2 / 14
悪役令嬢に転生しても面食いのままでした。1
しおりを挟む
話は四年前に遡る。
十二歳の誕生日の前日。
公爵家唯一の嫡子として、厳しく、誇り高く育てられていた私、イザベラはうっかり庭で転んだ。
……いや、決して私がドジだったとか、運動神経が残念だったからとかではない。
急に目の前に飛び出してきた謎の物体に驚いて、私は真後ろに転倒してしまったのだ。
そして丸一日意識不明となった。
その未確認飛行物体は、義弟の投げたおもちゃのブーメランだったらしい。
私が意識を取り戻さないので、義弟は真っ青になり、もう十歳だったくせに、大泣きだったらしい。
目が覚めた後で、事情を把握した私はとりあえず義弟の両頬を力いっぱい捻ってやったが、えぐえぐと泣きながら私に抱き着いていた。
みよーんと頬を伸ばされたままで、とても可愛かった。
普段は憎まれ口ばかり叩いているけれど、やはりお姉さまが大好きなのだ、あの子は。愛い奴。たっぷりいじめてやろう。
……じゃなくて。
私は転倒し、後頭部をしたたかに強打し、意識不明で夢うつつの世界を彷徨うこととなった。
そして思いだしたのだ。
前世、とやらのことを。
この世界は、堂々たるオタクであった私がドハマりしていた乙女ゲーム「白薔薇の結婚」の世界、そのものだった。
そして私は、状況と容貌から判断するに、ゲームの中で、黒薔薇の姫と呼ばれていた、アーロン公爵家令嬢のイザベラだ。
主人公と恋に落ちる王子の婚約者にして、誇り高く残酷で計算高く、己を正義であると信じて疑わない、このゲーム最大の強敵。
そう、お察しの通り、主人公の敵です。
悪役令嬢転生ってやつですよ。
マジかよ。
目が覚めて状況を把握したとたん、ぐるんぐるんと眩暈がして私はまたベッドにぐったり逆戻りになった。
そこから二日間ほどかけて、必死に状況を整理した。
ここは「白薔薇の結婚」の世界だ、ほぼ間違いなく。
主人公は子爵令嬢のアンナ。
白に近い金の髪と、濃い藍色の瞳を持ち、汚れなく清廉な心を持つ少女。
底抜けに優しくて、誰一人見捨てない。
穏やかな春の日差しのようなその微笑みは、見る者の心を光で満たす。
本来は十四歳で入学する学園に、二年目の途中で転入してくる。
彼女は妾腹の子で、子供のできなかった本妻のもとへ引き取られるのだ。
複雑な家庭環境に思えるが、意外と鈍くて逞しい精神と、根っからの明るさのためか、まったく捻くれたところがない。
彼女は私のクラスメイトとなった。
私がいるクラスは、私がいるおかげで統率が取れており、治安が良かったからね。まぁその教師側の判断が、後に仇となるんだけれど。
十二歳の誕生日の前日。
公爵家唯一の嫡子として、厳しく、誇り高く育てられていた私、イザベラはうっかり庭で転んだ。
……いや、決して私がドジだったとか、運動神経が残念だったからとかではない。
急に目の前に飛び出してきた謎の物体に驚いて、私は真後ろに転倒してしまったのだ。
そして丸一日意識不明となった。
その未確認飛行物体は、義弟の投げたおもちゃのブーメランだったらしい。
私が意識を取り戻さないので、義弟は真っ青になり、もう十歳だったくせに、大泣きだったらしい。
目が覚めた後で、事情を把握した私はとりあえず義弟の両頬を力いっぱい捻ってやったが、えぐえぐと泣きながら私に抱き着いていた。
みよーんと頬を伸ばされたままで、とても可愛かった。
普段は憎まれ口ばかり叩いているけれど、やはりお姉さまが大好きなのだ、あの子は。愛い奴。たっぷりいじめてやろう。
……じゃなくて。
私は転倒し、後頭部をしたたかに強打し、意識不明で夢うつつの世界を彷徨うこととなった。
そして思いだしたのだ。
前世、とやらのことを。
この世界は、堂々たるオタクであった私がドハマりしていた乙女ゲーム「白薔薇の結婚」の世界、そのものだった。
そして私は、状況と容貌から判断するに、ゲームの中で、黒薔薇の姫と呼ばれていた、アーロン公爵家令嬢のイザベラだ。
主人公と恋に落ちる王子の婚約者にして、誇り高く残酷で計算高く、己を正義であると信じて疑わない、このゲーム最大の強敵。
そう、お察しの通り、主人公の敵です。
悪役令嬢転生ってやつですよ。
マジかよ。
目が覚めて状況を把握したとたん、ぐるんぐるんと眩暈がして私はまたベッドにぐったり逆戻りになった。
そこから二日間ほどかけて、必死に状況を整理した。
ここは「白薔薇の結婚」の世界だ、ほぼ間違いなく。
主人公は子爵令嬢のアンナ。
白に近い金の髪と、濃い藍色の瞳を持ち、汚れなく清廉な心を持つ少女。
底抜けに優しくて、誰一人見捨てない。
穏やかな春の日差しのようなその微笑みは、見る者の心を光で満たす。
本来は十四歳で入学する学園に、二年目の途中で転入してくる。
彼女は妾腹の子で、子供のできなかった本妻のもとへ引き取られるのだ。
複雑な家庭環境に思えるが、意外と鈍くて逞しい精神と、根っからの明るさのためか、まったく捻くれたところがない。
