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王様との内緒話2

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「はい?まさか、人聞きの悪いことを仰らないでください。私はただ、少しばかり真実の恋の手助けをしているだけですよ」

いけしゃあしゃあと言葉を繋げたクロードは、罪悪感など微塵も感じていない。
ここ最近社交界を襲った激震の仕掛け人が突如として判明し、国王は頭を抱えて呻いた。

「相次ぐ駆け落ちのどこが善行だ!贅沢暮らしに慣れた小娘達が、逃げた先で満足に暮らせるものか」
「だからこそでしょう?そこを乗り越えてこそ、真実の愛。私も鬼ではありませんからね、本物の愛を見せてくれたご夫婦には、幸せの手助けをさせて頂きますよ?たいした覚悟もなく、一時の気の迷いで義務を全て放り出したり、贅沢に何不自由なく育っておきながら貴族の家など堅苦しいだけだとほざいて飛び出した愚か者には、相応に苦難が待っていることかと存じますが」

薄笑いを浮かべながら、流れるように侮蔑の言葉を紡ぎ続ける小さな唇を見て、国王は嫌そうに顔を顰めた。

「お前……相変わらず性格が悪すぎるだろう……。少し愚かなだけの貴族の娘としてそれなりに幸せに生きていけたであろう者たちを……」
「はっ」

国王の哀れみの言葉を、クロードは心底馬鹿にしたように、鼻で笑った。

「何も知らず貴族として幸せに生きていくなど、許されませんでしょう?下々の苦労と悲しみを、少しは理解すべきです」
「少しではなかろうが……。もうマトモな人生など、歩めまい。気の毒に」
「何をもってマトモとすべきかは意見の分かれるところにございますね。まぁ、おとなしく実家に戻り頭を下げれば、食うに困らぬ暮らしが出来るのではありませんか?」

その後屋敷の中で幽閉されるかもしれませんけど、と続けて、平然とした顔をするクロードに、国王はがくりと項垂れた。
しばらくの間、宮廷と社交界はきっと大荒れのままなのだろう。
良い迷惑だ。

「貴族として生まれ落ちたからには、彼らには貴族の義務がある。それを忘れ、もしくは知ろうともしない者に、貴族たる資格はない。我が『父』がよく申していたことにございます」
「まぁ、一理あるが……クロードよ」

いかにももっともらしいことを述べて、したり顔をしているクロードに、国王は半眼で尋ねた。

「本音は?」
「僕の綺麗な騎士様に近づきやがって節操なしの色情魔どもめ地獄に堕ちろ」
「…………はぁ……」

疲れ果てたと言わんばかりの長いため息をつき、「わかった、わかった」と言って国王は片手を振った。

「要望を聞き入れる。頼むからおとなしくしてくれ。これ以上騒ぎを起こすな」

聞き分けのない子供でも相手にしているような態度に、クロードの眉間に皺が寄る。

「市民の暴動やら国家的大犯罪やらそれなりに勝算のありそうな謀叛やらを潰してきた私になんと心無いお言葉」
「いや待て、勝算がありそうだった謀叛って何の話だ!?」
「昔のことですからお気になさらず。では、しばしお暇を」
「おい待て気になるわ!」

一方的に退室の挨拶をして、クロードは国王に背を向け、部屋の隅に向かう。
そして背後で文句を垂れている王に向かって、呆れた目を向けながら、今後の人生のアドバイスをした。

「過去より未来を見つめてはいかがですか?老い先短い人生なのですから」
「まだ三十代だッ!」

国王の怒りの篭った声を聞き流し、クロードは壁の絵画の後ろに手を回す

 キィ……

小さな音とともに、天井に穴が開いた。

「おい待て、まだ話は終わってないぞ、クロ、」

 トンっ

「では、陛下も良い夜を」

 パタン

軽やかに跳躍して天井に飛び乗り、そして開いていた『出入り口』を閉める。
退室の許しを得ないまま、クロードは部屋を去った。

「陛下『も』良い夜を?そうかそうか、お前は今夜もさぞ甘くて熱い良い夜を過ごすのだろうな……こっちはまだまだ仕事が山積みだと言うのに……クロードめ……」

無言のまま睨むように天井を見上げていた王の前に、ひらりと一枚の紙が落ちてくる。

『次の報告は一年後の予定です』

「……アルベルトの任期が終わるまで戻ってくる気はゼロじゃないか」

脱力して椅子にもたれかかりながら、国王は深いため息をついた。

「初恋が実ったからといって、浮かれすぎだろう? クロードよ」
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