16 / 34
16 根負け
しおりを挟む
「分かったよ。じゃあ先に精霊王と人の王 ―を呼び出すのは面倒だから王女に代理になって貰って、話し合いをする」
頷いてはくれないティレーリアに、諦めた様に息を落としたヴィリディスに「それで良い?」と言われて、ティレーリアは漸く小さく頷く。
「勇者達も森に入っちゃったみたいだしね」
「え?」
「ティーアを取り戻そうとしてるみたいだよ。 もう夜になるっていうのに……」
面倒だなぁと呟いたヴィリディスに、ティレーリアは首を傾げる。
「夜は…何か問題があるの?」
「魔族は色々いるからね。夜に動く種族もあって……彼らに夜の森の見回りも任せてる」
「……森の、見回り?」
「人の国と魔族の国の間のあの森は、盟約を結んだ時に創られた。必要以上の瘴気を外に出さない為と、魔族が人に危害を加えないようにする為の、2つの壁の役割がある。それでも……いくらこっちが出ていかないようにしてても、ティーアみたいに迷い込む人間がいるだろう?」
可笑しそうに笑われて、ティレーリアは頬を染める。
「べ……別に迷ったわけではないわ……探検を、していたのよ」
「帰り道が分からなかったのに?」
「不安だっただけで、分からなかったって事は……もうっ!いじわる」
ぽかっと肩を叩かれて、ヴィリディスが笑う。
「見回りは、森から出ようとする魔族がいないかを取り締まるのが一番の目的だけど、迷った人間を送り帰したり、時に悪意を持って故意に森に入った人間を排除したり、そういう事もしててね。夜に森に入ってくる人間は、どっちかというと後者が多い。だから、夜の担当組は割と好戦的なんだ。 排除といっても命を取ってるわけじゃなくて―もう二度と森に近づく気が起きないようにしてるだけだから、そこは安心して」
「……それ、安心して良いのかわからないんだけど……。つまり、今見回りをしている人…魔族に見つかったら、勇者様たちを"排除"しようとするかもしれないって事?」
「まぁ"魔王の花嫁"には手出ししない決まりだから、大丈夫だとは思うけど……。でも万が一何か起こったら面倒だし、早くティーアが欲しいし、さっさと呼んじゃおうか」
何やら途中でヴィリディスの欲望が挟まった気がしたけれど、ティレーリアはそこは聞かなかった事にして、呼ぶ?と首を傾げた。
ヴィリディスはちらりと笑んで、そしてティレーリアの腕を引いて寝台から下りると、部屋を出た。
城の中、というだけあって、長く続く廊下を歩き、いくつかの扉を通り抜けて行く。
途中でそれなりの数の警備兵だとかメイドらしき人達 ―魔族達と遭遇したけれど、皆ヴィリディスに気づくと端に寄って頭を下げて、そして腕を引かれて歩いているティレーリアを訝し気に見ていた。
(不審者ではありませんので……いえ、不審者になるのかしら……)
ヴィリディスが止まる事なくスタスタと歩いていくものだから、ティレーリアは付いて行くのに必死で、
すれ違った魔族達に会釈すら出来ず、そしていつの間にか大きな部屋へと辿り着いていた。
入った部屋の扉の真正面には、とても立派な ―恐らく玉座だろうと思われる椅子があった。
そして部屋に入った途端、何となく身体が軽くなったような感じを受けて、ティレーリアは知らずほっと息をつく。
ヴィリディスは部屋の真ん中まで進むと、そこでティレーリアの腕を解放する。
「少し離れて待ってて」
言われて、ティレーリアは戸惑いながらもヴィリディスから距離を取った。
ティレーリアが離れたのを確認すると、ヴィリディスは詠唱を始める。
あまり抑揚のない、単調だけれど歌うように紡がれているヴィリディスの声に聞き入っていると、ふいにヴィリディスから少し離れた床が光り始める。
そしてその光がぱぁっと強く輝いたと思ったら、次の瞬間、
そこに少し前まで村で一緒にいた、5人の男女が立っていた。
頷いてはくれないティレーリアに、諦めた様に息を落としたヴィリディスに「それで良い?」と言われて、ティレーリアは漸く小さく頷く。
「勇者達も森に入っちゃったみたいだしね」
「え?」
「ティーアを取り戻そうとしてるみたいだよ。 もう夜になるっていうのに……」
