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届かない想いに身を寄せて

それなら

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「……うん、そっか」


 どこか安心したようにも見える、ジュノンさんの表情。それを見ている他のメンバーも、どこかホッとしているように感じた。
 不意に、テラーさんが立ち上がり、僕の前に立つ。何かと思って見上げていると、その手が僕の胸に触れ、輝いた。


「じゃあ……これは、返してもらうからね」


 現れたのは、魔方陣……。僕らを助けてくれた魔方陣だ。それは、僕の体から出ていき、スッと、溶けるように消え去った。


「あっ……」

「もう大丈夫でしょ?」

「あの……その、それは結局、なんだったんですか? 魔法……ですよね?」

「『緊急召喚権の付与』って魔法かな。術者……この場合は私が、ウタくんがピンチになったときに強制的に召喚されるって魔法。魔方陣がその権利になる。
 あのまま行ってたら、確実に悪魔と対峙することになる。……とても敵う相手じゃないって思ってたから」


 テラーさんは少し微笑み、僕にその魔法について教えてくれる。……しかし、その言葉やしぐさから、もう使う気は無いということが、ひしひしと伝わってきた。


「それはやっぱり……無属性、なんでしょうか?」

「お、よく知ってるね。そのとーり。この魔法は無属性だよ。熟練度は9。まぁ逆に? それくらいないと召喚されても意味無いからね。
 ……魔法使いの私ならともかく、みんなはそこまでは達していないからね。だからジュノンも、私に託したんでしょー?」

「しらーん」

「素直じゃないなぁ、乙女かよー」

「侵略すされたいのかな?」

「ごめんなさい」

「よろしい」


 ふと、そのとき


『ここは……どこ、だ?』

「……アリアさん?」

「え?」


 僕は咄嗟に立ち上がる。貰ったチョコレートを食べていないからか、まだ体が痛んだ。チョコを口に放り込んで、そして、最初に僕が寝ていた部屋の扉を開く。
 そこには、頭を抱えてうずくまるアリアさんの姿があった。


「アリアさん……!」

「…………ウタ?」

「よかった……とりあえず、こっちに……。肩貸しますから」

「……あぁ」


 半ば僕にもたれ掛かるような形で、アリアさんは僕の首に腕を回す。ゆっくりと立ち上がって塊'sがいる部屋に向かうと、ドロウさんが椅子を出してくれていた。


「ここ、座りなよ」

「ドロウ……あぁそっか、ここはドロウの……」

「アリアさん、とりあえず座ってください」


 ドロウさんが出してくれた椅子にアリアさんをそっと座らせる。そのアリアさんにアイリーンさんはチョコレートを差し出した。


「はい、チョコー! ……多少良くなると思うよ?」

「多少じゃないだろ……ありがとう」

「……それで、話戻すけど、アリアさん説明いる?」

「あぁ、頼む……。ざっくりでいいから」


 ざっくり、と言ってもある程度時間はかかる。2、3分ほどかけて悪魔のこと、今の状況を伝える。


「そんな感じだけど……どう?」

「ありがとうドロウ。大丈夫だ、分からなくなったら言う。……それで、私たちは、どれくらい寝ていたんだ? 見た感じ、ウタが一番か?」

「そうだね! ウタくんが一番だよ。さっすが男の子は違うねぇー」

「とはいっても……」


 テラーさんが少し言葉を濁らせる。そこから、僕らがどれだけ長い時間寝ていたのか、分かる。


「……強制召喚は、HPかMPが10分の1未満にならないと発動しないんだ。
 ウタくんは感覚で分かるかもしれないけど……あくまでもHPは、肉体の丈夫さとか数値化したものだから、HPが減ってなくても体に負担がかかる時……纏っている魔力が薄まったりとか、そういうのは反映されないんだ」

「テラーが何を言いたいかって、数値で分かる以上に、ウタくんたちの体には負担がかかってたってこと。んで、だからこそ叩き起こすわけにもいかなかったわけさ」


 ジュノンさんが、そっと組んだ腕を戻し、指を一本立てる。
 一日以上……そんなに……?


「……一週間」

「…………え」

「ウタくんが目を覚ますまで、一週間かかった。ポロンくんとフローラ、あとスラちゃんは、多分あと2、3日。ドラくんはあと1日。レイナとロインは早ければ今日だね」


 一週間……一週間、だって?
 それだけあれば、何が出来る? 相手は何をしていた?
 僕らに関しての間違った情報を流す、僕らの行方を探して殺しに来る、国民に殺意を植え付ける……。やれることなど、山ほどある。


「……止めたいんだよね? マルティネスとクラーミルの戦争を」


 そう念を押すジュノンさんに、僕は、力強くうなずいた。


「はい。……他のことは、分からないけど、でも、戦争は避けたいし避けなくちゃいけない……。それだけは、僕の中ではっきりしています」

「……そう」


 ジュノンさんが、アイテムボックスから、何かを取り出した。それはどうやら地図のようで、大陸のようなものや、海がかかれている。
 その地図の中で、一際目がつく場所があった。地図の左下の方……何もないそこに、何やら赤い印がつけられていた。


「それなら、これを見ながら話そうか? ……今回の事は、厄介だからね。ある程度の協力関係を結ぼうじゃないですか。Unfinishedさん?」


 そう笑うジュノンさんの目の奥には、何か、深いものが光っていた。
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