15 / 224
エピソード6
赤の饗宴(1)
しおりを挟む
caution:
当エピソードには流血、陵辱など、暴力的なシーンがございます。
苦手な方は閲覧をお控え下さい。
こちらのエピソードを読まなくても物語は分かるようになっています。
――どれほどの時間が経ったのだろう。
「ぐっ……ぅ、えっ……っ」
胸ぐらを掴み上げられ、腹に拳を食らう。
骨が軋むほどの重い一撃に、オレは床の上を激しく転がった。
呼吸と共に、時間すら止まったように思えた。
奥歯を噛みしめて痛みに耐えるしかできないオレを、
獣は軽々と掴み上げ、再び殴る。
獣はじゃれるようにオレを、鉤爪で削り、殴り続けた。
肋骨が折れたのか、うまく息ができない。
血を流し過ぎたのか意識が朦朧として、反撃する気すら起こらない。
視界が歪んでいる。次第にオレは痛みすら感じなくなっていく。
「……つまらん。
ニンゲンというものは、つまらんな。
少し遊んだだけで、もう壊れそうだ」
「……お前……な、んなんだよ……」
掠れる声を出せば、右頬を殴られた。
「……ッ」
「誰が話していいと言った? 身を弁えろ、下等生物が」
獣は忌々しげに鼻に皺を寄せると、オレを放った。
受け身なんてできず、もろに背中から落ちる。
オレは力なく肢体を投げ出す。浅い呼吸を繰り返し、
ただただ出口だけは見失わないように視線を彷徨わせる。
「ああ、鼻が曲がりそうだ。腹の底までドブの匂いが染みついている。
……よくもこんなゴミをこの屋敷に住まわせたものだ。
ああ、腹が立つ。腹が立つ……!」
誰にともなく呟いて、獣は部屋をウロつき始めた。
「クソ、クソクソクソ、ヤツめ、徹底的に追い詰めねば気が済まん……!」
オレは朦朧とする意識の中で、床を這う。
しかし、半歩も進まず足首を掴まれた。
「……何処へ行く」
「ぐっ……」
ずるずると引きずられ、元の位置まで戻されると仰向けに蹴り転がされる。
これは、悪い夢だ。
獣はしゃべらないし、こんなにデカくもない。
……早く朝になってくれ。
冷たい眼差しが見下ろしているのを感じる。
オレは瞼を閉じた。
朝になったら、着替えて、ユリアの部屋へ行くんだ。
あいつが元気なら、一緒に庭の手入れをして。
それから紅茶を淹れて、いつものようにお茶をして、また庭の手入れに戻って……
今度こそ、手首の傷の理由を聞くよ。
お前のこと、助けたいんだって伝える。
「……ユリア」
「その名を口にするな」
「がはっ……!」
獣の足が、容赦なくオレの顔を踏みつける。みしみしと頭蓋骨が軋む音がした。
このまま頭を潰されるかと思った。
「やめ……」
死にたくない、と思う。
『あなたの身に何かあったら、僕は……凄く、哀しいです』
もしも、これが悪い夢じゃなくて、現実だったら。
また、ユリアは一人になってしまう。オレは彼を哀しませてしまう。
死にたくない。
ユリアの叔父は、また誰かをプレゼントをするんだろうか。
そうしたら、ユリアはソイツにまた甘えるんだろうか。
……嫌だな。嫌だ。うん、嫌だ。
甘えるなら、その相手はオレであって欲しい。
血の滲んだ唾液を飲み下して、オレは舌を震わせた。
「……死に、たく、ない」
獣が目を大きく見開く。
束の間の沈黙の後、喉を鳴らす低い音が耳に届いた。
「……ことごとく、気に入らん」
「……?」
「おままごとは楽しかったようだな。
ニンゲンにほだされるなど、ヤツめ、王としての自覚がなさすぎる」
踏みつける足に、力がこもる。
ああ終わりか。
悔しさが込み上げてくると、ふ、と、頭の圧迫感が消えた。
乗せられていた足がどけられたのだ。
「――矯正せねば。
ヤツの甘ったれた記憶を。全て。全てだ。
この俺が上書きしてやる」
獣は一人得心したように頷いた。
怒りでいっぱいの表情に、喜色が滲んでいく。
「逃げ込む過去すら徹底的にな」
獣はクツクツと低く笑った。
「ユリア、よく《観て》いろ。
貴様の知らない、この男を俺が教えてやる。
二度とふやけた考えなど持てないように……めちゃくちゃにしてやる」
当エピソードには流血、陵辱など、暴力的なシーンがございます。
苦手な方は閲覧をお控え下さい。
こちらのエピソードを読まなくても物語は分かるようになっています。
――どれほどの時間が経ったのだろう。
