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ひとときの永遠
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わたしたち、二人だけの舞踏会。
型どおりに手を構え――でも、触れることなく、わたしたちはただ、くるくるとステップを踏む。
気まぐれな、決して越えない隔たりを挟んで。わたしたちのダンスが回る。
やがて、ダンスは終わり。
わたしたちを取り巻いていた幻が溶ける。
ああ。きっとこれは傷になる。
忘れられない心の傷。
思い出すたび、胸が痛む――そんな傷になるのでしょう。
もしもどんなに幸せになる未来がこの先にあったとしても
きっとこのひと時以上の喜びはありはしないから――
”永遠”を探してはいけない。
見つからなければ苦しくて
見つけてしまえば、こんなにも哀しくなるのだから。
「――泣いているのか」
「いいえ」
「涙が――」
「いいえ。きっと夜露だわ」
「――」
「遠い遠い異国の物語にあるのですって。
――夜闇に紛れて恋人を連れて逃げることにしくじった男が、夜露と一緒に消えてしまいたかったと嘆く場面が」
「――このまま、夜露と消えてしまえればいいのに」
それ以上、わたしは続けることができませんでした。
彼の唇が言葉を封じてしまったから。
でも、きっとそれも夢の一場面――
型どおりに手を構え――でも、触れることなく、わたしたちはただ、くるくるとステップを踏む。
気まぐれな、決して越えない隔たりを挟んで。わたしたちのダンスが回る。
やがて、ダンスは終わり。
わたしたちを取り巻いていた幻が溶ける。
ああ。きっとこれは傷になる。
忘れられない心の傷。
思い出すたび、胸が痛む――そんな傷になるのでしょう。
もしもどんなに幸せになる未来がこの先にあったとしても
きっとこのひと時以上の喜びはありはしないから――
”永遠”を探してはいけない。
見つからなければ苦しくて
見つけてしまえば、こんなにも哀しくなるのだから。
「――泣いているのか」
「いいえ」
「涙が――」
「いいえ。きっと夜露だわ」
「――」
「遠い遠い異国の物語にあるのですって。
――夜闇に紛れて恋人を連れて逃げることにしくじった男が、夜露と一緒に消えてしまいたかったと嘆く場面が」
「――このまま、夜露と消えてしまえればいいのに」
それ以上、わたしは続けることができませんでした。
彼の唇が言葉を封じてしまったから。
でも、きっとそれも夢の一場面――
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