人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

文字の大きさ
上 下
204 / 224
エピソード30

別れの詩(5)

しおりを挟む
* * *

 月が真上に昇る頃、
 ハルさんはボクを抱きかかえて古城の外に出た。

「セシル。もうちょっと、こっち。
 ……そうそう、そこに立って。頭はこっちだ。……うん、ちゃんと見える?」

「は、はあ……」

 彼はボクを、古城を一眸できる場所に《設置》すると、
 改めて城を仰ぎ見た。

 星空の下、聳える城は真っ黒で、何処かおどろおどろしい。

「祖父はいい場所に城を建てたと思うよ」

 夜風にローブを揺らして、ハルさんは言った。

「そこそこ発展している街からも近いし、
 かといって、力を持ってる教会の支部も見当たらない。
 城を取り囲む森には聖なる者が住まうと信じられていて、
 人がうろつくこともないし……
 隠れ住むにはもってこいだ」

 言葉を切り、ハルさんがボクに目を向ける。
 その黒曜石の瞳はボクをすり抜けて、
 もっと遠くにいるヤツを見つめていた。

「……ねえ、そう思うでしょ? 君も」

 ゾッと背中が粟立つ。
 彼のまとう空気は、氷よりもなお冷たい。

 知れず、足元がフラつき、彼から退こうとすれば、
 ハルさんの白い手がボクの首を掴んだ。

「ぐっ……」

 息を飲むボクには構わず、
 ハルさんはゆっくりと小首を傾げる。
 それから、こちらを覗き込むようにして口の端を持ち上げた。

「ここで待ってるから。
 もう一度、僕と――遊ぼう」

* * *

 遊ぼうだ?
 アイツ、バカなの??

 俺は苛立たしげに鼻を鳴らした。
 人狼青年を探すべく、あの使えない駒の頭を覗いていると、
 7月からメッセージを受け取ったのだ。

 わざわざ、今いる場所を示すようにして、
 彼は、にこやかに俺を誘った。

 俺は歯が欠けるほど奥歯を噛みしめた。

 どーーーせ、めちゃくちゃ準備して待ってンだろ。
 お前らの考えなんて、丸っとお見通しなんだよ。

 …でもさァ、ちょっと俺のことを舐め過ぎだと思うんだよね。

 たった5人のキミらとは違って、
 俺ってば100人近い第一級処刑官たちを集めちゃってるわけ。
 この差をどうやって埋めつもりなのかなー。
 ちゃんと数、数えられる? 大丈夫?

 ま。チャレンジ精神は大事だとは思うけどね?

 ーーそういうわけで俺は、7月に遊ぼうと誘われた1週間後、
 例の古城の前に立っていた。

「招待しといて出迎えもなしって、マジかい。
 舐めすぎでは?
 ――舐めすぎではァァァァァアアアアッ!?!?」

 舌打ちをして、唾を吐き捨てる。

 あくまで彼らは罠だらけの内部に俺を呼び込みたいらしい。。
 
 うーん。いっそ、外部から城を破壊するとか?

「あ、それはムリっぽい」

 城の周りをうっすらと複雑な術式が覆っているのが見える。
 外部から物理的干渉を受けないよう、結界でも張っているのだろう。
 まったく面倒なことこの上ない。

 とはいえ、そんなもんがなかったとしても、
 城を破壊するというアイディアは却下だ。

「なぜなら! これから、この城は俺の物になるからでーーーす!」

 ちょこっとジルベールと違うことをしたせいで、
 教会の中に、ちらほらと俺を訝しむヤツらが現れた。
 意外とバカじゃなかったらしい。
 このままでは、バレるのも時間の問題だ。

 そこで、このお城ですよ。

 カモがネギ背負ってくるって、こういうことなんだと思う。

 強固さはお墨付き。
 ロケーションも悪くない。

「ありがとねー、7月。大切に使わせて貰うよん♪」

 お礼と言ってはなんだけど、滅多刺しにしてあげる。
 ついでに目玉をくり抜いて、火で炙って、薬漬けにして……
 ああ、そういうこと全部、彼の大好きな甥っ子の姿でやってあげたら、
 めちゃくちゃ喜ぶかも?

「え、俺っていい人過ぎじゃね? あは、人じゃないけど」

 俺は気を取り直して、背後を振り返った。

「みなさーん、ちゃんと来てますかー?」

 陰に潜んでいた仲間たちが、暗闇に姿を現す。

「それじゃ、冒険を始めようか!」

 俺はそれを確認すると、嬉々として古城攻略に乗り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。 最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者 R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

前世の記憶を思い出した皇子だけど皇帝なんて興味ねえんで魔法陣学究めます

当意即妙
BL
ハーララ帝国第四皇子であるエルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララはある日、高熱を出して倒れた。数日間悪夢に魘され、目が覚めた彼が口にした言葉は…… 「皇帝なんて興味ねえ!俺は魔法陣究める!」 天使のような容姿に有るまじき口調で、これまでの人生を全否定するものだった。 * * * * * * * * * 母親である第二皇妃の傀儡だった皇子が前世を思い出して、我が道を行くようになるお話。主人公は研究者気質の変人皇子で、お相手は真面目な専属護衛騎士です。 ○注意◯ ・基本コメディ時折シリアス。 ・健全なBL(予定)なので、R-15は保険。 ・最初は恋愛要素が少なめ。 ・主人公を筆頭に登場人物が変人ばっかり。 ・本来の役割を見失ったルビ。 ・おおまかな話の構成はしているが、基本的に行き当たりばったり。 エロエロだったり切なかったりとBLには重い話が多いなと思ったので、ライトなBLを自家供給しようと突発的に書いたお話です。行き当たりばったりの展開が作者にもわからないお話ですが、よろしくお願いします。 2020/09/05 内容紹介及びタグを一部修正しました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...