人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード13

パーティナイト(4)

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「なっ、なっ、なっ……!」

 セシルが手を震わせる。
 ついで、今にも爪で引っ掻いてきそうな形相で、彼はオレを睨めつけてきた。

「勝負だな、セシル」

 苦笑交じりの低い声が落ちたのは、その時だ。
 優しく目を細めるヴィンセントに、セシルは眉根を吊り上げた。

「……勝負? お前とボクとじゃ勝負にならないから」

 そう告げると、彼は先ほどよりも入念に2枚のカードをシャッフルした。
 もちろん、さっきと同じく顔を背けて相方に手札を押し付ける。

「……ドウゾ」

「それじゃあ――」

 ひょいと悩むことなく、ヴィンセントが1枚を取る。
 それからカードを場に放った。

「上がりだ」

「……お前、今の絶対どっちか分かってただろ」

「じゃあやり直すか?」

「やり直す!!」

 続いて、2回、3回と先程のことを繰り返したものの、
 結果はセシルの惨敗。

 確かに、まったく勝負にならなかった。

「くっ……!」

「もう一度やり直すか?」

「……もういい!」

 セシルがぴたんと場にカードを捨てた。
 そんな彼にすかさずヴィンセントが、
 ケーキを一欠片切り分けると、差し出す。

「んっ……」

 反射的にパク付いてしまったのか、
 セシルはばつが悪そうに視線を彷徨わせた。
 やがて一言、ポツリと言った。

「……おいしい。
 ――じゃなくてさっ……!」

 セシルがテーブルを立ち上がる。
 その瞬間、ユリアがフッと噴き出した。

「ふ、ふふ、セシル……っ、君……」

「あ……」

「ヴィンセントさんと、凄く仲が良いんですね」

 目に浮かんだ涙を指先で拭って、ユリアが破顔する。
 セシルは居心地悪そうに、目線を外した。

「……仲なんて、よくないです。
 というか、ボク……とても、はしたないことを……
 呆れましたよね」

「友達がはしゃいで嫌な人なんていませんよ。
 とても楽しいです。
 セシルさえ良ければ、もう少し遊びましょう」

「は、はい……! では、次は……」

 いつもはシンと静まり返った屋敷に、セシルの明るい声が響く。
 オレは楽しげにゲームに興じるユリアを眺めて、
 知れず微笑みを浮かべていた。

 セシルへの不信感は、杞憂だったのかもしれない。

※ ※ ※


 大いに盛り上がった、お茶会が終わった後、
 オレはセシルたちを客室まで案内した。

「何かご入り用があれば、なんなりとお申し付けください」

「ちょっと待ってよ」

「はい、何か?」

「ユリアってさ……凄く優しくて、真面目だよね」

「そうですね。坊ちゃんはとても真っ直ぐでいらっしゃいます」

「悪いことしちゃったら、凄く自分のこと責めちゃいそう」

「……どういう意味でしょう?」

 ゆっくりと問いを口にする。
 すると彼は、コチラに向けて左手を突き出してきた。

 人さし指にはまった指輪がキラリと煌めく。
 その瞬間――すうっと体から力が抜けるのを感じた。

 なんだ……? オレは、今、何をされた?
 床に崩れ落ちる直前、がっしりとした腕に抱き支えられた。
 ヴィンセントだろうか。

「お前は、ボクのベッドでゆっくりおやすみ」

 セシルの声が、頭の中に響く。

「その間に、ユリアの相手はボクがしておくからさ」

 急激に意識が遠ざかった。

「ぐ……待、て……」

 伸ばしたつもりの手は、ピクリとも持ち上げられない。

 底なしの沼にズブズブと埋まっていくように、
 オレは夢の世界へと落ちていった。
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