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第42話 ポーションの奇跡

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あれ、ここは何処なんでしょう?
僕は母さまやみんなを助けるために戦っていたはずです。

そうだ、僕は敵を排除する為にアイツらを殺したんだ。
アイツらはみんな脳を破壊されて眼孔から眼球と脳味噌をぶちまけて死んでいきました。

判っていたんです。
僕の考えた魔法を使えば人を殺すのは簡単な事は。
だから、自重していたんです。

でも、アイツらがシンリーの腕を切り落として、次は母さまの腕を切り落とすと言うから。

そう、みんなは無事なんでしょうか?

そこまで考えて僕は目を開けます。
やはり、僕は自分の部屋のベッドで寝ています。

昨日の戦いの後、情けなくも僕は気を失ってしまったんです。
誰かが僕をベッドまで運んでくれたのですね。

「オイゲン様、お目覚めですか」

リリーの声です。
いつから僕の横に控えていてくれたのでしょうか?

「はい、目が覚めました」

「ご気分は如何ですか」

「ありがとうリリー、特に問題はないですよ」

僕がそう答えるとリリーの顔に笑みが浮かびます。

「昨夜はビックリいたしました。
オイゲン様が急に意識を失って倒れた時は肝を冷やしましたわ。
でも、あれだけの賊をお一人で倒されたのですから、きっとご負担だったのですね」

「そうなんでしょうね」

僕は曖昧に答えます。
人を殺したストレスで気を失ったとは言えないですからね。
前世の友達ならきっと理解して貰えると思いますが、この優しくない世界では人を殺す事に誰も躊躇しませんしね。

「ねえ、リリー、ルイスはどうなりましたか」

「ルイスさん、御者をされていた方ですね。
残念ながら亡くなられました」

「そうですか。シンリーの具合は聞いていますか」

「シンリーさんでしたら、昨晩は止血をして部屋に運び込まれていました。
申し訳ありませんが、その後については聞き及んでいません」

止血が上手くいって血を失わずに済んでいれば死ぬ事は無いですよね。
でも、シンリーは両腕を失ってしまいました。
悲劇です!

「そうですか、では薔薇の館にシンリーの様子を見に行く事にします」

リリーはまだ僕のことが心配そうでしたが、僕は気がつかないフリをして立ち上がります。

「お召し替えを致します」

僕を止めたい言葉を飲み込んでリリーは服を着替えさせてくれます。
着替えが終わり僕は薔薇の館に向かいます。

館の入り口に着くとリンとカミューが入り口を守っています。
まだ、物々しい雰囲気ですね。

「オイゲン様、おはようございます」

僕の顔を見ると緊張のせいで強張っていた2人の顔が柔らかな微笑みに変わります。

「オイゲン様、昨晩はありがとうございました。
オイゲン様の素晴らしい魔法で賊を殲滅いただかなければ、私達は皆殺しにされていたと思います」

「そんな、大袈裟すぎますよ」

皆殺しとか物騒すぎますよ。

「いえ、そんな事はございません。
マリー様をお守り出来ず、更には辱めを受けて奴隷にまで落ちたのに生恥を晒している私達を帝国が許すわけは無いのです。
そしてそんな帝国の考えは正しいのです。
私達がまだ生きているのは騎士としてあるまじき事なのです。
でも、私達は生恥を晒してもオオゲン様にお使えすると決めたのです。
あの日、オイゲン様に生きる事を望めと言われた日から」

2人の真剣な眼差しに僕は答える言葉が見つかりませんよ。

「そうですよ、2人とも死んだらダメですからね。
僕が悲しくなりますからね」

偉そうですね。
でもこの言葉しか浮かばなかったのです。

そしてシンリーが寝ている部屋に入ります。

「オイゲン様」

生気の無い顔をしたシンリーですが僕のことは分かる様です。

「そのまま、そのままで良いですよ」

起き上がろうとするシンリーを制します。

「ごめんなさい、僕はシンリーの腕が切り落とされるのを防げませんでした」

毛布越しですが肩の先で腕が切り落とされていることが判ってしまうんです。
そのシンリーの姿に僕は自分の無力さを感じるのです。

「そんな、オイゲン様、シンリーには勿体ないお言葉です。
私こそ賊に捕らえられるという不甲斐なさをお見せしてしまいました。
やはり、私は騎士として失格なのです。
ですから腕などもはや不要なのです」

気丈に話すシンリーですがその表情は悲痛に満ちています。

なんで僕はシンリーを救えなかったのでしょうか?
いや、まだ救える道は無いのでしょうか?

僕は考えます。
ポーションの効果はイメージに左右されます。
ですから、壊れ方が見て分かる場合は治るのです。
でも、失われた腕のイメージは出来ませんでした。
だから治せないのでしょう。
薔薇の騎士を治療した時はその為、欠損は治りませんでした。

