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第83話 辺境伯の館にて

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王都から辺境伯領に向かう街道に作られている陣地を確認した俺達は辺境伯様に会いに行くことにした。

亜空間倉庫を出て、辺境伯様の館を窺うと前には無かった柵で館は幾重にも守られている。
そして、大勢の兵士が館を警備しているのが分かる。

「主様、ここまで物々しいのはやはり戦が近いという事でしょうか」

「戦がいつ始まるかは分らんが、戦に備えて兵が集まっているのは確かだな。
ここで余り憶測をしても仕方が無い。
辺境伯様にまずは会わないとな。
さあ、行こうか」

館に向かって歩き出すと、俺達の姿に気づいた兵士が駆け寄ってくる。

「おい、お前達、止まれ、ここは辺境伯様の館だぞ。
子供や亜人が来るところではない、さっさと立ち去るんだ」

驚いたな、剣を抜いている。
たかが子供と亜人の女が近づいただけで警戒しすぎだろう。

「私はカルロス騎士爵家の嫡男のオイゲンだ。
辺境伯様にお目通りを賜りたく参上した。
取り次いでもらいたい」

「カルロス騎士爵家だと、身分を証明するものを示してもらおうか」

ほう、俺がカルロス騎士爵家の嫡男と名乗ってもまだ剣を抜いたままとは。
こいつは、どういうつもりなんだ。

「お前、無礼だろう。
私は名を名乗ったのだ、辺境伯様の依子であるカルロス騎士爵家の嫡男と知ってもまだ剣を向けるか」

俺の剣幕に兵士の目に怯えが走るが、それでも剣を収めようとしない。
よほど強く言われているのか。

「おい、どうしたんだ」

俺の怒りの声を聞いたのだろう。
別の兵士が駆け寄ってくる。

「た、隊長、この子供がカルロス騎士爵家の嫡男様の名を騙るのです」

「カルロス騎士爵家の嫡男様だと。
おい子供、カルロス様は王家より招集された演習に向かわれたはずだ。
当然、嫡男様もご一緒だろう。
名を騙るにしては迂闊だな」

はあ、どいつもこいつもバカなのか?

「確かに我が父は兵を従えて演習に向かわれた。
だが、我が父は成人していない子供を戦場に連れていくほど愚かではないぞ。
もう一度だけ言うぞ。
カルロス騎士爵家の嫡男のオイゲンが辺境伯様にお目通りを願っている。
さっさと、取り次げ!」

隊長と呼ばれた男は少しは利巧なようだ。

「暫し待たれたい。
おい、だれか、執事長様をお呼びしろ」

さっきまで俺に居丈高に接していた兵士が焦って走っていく。
暫く待てば顔なじみの執事長が現れやっと俺達は辺境伯様の館に入ることができる。
まあ、僅かの間な随分と身体が大きくなったのにはビックリしてたけどね。

はあ、ウンザリだな。
館に入っても面倒ごとが待ち受けている様だ。
案内された応接間にはハイネム辺境伯家の依子たちでいっぱいだ。

そして俺に向ける目には敵意が宿っているように感じるな.
ああ、あそこにいるのはフェリスか。
俺を射殺さんばかりの目で睨んでいる。

どうやらハイネム辺境伯家の主だった依子が集まっている様だ。
俺は居心地の悪さをこらえて空いているソファーに腰を下ろすが誰も近寄ってこない。
てっきりフェリスとその取り巻きが俺に絡んで来るかと思ったが無視と決め込んだようだな。

それにしてもこれだけの人間が辺境伯家に詰めてるのは異常だ。
やはり辺境伯様は戦争が近いと思っているのか?
そしてそのような状況で父さまだけを演習に送り出したのか。
おれの心に辺境伯様に対する疑念が芽生えるのを抑えきれないな。

「オイゲン様、ご案内いたします」

いつの間にか側にいるメイドが俺に声を掛ける。
いかんな、思考の海に囚われていて周りが見えていない。

「ああ、頼む」

「それではこちらへ」

俺はメイドに連れられて応接間を離れるが、そんな俺の背中は依子達の視線で射殺されそうだ。
そんなに俺と辺境伯様が会う事が心配か!
せいぜい、何を話すか気に病んでいれば良い。

「おお、オイゲンか、よく来たな。
それにしてもカルロスからは聞いていたが見違えたぞ」

俺を出迎えてくださる辺境伯様は相変わらずフランクだが、顔には疲れの色が滲んでいる。

「はっ、辺境伯様、ご無沙汰しております」

「そうだな、久しいな、もうデイジーには会ったのか?」

「いえ、まだです、まずは辺境伯様に目通りたく参りました」

「そうか、まあ座れ」

俺が促されてソファーに座ると、辺境伯様も対面のソファーにドカッと腰を下ろす。

「それで、用件は何だ...
まあ、判るがな。
カルロスが向かった大演習の事だろう。
それと帝国の動向、そんなところか」

「はい、父が大演習に向かう時、私は領地を離れておりましたので。
出来れば辺境伯様から大演習の目的と帝国の動向についてご教授頂ければと思います」

「そうか、先ずは帝国の動向かな。
オイゲンも知っているかもしれんが帝国は王国に侵攻する準備に余念がない。
いずれは王国に攻め込んで来るだろう。
それも最終決戦を目指してだ」

