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ウタと愉快な盗賊くん

門出

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「本当に、行っちゃうのね」


 エマさんがぽつりと呟く。
 あの日、アリアさんがエヴァンさんに想いをぶつけたその日から一週間。僕一人ならばすぐに出発だったが、やはりアリアさんはそうともいかず、一週間かけて、王都の家、全てを巡り、事情を説明した。
 何件かは僕もついていったのだが、全員にきちんと説明をし、なんとか理解を得られたようだ。その証拠のように今、僕らの門出を見送ろうという人が多く集まっている。

 ……正確には『僕らの』じゃなくて『アリアさんの』だけどね。


「おーい! 羽汰!」

「彰人さん!?」


 人混みを掻き分け、彰人さんが笑顔で駆けてくる。元気だよなぁ。あれで60越えてるとか信じられないよ。


「アキヒト、どうした?」

「いやよ、家でジーッとしてようかとも思ったんだけどさ……ほら! これ持ってけ!」

「えっ? わっ!」


 彰人さんは空間(多分自分のアイテムボックス)から大量の料理を取り出した。


「王都からラミリエまで結構あるだろ? 途中で食ってくれ! 洋食和食中華、色々揃えたよ!」

「す、すごい……」

「これ、いつ作ったんだ?」

「あぁ、今朝な」

「今朝!?」

「いやー、結構手間取っちまったよ」

「……手間取ってますかね?」

「意義しかないぞ」

「ま、ともかく持ってけ!」


 なんだかんだでとてもありがたい。というわけで、全部僕とアリアさんのアイテムボックスへ。ご飯はしばらく大丈夫そうだ。


「……よし、じゃあそろそろ行くか」

「そうですね」


 アリアさんは集まった人たちの方を振り返り、笑った。


「行ってくる。留守の間、王都を頼む」

「任せてくださいってアリア様! 俺ら男どもが全力で街を守りますから!」

「ありがとう。……行くぞ、ウタ」

「はい!」


 こうして、僕らの旅は、平和に幕を開けたのだった。


◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈◈


 最初に向かうのは、隣街ラミリエ。産業が発達しており、街に入れてしまえば不便することはないだろう。
 馬車とか、そういうのも無いわけではないけど、資金節約のためラミリエまでの道は歩く。そうすると、約2日かかるんだとか。結界の外だし、ドラくんでの移動も考えたが……うん、やめておいた。


「あの、これから改めてよろしくお願いします!」


 僕は改めてアリアさんに言う。お互いに目的があり、そのために共に行動をしている。それだけだったとしても、アリアさんは僕にとって心強い存在に違いなかった。


「こちらこそ。でも、レベルや実力で言えば私が上だが、冒険者としては同じDランク。気楽にやっていこうか」


 冒険者はFからSまでの7つの階級に分かれている。はじめはFからスタートだが、依頼をこなすことによってそのデータがギルドカードに保存され、階級に反映される。
 はじめの方はランクも上がりやすく、僕とアリアさんはこの一週間でランクをDにあげた。……まぁ、僕の依頼は薬草集めとかそういうのだけど。


「あぁ、そうだウタ。ラミリエは王都よりは治安が悪い。とくにそこへ向かう道では盗難被害が相次ぐそうだ。私も一緒だが、気をつけろよ」

「えっ!? ……あ、ハイ」


 ……テンプレの予感です。


「あっ、そういえば聞きそびれてたんですけど、」

「なんだ?」

「ディランさん……を、探すんですよね」

「そうだが……あぁ。あいつの立場のことか? それなら」

「あ、そっちはなんとなく分かっています。その……アリアさんの、婚約者ってことで、あってますよね?」

「あ、あぁ。……なぜ知ってる」

「エマさんから聞いてたんで」

「あいつ……」


 そう、それは分かる。ディランさんはアリアさんの婚約者で、エマさんの弟だ。それは分かっている。しかし、逆に言えばそれしか分からないのだ。もっと情報がほしい。


「ディランさんがいなくなった時期と、ドラゴンたちが暴れだした時期って同じですよね。もしかして、ドラくんが言ってたのって……」

「いや、それはない。容姿が違いすぎる。一致しているのは性別だけだ。ディランは髪が青く、目は紫。姉とは違って真面目なやつだ」

「エマさん不真面目なんですか……」


 そーいや称号に『遅刻魔』って……。ははは……。


「ディランさんとは、どうやって知り合ったんですか? どんな人なんですか? 婚約に至った原因とは!?」

「ちょ、そんなに捲し立てんな。それに、さらっと恥ずかしいこと聞いてきて……」

「いいじゃないですか! これから長くやっていくんですよ僕ら。ねー、スラちゃん!」

「ぷるっ! ぷるるんっ!」

「……しょうがないなぁ」


 諦めたようにアリアさんが話し始めた。


「ディランと会ったのは……まだ私が7つのときだ。ウルフの群れに襲われていたときに助けられた」

「へぇー! ……あれ? ディランさんって、エマさんの弟ですよね? ってことは?」

「そのときあいつは6つだった。お前と同い年だな」

「うそん!」

「本当だ。……才能だよ。その時点で国の誰よりも強かった。目の前まで迫った4匹のウルフを一瞬で葬った」


 ある意味とても怖いことを言っているけど……アリアさんの目は、優しかった。


「アリアさん、ディランさんのこと、好きなんですね」

「あ……あぁ?! な、何言ってるんだ!」


 あ、照れてる。なんだか可愛らしくて、そういえば年も一つしか変わらないんだよなーと、今更ながらに思った。
 ……そう考えたら、からかいたくなったのだ。


「ってことは、婚約ってなったのもアリアさんの気持ちがあったからってことでー」

「ウーターーー?! お、お前それ以上言ったらぶっ飛ばすからな!?」

「ちょ、冗談! 冗談ですってぇ!」


 平和にやっていけたらいいけど。とりあえずドラくん連れてる時点で波乱は必須だろうナー。
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