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第40話 僕がデイジーの婚約者であることが周知されてしまいました

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僕の目の前では今回の総仕上げの演習が始まろうとしています。
昨日までの演習は僕たち子供には非公開でしたが最終日の今日の演習は僕たちも見ることが許されたので小高い丘の上で演習が始まるのを待っています。
ここなら演習の邪魔になりませんからね。

そして、赤軍と白軍は各々千名の兵力で今まさに交戦を始めんとしているのです。
演習とは言え両軍合わせて二千名もの兵士が集結しているのです。
本格的な交戦の前の睨み合いでもすごい迫力が伝わってきます。

おっ、始まりますね。
号令とともに密集した歩兵が動き出します。
自らを鼓舞する為にでしょうか両軍の兵士とも怒声を発していてその声はここまで聞こえてきます。
そして両軍の歩兵がトップスピードに達したところに弓兵が放った矢が歩兵に降り注ぎます。

歩兵はそんな矢を盾を上に向ける事で防ぎますが、防ぎきれずに矢に当たる兵士も出ます。
もちろん矢尻は付いていないので怪我はしませんが、矢が当たった兵士は演習の取り決めで戦場からは離脱させられます。

矢が当たって歩兵の数は幾分かは減りますが両軍の歩兵とも突進は止まりませんね。
そして両軍の歩兵がぶち当たります。

「ドッガアン」

そんな音が聞こえた気がしました。

「うわあ、凄いですね」

「デイジーは怖くは無いの」

「ちょっと怖いですけど、皆さんが真剣に戦っているのですから目を離さずにしっかりと最後まで見るのが私の仕事ですよね」

「そうだね。せっかく見学を許されたのだからしっかりと見ないといけないね」

もうデイジーは僕の横にいるのが当たり前になっていて、僕もそれが当然だと思っています

「デイジーもオイゲン君も偉いわね。私も怖がって目を逸らしたりしないでしっかり見ないといけないわね」

反対の横にはルーシーさんがいるんです。
僕はデイジーとルーシーさんに挟まれて演習を観戦してます。
おかげで、周りの僕を見る目がとても痛いです。

始まりは昨日の晩餐の場でした。
ここまでの演習の慰労と最後の演習に向けた決起の場として昨日の晩餐は盛大なものでした。
貴族全員に加えて、僕たち子供も呼ばれていたのです。

僕も顔つなぎのために父さまに連れられて色々な人に紹介されました。
会う人は皆さん演習に手応えを感じているせいか陽気にお酒を酌み交わしています。

そして二言目には『帝国など恐るるに足らん。今度攻めてきたら二度と王国に侵攻する気が無くなるように徹底的に叩き潰してやる』と意気込むのです。

やはり、帝国の王国への侵攻がいずれは成されるとみんな感じているのです。

そして、辺境伯様が前に出て声高らかに宣言されます。

「皆、よく聞いてくれ。
皆も知っての通り、此度の集まりは2つの目的を持って開催された。
1つめは帝国の侵攻に備えた軍事演習だ。
そして軍事演習は皆の顔を見てもわかる通り、大きな成果を得ている。
明日の仕上げの軍事演習でそれは証明されるだろう」

「「「「うおおおおおお」」」」

「帝国など恐るるに足らんぞ」

「わしが蹴散らしてやる」

「なんの、わしの剣の錆にしてやるわ」

「そうとも、帝国なんぞやっつけてやろうぜ」

彼方此方から勇ましいな言葉があがります。

「皆の思い、嬉しいぞ。
その気持ちがあれば帝国に遅れを取ることなど無い。
そうだな」

「「「「おおおおおおお」」」」

怒声が部屋を揺らします。

「そして2つめの目的だが....」

辺境伯様のその言葉で部屋が静まり返ります。
皆さん、デイジーの婚約者が発表されることが分かっているのですね。

「儂の目に叶う男を見つけることができた。
そいつに、儂はデイジーをくれてやる。
おい、デイジー、そしてオイゲン、儂の側に来るのだ」

僕の名前が上がった途端に部屋中がざわつきだします。

「オイゲン、誰だそれ」

「そんな男がいたか」

「俺は知らんぞ」

まあそうですね。僕はデイジーの相手の候補に全く入っていない大穴ですからね。
そして、僕が辺境伯様の横に並ぶと不躾な視線に僕は晒されます。
その視線は殆どが怒りを含んでいますね。

