上 下
25 / 387
ウタと愉快な盗賊くん

テンプレ来たー?

しおりを挟む
 しばらく何も起こらずに歩いていると、突然、アリアさんが立ち止まった。


「アリアさ――」

「しっ、静かに。……誰か、いるのか?」


 物音ひとつしない。気のせいか、と、僕らが気を緩めたその瞬間だった。


「ファイヤ!」

「うわっ?!」

「ウタ!」


 ぐいっと腕を引かれ、なんとか避けることができた。……初級炎魔法? もちろん、唱えたのは僕やアリアさんじゃない。いったい誰が……と思っていたら、僕のお腹の辺りに小さなナイフが突きつけられた。

 ……お腹?


「おい! 金目のものを出せ! そうじゃなきゃこいつの腹をかき切るぞ!」


 ……なんだろう。ずいぶんと低い位置から脅し文句が聞こえる。というかナイフの位置も低すぎやしないだろうか。普通は首とか……。
 てか、あれだな。僕でもドラくんほどの大物を相手にすると慣れってものが生じてくるんだな。ほとんどビビってない。


「……あー、その、あれだ。申し訳ないが、金目のものは持ってないんだ。私たちはまだDランクの冒険者で」

「え? ……あ、で、でも! お前はマルティネス・アリアで、お前はその御付きだときいたぞ!」

「御付きなんですかね」

「さぁな」

「皇女なら、なにかいいもん持ってるだろ!?」

「いや、悪いが、本当にない」


 確かに王都にあるアリアさんの物なら、かなりの値がつくだろう。しかし、それらをアリアさんは全て置いてきてしまったのだ。旅には必要ないし、もしも何かあれば、売って換金してもいいとまで言っていた。……とことん尽くす人だ。
 まぁそれはともかく、本当に僕らはお金がない。僕のお金だって、少ない収入源から考えるとかなり貴重だ。渡すことはできない。


(てゆうか盗賊なの、この子!)

「か、金目のものが、ない……?! そんな、だったらおいらはなんのために1週間前からここで張ってたんだ……意味が分からない……。
 親分にしかられる。この役立たずって、言われる……」

「…………」

「何でもいいから寄越せ! 金目のものがないゆなら、食べ物でもいいからなっ!」

「……えっと、さ?」

「はぁ……ほら」

「わ! わ! わ! お、お前何すんだよぉ!」


 アリアさんが持ち上げたその子は10才くらいの男の子だった。橙色の癖っ毛に茶色い瞳。背は低く、僕の腰くらいまでしかなかった。
 男の子を下に下ろし、アリアさんは優しく言う。


「どうした? 盗賊ごっこなんていい遊びだとは思えないぞ?」

「ご、ごっこじゃないやい! おいらは本当の盗賊だ!」

「…………」

「…………」

「な、なんか言えよっ!」


 僕とアリアさんはぱっと後ろを向き、こそこそと話す。


「……って言ってますけど、そうだとしたら」

「あぁ、盗賊は立派な犯罪組織だ」

「ですよねー」

「聞こえてるけど?!」

「どうするか」

「諭しますか?」

「無視かい!」

「ぷるっ! ぷるっ!」

「……え、スライム? ちょ、かわいいじゃねーかよコノヤロー!」


 スラちゃんと戯れるその子を見て、僕はなんとなく思った。


「……つき出すのは、なんか嫌ですね」

「そうだな。スラちゃん好きに本当の悪はいないとみた。私も手荒なことはしたくない。
 でも、このままって訳にもいかないだろう」

「……あ! アリアさん! 僕にいい考えが!」

「なんだ?」

「えっとですね……ゴニョゴニョ」

「ぷるっ? ぷるるっ!」

「あっ!」


 スラちゃんが僕の肩に戻ってくる。それとほぼ同時に、僕らは男の子と向き合った。


「お、おい! 金目のもの出さないんなら痛い目にあうぞ! いいのか? いいんだな! おいら本気出すからな!」

「…………仕方ない、ですね」

「あぁ、この手は使いたくなかったんだが」

「な、なんだよ……」


 どことなく身構えた男の子。僕とアリアさんはゆっくりと片手を自分の顔の横あたりにあげ、指を揃えた。
 そして、スラちゃんと共にじっと彼を見据えた。


「「……じゃ!」」

「え」


 それからそう一言言い残すと、僕らは全速力で逃げ出し、人をまくのにちょうどいい大きさの岩の角を曲がった。


「…………え?」


 ・・・・・・・・・・・・・・。


「待てやコラァッ!」


 そうして僕らのあとを追いかけてきた自称盗賊の男の子の前には、


「グォォォォォォォッ!!!!!」


 ドラくんがいた。それを見た盗賊くんは…………。


「あ……え…………ぁ……」


 完全にフリーズモードに入りました。そこを、アリアさんが後ろから捕まえ、アイテムボックスから取り出したタオルで、かるく腕を結ぶ。


「あ、なにすんだ」

「グォォォォォォォ!」

「……ナンデモナイデスー」

「少しの間だけ縛らせてもらうぞ。悪いようにはしないさ。……よし、ウタにしてはいいアイデアだったな」

「ですよね! やっぱりドラくん怖いのはみんな一緒なんですよ」

「……え、待てよ。ドラくんって言った? ドラくんって言った?! このドラゴン、ドラくんって名前なの!? 安直すぎない!? ダサくない!?」

「……言わないでくれ、我が悲しくなる」

「喋ったし!」


 僕はドラくんの背中をポンポンと叩くと、振り向いたドラくんに手を合わせる。


「ドラくん、この近くに洞窟的なのあったら、連れてってくれないかな? ドラくんが行けるところまででいいからさ!」

「心得た。皆、我の背に乗れ」

「乗るの!? てゆーかお前ら何者だよぉ! ちゃんと説明しろー!」

「はいはいどうどう」

「おいらは馬じゃなーい!」


 こうして僕らは愉快な盗賊くんと一緒に、ちょっとした洞窟へ向かうのだった。
 ……これは、盗賊やら山賊やらに絡まれるテンプレなのだろうか。
 いや、違う、そうじゃない。なんか違う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...