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第77話 引き渡し

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「主様、朝ですよ」

銀が俺の身体を揺すっている。
そうか、朝なんだな。
起きないとな。

身体を起こすとソファーに寝ている自分に気付く。
そう言えば、マリンをベッドに寝かしつけたのでカリンも同じベッドに押し込んで俺はソファーで寝たんだっけ。

今日は奴隷達や屋敷の引き渡しの日だ。
忙しい1日になりそうだな。

「ダーン」

大きな音と一緒にカリンが裸のまま、寝室から飛び出してきて、いきなり俺に平伏する。

「ご主人様、申し訳ありません、ご主人様のベッドに奴隷の私が寝るなんて、とても許される事では有りません。
どの様な罰でもお申し付けください」

いや、裸の女を足元に平伏させる趣味は俺には無いんだが。
今現在、俺の心にカリンが与えるダメージの方を反省して欲しい。
銀、そこで面白そうに俺を見るんじゃないよ。

「だから、そう言うのは止めてくれ。
カリンとマリンの二人では狭いと思ったから俺がソファーで寝ただけだ。
それより、朝っぱらから裸でリビングに出て来るな。
さっさと服を着ろ」

「ひゃ、ひゃああいい」

自分の格好に気付いた様だな。
真っ赤な顔をして寝室に飛び込んでいった。

「主様、マリン一人でこれですから
今回買われた全ての奴隷に主様のお気持ちを浸透させるのには手間がかかりそうですね」

「そうだな、銀の言う通りだ。
俺に平伏する様な奴隷達に囲まれて過ごすなんて悪夢の様だ」

そんな俺の言葉を聞いた銀は面白そうに笑う。

「うふふふ、普通の殿方ならそれを望むと思いますよ」

「俺は嫌なんだよ」

これ以上銀にからかわれるのは真平なので俺は口付けをして銀の口を塞いでやる。
1分も銀の口を吸い続けてやれば真っ赤な顔で大人しくなる。

「主様は……朝からご無体です」

銀は俺に文句を言うが、恥ずかしそうに俯きながら、消え入りそうな声で言っても効果はないよね。

「なあ、銀、今日は忙しい、さっさとみなを起こして朝食を取ろうか」

さてと、奴隷達は俺をどう思うんだろう
最初が肝心だ。
上手くやらないとな。

☆☆☆☆☆

私はルーミス・フォン・リンバース
帝国貴族の家に生まれました。

幼い頃は可愛いと言われ続け、少女と呼ばれる頃を過ぎてからは美しいと言われる様になりました。

そのせいか、5歳で幾つもの家から許婚にと乞われ、10歳で父様と同じ派閥の伯爵家の嫡男が私の許婚に決まりました。

お母様からは可愛くなれ、美しくなれ、男を魅了しろと口癖の様に言われ続けました。
そして私は、侍女達に磨かれ飾り付けられ、常に男達の視線を釘付けにする様に振る舞い育ったのです。

可愛い私、美しい私、私は特別なの。

それは私にとって当たり前の事でした。

帝都の学院に入ると私の家柄にも美しさにも及ばない学友の淑女達は競って私に取り入ろうとします。
私の側にいる事で私に群がる男達をおこぼれとして得るためでしょう。

そんな学院での私の生活は順風満帆でしたが、王子達の後継者争いが始まると否応もなく巻き込まれていってしまいます。

私の許婚の一族は特に苛烈に第3王子派を排斥しようとする一派だったのです。
当初は中立を目論んだ父上も流れに贖うことは出来ずに私の許婚の一族と行動を共にすることになりました。

