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届かない想いに身を寄せて
力
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「……でも、魔王って、強いんだろ?」
サラさんが、唐突に当たり前のことを聞く。でも、僕だってそう聞きたかった。8年前に破られるはずだった漆黒が、なぜか破られていなくて、未だに魔王は出てこれていない。
……魔王って名前がつくくらいだ、相当強いことに間違いないのだ。しかし、未だに出てきていない。
「……まぁ、強いだろうね。実質的に封印されている間、力も蓄えているだろうし。私たちが全力でかかったところで、勝率は五分五分だろうね」
「そんなに……?!」
「……魔王が何を力に変えているのか分からないんだけど、テラーの読んでくれた内容から察するに、多分、人の『感情』だと思うんだよね」
ドロウさんが言う。……感情、感情? 魔王が力に変えそうな感情……。死にたいとか、殺したいとか、憎いとか……そういう気持ち。
「マイナスの感情……?」
「違うよー」
そう、どこか気の抜けた声でアイリーンさんが言う。チョコレートを食べて、それを飲み込んで、言葉を続ける。
「漆黒の中は曖昧だからちゃんとは分かんなかったんだけどー、千里眼で見えたのはねー、もっともっと強い感情ってこと。
実はマイナス思考の気持ちってそんなに強くなくて、一瞬のものがほとんどでねー。継続的に強い力を得るなら、プラス思考の気持ちの方が都合がいいんだー」
「さっきの書記にも、『誰もが持っている感情であり、欲』ってあったからね。殺人願望や自殺願望、誰しもが持ってる訳じゃないでしょ?」
「そりゃ……」
そうだけど、だとしたらなんだというのだ。僕らが持っている感情。誰もが持っている、欲。
「……もっと気になるのが、そんな魔王を押さえつけたであろう『力』だ」
「……姉さんに、心当たりはあるのか?」
「いや、あの時期は丁度…………ん、忘れてくれ。
とにかく、心当たりはないんだ。誰もが持っている欲を力として取り込んだとしたら、魔王はかなりの力を蓄えていたことになるだろう? それを押さえられるだけの力なんて……」
……サラさんが一瞬いい淀んだそれ。それは……8年前、アリアさんのお母さんが亡くなったころだろう。それを言わなかったのだ。理由は……この場にいる誰もが分かっている。
「……さてさて、ここで問題になるのが……過信してる訳じゃないよ? ただ本当のことだから言うわけだけど『個性の塊's以上に強い者はいるのか』ってこと」
「いちゃ困る」
「まぁいるけどね」
「いるんですか!?」
「いるよー!」
「誰が……」
……個性の塊'sのみなさんが、一斉に僕を指差す。僕は後ろを振り向き、キョロキョロと辺りを見渡し、ゆっくりと自分を指差した。
「…………僕?」
「そう」
「僕ですか?」
「そう」
「……またまたまたぁ!」
「いや、本当に」
「…………」
あまりにも真顔で言われてしまって、反撃する気力すら失われてしまった。『っていうのは嘘でー』とか、そういうのはないんですか? ないの?
「もしも、ウタくんが勇気を発動させて、本気で私たちを殺そうとしてくるなら……多分勝てないよ」
「それは、個人的な感情抜きでか?」
「私らならともかく、ジュノンはそもそもその辺り気にしてないから」
「そんなことないよー」
「……とにかく」
「おいこら」
「本気を出したウタくんはめっちゃ強いよってこと。特殊職の能力でこっちの行動まで読まれちゃうとどうしようもないよ。
……ま、8年前なんてウタくんはおろか、私たちも普通に地球で過ごしてたからね。私たちが関わってるわけじゃないと思うけど」
「とりあえず、今私たちを越える可能性がある力は三つ」
ドロウさんがその場を区切り、その三つを提示する。……二つは、なんとなく分かるのだけど。
「一つは、ウタくん。つまりは自己犠牲の勇気。
二つ目はディラン・キャンベル。自己防衛の勇気」
(……やっぱり)
僕が入っているのなら、ディランさんは入っている気がしていた。気になるのは……三つ目。
「三つ目は、神」
「…………」
あまりにも予想外な言葉で、何を言ったらいいのか、分からなくなった。だって……そりゃ、神様は強いんだから、越える可能性は……100%あるだろう。でも、それをあえて提示したってことは、何か、ある。
「……神様もいろいろいる。それは分かってるだろうけど、少なくとも私たちを召喚した神様は、私たちより強くないよ」
「そうなんですか!?」
「うん。……だから、他の神様。
神様はずっとこの世界にいたわけだから、魔王を押さえつけたのは、多分神様。ただし、神は人に直接的には関われない。そう考えると……元人間の神様、ってことになるかな」
「ちょ、ちょっと分からなくてなってきた……」
「僕も混乱してます……」
「……まぁ前置きはこれくらいにして、そろそろ、悪魔を倒す作戦を実行していきましょうか?」
「それ……僕ら、どうすればいいんですか?」
するとジュノンさんはニッコリと微笑んで、とってもいい笑顔で言う。
