽどである。
「ソウさん、行きましょうか」
僕はソウさんを引き摺りながら、ニャン太さんの後を追った。
□ ■ □
類は、くっついて歩く蒼悟と伝を見て、ポカンと口を開けた。
「類? 何してるの。レストラン行くんでしょ」
帝人に促されてやっと歩き始める。
ついで類は腕を組み、うんと低く唸った。
「……なあ。俺はどっちに嫉妬してるんだと思う?」
「そんなの間に入れば解決するよ」
「いや、それは違う気がするんだよ……」
意味が分からないというように帝人は肩を竦める。それから彼も前を行く伝と蒼悟を見やった。
ひな鳥だって、親にはあれ程はくっ付かない。距離感的には背後霊だ。
「ってか、お前は平気なわけ。ふたりがあんなにくっついててさ」
類の問いに帝人はフッと微笑んでから、ギリと奥歯を噛んだ。
「平気なわけないだろ? 伝くんが妬ましいよ。髪の毛抜けそうだもの」
「え? そんなに?」
「伝くんになりたい……いや、もう、ふたりの間に挟まってる伝くんのバッグでもいい」
「……バッグでもいいんだ」
「うん。今すぐ人間やめたい」
力強く頷く帝人に、類は頭をかいた。
「お前、本当ブレねぇな」
* * *
その日の夜。
「ん……」
ベッドで眠っていた僕は、寝苦しさを覚えて意識を浮上させた。
なんだかベッドが狭くて、温かい。
「えっ!?」
それが人肌のぬくもりだと気付いて、飛び起きる。
隣を見れば、ソウさんが寝息を立てていた。
「ええええ、なんでソウさんがここに……!?」
身体を丸める彼は、怖い夢でも見ているのか、眉を寄せて、なんだか難しい顔をしていた。
テーマパークを一緒に巡っていた時は、ずっと後ろにくっついている彼をちょっと可愛い なぁ、なんて思ったのだが、ここまで怯えていると、さすがに可哀想になってくる。
「大丈夫ですよ、ソウさん」
頭にそっと手を置いて、よしよしと撫でる。
「怖くないです。傍にいますからね」
「ん……」
しばらくそうしていると、彼の愁眉は次第に晴れて、むにゃむにゃと寝言が聞こえた。
僕はホッと溜息をつく。
それから、ついでに水でも飲もうと彼を跨ぎ、ベッドを下りようとしてーー
「ぅうわっ……!」
唐突に腰に抱きつかれて体勢を崩した僕は、ベッドに倒れ込んだ。
「そ、ソウさん、水飲みに行くだけですから……」
答える代わりに、彼は僕の脇の下に潜り込んでくる。
「なんで!?」
押しやろうとしても、彼が諦める様子はない。
しばらくの攻防の末に、結局僕が折れた。
右腕を不自然に上げた空いたスペースに、ソウさんの頭がはまる。
彼はグイグイ頭を押し付けてきたり、頭の位置を変えたりしてから、動かなくなった。
「……そこ、寝心地いいんですか?」
「すぅ、すぅ……」
「狭くないですか……?」
「……すぅ」
「そうですか……」
ふと、脳裏を実家の犬が過った。
なんでだかアイツもよく隙間に身体を押し込んで眠っていたっけ。
僕はトントンと子供にするように、ソウさんの背中を撫でる。
「良い夢、見られますように」
カーテンの隙間から差し込む月の光が、彼の整った横顔を照らしている。
僕は上掛けをソウさんの肩まで持ち上げてから、再び夢の中に落ちていった……。
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