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第二部
22. 抱っこ
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帰っていく招待客たちを四人並んで見送って、最後に「落ち着いたら村にも顔を見せてね」と言って名残惜しそうにセヴィの幼馴染と家族たちが帰っていくと、それまで賑やかだった庭に静寂が訪れた。
思わずふぅっと大きく息をついたセヴィに、カーニナが「お疲れ様」とくすくすと笑う。
それに少しだけ頬を染めて、けれどセヴィはすぐに嬉しそうにカーニナを見上げる。
「ドレス、とっても素敵って言って貰えたわ」
「えぇ、少し聞こえてたわ。好評そうだし、お店の方にも正式に置いてみようかしらねって話していたのよ」
ね、とカーニナに見上げられてブライドが頷いたその時、ママぁという泣き声が聞こえてきてカーニナがやっぱり持たなかったわねと苦笑を零す。
どうやら疲れてしまったらしい一番下の双子の兄妹がぐずり始めたようで、ブライドとカーニナは何事かボソボソと話していたと思ったら、申し訳なさそうにクードを振り返る。
「すみませんが私たちも失礼させて頂こうと思います。また後日、改めてご挨拶に伺わせて頂きますので」
「いや、こちらこそ色々迷惑をかけたのだから気にしないでくれ。早く落ち着ける場所で休ませてやると良い」
「でも姉さん、ドレスのままじゃ……」
「馬車だから大して歩かないし、大丈夫よ」
そう……?とセヴィが心配そうにしている後ろで、ブライドがクードにすみませんが置かせて頂いている荷物だけ引き取りを、と言って、ならば部屋まで案内しようとクードとブライドが屋敷の中へと連れ立って行く。
ブライドの家のメイドに抱かれてカーニナの元に双子の兄妹がやって来ると、カーニナは泣き方が激しい兄の方を抱き上げた。
それを見た妹の方も本格的に泣き始めてしまったものだから、セヴィはおろおろしてその子の頭をそっと撫でてみる。
「まーまぁ」
ふにゃぁんと泣きながら女の子から抱っこを強請るように手を伸ばされて、セヴィはえ??ともっとおろおろしてしまう。
「ね、姉さん……っ」
「あぁ、重いだろうから気にしなくて良いわよ。ブライドが戻って来たら任せましょう」
「でも、こんなに泣いてるのに……」
その間にも女の子はママ、だっこ、と泣いて小さな手足をバタつかせている。
カーニナは男の子を抱いたまま、女の子に声をかけながら頭を撫でる。
女の子を抱いているメイドも背をとんとんと叩いているけれど、ぐずぐずとむずがるばかりで一向に落ち着く様子がない。
セヴィは意を決すると「抱っこしても良い?」とメイドから女の子を慎重に受け取った。
セヴィは家族の中でも末っ子だから、弟妹の世話をした事などなかった。
だからついこの前まで子供の抱き方なんてよく分からなかったけれど、何度か機嫌の良い時に抱っこをさせて貰って、そうしてようやくまぁ合格かしら、なんて評価をカーニナから貰ったばかりだ。
そんなぎこちなさの残るセヴィの腕の中で、それでも何度か顔を合わせて抱っこもされていたせいか嫌がりもせずにことんと体重を預けてきた女の子に、セヴィは何とも言えない、胸の奥がぽわぽわとするような気分を味わった。
カーニナの見よう見まねで背中をとんとんと優しく叩いていたセヴィに向けて、ふいに女の子の手が伸ばされる。
そして垂れ耳をきゅっと握られて、セヴィはひゃっ!?と声を上げてしまった。
「あぁ、ごめんなさいセヴィ。この子たち、そうするのが好きみたいで……」
カーニナが慌てたように女の子の手を離させようとしてくれるけれど、見れば男の子も同じようにカーニナの耳を掴んでいる。
抱っこされ慣れているだろうメイドではなくセヴィが求められた理由が分かったような気がして、セヴィはふふ、と小さく笑う。
「そういう事なら大丈夫よ、姉さん。このまま抱っこしてるわ」
握られていると言っても痛いほどの力で握られているわけではないし、それで泣き止んで眠れるのなら、とセヴィは女の子の背中を撫でてから、またとんとんと優しく叩き始める。
そんなセヴィの様子に、メイドが目元を緩ませた。
