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信じるべきは君か悪魔か
こんばんは
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クラーミル国内の、とある、暗い暗い場所。一年中じめじめとして、一日中日も当たらない。誰かが来ることなんて、まず、普通ならあり得ない場所。
そこに、悪魔はたたずんでいた。
この場所の陰りの原因となっているであろう高い塀。それに背中を預けて、ゆっくりとタバコをふかした。彼の目の前にあがる、白く細い煙。それは、不意に吹いた強い風によってどこかに流れていってしまった。
一年中じめじめとしている場所……というのはもちろん、風通しも悪い場所だ。こう強い風が吹くことは珍しい。いや、あり得ないことであろう。例えば、
「…………」
誰もいないはずのそこに人がいて、その人はタバコが嫌いだった……とかでない限り。
「こんばんは」
「……あぁ、あなたですか。どうもこんばんは」
「今さらそんな、敬語とか使わなくてもいいのに」
「……あいつらを、助けたらしいな」
「私じゃないけどね、助けたのは」
朗らかに……なんて表現とは程遠い笑みを浮かべながら、個性の塊'sリーダー、ジュノンは笑う。悪魔はそれを一瞥し、はぁっと大きくため息をついた。
「……なんのつもりだ?」
「なんのつもりって?」
「わざわざ俺と接触して……どういうつもりなのかと聞いている」
「どういうつもりだと思う?」
「少なくとも、いい気分ではないな」
ジュノンはすっと悪魔に近づきタバコを奪うと、地面に落とし、静かに踏み潰す。地面にタバコが押し付けられ、火が消える音がする。
「まぁ、何がどうって訳でもないんだけどさ? 言うこと聞くとも思えないし。でも、一応警告しておくよ。
……これ以上、Unfinishedとレイナ、ロイン・クラーミルに関わるのはやめておきな」
「……ほう?」
少し興味を持ったのか、悪魔は顔をあげ、ジュノンを見つめる。ジュノンはその視線を感じたのか、クスリと小さく笑い、悪魔の次の言葉を待つ。
「…………理由は?」
「そうだねぇ……死ぬから?」
少し驚いたようにも見えた悪魔だったが、やがて笑いだし、ジュノンに詰め寄る。それに少しも物怖じすることなく、ジュノンは笑っている。
「おいおい……。あんたら塊'sならともかく、俺がUnfinishedに負ける? そういうことを言っているのか?」
「簡単に言えばそうだね」
「なんだぁ? ……ついにお前までバカになったのか? ジュノンさんよ。個性の塊'sリーダーってのは、もっと賢いと思ってたぜ?」
「まぁ、賢いよ? お前よりは」
「言ってくれるな。俺があんな雑魚に負けるとか言ってるくせによ」
しかし、ジュノンが意見を変えることはない。
「事実だよ?」
そのジュノンの態度に、悪魔の表情が一瞬曇る。それは、とある『可能性』を見いだしたからだろう。
「……まさか、お前らが力を貸すのか? 神に動きを制限されているはずの、お前らがか?」
「いや、それはないよ。めんどくさいし。そこまで手を貸す義理はない」
「……無慈悲だな」
「そうかな? 私は情ある優しい女の子だよ?」
どこか安心したように悪魔が笑う。それを見て、ジュノンは嘲笑うように悪魔を見る。
「……それに、これは悪魔さんに対する慈悲のつもりなんだけどなぁ?」
「はぁ? 本気で言ってるのか? 俺が、あんなへなちょこどもに負けるなんて。
確かにあのドラゴンは強かった。だが主人を潰してしまえば大したことない」
「その『主人』を……本当に潰せるの?」
いよいよ、悪魔は笑いだした。声をあげて、腹を抱えて。ジュノンは少しも表情を変えないまま、それをじっと見つめていた。
「俺が!? あっはは! 俺があいつを殺せないと!? 俺があのへなちょこを殺せないと!? ジュノン様が言うような言葉に思えねぇなぁ!
……お前には俺は勝てないさ。それは分かる。でも、あいつには勝てる。
『勇気』……だっけな? あのスキルは。あの程度、俺の敵じゃない。『封じて』しまえば全く問題じゃないのさ」
その様子を見てジュノンはあきれたようにため息をつき、「じゃ、もういいよ」と踵をかえした。
「どうなっても、知らないからね」
「……おい待て」
悪魔がジュノンに声をかける。ジュノンは目だけをそちらに向ける。悪魔はその彼女の腕を掴み、軽く引き寄せると笑った。
「……なぁ、一応聞くが、どこまで知っている?」
「…………」
「お前は『こっち側』に来る気はないのか? 歓迎するぜ?」
どこまで……か。
ジュノンは思考を巡らせた。推測を含むならば、ほぼ全て。確信だけならば80%程度。だからこそ悪魔のいう『こっち側』を理解できているわけだが。
「……ふぅん、面白いこと言うね」
しかし、どんな形になったところで、ジュノンの本分は『勇者』であった。そして、何より大切なのは、Unfinishedのことでも、国のことでもない。
自分自身の、仲間であった。
ジュノンは悪魔の手を強く振り払うと同時に闇魔法で鎌を造りだし、それを悪魔の首もとに突きつけ、嗤った。
「――死にたいのかな?」
「…………」
「……じゃあ、おやすみなさい。次会うときに、生きてるといいね?
せいぜい生きてみろ」
ジュノンはそう言い残して、闇夜に消えた。
彼女がUnfinishedの味方をするのは、ヤナギハラ・ウタに興味を持ったのはもちろんのこと、個性の塊'sの他のメンバーがUnfinishedを気にかけているのが大きかった。
そこに、悪魔はたたずんでいた。
この場所の陰りの原因となっているであろう高い塀。それに背中を預けて、ゆっくりとタバコをふかした。彼の目の前にあがる、白く細い煙。それは、不意に吹いた強い風によってどこかに流れていってしまった。
一年中じめじめとしている場所……というのはもちろん、風通しも悪い場所だ。こう強い風が吹くことは珍しい。いや、あり得ないことであろう。例えば、
「…………」
誰もいないはずのそこに人がいて、その人はタバコが嫌いだった……とかでない限り。
「こんばんは」
「……あぁ、あなたですか。どうもこんばんは」
「今さらそんな、敬語とか使わなくてもいいのに」
「……あいつらを、助けたらしいな」
「私じゃないけどね、助けたのは」
朗らかに……なんて表現とは程遠い笑みを浮かべながら、個性の塊'sリーダー、ジュノンは笑う。悪魔はそれを一瞥し、はぁっと大きくため息をついた。
「……なんのつもりだ?」
「なんのつもりって?」
「わざわざ俺と接触して……どういうつもりなのかと聞いている」
「どういうつもりだと思う?」
「少なくとも、いい気分ではないな」
ジュノンはすっと悪魔に近づきタバコを奪うと、地面に落とし、静かに踏み潰す。地面にタバコが押し付けられ、火が消える音がする。
「まぁ、何がどうって訳でもないんだけどさ? 言うこと聞くとも思えないし。でも、一応警告しておくよ。
……これ以上、Unfinishedとレイナ、ロイン・クラーミルに関わるのはやめておきな」
「……ほう?」
少し興味を持ったのか、悪魔は顔をあげ、ジュノンを見つめる。ジュノンはその視線を感じたのか、クスリと小さく笑い、悪魔の次の言葉を待つ。
「…………理由は?」
「そうだねぇ……死ぬから?」
少し驚いたようにも見えた悪魔だったが、やがて笑いだし、ジュノンに詰め寄る。それに少しも物怖じすることなく、ジュノンは笑っている。
「おいおい……。あんたら塊'sならともかく、俺がUnfinishedに負ける? そういうことを言っているのか?」
「簡単に言えばそうだね」
「なんだぁ? ……ついにお前までバカになったのか? ジュノンさんよ。個性の塊'sリーダーってのは、もっと賢いと思ってたぜ?」
「まぁ、賢いよ? お前よりは」
「言ってくれるな。俺があんな雑魚に負けるとか言ってるくせによ」
しかし、ジュノンが意見を変えることはない。
「事実だよ?」
そのジュノンの態度に、悪魔の表情が一瞬曇る。それは、とある『可能性』を見いだしたからだろう。
「……まさか、お前らが力を貸すのか? 神に動きを制限されているはずの、お前らがか?」
「いや、それはないよ。めんどくさいし。そこまで手を貸す義理はない」
「……無慈悲だな」
「そうかな? 私は情ある優しい女の子だよ?」
どこか安心したように悪魔が笑う。それを見て、ジュノンは嘲笑うように悪魔を見る。
「……それに、これは悪魔さんに対する慈悲のつもりなんだけどなぁ?」
「はぁ? 本気で言ってるのか? 俺が、あんなへなちょこどもに負けるなんて。
確かにあのドラゴンは強かった。だが主人を潰してしまえば大したことない」
「その『主人』を……本当に潰せるの?」
いよいよ、悪魔は笑いだした。声をあげて、腹を抱えて。ジュノンは少しも表情を変えないまま、それをじっと見つめていた。
「俺が!? あっはは! 俺があいつを殺せないと!? 俺があのへなちょこを殺せないと!? ジュノン様が言うような言葉に思えねぇなぁ!
……お前には俺は勝てないさ。それは分かる。でも、あいつには勝てる。
『勇気』……だっけな? あのスキルは。あの程度、俺の敵じゃない。『封じて』しまえば全く問題じゃないのさ」
その様子を見てジュノンはあきれたようにため息をつき、「じゃ、もういいよ」と踵をかえした。
「どうなっても、知らないからね」
「……おい待て」
悪魔がジュノンに声をかける。ジュノンは目だけをそちらに向ける。悪魔はその彼女の腕を掴み、軽く引き寄せると笑った。
「……なぁ、一応聞くが、どこまで知っている?」
「…………」
「お前は『こっち側』に来る気はないのか? 歓迎するぜ?」
どこまで……か。
ジュノンは思考を巡らせた。推測を含むならば、ほぼ全て。確信だけならば80%程度。だからこそ悪魔のいう『こっち側』を理解できているわけだが。
「……ふぅん、面白いこと言うね」
しかし、どんな形になったところで、ジュノンの本分は『勇者』であった。そして、何より大切なのは、Unfinishedのことでも、国のことでもない。
自分自身の、仲間であった。
ジュノンは悪魔の手を強く振り払うと同時に闇魔法で鎌を造りだし、それを悪魔の首もとに突きつけ、嗤った。
「――死にたいのかな?」
「…………」
「……じゃあ、おやすみなさい。次会うときに、生きてるといいね?
せいぜい生きてみろ」
ジュノンはそう言い残して、闇夜に消えた。
彼女がUnfinishedの味方をするのは、ヤナギハラ・ウタに興味を持ったのはもちろんのこと、個性の塊'sの他のメンバーがUnfinishedを気にかけているのが大きかった。
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