面倒だなぁと呟いたヴィリディスに、ティレーリアは首を傾げる。
「夜は…何か問題があるの?」
「魔族は色々いるからね。夜に動く種族もあって……彼らに夜の森の見回りも任せてる」
「……森の、見回り?」
「人の国と魔族の国の間のあの森は、盟約を結んだ時に創られた。必要以上の瘴気を外に出さない為と、魔族が人に危害を加えないようにする為の、2つの壁の役割がある。それでも……いくらこっちが出ていかないようにしてても、ティーアみたいに迷い込む人間がいるだろう?」
可笑しそうに笑われて、ティレーリアは頬を染める。
「べ……別に迷ったわけではないわ……探検を、していたのよ」
「帰り道が分からなかったのに?」
「不安だっただけで、分からなかったって事は……もうっ!いじわる」
ぽかっと肩を叩かれて、ヴィリディスが笑う。
「見回りは、森から出ようとする魔族がいないかを取り締まるのが一番の目的だけど、迷った人間を送り帰したり、時に悪意を持って故意に森に入った人間を排除したり、そういう事もしててね。夜に森に入ってくる人間は、どっちかというと後者が多い。だから、夜の担当組は割と好戦的なんだ。 排除といっても命を取ってるわけじゃなくて―もう二度と森に近づく気が起きないようにしてるだけだから、そこは安心して」
「……それ、安心して良いのかわからないんだけど……。つまり、今見回りをしている人…魔族に見つかったら、勇者様たちを"排除"しようとするかもしれないって事?」
「まぁ"魔王の花嫁"には手出ししない決まりだから、大丈夫だとは思うけど……。でも万が一何か起こったら面倒だし、早くティーアが欲しいし、さっさと呼んじゃおうか」
何やら途中でヴィリディスの欲望が挟まった気がしたけれど、ティレーリアはそこは聞かなかった事にして、呼ぶ?と首を傾げた。
ヴィリディスはちらりと笑んで、そしてティレーリアの腕を引いて寝台から下りると、部屋を出た。
城の中、というだけあって、長く続く廊下を歩き、いくつかの扉を通り抜けて行く。
途中でそれなりの数の警備兵だとかメイドらしき人達 ―魔族達と遭遇したけれど、皆ヴィリディスに気づくと端に寄って頭を下げて、そして腕を引かれて歩いているティレーリアを訝し気に見ていた。
(不審者ではありませんので……いえ、不審者になるのかしら……)
ヴィリディスが止まる事なくスタスタと歩いていくものだから、ティレーリアは付いて行くのに必死で、
すれ違った魔族達に会釈すら出来ず、そしていつの間にか大きな部屋へと辿り着いていた。
入った部屋の扉の真正面には、とても立派な ―恐らく玉座だろうと思われる椅子があった。
そして部屋に入った途端、何となく身体が軽くなったような感じを受けて、ティレーリアは知らずほっと息をつく。
ヴィリディスは部屋の真ん中まで進むと、そこでティレーリアの腕を解放する。
「少し離れて待ってて」
言われて、ティレーリアは戸惑いながらもヴィリディスから距離を取った。
ティレーリアが離れたのを確認すると、ヴィリディスは詠唱を始める。
あまり抑揚のない、単調だけれど歌うように紡がれているヴィリディスの声に聞き入っていると、ふいにヴィリディスから少し離れた床が光り始める。
そしてその光がぱぁっと強く輝いたと思ったら、次の瞬間、
そこに少し前まで村で一緒にいた、5人の男女が立っていた。
0
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ウェディングドレスは深紅に染まる
桜乃
恋愛
エリナとヴァイオスは子供の頃からの婚約者。
結婚間近のあの日、惨劇が起こる。
婚約者との突然の別れ。あの日、幸せは奪われた。
※残虐な描写があります。
苦手な方はお気をつけください。
※悲恋です。
※8000文字程度の短編です。1ページの文字数は少な目です。
1/14に完結予定です。(1/9は休載いたします。申し訳ございません)
お読みいただきありがとうございました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる