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16 根負け

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「分かったよ。じゃあ先に精霊王と人の王 ―を呼び出すのは面倒だから王女に代理になって貰って、話し合いをする」

頷いてはくれないティレーリアに、諦めた様に息を落としたヴィリディスに「それで良い?」と言われて、ティレーリアは漸く小さく頷く。

「勇者達も森に入っちゃったみたいだしね」
「え?」
「ティーアを取り戻そうとしてるみたいだよ。 もう夜になるっていうのに……」

面倒だなぁと呟いたヴィリディスに、ティレーリアは首を傾げる。

「夜は…何か問題があるの?」
「魔族は色々いるからね。夜に動く種族もあって……彼らに夜の森の見回りも任せてる」
「……森の、見回り?」

「人の国と魔族の国の間のあの森は、盟約を結んだ時に創られた。必要以上の瘴気をに出さない為と、魔族が人に危害を加えないようにする為の、2つの壁の役割がある。それでも……いくらこっちが出ていかないようにしてても、ティーアみたいに迷い込む人間がいるだろう?」

可笑しそうに笑われて、ティレーリアは頬を染める。

「べ……別に迷ったわけではないわ……探検を、していたのよ」
「帰り道が分からなかったのに?」
「不安だっただけで、分からなかったって事は……もうっ!いじわる」

ぽかっと肩を叩かれて、ヴィリディスが笑う。

「見回りは、森から出ようとする魔族がいないかを取り締まるのが一番の目的だけど、迷った人間を送り帰したり、時に悪意を持って故意に森に入った人間を排除したり、そういう事もしててね。夜に森に入ってくる人間は、どっちかというと後者が多い。だから、夜の担当組は割と好戦的なんだ。 排除といっても命を取ってるわけじゃなくて―もう二度と森に近づく気が起きないようにしてるだけだから、そこは安心して」

「……それ、安心して良いのかわからないんだけど……。つまり、今見回りをしている人…魔族に見つかったら、勇者様たちを"排除"しようとするかもしれないって事?」
「まぁ"魔王の花嫁"には手出ししない決まりだから、大丈夫だとは思うけど……。でも万が一何か起こったら面倒だし、早くティーアが欲しいし、さっさと呼んじゃおうか」

何やら途中でヴィリディスの欲望が挟まった気がしたけれど、ティレーリアはそこは聞かなかった事にして、呼ぶ?と首を傾げた。
ヴィリディスはちらりと笑んで、そしてティレーリアの腕を引いて寝台から下りると、部屋を出た。

城の中、というだけあって、長く続く廊下を歩き、いくつかの扉を通り抜けて行く。
途中でそれなりの数の警備兵だとかメイドらしき人達 ―魔族達と遭遇したけれど、皆ヴィリディスに気づくと端に寄って頭を下げて、そして腕を引かれて歩いているティレーリアを訝し気に見ていた。

(不審者ではありませんので……いえ、不審者になるのかしら……)

ヴィリディスが止まる事なくスタスタと歩いていくものだから、ティレーリアは付いて行くのに必死で、
すれ違った魔族達に会釈すら出来ず、そしていつの間にか大きな部屋へと辿り着いていた。

入った部屋の扉の真正面には、とても立派な ―恐らく玉座だろうと思われる椅子があった。
そして部屋に入った途端、何となく身体が軽くなったような感じを受けて、ティレーリアは知らずほっと息をつく。

ヴィリディスは部屋の真ん中まで進むと、そこでティレーリアの腕を解放する。

「少し離れて待ってて」

言われて、ティレーリアは戸惑いながらもヴィリディスから距離を取った。
ティレーリアが離れたのを確認すると、ヴィリディスは詠唱を始める。

あまり抑揚のない、単調だけれど歌うように紡がれているヴィリディスの声に聞き入っていると、ふいにヴィリディスから少し離れた床が光り始める。


そしてその光がぱぁっと強く輝いたと思ったら、次の瞬間、

そこに少し前まで村で一緒にいた、5人の男女が立っていた。


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