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怪しい宗教はお断りします

これからどうしたい?

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「……ごめんなさい」


 フローラが、温かい紅茶が入ったカップをテーブルに置きながら呟く。あの一件のあと、僕らはテラーさんの喫茶店へと来て、少し落ち着いて話をしていた。

 あの二人だが……かなり問題のある両親だった。一週間家にいないなんてよくあることで、ストレスが溜まればフローラにぶつける。暴力に暴言、時には、魔法まで使われたんだそうだ。
 少しでも逆らうと、しつけと称して家に閉じ込め、何日も何も食べないこともあったらしい。

 ……普通の家族ではないことはフローラ自身も分かっていたが、僕らに迷惑や心配をかけられないと、何も言わなかったらしい。


「私が……ちゃんと、言ってればよかったのに」

「もう済んだことだ。いいよ、それくらい」

「だって! ……それって、みなさんを、信用してなかったってことじゃない、ですか……」


 僕らは黙り込む。別に、そうだと思ったわけではない。ただ、どう言ったらいいのか分からなかっただけだ。


「……別にさ、そういうことじゃなくない?」


 一瞬の沈黙、それを破るのはテラーさんだった。


「家族のことって複雑だし、他人には簡単に言えないことだよ。……分かるよ」


 そして、テーブルにおいてあるチョコレートに手を伸ばし、それを口に運び、少しだけ微笑む。


「…………妹がいたんだ。私」

「そうなんですか?」

「うん、不登校だった」


 不登校という言葉はこちらにもあるのか、アリアさんたちはハッとしたようのテラーさんを見る。


「おばあちゃんもいた。腰が悪くって、介護が必要だった。
 ストレスとかで、家庭内でのトラブルも増えて、喧嘩も増えた。お互い、本人に言えないことは、私にいってきたんだ。おかげさまでストレスいっぱいだよ」


 笑いながら、テラーさんは親指をぎゅっと握る。そして、笑ったまま言う。


「イライラしても、誰かには当たれなかったから、ついつい自分の指いじって、血が出るまでいじって、ボロボロにして……。今でも治りきってないんだ」


 ……でも、言うことのわりには、幸せそうだなー、なんて、思ってる僕がいたりして。


「私はもう、過去との折り合いはつけたよ」


 そして、フローラに問いかける。


「……フローラは、これからどうしたい?」

「これから……?」


 フローラはなにも言えずに黙る。しかし、なにかを見つけて、それを伝えようと懸命に口を動かした。


「え、えっと……! 私! 私、その……」

「……落ち着いて話せよ。おいらたちは、ちゃんと聞くからさ。な?」


 ポロンくんが、にこっとこちらに笑いかける。それにアリアさんがうなずいた。


「もちろんだ。一時間でも二時間で待てるぞ」

「あはは、それは待ちすぎですよ、アリアさん」

「なんだよウタ、別にいいじゃないか!」

「ダメとは言ってませんし?」

「言うようになったな……このやろう!」

「わあっ?!」

「ぷるるっ?!」


 唐突にアリアさんが僕の脇に両腕を突っ込んだ。そして、そのままこちょこちょと……。


「わはっ! ちょ! く、くすぐるのはやめてくださいぃっ!」

「どうだっ! 参ったか!?」

「参った! 参りましたからぁ!」

「…………ふふっ、あははっ!」

「ふ、フローラ?」


 フローラが笑いだしたのを見て、僕らはビックリして、僕はアリアさんから逃げるような体制のまま、アリアさんは僕の脇に手を突っ込んだまま、制止する。


「アリアさんとウタさん……ほんっ……とに…………面白い……」


 笑いはやがて涙に変わり、ついには完全に泣き出してしまった。僕らはどうしたらいいのか分からなくて、特に僕は分からなくて、暴走を始める。


「あああアリアさん! さ、さっきのもう一回やりましょう! ね!?」

「お、おう!? あれでどうにかなるのかよく分からないが、よしやるか!」

「やるなよ! ……大丈夫か? フローラ。おいら年下だけど、話くらい聞けるぜ」

「「「やだイケメン……」」」

「なんだと……って、テラーまでなに言ってんだい! おいらは普通に声をだなぁ……」


 と、急にフローラが、近くにいたポロンくんに抱きつく。


「んぁっ!?」


 急な出来事に対応しきれていないポロンくんは、僕たちから見てもよく分かるほど顔を真っ赤に染め、あたふたとしていた。


「お、おいらっ! その、なんか、人のぬくもりには慣れていにゃいっていうか、なんていうか」

「慣れていにゃい」

「慣れていにゃい」

「うるせー! 噛んだんだよ!」


 すると、ポロンくんの体に顔を埋めたフローラが、ポツリと呟く。


「…………みなさんと一緒に、行きたいです」

「……え」

「アリアさんと、ウタさんと、ポロンさんと……。みなさんに、ついていきたい」


 その言葉を聞いた僕とアリアさんは、黙って顔を見合わせ、うなずき、席をたち、ポロンくんとフローラの方に近づいた。


「お、おい、ウタ兄もアリア姉も、なんか言ってくれよ!」

「お二人とも……?」


 フローラが涙で濡れた顔をあげる……より少し前に、僕とアリアさんは、フローラとポロンくん、二人まとめ抱き締めた。


「えっ?! あ!」

「な、なんだよお前ら!」

「いや……なんだろ、嬉しすぎて」

「分かる。嬉しすぎる」

「うーん、これを見つめる私はどうしたらいいのやら」


 困り顔で僕らを見るテラーさんだったが、立ち上がりながらこんなことを言った。


「……よろしくね」


 しばらくして、僕らはフローラから離れる。色々もみくちゃにされたフローラは、半ばボーッとして僕らを見ていた。


「……いいんですか? 一緒に行って…………」

「いいに決まってるだろ。な?」

「そうだな。……フローラ、ちょっとこっちにおいで」

「…………? はい」


 フローラがアリアさんの前にいくと、アリアさんはそっと、フローラの長い前髪に手をかける。


「えっ……?」


 そして、かわいらしい白い花のピンで、前髪を止めた。隠れていた銀色の瞳がしっかりと見え、とてもかわいい。


「えっと、その、これ……」

「うん、やっぱりこの方がずっといい」


 アリアさんは満足そうにうなずき、それから言う。


「……もう、人の目を見ても、怖くないだろう?」

「…………」


 ハッとしたようにフローラが顔をあげる。そして、その顔に笑顔が咲いた。


「はいっ!」
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