そして舞台は暗転します。
第3王子が帝国の後継者の地位を得たのです。

第3王子を強く排斥していたせいでしょう。
父や兄上、弟は皆処刑されました。
母上は一命こそ取り留めましたが代償として男爵風情の情婦に落とされます。

母が絶対の正義としていた美しさが、父と共に処刑されるはずだった母の命を救ったのでした。

いいえ、美しいが故に男爵風情の情婦に落とされると言う辱めを受けたと言うのが正しいのでしょう。
男爵は美しい母の身体だけが目的だったのですから。

それが証拠に母は結局、男爵に捨てられて命を落とします。
皮肉な事に母が男爵の子を孕んだ事で命を落としたのです。
強制的に腹の子を流産させられて失血死したのです。

逆賊の血が貴種に混じることは許さない
それが帝国の意思だからです。

ならば、私も殺せば良い。
そう願いましたがそれは叶いません。

リンバース家に咲く、大輪の花。
その花を自分の手で散らしたい。
そう考える男達がいるからです。

私は大輪の花として散らされる時を待つ身となりました。

そして私の花が散らし頃になるのを待つ間にも、私の一族と運命を共とし帝国に代償を求められる女達は貴族から淫売へとその身を落としてゆくのです。

最初は怯え泣き叫んでいた娘たちが、やがて運命と諦めて当たり前のように毎夜男に身体を差し出してゆくのです。

そこではより美しい者ほどより汚れるようでした。
男に染められて、清楚な姿を化粧と香水で包まれる男に都合が良い慰み者へと変質させてゆくのです。

母が言った美しいと言う力は、権力という支えを失えば獣達を呼び寄せる恐ろしい刃に過ぎませんでした。

ほとんどの娘達が野獣に身も心も壊されていく中、まれに自らも男を喰らう野獣に変わる者もいます。

私は美しく散るか、浅ましく生きるか、その中でも男を誑かす毒花となるか。
死を受け入れられない私は母のように貴族の情婦として浅ましく生きるしかない
そう思っていたのです。

だが、母の妊娠と無残な最後を契機に私達から貴族は遠ざかります。
皆、皇帝の怒りに触れるのが怖いのです。
私達は平民に金と引き換えで下げ渡される卑しい身分となるしか無くなります。

そして、私達は平民に売られるためにオークションに掛けられます。
でも、そこでも私達の価値を思い知らされる事になるのです。

予定外に出品された古龍の鱗にお金が流れ、私達は最低価格でさえ落札されなかったのです。

最低価格が下げられても入札者は現れない。
結局、古龍の鱗を出品し大金を得た平民の少年に買い取られる事になりました。

何が高嶺の花でしょう?
少年が見たステージの上で裸を見聞される女達。
胸をむき出しで男達の接待をする女達。

私は恥知らずな何十人もの女達のひとりとして少年に買われる卑しい女なのです。

そして私が奴隷として少年に渡される日が来ました。
私達は裸の上に貫頭衣だけを纏い少年の前に引き出されます。

何十人もの女奴隷を前にしても少年は自然体です。
少年の目には私達に対する性欲は浮かびません。

『まるで家畜を見ているようね』

それが私の印象です。
そして、それは間違ってはいないのです。
家畜の品質を確認する様に私は処女の証を少年に晒さなければいけないのですから。

最初に別室に私が呼ばれます。
部屋に入ると奴隷の首輪の力で命令に逆らえない私は少年の目の前で貫頭衣を脱ぎ裸体を晒します。

夫以外の男に裸を晒すなんて。
自分がそんな売女に身をやつすとは!

そして私はテーブルの上で脚を広げて膝を抱えます。
私の処女の証を少年に見聞してもらうためにです。

惨めな自分に少年が追い討ちをかけます。
いかにも嫌そうに私の裸や、私の純血の証を眺めるのです。
どこまで馬鹿にされれば良いのでしょう。

平民のくせに!

子供のくせに!

私を裸や純血の証を汚い物でも見るように目を逸らすなんて。

そして少年の手は家畜の価値でも確認するかのように私の乳房を握りしめます。
最後に奴隷の首輪の所有者の書き換えがされます。
それが儀式の終わりでした。

私は解放されて、部屋を出ます。
部屋の外には貫頭衣を脱ぎ裸になった女たちが並んでいます。

あの少年がひとりづつ買った奴隷の裸を見聞し、主人の書き換えをするのでしょう。

それが奴隷を購入するに際して行わなければ行けない行為だと知っていても、私の心にはどす黒い怒りが渦巻きます。

私の裸が、純血の証が、他の女奴隷と同じ程度の価値だと、数十人の女奴隷のひとりに過ぎないと知らされたからです。

全裸で家畜のように扱われる女。
私もその一匹なんだと!

☆☆☆☆☆


女奴隷の引き渡しは苦痛に満ちた物だった。
裸の女達をひとりづつ見て確かめろと言われた。
処女として売られた女奴隷は処女の証も確かめるんだそうだ。

王国では欠損のある破棄奴隷しか買ったことがなかったのでそんなイベントがあるなんて想像もしていなかった。

でも、奴隷の引き渡しはこれ無しでは行えない。
そう言われればやるしか無い。

覚悟を決めたが最初に入ってきた女は目だけで俺を殺そうとしているようだ。
仮にもお前のご主人様なんだぞ、なんだその汚物を見るような目は!

言ってやろうと思い気が付いた。
伯爵家に生まれた女が明るい部屋で男に全裸を晒し、あろう事か処女の証まで見聞される。

それがどれほどの屈辱かを!

冷静になろう。
事務的に処理するのだ。

目の前にいるのは人間じゃ無い。

牛だ。

俺は家畜の見聞をしているのだ。

そう思い込んで乗り切った。

伯爵令嬢なんか知るものか。
俺は牛の健康を確認したのだ。
それだけだ。

でも、俺は分かっていなかったのだ。

全裸を晒しながら家畜のように扱われる事の屈辱を。

ルーミス嬢の瞳の奥に燃え盛っていた怒りの大きさを。













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