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自分の声は聞こえますか?

可能性

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 僕の意思は、どこかへ消えていってしまったようだ。身体を動かそうとしても、指一本すら、思った通りに動かせない。完全に操られてしまったようだ。


「アリアさん! 避けてください! ドラくん!」


 懸命に叫んでみる。でも、その声が届くことはない。
 僕は、この力の強さをよく知っている。レベル1で、レベル100のドラくんを倒せるほどの力。初級魔法で、高度な属性魔法と同じレベルの威力が出るほどの力。個性の塊'sの攻撃を……ジュノンさんの最強の闇魔法を、シエルトで受け止められるほどの力。

 普通に考えて、アリアさんたちは僕に太刀打ちできない。……と思っていたが、ダンジョンを通過したときにもらったスキルを使って、なんとか耐え凌いでくれている。今のうちに、僕も『疑心暗鬼』を乗り越える手段を探さなくては……。


『それはできないわよ』

「…………」


 エマさんの声が響いた。


『私は、ウタくんの精神を操っているの。心、感情を。ウタくんのそれは、勇気を発動したところで最大。私はそれをも越えることができた。ウタくんは、それをさらに上回る必要がある。それは、無理でしょう?』

「無理なんて……諦めるわけにもいかないじゃないですか! アリアさんたちが……ここで負けたら、僕らの今までは全部、なかったことになるんです! 無駄だったってことになって……ただ犠牲を出しただけになるんです」


 僕としては、この気持ちはとても大きい。だって……アリアさんが、ポロンくんが、フローラが、スラちゃんが、ドラくんが……あんなに苦しんできたのを、すぐ近くで見てきたのだ。みんなの絶望も、希望も、僕はよく知っている。それを、なかったことや無駄だったことになんてしたくない。


『それは分かってる。……私たちだって、根本で考えていることは同じなのよ。
 私たちだって……アリアの決意を、国王の死に様を、そのあとにあった絶望も、涙も、全部……全部知っているの。マルティネスでのことだけじゃない。ミネドールやクラーミル、ハンレル、パレル……いろんなところで、Unfinishedが頑張ってきたことはわかっているの。努力してきたことは、分かってるの』


 でも、譲れない。
 ……それは僕らを思うばかりにエマさんたちが選んだ、苦渋の選択。


『……死んでほしくないの』

「…………」


 あぁ、わかった。
 僕が救うべきは、Unfinishedじゃない。Unfinishedは、もう、一人でも歩けるくらい強くなっているのだ。僕が手を差しのべるまでもない。
 僕が一人増えたところで、Unfinishedは負けはしないだろう。だとすれば、僕は助けることに専念すればいい。それだけのことだ。


「……僕らは、死にません」

『そんな保証どこにもないわ。だって……ディランはね、強いの。ウタくんはまだ分かってないの。対峙したらきっと……殺されてしまうわ』

「ディランさんは……確かに、強いです。一人で個性の塊'sを相手にできてしまうほどに、強い人です。そして今も、魔王に、もう一つの『勇気』に飲み込まれて苦しんでいる人です」


 初めてディランさんにあったとき、彼は弱っていた。今ならわかる……力に抵抗しようとして、抗いきれなくて、苦しんでいたんだ。


「ディランさんは強いけど、無敵ではないんです。心は、普通の人間なんです。僕らはディランさんを倒すんじゃなくて、助けにいきたいんです」

『そんなのは空想なの。出来るわけない……だって、ディランはもう、ディランじゃなくなっているの。元に戻ることなんて、もうないの』

「なくないです! だって……」


 端々に感じる、アリアさんへの確かな想い。それがあれば、まだ助けられる。まだディランさんはディランさんでいる。そして、それを受け入れられない理由は、エマさんもまた、弱いからだ。


「エマさん……信じたいんですよね、本当は」

『そんなことない……! 違う!』

「エマさん、信じてもいいんですよ。絶対に僕らが助けます。死なせたりしません。その希望を、打ち砕くようなことはしません」

『信じたくなんかないの…………』

「エマさん」

『やめて!』


 僕は、虚空に向かって手を伸ばした。……心の中で、手を伸ばしたのだ。その先にはなにもない。だから、届くことだってない。それでも、手を伸ばし続けた。


「僕は……僕らは、欲張りだから、全部手に入れないと気が済まないんです」


 その人の背中を探す。うつむき、苦しんでいるであろうその背中を探す。


『私には……誰も助けられない』

「…………」

『弱くて、守られて、それで努力して、ここまできたの。諦めたら……何もなかったことになるじゃない。希望を、また失うかもっていう恐怖で……まともでいられなくなるの』


 彼女は、酷く寒い場所にいた。冷たく、暗く、暗い場所。こんなところにいたら良いことはない。……それは、僕には良く分かる。僕もかつて、ここにいた。
 見つけたその背中に、手が届く。震えていた。小さかった。その身体をおずおずと、しかし強く、抱き締めた。


「……僕は、あなたも助けます」

『…………』


 ピキッと、どこかにヒビが入った。
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