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声にならない声を聞いて
執着と勇気
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勇気を発動させているお陰で、着地も上手くいった。怪我もなければ痛みもない。僕はすぐに、ミーレスに目を向けた。
「……ずっと、アリアのことを見てきたんだ。お前なんかよりも、ずっとずっと…………!」
ミーレスが言う。
「あれは……一目惚れだったんだ。私の血に汚れる彼女は美しかった!
あぁ、なんて美しいんだ。こんなに美しい彼女が、自らの血に汚れたとき、一体どれだけ美しくなるのだろう……。考えるだけでもう、他の女は目に入らなくなった!」
なんなんだこいつ。つまりは、きれいな人が、自分の血で汚れた姿に見惚れたのか?
……気持ち悪い。
「彼女は美しい! 彼女は美しい! 瀕死の状態まで追い詰めたとき、彼女はどんな顔をするだろうか?
赤く染まった金色の髪をすくいあげ臭いを嗅ぎたい。あふれでる血に溺れたい!」
何をいってるんだこいつは。少なくとも僕は、そんな弱りきったアリアさんよりも、ポロンくんやフローラと一緒に笑ってるアリアさんの方がきれいに見えた。それなのに、よりにもよって血に汚れている姿が――?
…………気持ち悪い。
「実際に彼女は美しかった! 赤く濡れる服、髪、肌……そして虚ろで何も映さないような瞳。絶望に満ち、感情をもて余した彼女は、完璧な美の石膏だった!」
アリアさんは、人間だ。ミーレスの思い通りになっていい存在じゃない。アリアさんは、自分の意思で動かなければならない。それを……。
…………気持ち、悪い。
「ほらね! 私はこんなにもアリアを見てきたんだ! こんなにもアリアを愛してきた。アリアの全てを愛している! 金色の髪も、赤い瞳も、ピンク色の唇も、白い肌も……。
そして、流れる紅い血も。
私が一番だ。この想いに、お前が敵うわけな――」
「気色悪りぃんだよこのストーカーやろう!」
「……は?」
叫んだのは、突然のことだった。自分でもよく分からなかった。しかし、溢れ出る感情を抑えきることができずに、僕は想いのままに言葉をぶちまける。
「一目惚れだった? 臭いを嗅ぎたい? 全てを愛している……?
――ふざけるな。
血が美しいかどうかは、百歩も千歩も譲ってよしとする。人それぞれの価値観はあると思うから。
でも! ……それが、アリアさんの一番大切なものを、人を奪う理由にはなっていない! アリアさんを傷つける理由にはなっていない!
好きだからって、なんでもかんでも許されるとか思ってるんですか!?」
「そうか。確かに私は自分勝手さ。しかし君はどうだ? 君だって十分自分勝手さ。結局はアリアにいてほしいだけなんだろ?
誰かのためにって言うけど、それは結局エゴなんだよ。自分が優越感に浸りたいだけなんだ。分かるか?」
わかっている。だから僕は、『誰かのために』という言葉が嫌いなんだ。不特定多数の知らない人のために頑張るのはただのエゴだから。そんなものはいらない。功績も名誉もいらない。
――でも、
「アリアさんは、ここから出ることを望んでいます。すくなくとも、ここにいたいとは思っていない。さっきアリアさんにも確認しました」
「それは君が聞いたからだろ? 私なら違うかもしれないよ」
「違わない」
確信は、あった。理由はなかった。
何となく思っていただけなのだ。アリアさんは、きっと大丈夫。
「……なら、その意思を守ってみなよ。ヤナギハラ・ウタ」
僕とミーレス、お互いの剣がぶつかり合い、魔法が反発しあう。一瞬でも気を抜いたら簡単に殺されてしまう。なんてったって、こいつはレベル2000なのだから。
今一度、この攻防のなかで僕はミーレスを鑑定した。
……やはり、僕と同じになっている。僕のこの『勇気』……。どこまで持つかは分からない。でも、やれるだけやらないと……絶対に後悔する!
「ウォーターストリーム!」
僕が魔法を唱えると、ミーレスも手を前に突き出す。
「ファイヤータイフーン!」
お互いの魔法がぶつかり合い、せめぎあう。
……まだ、まだだ! もっと続け! こいつを倒すまでは、まだ!
……だって、アリアさんは、僕を守るためにずっと、戦ってくれたじゃないか。僕だけじゃない。国民もそう。ポロンくんや、フローラや、スラちゃん、ドラくんでさえ守ろうとしていた。
ずっとずっと格上の相手に挑んで、負けて、それでも諦めなくて。最後には、勝ってしまうのだ。
どうして勝てるのかって、それは、気がついたらアリアさんは一人じゃなくなってるからだ。
誰もが、みんなのために戦うアリアさんのことを放っておけなくなる。『誰か』じゃなく、自分達一人一人を知っていて、そのために必死に戦うアリアさんのことが、大切になる。
僕にも、同じ現象が起こっていた。
アリアさんをこのまま残してなんていけない。絶対いけない。
出来る出来ないじゃなくて、やらなきゃいけないんだ。アリアさんのためなら。
「っ……」
炎の勢いが増す。ほんの少し僕が怯んだ瞬間、ミーレスがニヤリと笑った。
「ダークネス」
「ぅあ……っ」
炎に黒い闇が混ざり混む。その分、勢いはどんどん増す。……やっぱり、僕とミーレスじゃ魔法の質が違いすぎる。
このまま、終わってしまうのか?
このまま、助けることも出来ずに?
「……終わりだ」
黒炎が僕に襲いかかった。
「……ずっと、アリアのことを見てきたんだ。お前なんかよりも、ずっとずっと…………!」
ミーレスが言う。
「あれは……一目惚れだったんだ。私の血に汚れる彼女は美しかった!
あぁ、なんて美しいんだ。こんなに美しい彼女が、自らの血に汚れたとき、一体どれだけ美しくなるのだろう……。考えるだけでもう、他の女は目に入らなくなった!」
なんなんだこいつ。つまりは、きれいな人が、自分の血で汚れた姿に見惚れたのか?
……気持ち悪い。
「彼女は美しい! 彼女は美しい! 瀕死の状態まで追い詰めたとき、彼女はどんな顔をするだろうか?
赤く染まった金色の髪をすくいあげ臭いを嗅ぎたい。あふれでる血に溺れたい!」
何をいってるんだこいつは。少なくとも僕は、そんな弱りきったアリアさんよりも、ポロンくんやフローラと一緒に笑ってるアリアさんの方がきれいに見えた。それなのに、よりにもよって血に汚れている姿が――?
…………気持ち悪い。
「実際に彼女は美しかった! 赤く濡れる服、髪、肌……そして虚ろで何も映さないような瞳。絶望に満ち、感情をもて余した彼女は、完璧な美の石膏だった!」
アリアさんは、人間だ。ミーレスの思い通りになっていい存在じゃない。アリアさんは、自分の意思で動かなければならない。それを……。
…………気持ち、悪い。
「ほらね! 私はこんなにもアリアを見てきたんだ! こんなにもアリアを愛してきた。アリアの全てを愛している! 金色の髪も、赤い瞳も、ピンク色の唇も、白い肌も……。
そして、流れる紅い血も。
私が一番だ。この想いに、お前が敵うわけな――」
「気色悪りぃんだよこのストーカーやろう!」
「……は?」
叫んだのは、突然のことだった。自分でもよく分からなかった。しかし、溢れ出る感情を抑えきることができずに、僕は想いのままに言葉をぶちまける。
「一目惚れだった? 臭いを嗅ぎたい? 全てを愛している……?
――ふざけるな。
血が美しいかどうかは、百歩も千歩も譲ってよしとする。人それぞれの価値観はあると思うから。
でも! ……それが、アリアさんの一番大切なものを、人を奪う理由にはなっていない! アリアさんを傷つける理由にはなっていない!
好きだからって、なんでもかんでも許されるとか思ってるんですか!?」
「そうか。確かに私は自分勝手さ。しかし君はどうだ? 君だって十分自分勝手さ。結局はアリアにいてほしいだけなんだろ?
誰かのためにって言うけど、それは結局エゴなんだよ。自分が優越感に浸りたいだけなんだ。分かるか?」
わかっている。だから僕は、『誰かのために』という言葉が嫌いなんだ。不特定多数の知らない人のために頑張るのはただのエゴだから。そんなものはいらない。功績も名誉もいらない。
――でも、
「アリアさんは、ここから出ることを望んでいます。すくなくとも、ここにいたいとは思っていない。さっきアリアさんにも確認しました」
「それは君が聞いたからだろ? 私なら違うかもしれないよ」
「違わない」
確信は、あった。理由はなかった。
何となく思っていただけなのだ。アリアさんは、きっと大丈夫。
「……なら、その意思を守ってみなよ。ヤナギハラ・ウタ」
僕とミーレス、お互いの剣がぶつかり合い、魔法が反発しあう。一瞬でも気を抜いたら簡単に殺されてしまう。なんてったって、こいつはレベル2000なのだから。
今一度、この攻防のなかで僕はミーレスを鑑定した。
……やはり、僕と同じになっている。僕のこの『勇気』……。どこまで持つかは分からない。でも、やれるだけやらないと……絶対に後悔する!
「ウォーターストリーム!」
僕が魔法を唱えると、ミーレスも手を前に突き出す。
「ファイヤータイフーン!」
お互いの魔法がぶつかり合い、せめぎあう。
……まだ、まだだ! もっと続け! こいつを倒すまでは、まだ!
……だって、アリアさんは、僕を守るためにずっと、戦ってくれたじゃないか。僕だけじゃない。国民もそう。ポロンくんや、フローラや、スラちゃん、ドラくんでさえ守ろうとしていた。
ずっとずっと格上の相手に挑んで、負けて、それでも諦めなくて。最後には、勝ってしまうのだ。
どうして勝てるのかって、それは、気がついたらアリアさんは一人じゃなくなってるからだ。
誰もが、みんなのために戦うアリアさんのことを放っておけなくなる。『誰か』じゃなく、自分達一人一人を知っていて、そのために必死に戦うアリアさんのことが、大切になる。
僕にも、同じ現象が起こっていた。
アリアさんをこのまま残してなんていけない。絶対いけない。
出来る出来ないじゃなくて、やらなきゃいけないんだ。アリアさんのためなら。
「っ……」
炎の勢いが増す。ほんの少し僕が怯んだ瞬間、ミーレスがニヤリと笑った。
「ダークネス」
「ぅあ……っ」
炎に黒い闇が混ざり混む。その分、勢いはどんどん増す。……やっぱり、僕とミーレスじゃ魔法の質が違いすぎる。
このまま、終わってしまうのか?
このまま、助けることも出来ずに?
「……終わりだ」
黒炎が僕に襲いかかった。
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