人狼坊ちゃんの世話係

Tsubaki aquo

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エピソード6

赤の饗宴(1)

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当エピソードには流血、陵辱など、暴力的なシーンがございます。
苦手な方は閲覧をお控え下さい。
こちらのエピソードを読まなくても物語は分かるようになっています。



 ――どれほどの時間が経ったのだろう。

「ぐっ……ぅ、えっ……っ」

 胸ぐらを掴み上げられ、腹に拳を食らう。
 骨が軋むほどの重い一撃に、オレは床の上を激しく転がった。

 呼吸と共に、時間すら止まったように思えた。
 奥歯を噛みしめて痛みに耐えるしかできないオレを、
 獣は軽々と掴み上げ、再び殴る。

 獣はじゃれるようにオレを、鉤爪で削り、殴り続けた。
 肋骨が折れたのか、うまく息ができない。
 血を流し過ぎたのか意識が朦朧として、反撃する気すら起こらない。
 視界が歪んでいる。次第にオレは痛みすら感じなくなっていく。

「……つまらん。
 ニンゲンというものは、つまらんな。
 少し遊んだだけで、もう壊れそうだ」

「……お前……な、んなんだよ……」

 掠れる声を出せば、右頬を殴られた。

「……ッ」

「誰が話していいと言った? 身を弁えろ、下等生物が」

 獣は忌々しげに鼻に皺を寄せると、オレを放った。
 受け身なんてできず、もろに背中から落ちる。

 オレは力なく肢体を投げ出す。浅い呼吸を繰り返し、
 ただただ出口だけは見失わないように視線を彷徨わせる。

「ああ、鼻が曲がりそうだ。腹の底までドブの匂いが染みついている。
 ……よくもこんなゴミをこの屋敷に住まわせたものだ。
 ああ、腹が立つ。腹が立つ……!」

 誰にともなく呟いて、獣は部屋をウロつき始めた。

「クソ、クソクソクソ、ヤツめ、徹底的に追い詰めねば気が済まん……!」

 オレは朦朧とする意識の中で、床を這う。
 しかし、半歩も進まず足首を掴まれた。

「……何処へ行く」

「ぐっ……」

 ずるずると引きずられ、元の位置まで戻されると仰向けに蹴り転がされる。

 これは、悪い夢だ。
 獣はしゃべらないし、こんなにデカくもない。

 ……早く朝になってくれ。

 冷たい眼差しが見下ろしているのを感じる。
 オレは瞼を閉じた。

 朝になったら、着替えて、ユリアの部屋へ行くんだ。
 あいつが元気なら、一緒に庭の手入れをして。
 それから紅茶を淹れて、いつものようにお茶をして、また庭の手入れに戻って……

 今度こそ、手首の傷の理由を聞くよ。
 お前のこと、助けたいんだって伝える。

「……ユリア」

「その名を口にするな」

「がはっ……!」

 獣の足が、容赦なくオレの顔を踏みつける。みしみしと頭蓋骨が軋む音がした。
 このまま頭を潰されるかと思った。

「やめ……」

 死にたくない、と思う。

『あなたの身に何かあったら、僕は……凄く、哀しいです』

 もしも、これが悪い夢じゃなくて、現実だったら。
 また、ユリアは一人になってしまう。オレは彼を哀しませてしまう。

 死にたくない。
 
 ユリアの叔父は、また誰かをプレゼントをするんだろうか。
 そうしたら、ユリアはソイツにまた甘えるんだろうか。
 ……嫌だな。嫌だ。うん、嫌だ。
 甘えるなら、その相手はオレであって欲しい。

 血の滲んだ唾液を飲み下して、オレは舌を震わせた。

「……死に、たく、ない」

 獣が目を大きく見開く。
 束の間の沈黙の後、喉を鳴らす低い音が耳に届いた。

「……ことごとく、気に入らん」

「……?」

「おままごとは楽しかったようだな。
 ニンゲンにほだされるなど、ヤツめ、王としての自覚がなさすぎる」

 踏みつける足に、力がこもる。

 ああ終わりか。

 悔しさが込み上げてくると、ふ、と、頭の圧迫感が消えた。
 乗せられていた足がどけられたのだ。

「――矯正せねば。
 ヤツの甘ったれた記憶を。全て。全てだ。
 この俺が上書きしてやる」

 獣は一人得心したように頷いた。
 怒りでいっぱいの表情に、喜色が滲んでいく。

「逃げ込む過去すら徹底的にな」

 獣はクツクツと低く笑った。

「ユリア、よく《観て》いろ。
 貴様の知らない、この男を俺が教えてやる。
 二度とふやけた考えなど持てないように……めちゃくちゃにしてやる」
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