人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード15

茨の密約(3)

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「処刑官……?
 屋敷に来たのは、ユリアが狙いだった……って、わけじゃないよな?」

「だとすれば、こうしてお前と食事をしていることもなかっただろう。
 今の俺はセシルの言う通り、ただの荷物持ちでしかない」

 確かに、処刑官としてユリアに近づいたのなら、
 こうした話を明かすことに利はない。

 しかし、何故今そんな話を?
 酔って饒舌になっているのか。
 はたまた、何か目的があるのか…オレは静かに続きを待つ。

 彼はジョッキを傾け喉を鳴らした。

「俺とセシルは20年前……。
 ここよりも、ずっと北の小さな村で出会ったんだ」

 ゆっくりと告げると、ヴィンセントは椅子の背もたれに体を預けた。
 記憶を辿るように、遠くを見つめる。

「あの頃、1匹の凶悪なヴァンパイアがいた。
 1月のヴァンパイアと呼ばれるソイツは、
 享楽のために村人を全滅させる、
 俺たちには到底理解のできない存在だった」

「1月のヴァンパイア……」

「俺は、そいつを葬るために村に派遣された処刑官の一人だった。
 そして、セシルはその村の――滅ぼされた村の唯一の生存者だった。
 ……いや、死徒になっていたから、正確には生存者とは言えないが」

 ヴィンセントの眉が、ピクリと動く。
 彼は手を組むと、目を閉じた。

「……俺が村に辿り着いた時、住人は皆殺しにされ、ヤツは既に姿を消していた。
 村は酷い有様だった。
 住人の血で、舗装された道や広場、家の中に至るまで全てが赤く染まっていた。
 怒りに震えながら俺と仲間たちは犠牲者の確認と弔いを始めーー
 そして、血の海で泣き崩れているコイツを見つけたんだ。
 死徒は俺たちの処刑対象だ。見つければ即刻処分しなければならない。
 だが、俺には殺せなかった」

 そうゆっくりと話すと、彼は小さな溜息を落とした。

「セシルは、ヤツの置き土産だった。
 『自分とお前たちは同じだ』と伝えるためだけの……」

 ヴィンセントは親指の腹で、
 涎を垂らして眠る相方の口元を拭ってやった。

「むにゃ……」

「コイツは自分が何をされたのか一つも分かってはいなかった。
 家族を殺されて、ショックを受ける子供をどうして殺せる?
 俺は、放っておけなかった。
 放っておけば、コイツは知らずに朝日にさらされて灰になる。
 その前に他の処刑官に見つかれば、容赦なく斬り殺される。
 それは、あまりに不憫だと思った」

「それから、20年も一緒に?」

「ああ。俺はそのまま、セシルを連れて教会を離れた。
 あの日から、ずっと旅をしている」

 ヴィンセントは重く頷くと、ジョッキを傾けた。
 それから静かにオレの反応を待っている。

「……なあ。一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

 オレも椅子の背もたれに体を預けると、
 先ほどから頭に浮かんでいた疑問を口にした。

「どうしてその話をオレに?
 酔っ払いの昔話ってわけじゃないだろ?」

 ヴィンセントは束の間、視線を彷徨わせた。
 ついで姿勢を正すと、オレに力強い眼差しを向けた。

「……お前に、セシルを頼みたいと思っている」
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