なんだ、こいつは。
なぜ、儂の倅ではなくこいつなんだ。
辺境伯様はなぜこんな男をデイジー様の婚約者にするんだ。

僕を見るみなさんの腹の中はこんな感じなのでしょう。

「皆、聞いてくれ。こいつはカルロス・フォン・サーインの嫡男のオイゲンだ。
皆には馴染みが無いとは思うがこれからはデイジーの婚約者として良しなに頼むぞ」

「カルロスの所のオイゲンといえば帝国の女騎士を10名以上囲っていると言うあのオイゲンか」

「いや、オイゲンと言えば、従者として美人の狐獣人やエルフを侍らせているので有名だろう」

「なんで辺境伯様は騎士爵の家になどデイジー様を嫁に出すんだ」

「そうだ、幾ら何でもおかわいそうだろう」

う~ん、分かってはいましたが碌な事を言われませんね。

「ほれ、オイゲン。何か一言話せ」

ええっ、いきなりですか、聞いてませんよ。
部屋に居る全員の目が僕に注がれます。
これは逃げられません。

「辺境伯様からデイジー様の婚約者を拝命したオイゲン・サーインと申します。
若輩では有りますがデイジー様を娶る者として相応しいと認めて頂けるように努めますのでよろしくお願い致します」

「ふん、つまらん挨拶だな」

辺境伯様の呟きが痛いです。

「まあ、オイゲン君の生真面目な性格らしい挨拶ね。
そんなオイゲン君だからデイジーをきっと大切にしてくれるわね。
オイゲン君、デイジーを宜しくね」

「はい、ルーシー様の期待に沿えるように頑張ります」

そうです、昨日そう約束したんです。
僕は僕の両側に座るデイジーとルーシーさんを見て昨日の僕の言葉を心の中で反復します。

あれだけ大勢の前で大見得をきりましたからね。
出来るならデイジーを幸せにしたいですね。

「キャア~、あの人血だらけです、本当の戦争みたいです」

デイジーが興奮して僕の腕に抱きついてきます。

「まあ、デイジーとオイゲンは仲良しちゃんね。
じゃあ、私も」

へっ、ルーシーさんも僕の腕に抱きつきます。
いや、ダメでしょう。
デイジーのおっぱいの感触がルーシーさんの大きなおっぱいの感触で上書きされます。

周りの視線も痛いです。
でも、一番怖い視線で僕を見据えているのは辺境伯様ですね。
『ぐぬぬぬ』と歯噛みする声が聞こえてきそうですね。

それと、こっちを刺すような視線で見据える一群が気になります。
中心にいるのは僕に喧嘩を売ってきたフェリスですね。
あの時は折角穏便に終わらせてあげたんですが、彼の中では終わってなさそうです。
なんか、面倒くさいですね!

そんな居心地の良いおっぱいの感触に包まれながら、居心地の悪い視線に晒される時間も終わりのようです。
赤軍の勝利で演習が終わりました。

両軍、互角に見えたんですが、赤軍の分隊が丘を一気に駆け下りることで得た運動エネルギーで白軍の側面を崩壊させたのが勝機になったみたいです。
演習場の地形を上手く活用した赤軍の技ありっていう感じです。

あっ、父さまが雄叫びをあげています。
父さまは赤軍だったんですね。

☆☆☆☆☆

人がいなくなった演習場はさっきまでの喧騒が嘘のように静けさに包まれています。
なんでこんな所にいるのかって?
ご招待を受けたからですよ。
おっ、僕を招待したホストのお越しです。

