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おばけ? 妖怪? 違います!
戻ってきた
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「……ぃ…………にぃ……」
思考にもやがかかってハッキリとしない。頭がズキズキと痛む。なんなんだろう、この痛みは……。
「……たにぃ…………」
何があったっけ? 森に来ていて……ドラくんがマルティネスに……ポロンくんとフローラが、怪しい人影を追いかけて、僕とアリアさんとスラちゃんは…………。
……鼻の奥が、つんと痛くなる。これは、僕がよく知っている感覚。よく知っている感情。そして、スラちゃんがいつも和らげてくれていた感情。
「ウタ兄! ……起きてくれよ、ウタ兄……!」
「…………ポロンくん……」
僕は地面に横たわったまま、そっとポロンくんの頬に手を伸ばす。泣きはらした後なのか、鼻と目元は真っ赤で、それを見る僕の頬にも、つぅと涙が伝った。
「よかった……本当によかった…………!」
体を起こすと、またズキリと頭が痛む。そっと頭を抱えながら、横目で周りを見渡す。
少し離れたところにアリアさんが倒れていて、それをフローラが抱き起こしている。もう少し視野を広げると、警戒するように辺りを見渡すドラくんの姿があった。
そして、スラちゃんの姿はない。
「僕らは……なにが……」
「と、とにかく、一旦体を落ち着けてくれよ。おいらたちも何も分からないんだ。落ち着いて、思い出してくれ」
ゆっくりと記憶をたどる。あのとき……そうだ。二人が人影を追いかけていって、ワイバーンが現れて、なんとか倒して、そのあと足元に魔方陣が……。そしたら急に意識がなくなって、それで、スラちゃんの顔を見て……。
そこで、ハッとする。
あの魔法、スラちゃんには効いていなかった。
対象にされていなかったからか、または、そういう類いの魔法だったからか。どちらにせよ、ここにスラちゃんはいない。最初からスラちゃんを拐うのが目的だったとするならば……。
頭痛がする。思考がそこで途切れる。頭が回らない。どうするべきかが分からない。頭の中がぐちゃぐちゃになって、もう訳が分からない。
「うっ……」
かすかな呻き声がして、アリアさんが体を起こしたのが見えた。頭を抱え、その場にうずくまる。
なんとか助けないと――。そう思いつつも、頭が働かない。
「……何かの気配……人がいるのか?」
ドラくんが不意にそんなことを言う。すると、僕を守るように立ち上がったポロンくんは、懐からナイフを取り出して構えた。
「人……?! もしかして、さっきの」
「違うよー?」
戸惑い警戒する僕らの前に、木々の隙間から現れたのはアイリーンさんだった。
「アイリーン?! 何でおいらたちのこと」
「千里眼使えば、場所くらい分かるってー!」
たたたっと僕らに駆け寄ってきたアイリーンさんは、僕の口にチョコレートをねじ込む。
「んんんんっ?!」
「はーい、アリアさんもー!」
「わ……んんっ…………うまいな」
チョコレートの効果なのか、もやがかかっていた頭が、だんだんと晴れてくる。思考回路がしっかりとする。
一度ゆっくり目を閉じて、深く息を吸って、吐いて、また目を開ける。自分に余裕が出てきた僕はアリアさんの方を見た。
「アリアさん」
「大丈夫だ。チョコレートのおかげかな。お前は?」
「僕も大丈夫ですよ。……あの魔方陣、罠か何かだったんですかね」
「罠だよ」
アイリーンさんが断言する。その瞳の奥には、いつもとは違う光が燃えていた。
「グランス。水と闇、両方の属性を持ってる罠で、空気中の水蒸気に毒を混ぜることで一時的な麻痺を与えることと、相手の思考にもやをかけることができる。
水蒸気なんて空気中に星の数ほどあるからさー、ほぼ避けるのは不可能だね。何せ毒が回るのも超早いしー、継続時間は10分。10分も息止めたままって言うのはねー」
ちなみに、と、アイリーンさんが付け足す。
「水属性を含んでるから、スラちゃんにはほぼ無効、かなー」
そうか……だからスラちゃんは普通に動いていられたんだ。
そんな風に勝手に納得しつつ、僕は目の前のアイリーンさんをまじまじと見つめた。
「……なんで、アイリーンさんが…………?」
「なんでってー?」
「普段はおさくさんが……」
「……一人じゃー、説得力というか、量の問題で? 理解してくれないかもなーって。……直接的には言えないし」
それって、おさくさんが言っていた、『一歩引いて』の話だろうか。それは、スラちゃんとなにか関係あるのだろうか?
「おさくの跡を継いで、ゆっくり話そうと思ったのにー、思ったより動きが早いんだからなー、もー。
とにかく、まずはここでなにがあったのか教えてあげるねー」
そう言ってアイリーンさんは地面に座り、話始めた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
……変な臭い。
頭が痛い。
ウタ……アリア……?
