人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード23

眠れる、熱い毒(1)

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 幸い、窓から降りたところは目撃されていなかったようで、
 オレたちは夜の闇に紛れることが出来た。

 裏道に入り、宿から足早に遠ざかる。
 時折、異端だなんだと言う声が聞こえて、そちらを見やれば、
 灯火の下、鎧を身にまとった男が、2、3人の僧服の男と話していた。

 彼らは教会の人間で、
 捜しているのは多分オレたちだろう。

 どうしてオレたちのことがバレたのかは知れないが、
 明日の朝、街を出れば良いなんて、
 希望的観測でしかなかったのだ。

「……クソ、ダメか」

 いくつか街の外周にある門を見たが、
 検問が敷かれていた。

「出られそうにないですね」

「そうだな……」

 オレは街を取り囲む壁を見上げた。
 この街から安全に出ようとするならば、あの壁を登るしか方法はない。
 しかし壁の高さは、周囲の建物よりも遥かに高い。

 近くの家の屋根から飛び移るなど出来るはずもなく、
 壁に並立している、見張り塔から登るしかない。
 もちろん、全ての見張り塔にも敵が待ち構えているだろうが……。

「……あの人たちが捜してるのは、僕なんでしょうか」

「そう思って行動した方が良いだろうな」

 違うのならば、日の出と共に街を出るだけだ。
 オレは眉根を落とすユリアを、励ますように髪をくしゃりと撫でた。

「ひとまず、警備の手薄な見張り塔を探そう。
 っつって、これ以上、この格好でウロつくのは……」

 オレたちを捜す人影は、確実に多くなってきていて、
 包囲網を狭めてきているのだと分かる。
 このままでは、見つかるのは時間の問題だ。

 僧服か鎧か失敬して着替えなければ。
 そうすれば、見張り塔にもうまく侵入出来るかもしれない。

「異端者はいたか?」

「いや、それらしい2人組は見ていない。この辺りはくまなく探したんだが……」

「だったら、向こうを捜そう」

 裏道を奥へと向かって歩いていく2人組の神官を、オレは物陰からじっと観察する。
 運が良いことに、周囲に人の気配はない。

「あいつらから、服を借りる。
 後ろから近づいてオレがノすから、
 お前は1人をココまで運んでくれ。
 運んだら直ぐに脱がせて、着替えろ。縛るのはオレがやるから」

「わ、分かりました」

 オレは姿勢を低くして、物陰から飛び出た。
 ――その時だ。

「ユリアさん!」

 背後から聞こえた声に、オレは咄嗟に身構えた。

「ぼ、僕です! 敵じゃありません……!」

 スヴェンだ。
 スヴェンが、息を切らせて立っていた。

「スヴェンさん? どうしてこんな所に――」

「おい、何か声が聞こえなかったか?」

 前を歩いていた神官たちが振り返る。

「まずい――」

「2人とも、こちらへ……っ!」

 そう言うや否や、スヴェンが素早く踵を返した。

 オレとユリアは、戸惑いつつもその華奢な背中を追いかけた。
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