「ご姉妹だからでしょうか。お耳の事だけではなくて、やっぱり奥様と似てらっしゃるので安心するのかもしれませんね」
「……似て、ますか?」
「えぇ、雰囲気が、よく」
そうかしら??と首を傾げながらも、それでも大好きな姉に似ていると言われてセヴィは嬉しそうに頬を緩めた。
双子の兄妹がようやくとろとろと眠りに落ちた頃にクードとブライドが戻ってきた。
どうやら既に荷物は馬車に積み込んできたようで、ブライドはいまだ庭で駆け回っている子供たちに声をかけるとセヴィの腕から女の子を受け取った。
「すみません、ありがとうござ──」
ございます、とブライドが言い切る前に女の子がびくんと身体を揺らして、そしてまたふにゃぁんと泣き始めてしまった。
渡し方がまずかったかしらと、すみませんごめんなさいと慌てるセヴィに、ブライドは子供はこういうものなのでと笑って女の子を抱き直す。
そうして御披露目の余韻を楽しむ間もなくブライド一家がバタバタと帰って行くのを見送ると、セヴィはすぐさまクードに抱き上げられた。
「疲れただろう」
「そうですね……でも家族や友達に会えて、嬉しかったです。それにクードさまのお仕事の顔も少し見られましたし」
気心の知れたやつばかりだと言ってはいたけれど、軍の人たちと話すクードはセヴィや屋敷の人たちに接する時とはやっぱり違っていて、セヴィの目にはとっても凛々しく見えた。
「とっても素敵でした」
嬉しそうに、少し照れたようにふわふわと微笑むセヴィに、クードは小さく唸ると踵を返す。
そうして大股で、結構なスピードで自室に戻ろうとしているらしいと気付いたセヴィは、慌ててクードの背中をぺしぺしと叩く。
「あの、まだ着替えが……」
「後で良いだろう」
「い、いえ、あの……何だかすぐに着替えた方が良いような気がしてならないんですけど……」
「気のせいだ」
「えぇ……??」
ドカドカと廊下を進んでいくクードにしっかりと抱えられているから、嫌な予感をひしひしと感じながらもセヴィはクードにしがみ付いているほかなかった。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
大変長らくお待たせいたしました。次回より怒涛の(?)えちえちです。
思わずふぅっと大きく息をついたセヴィに、カーニナが「お疲れ様」とくすくすと笑う。
それに少しだけ頬を染めて、けれどセヴィはすぐに嬉しそうにカーニナを見上げる。
「ドレス、とっても素敵って言って貰えたわ」
「えぇ、少し聞こえてたわ。好評そうだし、お店の方にも正式に置いてみようかしらねって話していたのよ」
ね、とカーニナに見上げられてブライドが頷いたその時、ママぁという泣き声が聞こえてきてカーニナがやっぱり持たなかったわねと苦笑を零す。
どうやら疲れてしまったらしい一番下の双子の兄妹がぐずり始めたようで、ブライドとカーニナは何事かボソボソと話していたと思ったら、申し訳なさそうにクードを振り返る。
「すみませんが私たちも失礼させて頂こうと思います。また後日、改めてご挨拶に伺わせて頂きますので」
「いや、こちらこそ色々迷惑をかけたのだから気にしないでくれ。早く落ち着ける場所で休ませてやると良い」
「でも姉さん、ドレスのままじゃ……」
「馬車だから大して歩かないし、大丈夫よ」
そう……?とセヴィが心配そうにしている後ろで、ブライドがクードにすみませんが置かせて頂いている荷物だけ引き取りを、と言って、ならば部屋まで案内しようとクードとブライドが屋敷の中へと連れ立って行く。
ブライドの家のメイドに抱かれてカーニナの元に双子の兄妹がやって来ると、カーニナは泣き方が激しい兄の方を抱き上げた。
それを見た妹の方も本格的に泣き始めてしまったものだから、セヴィはおろおろしてその子の頭をそっと撫でてみる。
「まーまぁ」
ふにゃぁんと泣きながら女の子から抱っこを強請るように手を伸ばされて、セヴィはえ??ともっとおろおろしてしまう。
「ね、姉さん……っ」
「あぁ、重いだろうから気にしなくて良いわよ。ブライドが戻って来たら任せましょう」
「でも、こんなに泣いてるのに……」
