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自分の声は聞こえますか?

約束

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「さてと。結局お前たちを送り出すことになっちまったなぁ」


 彰人さんが自虐を含めた顔で笑う。その肩の上に腰かけるサラさんは、ぺしぺしと彰人さんの頬を叩いた。


「おいアキヒトっ! 私たちが暗くネガティブになってどうするんだ。壁は越えられちゃったんだから、私たちは見送るしかないんだよ。分かるな?」

「へいへい、サラ様には敵わねぇなぁ」

「私たちがしっかりしなくちゃね。何かあったときの、第二の砦になるんだから。……そうはなってほしくないのだけれど」

「万が一の時だ。それに、例えUnfinishedが生きて帰ってきたとしても、その火花が飛んでこないとは限らない。その火花から、一般人を守る。それがやるべきことだ」


 エドさんの言葉に、エマさんが笑う。その様子に、ほっと一息ついた。
 僕らが守りたい人たちは、たくさんいる。今まで出会ってきた人、その全てだ。例外はいない。敵だって味方だって、僕らは守りたいし、救いたい。
 そのなかに、この四人が入っていないはずないのだ。


「……羽汰……アリア様、ポロン、フローラ、ドラくんにスラちゃんも……みんな、漆黒に行く前に、一つだけ約束をしてくれないか?」

「約束……?」


 彰人さんが真剣な顔でうなずく。そして、僕ら一人一人の顔をじっと見つめながら、ゆっくりと話す。


「一度、ゆっくりと目を閉じてみろ。その場で。ゆっくりと、な?」

「…………?」

「なんの意味があるんだ?」

「いいから、ちょっとやってみ。ほら、せーの!」


 僕らは言われるがままに、目を閉じた。戦い終え、疲れきった頭に、優しい暗闇が訪れた。何となくふわふわとしてきた思考の中に、彰人さんの声が降ってくる。


「いいか? よーく聞け。そして、声に出さないで答えろ。
 お前が一番、大切にしているものはなんだ? ……正直に答えるんだ。嘘を吐くくらいなら、分からないって言っておけ。素直に答えろ」


 ……僕が一番、大切にしているもの……。
 それは仲間。それから家族。充希。実態がなくていいというのなら、充希との過去。忘れたくて、大嫌いな過去だ。だけど……手離してしまいたくはない。僕の大きな罪。受けていない罰を受けるために、僕はその過去を抱えているのだ。


「答えたか? 答えたら次だ。お前はこれから、どんな人間になりたい? そのためにどうしたらいい? 出来るだけ具体的に答えてみろ」


 僕は……Unfinishedのリーダーだ。腐っても朽ちても、そうなのだ。だから……頼られる人間になりたい。頼って、寄っ掛かったとしても倒れない、何を言っても受け止めてくれる。そんな人間になりたい。

 僕にとってのそんな人間は……間違いなく、アリアさんだ。アリアさんは守りたい人であり、一緒に戦う仲間であり、倒れかけた僕を支えてくれる、杖のような人。
 アリアさんのように……なんて出来ないかもしれないけれど、まずは過去を受け入れよう。過去を受け入れて、自分の糧にしよう。

 僕はまだ、僕を許せていない。
 許す必要はないのかもしれないけれど、飲み込めてすらいなくて、延々と喉につまっているのなら、飲み込んでしまった方がいい。
 それは結果として、『僕が楽に生きていけるようにする』ための目標だったりするのかもしれないけれど、Unfinishedやみんなを守りたいって気持ちは、嘘じゃないはずだから。


「さて、もう一つだけ聞いておこう。これが、最後だぞ?
 ――死ぬのは、怖いか? 死にたくないか?」

「…………」


 頭が一瞬真っ白になった。
 死ぬ――。

 僕の答えは、ひとつだ。死ぬのは怖い。何度体験したってきっと怖い。あのときの感覚は、死んだ人間にしか分からないのだろう。僕は一度死んだ人間だ。
 迫り来る大きなものとか、どうしようも出来ないという絶望とか、衝撃とか、痛みとか、なにも聞こえなくなったりする感覚とか、そのあと急に、悲鳴とか破裂音とか聞こえてくる恐怖とか、そういうの。

 死ぬのは、怖いことだ。
 死が救いという人はいる。そうかもしれない。僕は理解できない。

 死んで、僕は運良く転生して、運良くいい仲間を持つことができた。しかしそうでない可能性の方がずっと高い。
 死んだらどうなるの? その答えは、死んだ僕にも分からない。だからこそ、死は未知で、怖いのだ。

 怖いから、死にたくない。
 生きていたい。


「……よーし、目を開けろー!」


 彰人さんの声に、目を開く。……なんの意味があったのか、結局良くわからなかった。


「あの、今のってなんの」

「漆黒っていうのは……様々なものを奪うらしい。何を奪われても基本は大丈夫だが、『自分』と『命』を奪われたら、もう取り返すことはできねぇ。そのまま朽ちるしかないな」

「…………」

「……聞いただろ? 自分の声を」


 僕らは、うなずく。なんの飾り気もなく溢した本音が、僕ら自身の『声』なのだ。


「絶望しそうになったらその声を聞け。その声を聞き続けろ。俺との、約束だからな?」
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