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百合が咲いた朝
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「おい、百合だ!百合が咲いたぞ!」
「何本だ!?」
「二本だ!今年の候補者は……二人だ!」
普段は静かな王城の一画で、興奮した声がいくつも上がる。
百合の開花は、王国に新しい時代がやってくる、その印なのだから。
***
魔女王が治めるこの国には、魔女王の代替わりの時期になると王城に百合が咲く。
咲いた百合の数だけ、その時代には女王候補者が存在すると言われ、百合の花が咲くと国の隅から隅まで調査がはいるのだ。
百合は強い魔力に反応するので、正しき候補者が百合に触れれば、花弁はその者の持つ魔力に応じて色を変える。
それが魔女王たる素質の持ち主の証だ。
今代は、二本の百合が咲き、二人の乙女が選ばれた。
金髪に金眼で、白に近い金に光り輝く百合を抱く少女の魔女名はアサ。
黒髪黒目で、あらゆる色を吸収したような黒に艶めく百合を抱く少女の魔女名はヨル。
百合の開花から遅れること数年。
公表された美しい候補者二人に、国民は熱狂した。
そして、対となるふたりの魔女名に、国民たちは「夜はいずれ朝となるから勝つのはアサだ」「いや、朝は夜に飲み込まれるのだなら、勝つのはヨルだ」などと好き勝手囃し立てる。魔女王を決めるこの戦いは百合戦争と呼ばれ、国民の娯楽なのだ。
彼女達に魔女王から贈られた百合のブローチは、それぞれの魔力の色をしており、二人の瞳と同じ色である。
二人のものを模したブローチが、翌日にはあちらこちらの店先に並び、少女たちはこぞって己の推し候補者のブローチを買いに走ったのだった。
さて。
いつの時代も候補者達は、周りが思っているよりも仲が良いことが多い。
なにせ自分に匹敵する力を持つのは、候補者仲間しかいないのだから。
気を遣わずに遊べる相手というだけで、子供には嬉しくて楽しいものなのだ。
そんなわけで、今代の候補者、アサとヨルも仲の良い二人だった。
二人とも、それはそれは強い魔力を持っていた。普通の女の子が急に彼らと同等の魔力を与えられたら、制御不能になって狂死するだろう。しかし二人は生まれた時からその状態なので慣れていたし、周りの人を殺傷しないように十分制御できていた。魔力の大きさだけでなく、その制御力と精神力こそが魔女王候補者の素質の証拠とも言えた。
初めて二人が出会ったのは、国立の魔法学院の入学式だ。
成績順で整列する生徒たちの一番前に横並びに立った二人は、同成績の主席入学者だっだ。
「あら、もしかして、あなたがヨルさん?」
「あら、もしかして、アナタがアサさん?」
お互い名前しか知らなかった自分のライバルを、二人はまじまじと見つめた。チラリと胸元に視線をやれば、相手も察して服の内側につけた百合のブローチをそっと見せてくれる。
二人は顔を見合わせると「ふふふ」と笑った。
「ヨルで良いわ。アナタの百合はまるで光っているみたいにとても綺麗な色ね、アサさん」
「私もアサで良いわ。ヨルの百合もとっても幻想的でかっこいいわ、素敵よ」
生まれて初めて出会った同格の相手に二人は少しだけ昂揚した気分で微笑んだ。アサが求めた握手に、ヨルも快く手を握り返し口元をさらに綻ばせる。
「アナタと競うのが、とても楽しみだわ、アサ」
「私もよ。これまでは家庭教師相手でも我慢しなきゃいけなかったから、ワクワクしているの」
瞳をきらりと輝かせるアサに、ヨルはきょとんと目を瞬かせてから吹き出した。
「あら、意外と好戦的なのね?」
「あら、魔女王候補者だもの」
「それもそうね」
「そうよ」
