人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

文字の大きさ
上 下
105 / 224
エピソード20

陽だまりと地図(2)

しおりを挟む
 脳裏を去来した疑問を口にすれば、
 ヤツは感情の見えない表情で、オレを見下ろした。

「それを聞いてどうする?」

 オレは真っ直ぐ獣を見つめ返した。

 こうして、コイツと普通に『会話』をするのは初めてかもしれない。
 いつもは極力、出会わないように避けてきたのだ。

 しかし、今、逃げ損ねたお陰で、腹が据わった気がする。

「……なあ。お前は、何者なんだよ?」

 オレは問いを重ねた。

「何者? 貴様の問いは具体性に欠けるな」

「ずっと疑問に思ってたんだ。お前と、ユリアの関係……
 ユリアは自分の力は人格を持っている、って言ってた。
 だけど、力は……人格なんて持っていない。そうだろう?」

 3ヶ月前――屋敷を半壊させた、黒い異形を思い出す。
 原因を作ったセシルは、『ユリアの人格を深く眠らせた』と言っていた。
 なのに、コイツは現れず、力が暴走した。

 あの時はセシルが何かしらの失敗をしたのだろうと思っていたが、
 しかし、あれは失敗なんかではなく、
 『ユリアの人格を眠らせると、人狼の人格をも眠ってしまう』のだとしたら?

 1つの体に2つの人格があるのではなく、
 ユリアと人狼の人格が同じ――表裏一体の関係にあるのだとしたら。

「なあ。お前は、いつからユリアの中にいるんだ?」

 話しぶりから、多分、獣はユリアと記憶を共有している。

 しかし、ユリアは――今まで話を聞く限り――
 コイツの記憶を勝手に見ることはできない。
 表裏一体だとしても、人格には上下があるのかもしれない。

「貴様は何か勘違いしているようだな。
 あの臆病者の中に、俺がいるのではない。
 俺の中にアイツがいる。
 俺の体を、アイツに貸してやっているのだ」

「貸してる……?」

 オレはユリアと獣の関係を、何か勘違いしているのかもしれない。
 そもそも、ユリアの中に獣が入っているなんて話は……

 思案を巡らせていると、
 再び鉤爪がオレ頭を掴み、上向かせられた。

「……なんだよ?」

「また、俺を消す算段でもしているのだろう?
 俺は貴様が思うより寛大ではないぞ」

「だとしたら、どうする?
 お前はオレのことを殺せないだろ」

「はっ……相手の立場を分からせるのに、殺すなど詮無いことだ。
 それ以上の苦しみを与える方法は、腐るほどある」

「へえ。自分の身を危うくしてまで、
 オレのことを痛めつけようだなんて、いい趣味してるな」

「これだから下等生物は。想像力が貧相だ」

 獣は苛立たしげに鼻に皺を寄せ――
 次の瞬間、オレをデスクに叩きつけた。

「ぐっ……っの、やろっ……何し――」

「また貴様を陵辱したら、アイツはどう思うだろうな?」

「ああっ!? おっ前、またっ……っ!?」

 額を押し付けられたデスクが、ミシミシと悲鳴を上げる。
 喉奥で笑って、獣は続けた。

「もちろん、前回とは趣向を変えるがな。
 ヤツが泣いて悔しがるくらい、とろかして……
 ヤツではイけない体にしてやる」

 背後に獣が回る。
 オレは全力で体を起こそうと、もがいた。

「離せ!」

「ははは、震えている。なんだ、怖いのか」

「オレに、触るんじゃねえ!」

「貴様がどれほど拒絶をしても、チャームには敵わない。
 すぐに自分から腰を振るようになる。分かっているだろう?」

 髪を引っ張られ、広々としたデスクの上に放られた。
 逃げる間もなく、巨躯がのし掛かってくる。

「クソ……離せ……っ!」

「俺の目を見ろ」

 咄嗟に目を閉じる。
 しかし、鉤爪に無理やり瞼をこじ開けられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【完結】人形と皇子

かずえ
BL
ずっと戦争状態にあった帝国と皇国の最後の戦いの日、帝国の戦闘人形が一体、重症を負って皇国の皇子に拾われた。 戦うことしか教えられていなかった戦闘人形が、人としての名前を貰い、人として扱われて、皇子と幸せに暮らすお話。   性表現がある話には * マークを付けています。苦手な方は飛ばしてください。 第11回BL小説大賞で奨励賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

サイハテイネイブラー

粒豆
BL
面倒見がよく世話焼きな主人公『高幸』は、 引き籠りで不登校な幼なじみ『光』にいつも授業で使ったノートやプリントを届けていました。 ――光は内気で臆病だから、ボクが付いていてあげないとダメなんだ。 そう感じた高幸は、今日も光の面倒を見る為、彼の家へ向かうのでした……。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

処理中です...