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悪役令嬢に転生しても面食いのままでした。1

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 話は四年前に遡る。

 十二歳の誕生日の前日。
 公爵家唯一の嫡子として、厳しく、誇り高く育てられていた私、イザベラはうっかり庭で転んだ。
 ……いや、決して私がドジだったとか、運動神経が残念だったからとかではない。
 急に目の前に飛び出してきた謎の物体に驚いて、私は真後ろに転倒してしまったのだ。
 そして丸一日意識不明となった。
 その未確認飛行物体は、義弟の投げたおもちゃのブーメランだったらしい。
 私が意識を取り戻さないので、義弟は真っ青になり、もう十歳だったくせに、大泣きだったらしい。
 目が覚めた後で、事情を把握した私はとりあえず義弟の両頬を力いっぱい捻ってやったが、えぐえぐと泣きながら私に抱き着いていた。
 みよーんと頬を伸ばされたままで、とても可愛かった。
 普段は憎まれ口ばかり叩いているけれど、やはりお姉さまが大好きなのだ、あの子は。愛い奴。たっぷりいじめてやろう。

 ……じゃなくて。
 私は転倒し、後頭部をしたたかに強打し、意識不明で夢うつつの世界を彷徨うこととなった。
 そして思いだしたのだ。
 前世、とやらのことを。

 この世界は、堂々たるオタクであった私がドハマりしていた乙女ゲーム「白薔薇の結婚」の世界、そのものだった。
 そして私は、状況と容貌から判断するに、ゲームの中で、黒薔薇の姫と呼ばれていた、アーロン公爵家令嬢のイザベラだ。
 主人公と恋に落ちる王子の婚約者にして、誇り高く残酷で計算高く、己を正義であると信じて疑わない、このゲーム最大の強敵。
 そう、お察しの通り、主人公の敵です。
 悪役令嬢転生ってやつですよ。
 マジかよ。

 目が覚めて状況を把握したとたん、ぐるんぐるんと眩暈がして私はまたベッドにぐったり逆戻りになった。
 そこから二日間ほどかけて、必死に状況を整理した。

 ここは「白薔薇の結婚」の世界だ、ほぼ間違いなく。
 主人公は子爵令嬢のアンナ。
 白に近い金の髪と、濃い藍色の瞳を持ち、汚れなく清廉な心を持つ少女。
 底抜けに優しくて、誰一人見捨てない。
 穏やかな春の日差しのようなその微笑みは、見る者の心を光で満たす。

 本来は十四歳で入学する学園に、二年目の途中で転入してくる。
 彼女は妾腹の子で、子供のできなかった本妻のもとへ引き取られるのだ。
 複雑な家庭環境に思えるが、意外と鈍くて逞しい精神と、根っからの明るさのためか、まったく捻くれたところがない。
 彼女は私のクラスメイトとなった。
 私がいるクラスは、私がいるおかげで統率が取れており、治安が良かったからね。まぁその教師側の判断が、後に仇となるんだけれど。

 
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