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声にならない声を聞いて

分け与えられた「勇気」

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「…………」

「…………」


 ジャッジメントの光が消えても、僕らはしばらく立ち尽くしたままでいた。大きく地面が抉れ、円状に凹んでいた。ミーレスはその場に倒れ、ピクリとも動かない。僕はそっと近づいて、しゃがみこみ、脈を調べてみる。
 ……うん、脈はある。僕はほっとして立ち上がり、アリアさんの方をみる。


「……終わりましたね」


 そう言いながらアリアさんの方へ歩いていくと、優しく微笑みなから、言葉を返された。


「あぁ……。終わった、な」


 アリアさんがそう微笑んだ瞬間、頭上に何か大きなものが現れ、影が出来る。


「ウタ殿、アリア殿……!」

「ドラくん?!」

「ほら、心配することなかったでしょ?」

「……と、塊's?」


 アリアさんがそれを見て何かを言おうとすると、


「ストーップ!」


 そう言うアイリーンさんが僕らの口にチョコレートを突っ込み、その言葉は遮られた。


「んぐっ?!」

「はい回復かんりょー。
 私たちよりー、もっと心配してる人がいるんだから。その人たちが先ー!」

「…………!」

「ね?」

「んじゃ、こいつはうちらがお持ち帰りしますかっと」

「ですなー。ドラくーん、二人乗っけてきてあげてー!」

「言われなくとも」


 ドラくんがそう答えると、塊'sはミーレスの首根っこを捕まえるとものすごい勢いで走っていった。……はや。


「…………なぁ」


 ふいに、アリアさんがドラくんを突っつく。


「どうした、アリア殿」

「ちょっとだけ……。ちょっとだけ、後ろ向いててくれないか?」

「…………? 心得た」


 そうして、ドラくんが僕らから視線を逸らしたのを確認すると、アリアさんは僕を見て、駆け寄り、


「ウタっ…………!」

「う、わ……!?」


 そのままぎゅっと抱きついた。突然のことに僕は体を支えきれなくて、尻餅をついた。


「あ、アリアさん……?!」

「……ありがとう」


 はっとした。声は、震えていた。
 僕はどうしたらいいのか迷いながら、そっと片手をアリアさんの頭にやった。


「……あはは。お疲れさまでした」

「子供扱いすんな。バカ」

「あっ、そういえば服……」


 気がついた瞬間、アリアさんの素肌が目に飛び込んできて顔が熱くなった。え、えっと……。
 僕はアリアさんを少し離して、視線もちょっと逸らして、ベストを脱ぎながら言う。


「き、気休めですけど、これ着ときます?」

「これくらい大丈夫だぞ? 胸とか見えてないし」

「僕はだいじょばないです。というかそういうの普通に言うの止めてくださいね?」


 脱いだベストをバサッとかけ、アリアさんが腕を通すと、少し大きいのが幸をそうして大分ましになった。


「うん、これでよし。……にしても」

「ん?」

「アリアさん、強すぎません?」

「……ん?」

「ん? じゃないですよ。だって、ステータスは普通で……ええええええっ?!」

「な、なんだ!? 急に大きな声出すな!」

「アリアさん! 自分のステータス! ステータス! はい、せーのっ!」

「す、ステータス!」



名前 アリア

種族 人間

年齢 18

職業 皇女

レベル 4300

HP 6880000

MP 4300000

スキル アイテムボックス・剣術(超上級)・体術(超上級)・初級魔法(熟練度50)・光魔法(熟練度40)・水魔法(熟練度40)・氷魔法(熟練度20)・雷魔法(熟練度30)・回復魔法(熟練度20)

ユニークスキル 王室の加護・魔力向上・ジャッジメント・勇気

称号 次期女王・不屈の精神・甘い物好き・C級冒険者



「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「き、気づいてなかったんですか?!」

「気づいてなかった……」

「なぁ、とても気になる。振り向いてもいいか?」

「あ、あぁ」


 なぜか僕とアリアさんは地面に正座をする。そして、一つ息を吐いて、アリアさんが僕に言う。


「えー……っと、とりあえず、『勇気』鑑定してみてくれないか?」

「なぜ今更?」

「アリアさんのステータスに出没したんだよ」

「……は?」

「と、とにかく! 鑑定します!」


 鑑定した結果は、以下の通りだった。

勇気……分け与えられた勇気。スキル『勇気』の保持者ともう一人の心が強く共鳴し、お互いの限界を越えることで習得、発動する。発動時間は互いの想いが共鳴している間。効果は『勇気』と等しい。

 僕はそれを、読み上げた。そして、アリアさんをみる。


「……分け与えられた、勇気…………」


 そして、二人で意味もなく笑った。


「こりゃまた、大変なもの見つけちまったな!」

「そうですねー! 勇気の新しい使い道ですね!」

「お主らはお気楽だな。大変な力だってこと、分かっていってるのか?」


 ドラくんはそう言ってちょっと呆れてる。僕らだってわかっていない訳じゃない。100倍スキル持ちが、実質的に二人になったのだから。でも……


「なんか、嬉しいですね」

「そうだな。なんか、仲間って感じがしてな」


 旅を始めたばっかりのとき、仲は悪くなかったけど、それでも、まだ出会ってからそんなに経っていないのもあって、僕らはお互いにどこか遠慮していた。個性の塊'sみたいに、遠慮しないでガンガンものを言ったりは出来なかった。
 でも、あの部屋で僕らは言いたいことを言いたいだけ言って、結果として『勇気』をアリアさんが得ることが出来て、ミーレスを倒せて。

 そういうのって、嬉しいなって。


「……それはそれでいいが、お主ら、忘れていないか?」

「「……え?」」

「何を?」


 ドラくんは視線をどこかに向けると、静かに言う。


「王都のほとんどの者は、姫がさらわれ、悲しみや不安にうちひしがれながらも、それを追うことさえ出来なかったんだ」

「……そう、か」


 アリアさんの声が、柔らかくも、悲しいものに変わる。


「……安心させてやらなきゃいけないんじゃないか?」

「……そうだな。ドラくん、連れてってくれ」


 僕らがその大きな背中に乗ると、ドラくんは大きく羽ばたいて飛び立った。

 きっと、アリアさんはまた迷っている。
 旅を続けるべきか、そうしないべきか。
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