楽しい初対面を経て、翌日からは二人はウキウキワクワクの初めてのお友達になった。
「何本だ!?」
「二本だ!今年の候補者は……二人だ!」
普段は静かな王城の一画で、興奮した声がいくつも上がる。
百合の開花は、王国に新しい時代がやってくる、その印なのだから。
***
魔女王が治めるこの国には、魔女王の代替わりの時期になると王城に百合が咲く。
咲いた百合の数だけ、その時代には女王候補者が存在すると言われ、百合の花が咲くと国の隅から隅まで調査がはいるのだ。
百合は強い魔力に反応するので、正しき候補者が百合に触れれば、花弁はその者の持つ魔力に応じて色を変える。
それが魔女王たる素質の持ち主の証だ。
今代は、二本の百合が咲き、二人の乙女が選ばれた。
金髪に金眼で、白に近い金に光り輝く百合を抱く少女の魔女名はアサ。
黒髪黒目で、あらゆる色を吸収したような黒に艶めく百合を抱く少女の魔女名はヨル。
百合の開花から遅れること数年。
公表された美しい候補者二人に、国民は熱狂した。
そして、対となるふたりの魔女名に、国民たちは「夜はいずれ朝となるから勝つのはアサだ」「いや、朝は夜に飲み込まれるのだなら、勝つのはヨルだ」などと好き勝手囃し立てる。魔女王を決めるこの戦いは百合戦争と呼ばれ、国民の娯楽なのだ。
彼女達に魔女王から贈られた百合のブローチは、それぞれの魔力の色をしており、二人の瞳と同じ色である。
二人のものを模したブローチが、翌日にはあちらこちらの店先に並び、少女たちはこぞって己の推し候補者のブローチを買いに走ったのだった。
さて。
いつの時代も候補者達は、周りが思っているよりも仲が良いことが多い。
なにせ自分に匹敵する力を持つのは、候補者仲間しかいないのだから。
気を遣わずに遊べる相手というだけで、子供には嬉しくて楽しいものなのだ。
そんなわけで、今代の候補者、アサとヨルも仲の良い二人だった。
二人とも、それはそれは強い魔力を持っていた。普通の女の子が急に彼らと同等の魔力を与えられたら、制御不能になって狂死するだろう。しかし二人は生まれた時からその状態なので慣れていたし、周りの人を殺傷しないように十分制御できていた。魔力の大きさだけでなく、その制御力と精神力こそが魔女王候補者の素質の証拠とも言えた。
初めて二人が出会ったのは、国立の魔法学院の入学式だ。
成績順で整列する生徒たちの一番前に横並びに立った二人は、同成績の主席入学者だっだ。
「あら、もしかして、あなたがヨルさん?」
「あら、もしかして、アナタがアサさん?」
お互い名前しか知らなかった自分のライバルを、二人はまじまじと見つめた。チラリと胸元に視線をやれば、相手も察して服の内側につけた百合のブローチをそっと見せてくれる。
二人は顔を見合わせると「ふふふ」と笑った。
「ヨルで良いわ。アナタの百合はまるで光っているみたいにとても綺麗な色ね、アサさん」
「私もアサで良いわ。ヨルの百合もとっても幻想的でかっこいいわ、素敵よ」
生まれて初めて出会った同格の相手に二人は少しだけ昂揚した気分で微笑んだ。アサが求めた握手に、ヨルも快く手を握り返し口元をさらに綻ばせる。
「アナタと競うのが、とても楽しみだわ、アサ」
「私もよ。これまでは家庭教師相手でも我慢しなきゃいけなかったから、ワクワクしているの」
瞳をきらりと輝かせるアサに、ヨルはきょとんと目を瞬かせてから吹き出した。
「あら、意外と好戦的なのね?」
「あら、魔女王候補者だもの」
「それもそうね」
「そうよ」
楽しい初対面を経て、翌日からは二人はウキウキワクワクの初めてのお友達になった。
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