「ぐっ……ぅ、えっ……っ」
胸ぐらを掴み上げられ、腹に拳を食らう。
骨が軋むほどの重い一撃に、オレは床の上を激しく転がった。
呼吸と共に、時間すら止まったように思えた。
奥歯を噛みしめて痛みに耐えるしかできないオレを、
獣は軽々と掴み上げ、再び殴る。
獣はじゃれるようにオレを、鉤爪で削り、殴り続けた。
肋骨が折れたのか、うまく息ができない。
血を流し過ぎたのか意識が朦朧として、反撃する気すら起こらない。
視界が歪んでいる。次第にオレは痛みすら感じなくなっていく。
「……つまらん。
ニンゲンというものは、つまらんな。
少し遊んだだけで、もう壊れそうだ」
「……お前……な、んなんだよ……」
掠れる声を出せば、右頬を殴られた。
「……ッ」
「誰が話していいと言った? 身を弁えろ、下等生物が」
獣は忌々しげに鼻に皺を寄せると、オレを放った。
受け身なんてできず、もろに背中から落ちる。
オレは力なく肢体を投げ出す。浅い呼吸を繰り返し、
ただただ出口だけは見失わないように視線を彷徨わせる。
「ああ、鼻が曲がりそうだ。腹の底までドブの匂いが染みついている。
……よくもこんなゴミをこの屋敷に住まわせたものだ。
ああ、腹が立つ。腹が立つ……!」
誰にともなく呟いて、獣は部屋をウロつき始めた。
「クソ、クソクソクソ、ヤツめ、徹底的に追い詰めねば気が済まん……!」
オレは朦朧とする意識の中で、床を這う。
しかし、半歩も進まず足首を掴まれた。
「……何処へ行く」
「ぐっ……」
ずるずると引きずられ、元の位置まで戻されると仰向けに蹴り転がされる。
これは、悪い夢だ。
獣はしゃべらないし、こんなにデカくもない。
……早く朝になってくれ。
冷たい眼差しが見下ろしているのを感じる。
オレは瞼を閉じた。
朝になったら、着替えて、ユリアの部屋へ行くんだ。
あいつが元気なら、一緒に庭の手入れをして。
それから紅茶を淹れて、いつものようにお茶をして、また庭の手入れに戻って……
今度こそ、手首の傷の理由を聞くよ。
お前のこと、助けたいんだって伝える。
「……ユリア」
「その名を口にするな」
「がはっ……!」
獣の足が、容赦なくオレの顔を踏みつける。みしみしと頭蓋骨が軋む音がした。
このまま頭を潰されるかと思った。
「やめ……」
死にたくない、と思う。
『あなたの身に何かあったら、僕は……凄く、哀しいです』
もしも、これが悪い夢じゃなくて、現実だったら。
また、ユリアは一人になってしまう。オレは彼を哀しませてしまう。
死にたくない。
ユリアの叔父は、また誰かをプレゼントをするんだろうか。
そうしたら、ユリアはソイツにまた甘えるんだろうか。
……嫌だな。嫌だ。うん、嫌だ。
甘えるなら、その相手はオレであって欲しい。
血の滲んだ唾液を飲み下して、オレは舌を震わせた。
「……死に、たく、ない」
獣が目を大きく見開く。
束の間の沈黙の後、喉を鳴らす低い音が耳に届いた。
「……ことごとく、気に入らん」
「……?」
「おままごとは楽しかったようだな。
ニンゲンにほだされるなど、ヤツめ、王としての自覚がなさすぎる」
踏みつける足に、力がこもる。
ああ終わりか。
悔しさが込み上げてくると、ふ、と、頭の圧迫感が消えた。
乗せられていた足がどけられたのだ。
「――矯正せねば。
ヤツの甘ったれた記憶を。全て。全てだ。
この俺が上書きしてやる」
獣は一人得心したように頷いた。
怒りでいっぱいの表情に、喜色が滲んでいく。
「逃げ込む過去すら徹底的にな」
獣はクツクツと低く笑った。
「ユリア、よく《観て》いろ。
貴様の知らない、この男を俺が教えてやる。
二度とふやけた考えなど持てないように……めちゃくちゃにしてやる」
0
お気に入りに追加
1,047
あなたにおすすめの小説
見つからない願い事と幸せの証明
鳴海
BL
事故で死んだ俺が転生した先は、子供の頃に読んだことのある本の世界だった。
その本の主人公は隣国の王弟のご落胤。今はまだ自分の出自を知らずに、侯爵子息である俺の乳兄弟をしている。
そんな主人公のことを平民のくせにスペックが高くて生意気だと嫌い、イジメる悪役が俺だった!
もちろん、前世を思い出した俺はイジメなんてしない。
いつの日か主人公が隣国の王位につくその日まで、俺は応援し続けるつもりです!
