番なんて知りません!

桜月みやこ

文字の大きさ
上 下
72 / 81
第二部

22. 抱っこ

しおりを挟む
帰っていく招待客たちを四人並んで見送って、最後に「落ち着いたら村にも顔を見せてね」と言って名残惜しそうにセヴィの幼馴染と家族たちが帰っていくと、それまで賑やかだった庭に静寂が訪れた。
思わずふぅっと大きく息をついたセヴィに、カーニナが「お疲れ様」とくすくすと笑う。
それに少しだけ頬を染めて、けれどセヴィはすぐに嬉しそうにカーニナを見上げる。

「ドレス、とっても素敵って言って貰えたわ」
「えぇ、少し聞こえてたわ。好評そうだし、お店の方にも正式に置いてみようかしらねって話していたのよ」

ね、とカーニナに見上げられてブライドが頷いたその時、ママぁという泣き声が聞こえてきてカーニナがやっぱり持たなかったわねと苦笑を零す。
どうやら疲れてしまったらしい一番下の双子の兄妹がぐずり始めたようで、ブライドとカーニナは何事かボソボソと話していたと思ったら、申し訳なさそうにクードを振り返る。

「すみませんが私たちも失礼させて頂こうと思います。また後日、改めてご挨拶に伺わせて頂きますので」
「いや、こちらこそ色々迷惑をかけたのだから気にしないでくれ。早く落ち着ける場所で休ませてやると良い」
「でも姉さん、ドレスのままじゃ……」
「馬車だから大して歩かないし、大丈夫よ」

そう……?とセヴィが心配そうにしている後ろで、ブライドがクードにすみませんが置かせて頂いている荷物だけ引き取りを、と言って、ならば部屋まで案内しようとクードとブライドが屋敷の中へと連れ立って行く。

ブライドの家のメイドに抱かれてカーニナの元に双子の兄妹がやって来ると、カーニナは泣き方が激しい兄の方を抱き上げた。
それを見た妹の方も本格的に泣き始めてしまったものだから、セヴィはおろおろしてその子の頭をそっと撫でてみる。

「まーまぁ」

ふにゃぁんと泣きながら女の子から抱っこを強請るように手を伸ばされて、セヴィはえ??ともっとおろおろしてしまう。

「ね、姉さん……っ」
「あぁ、重いだろうから気にしなくて良いわよ。ブライドが戻って来たら任せましょう」
「でも、こんなに泣いてるのに……」

その間にも女の子はママ、だっこ、と泣いて小さな手足をバタつかせている。
カーニナは男の子を抱いたまま、女の子に声をかけながら頭を撫でる。
女の子を抱いているメイドも背をとんとんと叩いているけれど、ぐずぐずとむずがるばかりで一向に落ち着く様子がない。

セヴィは意を決すると「抱っこしても良い?」とメイドから女の子を慎重に受け取った。


セヴィは家族の中でも末っ子だから、弟妹の世話をした事などなかった。
だからついこの前まで子供の抱き方なんてよく分からなかったけれど、何度か機嫌の良い時に抱っこをさせて貰って、そうしてようやくまぁ合格かしら、なんて評価をカーニナから貰ったばかりだ。

そんなぎこちなさの残るセヴィの腕の中で、それでも何度か顔を合わせて抱っこもされていたせいか嫌がりもせずにことんと体重を預けてきた女の子に、セヴィは何とも言えない、胸の奥がぽわぽわとするような気分を味わった。
カーニナの見よう見まねで背中をとんとんと優しく叩いていたセヴィに向けて、ふいに女の子の手が伸ばされる。
そして垂れ耳をきゅっと握られて、セヴィはひゃっ!?と声を上げてしまった。

「あぁ、ごめんなさいセヴィ。この子たち、そうするのが好きみたいで……」

カーニナが慌てたように女の子の手を離させようとしてくれるけれど、見れば男の子も同じようにカーニナの耳を掴んでいる。
抱っこされ慣れているだろうメイドではなくセヴィが求められた理由が分かったような気がして、セヴィはふふ、と小さく笑う。

「そういう事なら大丈夫よ、姉さん。このまま抱っこしてるわ」

握られていると言っても痛いほどの力で握られているわけではないし、それで泣き止んで眠れるのなら、とセヴィは女の子の背中を撫でてから、またとんとんと優しく叩き始める。
そんなセヴィの様子に、メイドが目元を緩ませた。

「ご姉妹だからでしょうか。お耳の事だけではなくて、やっぱり奥様と似てらっしゃるので安心するのかもしれませんね」
「……似て、ますか?」
「えぇ、雰囲気が、よく」

そうかしら??と首を傾げながらも、それでも大好きな姉に似ていると言われてセヴィは嬉しそうに頬を緩めた。


双子の兄妹がようやくとろとろと眠りに落ちた頃にクードとブライドが戻ってきた。
どうやら既に荷物は馬車に積み込んできたようで、ブライドはいまだ庭で駆け回っている子供たちに声をかけるとセヴィの腕から女の子を受け取った。

「すみません、ありがとうござ──」

ございます、とブライドが言い切る前に女の子がびくんと身体を揺らして、そしてまたふにゃぁんと泣き始めてしまった。
渡し方がまずかったかしらと、すみませんごめんなさいと慌てるセヴィに、ブライドは子供はこういうものなのでと笑って女の子を抱き直す。

そうして御披露目の余韻を楽しむ間もなくブライド一家がバタバタと帰って行くのを見送ると、セヴィはすぐさまクードに抱き上げられた。

「疲れただろう」
「そうですね……でも家族や友達に会えて、嬉しかったです。それにクードさまのお仕事の顔も少し見られましたし」

気心の知れたやつばかりだと言ってはいたけれど、軍の人たちと話すクードはセヴィや屋敷の人たちに接する時とはやっぱり違っていて、セヴィの目にはとっても凛々しく見えた。

「とっても素敵でした」

嬉しそうに、少し照れたようにふわふわと微笑むセヴィに、クードは小さく唸ると踵を返す。
そうして大股で、結構なスピードで自室に戻ろうとしているらしいと気付いたセヴィは、慌ててクードの背中をぺしぺしと叩く。

「あの、まだ着替えが……」
「後で良いだろう」
「い、いえ、あの……何だかすぐに着替えた方が良いような気がしてならないんですけど……」
「気のせいだ」
「えぇ……??」

ドカドカと廊下を進んでいくクードにしっかりと抱えられているから、嫌な予感をひしひしと感じながらもセヴィはクードにしがみ付いているほかなかった。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
大変長らくお待たせいたしました。次回より怒涛の(?)えちえちです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

甘い誘惑

さつらぎ結雛
恋愛
幼馴染だった3人がある日突然イケナイ関係に… どんどん深まっていく。 こんなにも身近に甘い罠があったなんて あの日まで思いもしなかった。 3人の関係にライバルも続出。 どんどん甘い誘惑の罠にハマっていく胡桃。 一体この罠から抜け出せる事は出来るのか。 ※だいぶ性描写、R18、R15要素入ります。 自己責任でお願い致します。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...