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15 花嫁 というもの

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「だけど、魔王の力を分け与えるなんて普通の人間では身体が耐えられない。幸い初代の花嫁は魔力が高かったみたいで、末永く幸せに暮らしました、で終わったようだけど。 その後の何代かは……色々とあったみたいでね。 そのうちに魔力が高ければ高いほど馴染みやすい・・・・・・、という事が分かって、人の娘を無駄に亡くさない為にもと、魔王が覚醒した時点で魔力の高い"適齢期"の人族の娘を上から順に2・3人、選ぶようになったんだって」

「上から順にって…精霊王様は人の魔力の高さがわかるの?」
「魔族も分かるよ。でも僕らは森から外に出られないから、花嫁選びは精霊王がやる事になった。 むしろ何で人間は分からないのか…視えないのか、って言うべきかな。不思議なくらいなんだけど」
「………。」

何となく馬鹿にされたような気分になったティレーリアが僅かに頬を膨らませたのを見て、ヴィリディスが慌てたようにその頬を撫でる。

「ごめん、僕らは当たり前に視えてるから、視えないって事が分からないっていうか…えーっと…」
慌てるヴィリディスに、ティレーリアはもう一度ぷっと頬を膨らませてみせてから、小さく笑う。
「嘘よ、怒ってないわ。 ―でも、精霊術師の方と王女様は、視えていたようなのだけど」

村でリュシアンに「魔力が素晴らしい」と言われた事と、その後にコーデリアから勧誘された事を思い出して、ティレーリアは首を傾げた。

「彼らは精霊の加護を受けているからね。どこまで視えてるのかは分からないけど、魔力を視る事は出来るんだと思う」

「そうなのね……。 じゃあ、今回はコーデリア様とエレナ様が、魔力の高い花嫁候補、という事…?」
「―うん、そうなったみたいだね。 だけど、僕はティーアしか要らない。ティーアは魔力も高いし、花嫁になるのに何の問題もないよ」
「で…でも、精霊王様の選んだ人を花嫁に迎えるというのが盟約なら……」
「そうだね。でも、僕は譲る気はない。僕の花嫁はティーアだけだ」
「ヴィー……」

不安そうに、泣きそうになっているティレーリアに、ヴィリディスはコツンとおでこを合わせる。

「だから、先に話したくなかったんだ―。力を分け与えて、もう逃げられないってなってから話そうと思ってたのに」
「そ……れは……」

なんて事を、と青くなっているティレーリアに、ヴィリディスは困ったように笑う。

「ちゃんと話し合うよ。精霊の王とも、人の王とも」
「……話し合いで、大丈夫なの…?」
「大丈夫にするしかない― というか、ほぼ確実に大丈夫だよ」

何かを確信しているようにそう言ったヴィリディスに、でも、とティレーリアは眉を下げる。


「じゃあティーアは、僕があの2人のどっちかを選んでも、平気?」

問われて、ティレーリアはヴィリディスの隣に自分以外の女性が立つ光景を想像して……そしてきゅっと拳を握る。

「平気じゃ……ない、わ。 だけど……盟約、だなんて言われたら……」

いくら魔力が高いのだとしても、ティレーリアは精霊王から『魔王の花嫁候補』に選ばれなかったのだ。
盟約の中に『魔王の花嫁候補は精霊王が選ぶ』とあるのであれば、ティレーリアがヴィリディスの花嫁になると、それはもう盟約違反で、

精霊王と魔王と人の王との、誓いを破ったという事になってしまう。


それは、つまり 盟約の破棄 に、

精霊族と魔族の諍いの種に、なってしまうのでは――?


ティレーリアはヴィリディスの腕をきゅっと掴んで、
そして小さく首を振る。

「ヴィー……大好きよ。ヴィーのお嫁さんに、なりたい。 だけど……私には、人族の運命を― ううん、精霊族や魔族の運命も、そんな全部を背負うなんて、出来ない」

ティレーリアの瞳から零れ落ちる涙に、ヴィリディスは唇を寄せる。

「泣かないで、ティーア。 ティーアは何も心配しなくて大丈夫だよ」

ね、と目尻に、頬に、優しいキスが降ってくる。

だけどティレーリアは、頷く事なんて出来はしなかった。

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