※本編終了後の「Sideカイル」に変態がでますし、死ネタも有ります。
北極星(ポラリス)に手を伸ばす
猫丸
BL
元孤児のリュカは、騎士の名門ヴェルモンド家の養子だった。
そして、4つ下のヴァレルは血のつながらない弟。
リュカが12歳のある日起きた事件がきっかけで、リュカは魔法師見習いとして家から出される。
魔力を持つリュカを、禁忌魔法を使い身体も魔力も使役するエロア。
逃げたくても逃げられない状況の中、リュカは必死に自分自身の人生を取り戻そうと足掻く。
そんな中10年ぶりに再会したヴァレルは、まっすぐにリュカへの思いをぶつけてきて…。
年下執着攻め(騎士)×年上不憫受け(魔法師)
⚠地雷のある方は以下のキーワードをご確認ください⚠
≪キーワード≫ R18・BL・ファンタジー・攻め以外との行為あり・ムリヤリ・凌辱・拘束・異物挿入・NTR要素あり・男性妊娠あり・ハッピーエンド
※キーワードは随時追加していきます。性描写のある話には※をつけます。ただしゆるい性描写の場合※を付け忘れていることがあるかもしれません。
※魔法のある世界観ですが、独自の設定を多く含みます。各章の終わりに登場人物、設定等のまとめを公開しますが、深く考えずにふわっとお楽しみいただけると嬉しいです。
※第11回BL小説大賞参加作品です。
専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~
カミヤルイ
BL
恋が初めてのマゾっ気受けと一途(執着)甘々溺愛攻めが恋愛し、番になるまでの山あり谷ありラブストーリー。
★オメガバース、独自設定込みです。
【登場人物】
藤村千尋(26):オメガながらに大企業KANOUホールディングス株式会社東京本社に勤務している。心身ともに問題を抱えるマゾヒスト。
叶光也(30)大企業KANOUホールディングス株式会社東京本社の新専務。海外支社から戻ったばかり。アルファの中でも特に優秀なハイアルファ。
【あらすじ】
会社でパワハラを受けている藤村千尋は、マゾ気質ゆえにそれをM妄想に変えて楽しんでいる日々。
その日も課長に恫喝され、お茶をかけられる美味しいシチュエーションに喜んでいたが、突如現れたイケメン専務に邪魔される。
その後、専務室の秘書を任命され驚くが「氷の貴公子」と呼ばれ厳しいと評判の専務なら新しいネタをくれるかもと期待半分で異動した。
だが専務は千尋にとても甘く、可愛い可愛いなど言ってきて気持ち悪い。しかも甘い匂いを纏っていて、わけありで発情期が無くなった千尋のヒートを誘発した。
会社のトイレでヒートになった千尋を助けたのも専務で、自宅に連れ帰られ、体を慰められたうえ「君は俺の運命の番だ」と言い出し、軟禁されてしまう。
初めは反発していた千尋だが、一緒に過ごすうちに、仕事では厳しいが根は優しく、紳士的な専務に好意を持つようになる。
しかし優しさに慣れておらず、過去持ちで発情期がない千尋はアルファに限らず誰も愛さないと決めているため素直になれなくて……
*性描写シーンには*をつけています。
イラストはわかめちゃん@fuesugiruwakame
アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~
一色姫凛
BL
警備隊長マーリナスは取り締まりに赴いた地下街で偶然にも、ある少年を保護することになる。
少年の名はアレク。
見目麗しく謎の多い少年だったが、彼には大きな問題があった。
目が合ったとたん他者を魅了し操る禁術、『バレリアの呪い』を体に宿していたのである。
マーリナスはひとまずアレクの素性を隠し、自身との同居をすすめるのだが……
立て続けに起きる事件の中で唯一無二の知己や大悪党などが次々と魅了されてしまい!?
魅了によって恋焦がれるもの、それとは関係なく好意をもつもの。多くの人間関係がめざましく交錯していくことになる。
*ハッピーエンドです。
*性的描写はなし。
*この作品の見所のひとつは、自分の推しで色んなcpを妄想して楽しめるところだと思っています。ぜひ自分の推しをみつけて小説ならではの楽しみを見つけて下さい。
*もし気に入って頂けたら「お気に入り」登録よろしくお願いします!
借金のカタにイケメン社長に囲われる
雨宮里玖
BL
8月12日 番外編 追加!
実家の借金と自身の内定取消で途方に暮れる冬麻のもとに、突然久我がやってきた。久我は有名企業の社長で「この店に融資する代わりに息子の冬麻さんを僕にください」と冬麻に初対面プロポーズ!?
久我朔夜(30)攻め。社長。長身イケメン。
二ノ坂冬麻(20)受け。専門学校生。
※※過激表現あります※※
ストーカー表現あり。
強引な描写あり。
軽くショタ表現あります。
ヤンデレなのにハッピーエンド予定です。ご容赦ください。
R18表現ありにはタイトルに※をつけます。
表紙絵は、絵師のおか様twitter @erknmkmtrに描いていただきました。ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる