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ワクワク! ドキドキ! 小人ライフ!
責任
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(……眠れないよな)
僕は毛布にくるまったまま、目を開ける。あのあと、夕食をとる時間はあったのだけれど、結局、鳥のことについては一切聞くことができなかった。
それどころか、なんだか話すのも気まずくなってしまって……。そんなつもりじゃ、なかったんだけどなぁ。
そして、僕らはなにも出来ずにベッドに潜るしかなかった。今回はアリアさんのこととかよりも、街で起こったことが気になって眠れない。
ちらっと横を見ると、ポロンくんは眠っているようだった。……よかった。あんまり気にしててもかわいそうだ。
サラさんは、余計なことはするなって言ってたけど……でも、実際に被害はあるわけで、もしもあの場にサラさんがいなかったら、確実に二人は死んでいた。
……余計なことって、なんだろう? 鳥のことを調べること? 人に話を聞くこと? それとも、そもそもこの国に入ってきたこと?。
そうやって悶々と考えていると、ふと、向こうの方でごそごそと音がした。特に意味はないが、息をひそめ、そおっと毛布の隙間から覗く。
「……アリア、さん…………?」
アリアさんがベッドから起き出して、どこかへ向かうのが見えた。部屋のドアが開き、閉まる音がした。
僕は少し急いでベッドから降りると、出ていったアリアさんを追いかけた。
廊下は薄暗く、どこか肌寒い。右を見て、左を見ると、突き当たりの門のところに、ちらりと金髪が揺れるのが見えた。
「…………」
僕はそれを追いかける。そして、そこを曲がると、視界の先に光が見えた。
外から優しく差し込む光。月と星が地を照らす。そんな景色を眺めながら、ガラス張りのドアの向こう、ベランダで、アリアさんはぼうっと立っていた。
僕はガラスのドアを開けて、外に出た。音で気がついて、アリアさんが振り向き、やがて微笑む。
「どうしたウタ。眠れないのか?」
「それはこっちの台詞ですよ。……どうかしたんですか? 夜中に部屋を出ていって」
「なんだ、つけてきたのか?」
月明かりに照らされながら、くすくすと笑うアリアさんは、綺麗だった。眠るときにいつも着ている白いワンピース。腰の辺りについたリボン、スカート、そしてゆったりとした袖口が風にあおられて揺れる。
アリアさんは僕に背を向け、手すりに体重を預け、空を見る。そして、右手で手すりをポンポンとたたき、僕に、そこに来るように促した。
そして、僕がアリアさんの横に立つと、鈴を転がすかのようにあたたかく、柔らかい声が、静かに、僕の耳をついた。
「……どうすればいいんだろうな、私たちは」
「……サラさんとのこと、気にしているんですか?」
うなずいたアリアさんの横顔は、月明かりにだけ、照らされていた。
「姉さんのことだ。ただ無駄に言っている訳じゃないだろう。だけど、私はそんなこと納得できない。理由が分からなきゃ、納得なんてできない」
でも……と、顔を伏せる。
「そもそも……私はここにいていいんだろうか?」
「…………」
「自分以外が敵だったら、神が敵だったら……。答えることができなかった。どうすることもできない。だって、私は……何もかもおいて、投げ出してここに来てしまったんだからな。そりゃ答えられないさ。
私は身勝手だ。どうしようもないわがままで、立場を忘れて旅に出てしまった」
アリアさんがそういい、目を細めて笑う。そこ横顔が、あまりに痛かった。あまりにも悲痛に……アリアさんは笑う。
……そんなに、無理しなくてもいいのに。
辛かったら、泣いてくれてもいいのに…………。
「……アリアさんは、身勝手なんかじゃないですよ」
「……え」
だから僕は、素直に自分の気持ちをぶつけてみることにした。
「アリアさんは身勝手じゃないです。本当に身勝手な人は、旅に出るって、わざわざ街の人全員に言ったりしないですよ」
僕がそうだった。
「それに、アリアさんが本当に身勝手だったら、僕のことだって、助けてないです。だって、あのときは他人だったんですから」
僕は助けなかった。
「今だって、どうにかしようって、どうにかして解決させようって考えてる。身勝手な人は自分のことしか考えないので、そんなことしないです」
僕はなにもしなかった。
「……ウタ、でも」
「でも、立場的に身勝手だと言われてしまうのは仕方のないことです。しょうがないんです。でも、アリアさんは違います。違うんですよ」
まだ納得しないアリアさんに、僕は少し笑って告げる。
「それにほら、今だって……」
「え……?」
「泣くの……我慢してますよね」
アリアさんの瞳が、わずかに揺れる。その瞬間、心が鷲掴みにされて、引き裂かれて、悲鳴をあげているような……そんな錯覚に陥った。
「…………そんなことな」
「なくないですよ。サラさんとこういうことになって、悲しいのは当たり前です。だって、ずっと会いたかったんですよね?」
少し肩をくすめて、アリアさんは笑う。……まだ、笑う。
「……まぁな」
「会いたかった人とやっと会えたのに、こんな気まずくなって……悲しむなって方が、無理です。僕だったら悲しいです」
「…………」
本当は、言葉に表せないほど悲しいはずなのに……アリアさんが始めに僕に言ったのは、姫としてどうすべきかということだ。
そんな人が、身勝手なわけない。
「……身勝手な言い分だな」
アリアさんは僕から目をそらし、また空を見上げる。少しだけ細めた瞳から、ひとしずくだけ、涙がこぼれる。
月明かりを反射したその涙は、小さな小さな星となり、地面に落ちる。
「…………ウタ、」
「はい」
「……辛いな」
僕は、黙ってうなずいた。
僕は毛布にくるまったまま、目を開ける。あのあと、夕食をとる時間はあったのだけれど、結局、鳥のことについては一切聞くことができなかった。
それどころか、なんだか話すのも気まずくなってしまって……。そんなつもりじゃ、なかったんだけどなぁ。
そして、僕らはなにも出来ずにベッドに潜るしかなかった。今回はアリアさんのこととかよりも、街で起こったことが気になって眠れない。
ちらっと横を見ると、ポロンくんは眠っているようだった。……よかった。あんまり気にしててもかわいそうだ。
サラさんは、余計なことはするなって言ってたけど……でも、実際に被害はあるわけで、もしもあの場にサラさんがいなかったら、確実に二人は死んでいた。
……余計なことって、なんだろう? 鳥のことを調べること? 人に話を聞くこと? それとも、そもそもこの国に入ってきたこと?。
そうやって悶々と考えていると、ふと、向こうの方でごそごそと音がした。特に意味はないが、息をひそめ、そおっと毛布の隙間から覗く。
「……アリア、さん…………?」
アリアさんがベッドから起き出して、どこかへ向かうのが見えた。部屋のドアが開き、閉まる音がした。
僕は少し急いでベッドから降りると、出ていったアリアさんを追いかけた。
廊下は薄暗く、どこか肌寒い。右を見て、左を見ると、突き当たりの門のところに、ちらりと金髪が揺れるのが見えた。
「…………」
僕はそれを追いかける。そして、そこを曲がると、視界の先に光が見えた。
外から優しく差し込む光。月と星が地を照らす。そんな景色を眺めながら、ガラス張りのドアの向こう、ベランダで、アリアさんはぼうっと立っていた。
僕はガラスのドアを開けて、外に出た。音で気がついて、アリアさんが振り向き、やがて微笑む。
「どうしたウタ。眠れないのか?」
「それはこっちの台詞ですよ。……どうかしたんですか? 夜中に部屋を出ていって」
「なんだ、つけてきたのか?」
月明かりに照らされながら、くすくすと笑うアリアさんは、綺麗だった。眠るときにいつも着ている白いワンピース。腰の辺りについたリボン、スカート、そしてゆったりとした袖口が風にあおられて揺れる。
アリアさんは僕に背を向け、手すりに体重を預け、空を見る。そして、右手で手すりをポンポンとたたき、僕に、そこに来るように促した。
そして、僕がアリアさんの横に立つと、鈴を転がすかのようにあたたかく、柔らかい声が、静かに、僕の耳をついた。
「……どうすればいいんだろうな、私たちは」
「……サラさんとのこと、気にしているんですか?」
うなずいたアリアさんの横顔は、月明かりにだけ、照らされていた。
「姉さんのことだ。ただ無駄に言っている訳じゃないだろう。だけど、私はそんなこと納得できない。理由が分からなきゃ、納得なんてできない」
でも……と、顔を伏せる。
「そもそも……私はここにいていいんだろうか?」
「…………」
「自分以外が敵だったら、神が敵だったら……。答えることができなかった。どうすることもできない。だって、私は……何もかもおいて、投げ出してここに来てしまったんだからな。そりゃ答えられないさ。
私は身勝手だ。どうしようもないわがままで、立場を忘れて旅に出てしまった」
アリアさんがそういい、目を細めて笑う。そこ横顔が、あまりに痛かった。あまりにも悲痛に……アリアさんは笑う。
……そんなに、無理しなくてもいいのに。
辛かったら、泣いてくれてもいいのに…………。
「……アリアさんは、身勝手なんかじゃないですよ」
「……え」
だから僕は、素直に自分の気持ちをぶつけてみることにした。
「アリアさんは身勝手じゃないです。本当に身勝手な人は、旅に出るって、わざわざ街の人全員に言ったりしないですよ」
僕がそうだった。
「それに、アリアさんが本当に身勝手だったら、僕のことだって、助けてないです。だって、あのときは他人だったんですから」
僕は助けなかった。
「今だって、どうにかしようって、どうにかして解決させようって考えてる。身勝手な人は自分のことしか考えないので、そんなことしないです」
僕はなにもしなかった。
「……ウタ、でも」
「でも、立場的に身勝手だと言われてしまうのは仕方のないことです。しょうがないんです。でも、アリアさんは違います。違うんですよ」
まだ納得しないアリアさんに、僕は少し笑って告げる。
「それにほら、今だって……」
「え……?」
「泣くの……我慢してますよね」
アリアさんの瞳が、わずかに揺れる。その瞬間、心が鷲掴みにされて、引き裂かれて、悲鳴をあげているような……そんな錯覚に陥った。
「…………そんなことな」
「なくないですよ。サラさんとこういうことになって、悲しいのは当たり前です。だって、ずっと会いたかったんですよね?」
少し肩をくすめて、アリアさんは笑う。……まだ、笑う。
「……まぁな」
「会いたかった人とやっと会えたのに、こんな気まずくなって……悲しむなって方が、無理です。僕だったら悲しいです」
「…………」
本当は、言葉に表せないほど悲しいはずなのに……アリアさんが始めに僕に言ったのは、姫としてどうすべきかということだ。
そんな人が、身勝手なわけない。
「……身勝手な言い分だな」
アリアさんは僕から目をそらし、また空を見上げる。少しだけ細めた瞳から、ひとしずくだけ、涙がこぼれる。
月明かりを反射したその涙は、小さな小さな星となり、地面に落ちる。
「…………ウタ、」
「はい」
「……辛いな」
僕は、黙ってうなずいた。
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