上 下
248 / 387
信じるべきは君か悪魔か

遺跡へ

しおりを挟む
 今日から遺跡へ向かう。僕らは宿で朝御飯を食べて、身支度をし、外に出た。
 空は相変わらずの快晴で、太陽が眩しい。


「……本当に曇りの日とかありませんね」

「ま、魔法であれこれしてるからな。……曇りがいいのか?」

「うーん……」


 僕は少し目を細め、冗談混じりに言った。


「ちょっと、眩しすぎるかなって」

「…………」


 そこで、レイナさんとブリスさんがやってきた。レイナさんは僕らを見ると、少し嬉しそうに微笑み、手を動かす。


『来てくれてありがとう』

「別にー! おいらたち、約束は守る主義だもんな!」

「ポロンくん、曲がったこと嫌いそうだもんね」

「昔の反動だい!」

「嘘つきよりはいいんじゃない?」

「そうだい!」

「あはは、そっか」

「……して、これからベネッド遺跡に向かうんだな?」


 ドラくんが確認するように問いかけると、ブリスさんがうなずいた。


「ええ、ここからは遠いので馬車を出します。御者は私がするので問題ありませんよ。食料も私が持っていますが、みなさんも少しは持っていた方がよいかと」

「それなら、僕、三日分くらいは持っていますよ」

「なら大丈夫でしょう。善は急げと言いますし、さっそく向かいましょうか」


 そうして、僕らはベネッド遺跡へと向かうことになった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 確か、ドラくんがいっていた。ベネッド遺跡は、昔、人が山を切り崩して住みかにしていた跡なのだと。その言い方だと、ほぼ全ての人がそこに住んでいた感じがするから、相当大きい感じがする。しかし、現実には……


「……でか」


 その更に上をいっていた。遺跡は僕が想像していたよりも何倍も大きく、山そのものだった。イメージとしては……本物を見たことがないからなんとも言えないけど、マチュピチュと、万里の長城と、ピラミッドの間、みたいな。もしこれが日本にあったら確実に世界遺産だなって感じだ。
 しかし大きい……これ、中の構造によっては今日一日じゃロインを見つけられないんじゃ……。


「……うわぁ」

「すっごい! こんな大きいんだな!」

「そうだな……私も来たのは初めてだが、ここまでとは思っていなかった。こんなに大きなものなんだな」

『クラーミルのベネッド遺跡は、今発見されてるなかでは、世界で一番大きな遺跡だから』

「そうなんですか!」

「我も久々に来たな……。といっても、戦争が起こる前に一度来たきりだが」


 ふと、ブリスさんがなにやら紙を取り出し、僕らに差し出した。ちらりと見ると、それは地図のようだった。


「遺跡内の地図です。人が住んでいましたから、小さな部屋がいくつもありますが、ほとんどは崩れて入れなくなってしまっています。
 構造はたいして複雑ではありません。階段は上と下にそれぞれ続いていますが、上は崩落の可能性があるので結界が張られています。先代の王が張られたもので、本人にしか解けません。その先にいることはないでしょう」

「じゃあ、調べられるのは入ってすぐの辺りと、下に行って、少し大きなこの部屋……それから、この大きな部屋の周りかな」

「入れるところは少ないんですね」

『そもそも古くて立ち入り禁止だから、人が入れるところなんて極僅かなの。……そこに、ロインがいるといいんだけど』

「……大丈夫、きっと見つかりますよ! ね、アリアさん!」

「そうだな。絶対見つけよう」


 そうして僕らが先に進もうとすると、スラちゃんが僕の服の裾を、ぎゅっと、掴んできた。驚いてそちらに目をやると、僕を見ないままスラちゃんは手に力を込め、服を握りしめていた。


「……スラちゃん?」

「…………」

「どうかした……? 大丈夫? 怖いの?」


 するとスラちゃんは、少し意外なことを口にした。


「……乾いてる」

「え……っと、なにが?」

「空気とか、気配とか……全部、乾いてる」


 いまいち理解できなくて首をかしげると、スラちゃんは僕にぎゅっと抱きつき、胸に顔を埋めた。


「……なんか、変だよ、ウタ」

「変……? 変って、なにが?」

「全部。全部が……なんか……変。気持ち悪い……」

「……本当に大丈夫? 待ってる?」

「ううん……一緒にいく……」

「でも」

「絶対、一緒にいくの……」


 困ったな……連れていくのはちょっと心配だ。しかし、置いていくわけにもいかない。すると、ドラくんがそっと近づき、スラちゃんの体を抱き上げた。


「あっ」

「……ウタ殿がよければ、我がこうしてつれていこう。どうせ、連れていくのは不安だが置いていくのも不安とか、そんなこと思ってるんだろう? お主は」

「……よく分かったね」

「お主は分かりやすい。我がいれば、ある程度のことからは守ってやれる。それ以上が起こらないことを願いはするが……。
 確かに、ここの空気はよくない。乾いている」

「その……乾いているっていうのは、普通に乾燥してるってこと、じゃないよね?」

「違うな。……魔物にとってはあまりよくない。魔力が薄い。人にとって、酸素が薄いようなものだな。
 ……なにかいる。気を付けよ、我が主人よ」

「…………」


 なにか……。そのなにかが、この辺りの魔力を奪い取っているのか?
 ドラくんが気をつけろという存在。これまでの、幾度も続いた個性の塊'sの、警告。それは……この事なのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...