「最終決戦ですか、帝国は王国を平定するつもりで攻めてくるという事ですか」

「そうだな、前回でも後一歩だったのだ、その雪辱として平定を目的に攻め込んで来るな.
もちろん、王国もそれは判っている。
判っているから準備を進めようとしているが貴族の動きが鈍くて十分な兵力が集まるか怪しい状況だな」

「そうですか、では大演習は貴族たちがどの程度まで兵力を差し出すかの試金石として行われるのですか?」

「流石だな、良く判っている」

良く判っている、ちっとも判らんぞ。
辺境伯様は王国の意図がそこまで判っていてなぜ兵を出さないんだ。

「ふむ、その顔は納得していないか」

「はい、そこまで判っていてなぜ父の兵のみを大演習に向かわせたのですか」

「最初は儂も全軍を率いて向かうつもりだった。
だがな、期日だ、期日が不味い。
あの期日で到着できるのはカルロスぐらいだ。
だからな、カルロスに先ずは任せた。
儂たちは後詰として待機する事にした」

本当だろうか、父さまは生贄にされたのではないだろうか?

「辺境伯様、後詰とおっしゃいましたが
それでは、追加で兵の招集がなされるとお考えなのですか」

「ああ、此度は演習での招集だが、帝国の準備は順調だ。
直ぐに演習ではなく本当の戦争になる」

「では、父はどうなるのです」

「オイゲン、落ち着け、少し言葉が足りなかったようだな。
直ぐと言っても、半年から一年は先の事だ。
カルロスは大演習が終われば帰ってくる
心配するな」

半年から一年先。
それなら、なぜ依子がこの屋敷に詰めている?
街道に陣地を作り兵を置いている?
おかしいだろう。

「辺境伯様、まだ半年以上の余裕があるのになぜほとんどの依子がこの屋敷に詰めているのですか」

「それか、それはな、儂が自領のための演習として行っている。
王国の首脳陣も儂も考えることは一緒だ」

辺境伯様は事なげに話されるが、俺の心にはどす黒い疑いが湧き出してしまう。
本当だろうか?
本当は辺境伯様は大演習がきっかけで帝国との戦が始まると考えているのではないか。
そんな思いが頭を駆け巡ってしまう。

「カルロスには手間をかけるが、大演習は10日程度で終わる。
半月もすればカルロスも帰ってくる。
それまでオイゲンはしっかりとカルロスの留守を守ることだ。
よいか、オイゲン、頼んだぞ」

そう言うと辺境伯様は目で扉を示す。
どうやら話は終わりのようだ。

「判りました。
父の留守をしっかりと努めたいと思います」

「そうだな、頼んだぞ。
ああ、そう言えばルーシーがポーションをオイゲンに作ってほしいと言っていたな。
悪いが頼まれてくれるか?」

「ルーシー様がですか?
その、宜しいのですか」

ポーションを作る、それはルーシー様のお胸から乳を頂くという事だ。
宜しいのだろうか?

「なんだ、今更だろう
ルーシーはオイゲンのポーションで死から救われたばかりか、若さまで与えられたんだからな。
まあ、これ以上ルーシーだけ若くなると儂が付いてゆけん。
そこは良しなにな」

確かに今更か。
それにルーシー様に会えば判る事が有るかの知れないな。

「はっ、このオイゲン、誠心誠意、ルーシー様にポーションをおつくり致します」

「うん、頼んだぞ」

俺が辺境伯様がいる部屋から下がるとメイドが待っていた。
このメイドはたしかルーシー様の専属だよな。

「オイゲン様、ルーシー様のお部屋にご案内致します」

そう言うとメイドは俺の判事も聞かずに歩き出す。
仕方が無いので俺も付いてゆくが、ここは見おぼえがある。
この先でルーシー様が待っているとするとそこはルーシー様の寝室だ。
たしかに病気の治療では寝室にお邪魔した。
でも、良いのか??

「どうぞお入りください」

俺はメイドに促されてルーシー様の寝室に入る。
「ああ、オイゲンちゃん、良く来てくれたわ」

そこにはネグリジェ姿のルーシー様の姿が。
良いのか、薄い布越しに透けるルーシー様の姿はお胸もその頂のポッチまでも見えてしまう。

「まあ、どうしたの、この身体はオイゲンちゃんが死から取り戻してくれたものでしょう。
気にする必要はないのよ」

気にするなって言われてもな。
気が付けばルーシー様は俺の目の前にいらっしゃる。
そして微笑みながら俺の手を取りルーシー様のお胸へ押し付けるのだ。

「さあ、ポーションを作りましょう」

妖艶な笑みが俺を虜にする。
この微笑みにあがなえるわけが無い。
俺はルーシー様のお胸に置かれた手に力を籠めるのだった。
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