その間にも女の子はママ、だっこ、と泣いて小さな手足をバタつかせている。
カーニナは男の子を抱いたまま、女の子に声をかけながら頭を撫でる。
女の子を抱いているメイドも背をとんとんと叩いているけれど、ぐずぐずとむずがるばかりで一向に落ち着く様子がない。
セヴィは意を決すると「抱っこしても良い?」とメイドから女の子を慎重に受け取った。
セヴィは家族の中でも末っ子だから、弟妹の世話をした事などなかった。
だからついこの前まで子供の抱き方なんてよく分からなかったけれど、何度か機嫌の良い時に抱っこをさせて貰って、そうしてようやくまぁ合格かしら、なんて評価をカーニナから貰ったばかりだ。
そんなぎこちなさの残るセヴィの腕の中で、それでも何度か顔を合わせて抱っこもされていたせいか嫌がりもせずにことんと体重を預けてきた女の子に、セヴィは何とも言えない、胸の奥がぽわぽわとするような気分を味わった。
カーニナの見よう見まねで背中をとんとんと優しく叩いていたセヴィに向けて、ふいに女の子の手が伸ばされる。
そして垂れ耳をきゅっと握られて、セヴィはひゃっ!?と声を上げてしまった。
「あぁ、ごめんなさいセヴィ。この子たち、そうするのが好きみたいで……」
カーニナが慌てたように女の子の手を離させようとしてくれるけれど、見れば男の子も同じようにカーニナの耳を掴んでいる。
抱っこされ慣れているだろうメイドではなくセヴィが求められた理由が分かったような気がして、セヴィはふふ、と小さく笑う。
「そういう事なら大丈夫よ、姉さん。このまま抱っこしてるわ」
握られていると言っても痛いほどの力で握られているわけではないし、それで泣き止んで眠れるのなら、とセヴィは女の子の背中を撫でてから、またとんとんと優しく叩き始める。
そんなセヴィの様子に、メイドが目元を緩ませた。
「ご姉妹だからでしょうか。お耳の事だけではなくて、やっぱり奥様と似てらっしゃるので安心するのかもしれませんね」
「……似て、ますか?」
「えぇ、雰囲気が、よく」
そうかしら??と首を傾げながらも、それでも大好きな姉に似ていると言われてセヴィは嬉しそうに頬を緩めた。
双子の兄妹がようやくとろとろと眠りに落ちた頃にクードとブライドが戻ってきた。
どうやら既に荷物は馬車に積み込んできたようで、ブライドはいまだ庭で駆け回っている子供たちに声をかけるとセヴィの腕から女の子を受け取った。
「すみません、ありがとうござ──」
ございます、とブライドが言い切る前に女の子がびくんと身体を揺らして、そしてまたふにゃぁんと泣き始めてしまった。
渡し方がまずかったかしらと、すみませんごめんなさいと慌てるセヴィに、ブライドは子供はこういうものなのでと笑って女の子を抱き直す。
そうして御披露目の余韻を楽しむ間もなくブライド一家がバタバタと帰って行くのを見送ると、セヴィはすぐさまクードに抱き上げられた。
「疲れただろう」
「そうですね……でも家族や友達に会えて、嬉しかったです。それにクードさまのお仕事の顔も少し見られましたし」
気心の知れたやつばかりだと言ってはいたけれど、軍の人たちと話すクードはセヴィや屋敷の人たちに接する時とはやっぱり違っていて、セヴィの目にはとっても凛々しく見えた。
「とっても素敵でした」
嬉しそうに、少し照れたようにふわふわと微笑むセヴィに、クードは小さく唸ると踵を返す。
そうして大股で、結構なスピードで自室に戻ろうとしているらしいと気付いたセヴィは、慌ててクードの背中をぺしぺしと叩く。
「あの、まだ着替えが……」
「後で良いだろう」
「い、いえ、あの……何だかすぐに着替えた方が良いような気がしてならないんですけど……」
「気のせいだ」
「えぇ……??」
ドカドカと廊下を進んでいくクードにしっかりと抱えられているから、嫌な予感をひしひしと感じながらもセヴィはクードにしがみ付いているほかなかった。
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大変長らくお待たせいたしました。次回より怒涛の(?)えちえちです。
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