そう、彼女達の欠損した部位は失われていたのですから。
でも、シンリーの切り取られた腕は……
そうです、まだあるはずです。

「シンリー、ちょっと席を外しますね」

僕はシンリーの部屋を飛び出すとまだ玄関で番をしているリンを捕まえます。

「リン、シンリーの切り落とされた腕は何処にありますか」

「シンリーの切り落とされた腕ですか?
賊の死体と一緒に埋めたと思いますが」

不思議そうな顔でリンが答えます。

「リン、そこに案内して下さい。
急いで、直ぐにです」

「ハッ、ハイ」

僕の勢いにリンが怯みますが、直ぐに動き出します。
僕はリンに従って進むとやがて賊を埋めた場所にたどり着きます。

「ここ、ここにシンリーの腕を埋めました」

人を埋めたと思われる小山が続く中に、ひとつだけ小さな山があります。
ここですね。
幸い埋めたばかりで土は柔らかです。

僕は手で土をかき分けます。
リンもすぐに隣に来て手伝ってくれます。
掘り進めるとシンリーの腕が現れます。

「オイゲン様、この腕をどうするのですか」

「リン、腰のナイフを貸してください」

「お貸ししても良いですが、ナイフで何をされます」

「シンリーの腕を解体します。
僕はシンリーの腕の構造を目に焼き付ける必要があるのです」

僕の必死の形相にリンは何かを感じたのでしょう。

「分かりました。解体は私が致します。
オイゲン様は横でしっかりと見てください」

そうですね。リンなら獣の解体にも手慣れています。
僕がやるよりは良いですよね。

「オイゲン様、お覚悟はありますか?
気分の良い物ではありませんよ」

「ええ、判っていますから。
でも必要な事なのです」

「分かりました」

リンはそう言うと片腕と足を使って手際良くシンリーの腕を解体してゆきます。
ナイフが入れられた腕からは、一晩たったせいか血はあまり出ませんね。
これなら見やすいです。

骨、関節、筋肉、神経、シンリーの腕を理解する為に懸命に見つめます。
美しかったシンリーのうでの中身はこうなっているのですね。
知識としてはぼんやりとは持っていましたが実際に解体する事で色々と分かりました。

「リン、ありがとう。もう良いので埋め戻してください」

僕はリンに後をお願いしてシンリーの部屋に戻ります。
目に焼き付けたシンリーの腕のイメージがしっかりしているうちにポーションを作りたいからです。

「シンリー、怪我が癒えていないのできついとは思いますが、僕にシンリーを治療するためのポーションを作らせてください」

僕はシンリーの部屋に戻ると直ぐに声をかけます。

「私の治療用のポーションんですか?
シンリーの為にオイゲン様がポーションを作ってくださるなんて!
ああ、なんと光栄な事でしょうか。
どうぞよろしくお願いいたします」

シンリーの許可が取れたので直ぐに始めましょう。
僕はシンリーの掛け布団を退けるとパジャマのボタンに手をかけます。

「アッ、オイゲン様。私の身体汚れています、臭いませんか」

シンリーが真っ赤な顔で尋ねます。
こんな時にする心配ですかね?

「ええ、匂いますよ。
とても良いシンリーの匂いがね」

僕がそう答えると何故か余計に赤くなります。

「じゃあ、始めますよ」

上向きに寝ているシンリーのパジャマからはだけたおっぱいは汗で少し湿っていますがそんなシンリーの匂いも僕には好ましく感じます。
上を向いているおっぱいから突き出ているシンリーの乳首は小さくて可愛らしいですね。

「ハム」

シンリーのおっぱいを咥えます。
まずは刺激を与えて乳首を大きくしないといけません。

「ハム、ハム、クチュ、クチュ」

唇でシンリーの乳首に刺激を与え続けます。

「ひゃ、ひゃあん、ひゃあああ」

しばらくすると上手く刺激が伝わってシンリーの乳首が大きくなってきます。
そして、シンリー身体中からとても良い匂いが湧き上がってきます。

「シンリー、一生懸命にシンリーの綺麗な腕があった時の自分の身体を思い浮かべてください」

「腕があった時の私の身体」

「違います、腕があった時の美しい身体です」

「腕のある美しい身体、腕のある美しい身体」

「そう、そうです、続けなさい」

僕のシンリーの腕のイメージをできるだけ具体的に持ちながらシンリーのおっぱいを吸い続けます。

「あ、ああ、私の腕、私の、あああ、美しい腕、オイゲン様、オイゲン様を私の腕で抱きしめたいです。
だから、オイゲン様、くださいませ、私に、私の、あ、ああ、私の美しい腕を。
あ、ああ、ああああ、来ます、来ます、感じます。
わたし、わたし、きっと、きっと、オイゲン様を抱きしめられます。
ああ、ああああああ」

そしてシンリーが光ります。
光はシンリーの体全体を包み、そこには光の腕も見えるのです。

そして僕の手の先の光からポーションが生まれます。

「シンリー、このポーションを飲んでください」

僕は声を掛けますがシンリーの瞳は虚で僕の呼びかけに反応しません。
血が不足した身体に無理をさせてせいでしょうか?

ならば、なおのことシンリーはポーションを飲む必要があります。
今のシンリーにどうやってポーションを飲ませましょう?
そうですね、僕は最善と思われる事をしなければなりません。

僕はポーションを口に含み、口移しでシンリーにポーションを飲ませます。
こくん、シンリーの喉が鳴ってポーションが飲み込まれます。
上手くいきましたね。

そしてシンリーの身体が再び光出します。
その光にはやはり腕もあります。

そして奇跡が起こります。
光の中に薄くシンリーの腕が見え出します。
その腕は段々と濃くなって光が消えた時にはシンリーの両腕が再建されています。

「お、オイゲン様」

ポーションの効果で意識が戻ったのでしょう。
シンリーが不思議そうな目で僕を見ています。
そして、シンリーの腕が動き僕の頬を撫でます。

「オイゲン様、これって!」

まだ現実感がないのでしょう。
自分の腕を不思議そうに見ています。

「シンリー、腕が戻ったね。
僕を抱きしめてくれるのかい」

シンリーの腕が僕を絡めとります。
僕は引き寄せられてシンリーに抱きしめられます。

「オイゲン様、ああ、オイゲン様、夢のようです。
この腕でオイゲン様を抱きしめられるなんて。
ああ、オイゲン様、私を貴方の忠実な僕として一生側においてくださいませ」

泣き笑いするシンリー。
僕は黙ってシンリーに抱きしめられ続けるのでした。



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