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七品目 煮込みうどん
三十八話 穏やかな冥土のひと時(2)
しおりを挟む――でも、確かに驚くわよね。閻魔様って出会った時から優しいけど、でもどこかわたしたちとは一線を引いているような近寄りがたい雰囲気があったもの。
なのにそれが今は取っ払われたかのように、普段の凛とした雰囲気はなく、ほんわかふわふわお茶目な人って感じ。
きっと倒れたこと、小鬼たちが覚醒したこと。
それによって閻魔様の背負っていた重責の一部を下ろしたことで、今まで押し殺してきた閻魔様の素の部分が表に出て来たのかも知れない。
「はははははは!」
「えっと……アカ」
「あの、閻魔様……アオ」
どう接すればいいのか分からないなりに、オロオロと閻魔様に声を掛ける二匹にわたしはふっと微笑む。
とはいえ茜と葵にとって、閻魔様は尊敬する雲の上の人。わたしと違ってあっさりその変化を受け入れるのは難しいのかも知れない。
何か、彼らの距離が縮まるキッカケがあればいいけど……。
「あっ! そうだわ、せっかくみんな揃ったんだし、全員で一緒にご飯食べましょうよ!」
「「え?」」
「いや! いやいや、桃花! それはさすがに不敬だアカ!」
「そうだアオ! 閻魔様と食卓を並べるだなんて、あまりに恐れ多すぎるアオ!」
「そお?」
名案だと思ったのだが、そこまで二人が拒否反応を示すならやめておこうか。
……そう思ったのだが、
「私は構わないよ。というより寧ろ、お前たちは私に一人寂しく食事をしろと言うのかい?」
「「――――」」
閻魔様のジロリと冷たい視線に、二人はピキーンと氷のように固まり、次の瞬間にはまた床に頭を着けて平伏した。
「っい、いえ! 滅相もございませんっ!!」
「決してそういうつもりで申したのでは無いのですが……!!」
「では決まりだな。桃花、料理を運ぶのを手伝うよ」
「え」
閻魔様はそんな茜と葵そっちのけで、わたしへとにこやかに笑いかける。
……これは閻魔様、二人で遊んでるわね。
「ありがとう閻魔様。じゃあ隣の食堂までお願い」
口に出そうか悩んで、そのまま閻魔様の悪巧みに乗ることにした。
わたしは料理が乗ったお盆を持ち上げて、閻魔様に渡そうと腕を伸ばす。
「「こらっ! 桃花!!」」
しかしその瞬間、固まっていた筈の茜と葵がものすごい勢いでお盆を引ったくったのだ。
「閻魔様に料理を運ばせるとは何事かアカ!」
「そうだアオ! そもそも閻魔様はまだ全快とは言えないのですから、あまり無茶はしないでくださいアオ!!」
「あ、ああ……」
あまりの剣幕に押された閻魔様は、そのままそれぞれお盆を持って台所を出て行く二人の姿が見えなくまで呆然としていた。
「はぁ……」
「からかったつもりが、してやられたわね。閻魔様」
わたしがくすりと笑ってそう言うと、閻魔様が困ったように眉を下げた。
「……あの子たちが随分と私に対して気を遣っているのは、昔から分かっていたからね。今は同じ使命を担う裁判官となったのだから、もう少し距離を縮められないかと思ったんだが」
「あれで距離を縮めるつもりだったんだ……」
もしかして閻魔様、コミュニケーション下手過ぎ……?
「やはり私はやり方を間違えたのか?」
「そうね、もっと普通でいいと思うのよ。仕事の話聞いてあげたり、褒めてあげたり」
「なるほど」
がっくり項垂れたかと思うと、次には熱心にわたしのアドバイスに耳を傾ける閻魔様。
まるで子どもへの接し方に悩むお父さんみたいで、なんだか面白い。
「ありがとう、桃花。これからは積極的に、あの子たちとの時間も作っていかなければならないな」
「うん、それがいいわ。だってあの子たちは、何よりそのまんまの閻魔様が大好きなんだもの!」
「!」
わたしの言葉に驚いたように目を見開いた閻魔様は、やがてゆっくりと頷いて嬉しそうに笑った。
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