「囮になるのと、犠牲になるのと、どっちがいーい?」
「どっちも嫌です!」
サラさんが、唐突に当たり前のことを聞く。でも、僕だってそう聞きたかった。8年前に破られるはずだった漆黒が、なぜか破られていなくて、未だに魔王は出てこれていない。
……魔王って名前がつくくらいだ、相当強いことに間違いないのだ。しかし、未だに出てきていない。
「……まぁ、強いだろうね。実質的に封印されている間、力も蓄えているだろうし。私たちが全力でかかったところで、勝率は五分五分だろうね」
「そんなに……?!」
「……魔王が何を力に変えているのか分からないんだけど、テラーの読んでくれた内容から察するに、多分、人の『感情』だと思うんだよね」
ドロウさんが言う。……感情、感情? 魔王が力に変えそうな感情……。死にたいとか、殺したいとか、憎いとか……そういう気持ち。
「マイナスの感情……?」
「違うよー」
そう、どこか気の抜けた声でアイリーンさんが言う。チョコレートを食べて、それを飲み込んで、言葉を続ける。
「漆黒の中は曖昧だからちゃんとは分かんなかったんだけどー、千里眼で見えたのはねー、もっともっと強い感情ってこと。
実はマイナス思考の気持ちってそんなに強くなくて、一瞬のものがほとんどでねー。継続的に強い力を得るなら、プラス思考の気持ちの方が都合がいいんだー」
「さっきの書記にも、『誰もが持っている感情であり、欲』ってあったからね。殺人願望や自殺願望、誰しもが持ってる訳じゃないでしょ?」
「そりゃ……」
そうだけど、だとしたらなんだというのだ。僕らが持っている感情。誰もが持っている、欲。
「……もっと気になるのが、そんな魔王を押さえつけたであろう『力』だ」
「……姉さんに、心当たりはあるのか?」
「いや、あの時期は丁度…………ん、忘れてくれ。
とにかく、心当たりはないんだ。誰もが持っている欲を力として取り込んだとしたら、魔王はかなりの力を蓄えていたことになるだろう? それを押さえられるだけの力なんて……」
……サラさんが一瞬いい淀んだそれ。それは……8年前、アリアさんのお母さんが亡くなったころだろう。それを言わなかったのだ。理由は……この場にいる誰もが分かっている。
「……さてさて、ここで問題になるのが……過信してる訳じゃないよ? ただ本当のことだから言うわけだけど『個性の塊's以上に強い者はいるのか』ってこと」
「いちゃ困る」
「まぁいるけどね」
「いるんですか!?」
「いるよー!」
「誰が……」
……個性の塊'sのみなさんが、一斉に僕を指差す。僕は後ろを振り向き、キョロキョロと辺りを見渡し、ゆっくりと自分を指差した。
「…………僕?」
「そう」
「僕ですか?」
「そう」
「……またまたまたぁ!」
「いや、本当に」
「…………」
あまりにも真顔で言われてしまって、反撃する気力すら失われてしまった。『っていうのは嘘でー』とか、そういうのはないんですか? ないの?
「もしも、ウタくんが勇気を発動させて、本気で私たちを殺そうとしてくるなら……多分勝てないよ」
「それは、個人的な感情抜きでか?」
「私らならともかく、ジュノンはそもそもその辺り気にしてないから」
「そんなことないよー」
「……とにかく」
「おいこら」
「本気を出したウタくんはめっちゃ強いよってこと。特殊職の能力でこっちの行動まで読まれちゃうとどうしようもないよ。
……ま、8年前なんてウタくんはおろか、私たちも普通に地球で過ごしてたからね。私たちが関わってるわけじゃないと思うけど」
「とりあえず、今私たちを越える可能性がある力は三つ」
ドロウさんがその場を区切り、その三つを提示する。……二つは、なんとなく分かるのだけど。
「一つは、ウタくん。つまりは自己犠牲の勇気。
二つ目はディラン・キャンベル。自己防衛の勇気」
(……やっぱり)
僕が入っているのなら、ディランさんは入っている気がしていた。気になるのは……三つ目。
「三つ目は、神」
「…………」
あまりにも予想外な言葉で、何を言ったらいいのか、分からなくなった。だって……そりゃ、神様は強いんだから、越える可能性は……100%あるだろう。でも、それをあえて提示したってことは、何か、ある。
「……神様もいろいろいる。それは分かってるだろうけど、少なくとも私たちを召喚した神様は、私たちより強くないよ」
「そうなんですか!?」
「うん。……だから、他の神様。
神様はずっとこの世界にいたわけだから、魔王を押さえつけたのは、多分神様。ただし、神は人に直接的には関われない。そう考えると……元人間の神様、ってことになるかな」
「ちょ、ちょっと分からなくてなってきた……」
「僕も混乱してます……」
「……まぁ前置きはこれくらいにして、そろそろ、悪魔を倒す作戦を実行していきましょうか?」
「それ……僕ら、どうすればいいんですか?」
するとジュノンさんはニッコリと微笑んで、とってもいい笑顔で言う。
「囮になるのと、犠牲になるのと、どっちがいーい?」
「どっちも嫌です!」
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