「一人で来るとはいい度胸だな」

「貴方は取り巻きの助けが無いと何も出来なさそうですね」

「「「お前、フェリス様に対して不遜だろう」」」

取り巻きが僕の言葉で激昂します。

「オイゲン、吐いた言葉の責任は取ってもらうぞ」

フェリスとその取り巻きが僕を囲みます。
なんだこいつ、怒ったくせに僕とタイマンを張る気は無いんですね。

「やっぱり、フェリスは臆病者ですね」

「この下賤が、調子に乗るな」

フェリスが僕に殴りかかってきます。
困りましたね。僕の魔法は手加減が難しいんです。
流石に殺すと後が面倒ですしね。

嘘です、人を殺した事なんか無いですからね。
そんな覚悟は無いですよ。

なので殴りかかってくるフェリスを避けて背中のそばに弱目に圧縮した空気のボールを出します。

「ドン」

広がる空気に背中を押されてフェリスが転がります。
僕はうつ伏せに倒れているフェリスの背中を踏みつけます。

「このや『動くな』う」

「僕の魔法は喧嘩で使うには威力が大きすぎるんです。
あの岩を見て下さい」

「バ~ン、バリバリバリバリ」

僕の魔法で大きな岩が弾けとびます。

「この威力の魔法を受ける気があるなら掛かってきてくださいね。
ああ、命の保証は出来かねますよ」

「ヒイイイ、化け物だ。うわああ逃げろ」

フェリスに義理立てして付いてきただけの取り巻き達です。
命の危険を感じては持ちません。
みんな必死で逃げ出してしまいます。

さてと、踏み付けているフェリスをどうしますかね。

「フェリスさん、いい加減ウザいんでそろそろ止めて欲しいんですけど」

「はあ、ウザいのはお前だろう。お前の身分でデイジー様と釣り合う訳がないだろう。
貧乏騎士爵家のセガレが分を弁えないにも程がある」

こいつ、自分の世界に酔ってますよね。
自分の考えが絶対的に正しいって思い込むタイプです。
親が碌な躾けをしなかったせいですね。

「よく分からないんですけど、なんで貴方がデイジーさんの人生に口を出すんですか」

「はあ、決まってるだろう、デイジー様の人生は俺と共にあるからだ。
俺様がデイジー様の伴侶なんだからな」

「ふ~ん、フェリスの人生は私と共にあるわけ。
随分と迷惑な話ね」

「えっ、デイジー様、なんでここに」

「あら、大切な婚約者のオイゲン様が呼び出されたんですもの。将来の伴侶が心配して付いてくるのは当然ですわ」

「は、伴侶、オイゲンと」

「うふふふ、お父様が認めてくださったのよ。
ねえ、オイゲン様」

「あ、ああ、そうですね」

デイジーの顔が上気してますね。
僕はフェリスの背中から脚を退けてデイジーの肩を抱き寄せます。

「フェリス、いい加減悟ってください。
デイジーさんの眼中に貴方はいないんですから。
それに、デイジーさんは僕の婚約者ですからね。
ほら、見てください」

僕はデイジーのお胸を手で包み込みます

「ヒャン、もう、オイゲン様ったら」

デイジーは恥ずかしそうにしますけど、僕の手でデイジーのお胸が包まれるのは嫌がりませんね。

「むにゅ、むみゅ、むにゅ」

僕の手がデイジーのお胸をむみゅむにゅします。

「オ、オイゲン、貴様」

「もう、オイゲン様はエッチですね。
でも、むみゅむにゅされるなら片方だけではダメですよ」

デイジーが僕の手をもう一方のデイジーの胸に導きます。

「オイゲン様、むみゅむにゅするなら両方の胸を一緒にお願いしますわ。
そうしませんとまた片方だけ大きくなってしまいますもの」

「デ、デイジー様、今何と」

「もう、夫婦の会話に割り込むなんてフェリスは無粋ですわ.
私は今オイゲン様にお胸を大きくするならバランス良くとお願いしてる所なのですよ。
前みたいに、片方だけではオイゲン様に大きくされても困りますからね」

「そ、そんな……」

ああ、フェリス君は灰になりましたね。

「デイジー。坊やには刺激的すぎたみたいですよ」

「あら、そうみたいですわ。
坊やはお家でママのおっぱいを吸っていれば良いのです。
それよりオイゲン様、早くお部屋に帰って私のおっぱいを吸ってくださいな」

「バタン」

フェリスが倒れました。
デイジーは凄いですね。言葉だけでフェリスを再起不能にしたようです.

「さあ、オイゲン様、私のお部屋に参りましょう」

いや、それってフェリスの心を折るために言っただけですよね。
えっ、本当に行くんですか。

「ほら、オイゲン様、急いでくださいませ」

僕はデイジーに手を引かれデイジーの部屋へと向かいます。
後には、抜け殻になったフェリスだけが残されます。













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