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冥土のクリスマス~たっぷりの生クリームを添えて~
幸せなクリスマスは生クリームの味(1)
しおりを挟む「はははははははっ!!」
とんだクリスマスパーティーになった晩のこと。
閻魔様と二人っきり、いつものようにわたしの部屋の前の渡り廊下に座ってお月見していると、先ほどの騒動を思い出したのか、閻魔様が唐突に大爆笑した。
「はー、しかし他の神に浮気は傑作だったな。まさか桃花がそんなことを考えているとは……」
「ちがっ! だから誤解なんだってば! もうっ! 閻魔様、分かってて言ってるでしょ!!」
ぷくっとむくれれば、閻魔様がおかしそうにクスクスと笑う。
「まぁそんなにむくれるな。ちょっとした冗談だ」
「そういう笑えない冗談は……むぐっ!」
口を開けた拍子に何かが詰め込まれた。もぐもぐと動かせば、生クリームの甘さが口いっぱいに広がる。
「美味いかい?」
「……そりゃもちろん、美味しいわよ」
なにせわたしと杏たちが丹精込めて作ったクリスマスケーキだ。美味しくない訳がない。
月見をする際、閻魔様は必ず晩酌する。だからそのお供にと思って事前に切り分けておいたのだ。
むうっとした顔のままわたしがごくんとケーキを飲み込むと、閻魔様もフォークで切り分け、自身の口にケーキを運ぶ。
「うん、美味い」
そう頷いて、ワイングラスを手に取った。
「……シャンパンって美味しい?」
まるで水のようにスーッと飲んでいく閻魔様をぼぅっと見つめて、わたしは尋ねる。
「ああ、美味いよ。日本酒とはまた違う、果実の爽やかな甘みを感じるな」
「へぇ」
「先ほど茜と葵が飲み干したワインとは別に、私の為に用意してくれたんだろう? ありがとう、桃花」
「……ん」
本当に嬉しそうに笑う閻魔様を見ていると、なんだか無性に恥ずかしくなって、わたしはぶっきらぼうに頷く。
これは間違いなく先ほどしでかした大失態が尾をひいている。あああ、また思い出したら羞恥心がぶり返しそうだ。
「ね、ねぇ! 結局あの後のことは全部杏に任せてしまったけど、大丈夫だったかしら?」
話題を変えようと、わたしはクリスマスパーティーがお開きになった後のことを思い出した。
『閻魔様、桃花さま。茜と葵のことはボクらにお任せくださいキ。責任持って、彼らは部屋に運びますキ』
そう言って杏は、完全に出来上がった二人の介抱を買って出てくれたのだ。
後片付けも任せてしまったし、本当にもう、何から何まで杏には頭が上がらない。
「ああ、本来鬼は酒に強い。そう気に病まなくとも、明日になれば二人ともすっかり酔いが覚めているさ」
「ん。だけど……」
クリスマスパーティーをしようと思いついたのは、みんなにたまの息抜きをして欲しかったから。季節の概念のない冥土に住む彼らに、少しでも季節の移り変わりを感じて欲しかった。
でもそれがまさか、こんなことになるだなんて……。
「……クリスマスの由来なんて、指摘されて初めて気づいたわ。でも二人の言う通りね。わたし、閻魔様の恋人なのに、そんなことにも思い至らないなんて――」
もしかしたら閻魔様もこんなわたしに幻滅した?
不安になって、そっと隣を伺い見る。
すると……、
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