上 下
15 / 387
駆け出し転生者ウタ

僕の「勇気」

しおりを挟む
 美しさすら感じる、その巨体。黒い鱗をまとったドラゴンは、金色の目をこちらに向けていた。……しかし、相手が悪かった。このドラゴンの相手は僕だ。


「ぬぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「う、ウタ……」


 ヘタレの俺の限界はとっくに越えている。こんなのを相手に出来るわけない! 悪かったなぁ! 熱いバトルが出来なくて!


「あ、あ、アリアさん! ににに、にげにげにげ、逃げますよ!」

「あっ、バカ……」


 アリアさんを支える手に力を加える。そして走る。ほとんど引きずられている状態のアリアさんは、必死に僕に言う。


「ウタ……バカ、お前一人で逃げろ。私を連れていたら、逃げ遅れて」

「いやここに置いていくとか本当に無理ですから! なに言ってるんですか!」

「でも」

「グァァァァァッ!」

「…………! ウタ!」


 アリアさんが重心を移動させ、僕と一緒に横に倒れる。と、その上にドラゴンがはいた炎が踊る。立っていたらと考えると、恐ろしい。


「った……」

「ご、ごめんなさい! 無理させて……」

「うるさい! いいから、さっさと逃げろ!」


 そうしてる間にもドラゴンはこちらに迫ってくる。どうしたら、どうしたらいいんだ……!


「…………!」

「……どうした、ウタ」

「アリアさん! 回復魔法使ってください! それでちょっとでも傷治して!」

「え、あぁ! 分かった!」


 アリアさんが自分の足に手をかざし『ケアル』と詠唱する。すると、だんだんと傷がふさがり、完治とはいかないものの、見た目だいぶましになった。


「動けますか、アリアさん!」

「多少はな。でも、あれを相手にするなんて」

「なに言ってるんですか! アリアさんはスラちゃんと逃げてください!」

「…………は? お前、なに言って」

「だから! 逃げてください! 僕が時間を稼ぎます。その足じゃ走るまでは無理でしょうけど、街に戻るくらいならできるはずです!」

「バカっ! そんなの、死ににいくようなもん」

「だから死ににいくんですよ!」


 アリアさんの声が止まる。怒って言い返すこともできず、しかしあきれたわけでもなく、その顔に表れたのは、動揺だった。


「……僕が囮になります。だから、アリアさんは戻って、街の人たちと、あれを倒すための策を立ててください」

「そんな、そんなこと出来るわけないだろ!?」

「二人ではもう逃げられません! だから、アリアさんは逃げてください。僕はあとを追います」

「なにいってんだ! お前は、死ぬかもしれないんだぞ!」

「大丈夫ですよ」


 ドラゴンが、僕らに迫る。その体が僕らに近づく前に、僕はスラちゃんをそっとなで、アリアさんにもらった剣を抜いて、ドラゴンに向かって走り出した。


「僕には、命が二つありますから!」

「ウタっ!」


 ……命を捨てる覚悟で。これは、一度死んだ僕だからこそ口に出来る、『勇気』だった。
 剣を右手にしっかりと握りしめ、とりあえずドラゴンを鑑定する。



名前 ダークドラゴン

種族 龍種

年齢 127

職業 ――

レベル 100

HP 180000

MP 100000

スキル 体術(上級)・初級魔法(熟練度10)・炎魔法(熟練度9)・雷魔法(熟練度8)・闇魔法(熟練度8)

ユニークスキル 龍王の加護

称号 黒き力・災害級



 わーお! 勝てる気なんてこれっぽっちもしなーい! どーしようね。
 ……レベル100じゃん。アリアさん、自分より40も上とか勝てないっていってたのに。無理してるな。どっちがバカさ。ばーかばーか!

 もう少しだけ、もう少しだけなにか見えないかと根気強く鑑定すると、僕の視界に異変が現れた。


「……あれ、なんだ?」


 ドラゴンの瞳が淡く輝いている。……ように見える。実際は変わったことはない。でも、なにかを指し示すように、その瞳は光る。


「……あれが弱点、ってことはないかな」


 あー! わからん! とりあえずやってみろおらぁ!
 体は僕の方が小さいから小回りは利く。ドラゴンがはく炎を避け、懐に潜り込み、剣で一突きする。


「グァァァァァっ!」

「お願いだから怒らないでぇっ!」


 ドラゴンが体をくねらせる。あの巨体に踏み潰されたら一生のおしまいだ! ……いや、もう一回一生おしまいにしたんだけどさ。
 一瞬、頭が下に下がった瞬間、僕は光る瞳に剣を突き刺す。


「グギャァアァアアァァッ!!!!」

「わぁぁぁぁ! ごめんなさーーーい!」


 やはり眼は弱点だったようで、そこを突かれたドラゴンは怒り狂う。めちゃくちゃに炎を吐き出し、辺りを焼き尽くす。


「よ、避け――」


 避けられない……!


「ウォーターッ!!!」


 この土壇場で僕が使ったのは初級水魔法だ。熟練度9の炎に敵うわけない。でも、それしか手がない!


「うぉ、ウォーターッ! ウォーーータァァァーーー!!!」


 ……これだけもってることを褒めてほしい。普通だったら一秒も持たないからね!? これだっていつまでもつか……。あれ?
 押し寄せる炎が弱まる感覚。だんだんと消えていく炎。……あれ? あれれ? いや、弱点一突きで終わりって、そんなばなな。僕、レベル1だよ? 『やったか!?』イコールやってない的なの嫌だからね?


「ウタ……!」

「アリアさん?! ……逃げてって、言ったのに」

「逃げるか、バカ。
 ……大丈夫か? 怪我、してないか?」


 ……別れてから、5分だって経ってないはずなのに、すごく、懐かしい感じがした。


「……アリアさん」

「なんだ?」

「アリアさん……アリアさんっ……」

「え? は? な、なに泣いてんだよ。お前、さっきまでの威勢はどうした?」

「怖かったぁ……!」

「…………」


 あきれたようにため息をついたアリアさんは、僕の背中を優しくさすった。


「ほらほら、落ち着け。……全く。ぶれないなお前は」


 はぁー……、よし、落ち着こう。そうしよう。僕は大きく深呼吸をしてアリアさんにくってかかった。


「アリアさん!」

「な、なんだ!?」

「アリアさん無茶しすぎですって! あのドラゴン、レベル100ですよ!? 炎魔法熟練度9とかいうヤバイやつですよ!? 称号に災害級とか書いてありましたけど!」

「……え、いや! 待て待て待て、一旦落ち着け。お前、あのドラゴン鑑定したのか?」

「えっ? ……そう、ですけど?」

「だってお前、レベル1……」

「あっ」


 そういえば、格上の相手にはほぼ効かないんだった。え? でも、普通に鑑定できちゃって……あれぇ?


「……もしかして…………おいウタ! ステータス、開いてみろ!」

「えっ?!」

「いいから早く!」

「す、ステータス!」


名前 ウタ

種族 人間

年齢 17

職業 村人(仮)

レベル 1200

HP 1800000

MP 960000

スキル 言語理解・アイテムボックス・鑑定・暗視・剣術(上級)・体術(上級)・初級魔法(熟練度15)・使役(上級)

ユニークスキル 女神の加護・勇気

称号 転生者・ヘタレ・敵前逃亡



 ……あれ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...