誰もいない。
「誰か!」……叫んでみたけど、聞こえない。
自分の頬に触れてみた。……冷たい。
足に触れてみた……もっと冷たい。
目の前に手を伸ばしてみた……何かに阻まれた。
暗い。怖い。
ウタ……。アリア……。
周りを、液体で満たされている。
息ができる不思議な液体。
その中に、違うものが溶けていくのが分かった。
また……戻ってきてしまった。
連れ戻された。
そう、確信した。
思考にもやがかかってハッキリとしない。頭がズキズキと痛む。なんなんだろう、この痛みは……。
「……たにぃ…………」
何があったっけ? 森に来ていて……ドラくんがマルティネスに……ポロンくんとフローラが、怪しい人影を追いかけて、僕とアリアさんとスラちゃんは…………。
……鼻の奥が、つんと痛くなる。これは、僕がよく知っている感覚。よく知っている感情。そして、スラちゃんがいつも和らげてくれていた感情。
「ウタ兄! ……起きてくれよ、ウタ兄……!」
「…………ポロンくん……」
僕は地面に横たわったまま、そっとポロンくんの頬に手を伸ばす。泣きはらした後なのか、鼻と目元は真っ赤で、それを見る僕の頬にも、つぅと涙が伝った。
「よかった……本当によかった…………!」
体を起こすと、またズキリと頭が痛む。そっと頭を抱えながら、横目で周りを見渡す。
少し離れたところにアリアさんが倒れていて、それをフローラが抱き起こしている。もう少し視野を広げると、警戒するように辺りを見渡すドラくんの姿があった。
そして、スラちゃんの姿はない。
「僕らは……なにが……」
「と、とにかく、一旦体を落ち着けてくれよ。おいらたちも何も分からないんだ。落ち着いて、思い出してくれ」
ゆっくりと記憶をたどる。あのとき……そうだ。二人が人影を追いかけていって、ワイバーンが現れて、なんとか倒して、そのあと足元に魔方陣が……。そしたら急に意識がなくなって、それで、スラちゃんの顔を見て……。
そこで、ハッとする。
あの魔法、スラちゃんには効いていなかった。
対象にされていなかったからか、または、そういう類いの魔法だったからか。どちらにせよ、ここにスラちゃんはいない。最初からスラちゃんを拐うのが目的だったとするならば……。
頭痛がする。思考がそこで途切れる。頭が回らない。どうするべきかが分からない。頭の中がぐちゃぐちゃになって、もう訳が分からない。
「うっ……」
かすかな呻き声がして、アリアさんが体を起こしたのが見えた。頭を抱え、その場にうずくまる。
なんとか助けないと――。そう思いつつも、頭が働かない。
「……何かの気配……人がいるのか?」
ドラくんが不意にそんなことを言う。すると、僕を守るように立ち上がったポロンくんは、懐からナイフを取り出して構えた。
「人……?! もしかして、さっきの」
「違うよー?」
戸惑い警戒する僕らの前に、木々の隙間から現れたのはアイリーンさんだった。
「アイリーン?! 何でおいらたちのこと」
「千里眼使えば、場所くらい分かるってー!」
たたたっと僕らに駆け寄ってきたアイリーンさんは、僕の口にチョコレートをねじ込む。
「んんんんっ?!」
「はーい、アリアさんもー!」
「わ……んんっ…………うまいな」
チョコレートの効果なのか、もやがかかっていた頭が、だんだんと晴れてくる。思考回路がしっかりとする。
一度ゆっくり目を閉じて、深く息を吸って、吐いて、また目を開ける。自分に余裕が出てきた僕はアリアさんの方を見た。
「アリアさん」
「大丈夫だ。チョコレートのおかげかな。お前は?」
「僕も大丈夫ですよ。……あの魔方陣、罠か何かだったんですかね」
「罠だよ」
アイリーンさんが断言する。その瞳の奥には、いつもとは違う光が燃えていた。
「グランス。水と闇、両方の属性を持ってる罠で、空気中の水蒸気に毒を混ぜることで一時的な麻痺を与えることと、相手の思考にもやをかけることができる。
水蒸気なんて空気中に星の数ほどあるからさー、ほぼ避けるのは不可能だね。何せ毒が回るのも超早いしー、継続時間は10分。10分も息止めたままって言うのはねー」
ちなみに、と、アイリーンさんが付け足す。
「水属性を含んでるから、スラちゃんにはほぼ無効、かなー」
そうか……だからスラちゃんは普通に動いていられたんだ。
そんな風に勝手に納得しつつ、僕は目の前のアイリーンさんをまじまじと見つめた。
「……なんで、アイリーンさんが…………?」
「なんでってー?」
「普段はおさくさんが……」
「……一人じゃー、説得力というか、量の問題で? 理解してくれないかもなーって。……直接的には言えないし」
それって、おさくさんが言っていた、『一歩引いて』の話だろうか。それは、スラちゃんとなにか関係あるのだろうか?
「おさくの跡を継いで、ゆっくり話そうと思ったのにー、思ったより動きが早いんだからなー、もー。
とにかく、まずはここでなにがあったのか教えてあげるねー」
そう言ってアイリーンさんは地面に座り、話始めた。
◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈
……変な臭い。
頭が痛い。
ウタ……アリア……?
誰もいない。
「誰か!」……叫んでみたけど、聞こえない。
自分の頬に触れてみた。……冷たい。
足に触れてみた……もっと冷たい。
目の前に手を伸ばしてみた……何かに阻まれた。
暗い。怖い。
ウタ……。アリア……。
周りを、液体で満たされている。
息ができる不思議な液体。
その中に、違うものが溶けていくのが分かった。
また……戻ってきてしまった。
連れ戻された。
そう、確信した。
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