彼女は私のクラスメイトとなった。
私がいるクラスは、私がいるおかげで統率が取れており、治安が良かったからね。まぁその教師側の判断が、後に仇となるんだけれど。
1
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームのヒロインの顔が、わたしから好きな人を奪い続けた幼なじみとそっくりでした。
ふまさ
恋愛
彩香はずっと、容姿が優れている幼なじみの佳奈に、好きな人を奪われ続けてきた。親にすら愛されなかった彩香を、はじめて愛してくれた真二でさえ、佳奈に奪われてしまう。
──こうなることがわかっていれば、はじめから好きになんてならなかったのに。
人間不信になった彩香は、それきり誰と恋することなく、人生を終える。
彩香だった前世をふっと思い出したのは、フェリシアが十二歳になったとき。
ここがかつてプレイした乙女ゲームの世界で、自身がヒロインを虐める悪役令嬢だと認識したフェリシア。五人の攻略対象者にとことん憎まれ、婚約者のクライブ王子にいずれ婚約破棄される運命だと悟ったフェリシアは、一人で生きていく力を身につけようとする。けれど、予想外にも優しくされ、愚かにも、クライブに徐々に惹かれていく。
ヒロインを虐めなければ、このままクライブと幸せになる未来があるのではないか。そんな馬鹿な期待を抱きはじめた中、迎えた王立学園の入学式の日。
特待生の証である、黒い制服を身に包んだヒロイン。振り返った黒髪の女性。
その顔は。
「……佳奈?」
呟いた声は、驚くほど掠れていた。
凍り付いたように固まる。足が地面に張り付き、動けなくなる。
「……な、んで」
驚愕の声はフェリシアではなく、なんとクライブのものだった。
クライブの緑の瞳が、真っ直ぐに、ヒロイン──佳奈に注がれる。
「……い、いや」
無意識に吐露し、クライブに手を伸ばす。クライブはその手をするりとかわし、佳奈に向かって走っていった。
(……また、佳奈に奪われる)
ヒロインに、なにもかも奪われる。その覚悟はしていた。でも、よりによって佳奈に──なんて。
フェリシアは伸ばした手を引っ込め、だらんと下げた。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
あららっ、ダメでしたのねっそんな私はイケメン皇帝陛下に攫われて~あぁんっ妊娠しちゃうの♡~
一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約破棄されて国外追放された伯爵令嬢、リリアーネ・フィサリスはとある事情で辺境の地へと赴く。
そこで出会ったのは、帝国では見たこともないくらいに美しく、
凛々しい顔立ちをした皇帝陛下、グリファンスだった。
彼は、リリアーネを攫い、強引にその身体を暴いて――!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】熱い一夜が明けたら~酔い潰れた翌朝、隣に団長様の寝顔。~
三月べに
恋愛
酔い潰れた翌朝。やけに身体が重いかと思えば、ベッドには自分だけではなく、男がいた!
しかも、第三王子であり、所属する第三騎士団の団長様!
一夜の過ちをガッツリやらかした私は、寝ている間にそそくさと退散。まぁ、あの見目麗しい団長と一夜なんて、いい思いをしたと思うことにした。が、そもそもどうしてそうなった??? と不思議に思っていれば、なんと団長様が一夜のお相手を捜索中だと!
団長様は媚薬を盛られてあの宿屋に逃げ込んでやり過ごそうとしたが、うっかり鍵をかけ忘れ、酔っ払った私がその部屋に入っては、上になだれ込み、致した……! あちゃー!
氷の冷徹の団長様は、一体どういうつもりで探しているのかと息をひそめて耳をすませた。
悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません
青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく
でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう
この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく
そしてなぜかヒロインも姿を消していく
ほとんどエッチシーンばかりになるかも?
【完結】王子妃になりたくないと願ったら純潔を散らされました
ユユ
恋愛
毎夜天使が私を犯す。
それは王家から婚約の打診があったときから
始まった。
体の弱い父を領地で支えながら暮らす母。
2人は私の異変に気付くこともない。
こんなこと誰にも言えない。
彼の支配から逃れなくてはならないのに
侯爵家のキングは私を放さない。
* 作り話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる