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信じるべきは君か悪魔か

内部

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 遺跡の中はじっとりとしていて、ドラくんやスラちゃんがいう『乾いている』とは逆に、じめじめと湿った空気がこもっていた。
 天井はあまり高くなく、手を伸ばして背伸びすれば届いてしまうくらいだった。

 ふと、アリアさんが振り向き、スラちゃんかドラくんに抱えられてるのを見た。そして心配そうに駆け寄り、僕を見る。


「スラちゃん……?! どうかしたのか?! 大丈夫か!?」

「うん……大丈夫だよ、アリア。心配しないで」

「でも」

「どうもこの辺の魔力が薄くてな。我らには少し負担がかかるんだ。なに、命に関わるようなことではないさ。いつも通り戦えもする。
 こっちは、レベルが我より低いからこう影響を受けているだけだ」

「……そうか? なら、進むけど、本当に大丈夫だな?
 スラちゃん、しんどくなったらすぐ言うんだぞ?」

「うん……」

『にしてもこの空気、やはり少し辛いか』

「ドラくんも大丈夫? 無理しないでね?」

「……ん?」


 僕はただドラくんの言葉に言葉を返しただけのつもりだったのだが、ドラくんはキョトンとした感じで、不思議そうに僕を見ている。


「我は平気だと言っただろう?」

「え、でも今辛いって言わなかった?」

「いや……なにもいっていないが?」

「あれー?」


 ……まただ。また、声として発せられていない言葉を、僕は聞いている。
 アリアさんの時とは違う。あのときは、直感的に全部わかっていたのだ。……それとは違う。確実に聞こえている。しかし、みんなは声に出していないのだ。そんなの、おかしい。


「この辺……壁とか天井とか、今にも崩れそうですね」


 考え込む僕をよそ目に、フローラが壁を撫でながら呟く。……まぁ確かに、昔の技術で造られたものだし、そもそもが脆い。月日が経って、きっと余計に壊れやすくなっている。


「万が一の時にはシエルトを使うか……使えるようになってから日が浅いから、ちゃんと使えるか微妙なところだが」

「お願いします。あっ、でも、個性の塊'sにもらった魔属性球体に、まだガーディアが残ってますから、最悪それで」

「手数が多いに越したことはありませんよ。この奥はさらに崩れやすいので」


 ブリスさんの言葉に気を引きしめ奥へと進む。そして、最初の部屋の前に来たときだった。レイナさんが屈みながら小さな入り口をくぐろうとすると、少し焦った様子で、ドラくんが声をあげる。


「おい! ちょっと待て!」


 突然のことで忘れていたのだろう。……レイナさんは、声が聞こえない。動きを止めることなくレイナさんは進もうとする。


「ま、待ってください!」


 そこを、とっさにフローラが後ろからしがみつき、無理矢理動きを止めた。急に抱きつかれたことに驚いたのか、レイナさんは動きを止め、こちら側に戻ってきた。


『なに? どうしたの?』

「ドラくん……?」

「……向こうから、何かの気配がする。魔物かもしれない。それも……数が多いな」

「あれ……でも、ここは魔力が薄いんだろ? 魔物たちが好んで住むとは思えないんだが」


 瞬間、小さな入り口に僅かに衝撃が走り、入り口の周辺がボロボロと崩れ落ちた。そしてそこから、10数匹のウルフが飛び出してきた。
 ……いや、ウルフ程度ならばドラくんがいれば一瞬だろう。レベルも、ドロウさんが使役していたのとは比べ物にならないくらい低い。しかし、それよりも僕らが感じていたのは、そのウルフの異常さだった。

 焦点が全くあっていない瞳に、ブルブルと震え、痙攣し続けている体。茶色っぽかった毛は青紫色に変色し、体の一部が抉れ、骨がむき出しになっている。しかし、血は流れていない。

 これは本当に……僕らの知っている、『ウルフ』という魔物なのだろうか? もしかしたら何か、違う魔物で、僕らがそれを知らないだけなのではないか?
 そう思ってしまうほどに……『それ』は異常であった。


「レイナ離れろ! ……亜種か?」

「亜種?」

「おいら知ってる。人もそうだけど、たまに魔物って、奇形で生まれてくることがあるんだ。大体は死んじまうんだけど、その中でもごく稀に生き残るやつがいるんだって。それを魔物では、亜種って呼ぶらしい」

「でも、確か亜種って、群れて行動することはないはずじゃ……。こんなにたくさんの亜種が、どうしてこんなところに……」


 亜種……そう言われれば納得する部分も大きい。亜種のウルフたちは、通常のウルフと同様に……いや、それ以上に僕らに敵意を向ける。
 数も数だ。……殺さないと、先に進むことはできない。しかし、僕はそれを、どこかで躊躇ってしまった。

 亜種だからか……それとも、ここの独特という空気にやられてしまっているのか、ウルフたちは正気を保っていなかった。なぜ僕らを襲うのか? ……取って喰おうとしている訳じゃない。そんな思考すら、もうない。
 ただ僕らが目の前に現れたから。
 それだけの理由で、ウルフたちは、僕らを殺そうとしている。敵意を向けている。


「…………」


 僕は、ドラくんにそっと近づき、ドラくんの代わりにスラちゃんを抱き抱えた。


「……ドラくん、」

「お主の言いたいことくらい、いい加減分かるようになった。
 ……お主ら! 全員我の後ろに下がれ! アリア殿は、レイナ殿と一緒に」

「……分かった」

「大丈夫なのですか? 一人で……亜種は、通常の個体よりも強力だといいますが……。
 失礼ですが、彼はあなたの使役しているドラゴン。あなたより、弱いのでしょう?」

「大丈夫です」


 ドラくんは、スッと目を閉じ、そして開く。その瞳は、金色に爛々と輝いていた。


「ドラくんは、強いですよ」
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