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第二部
20. 御披露目
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その日は抜けるような青空だった。
少しひんやりとしてはいたもののここ数日の中では暖かな日となった。
セヴィとカーニナは、クードの屋敷の一室でメイドたちの手によって完璧に仕立て上げられた。
セヴィのドレスの身頃には胸元からウェストまで刺繍が施され、大きく開いたネックラインとスカートの裾に沿って花を模した飾りが散りばめられている。
スカート全体にレースが重ねられているため、膝下が出ていても楚々とした雰囲気が損なわれる事もない。
髪は緩やかにまとめられたローポニーテールに、全体的に小さな花を散らしている。
カーニナのドレスはマーメイドラインだった。
小柄な女性には倦厭されがちなマーメイドラインのスカートにたっぷりとフリルをあしらってボリュームを出すことで、小柄である事が目立たずにバランスがとれるのだと、カーニナは「ちびっこの意地ね」などと鮮やかに微笑んだ。
緩く編み込んだ髪をサイドで垂らして大きなカサブランカを一輪飾って、手にはセヴィが編んだフィンガーレースを付ける。
そして二人とも寒くないようにと、ドレスを邪魔しないシンプルなケープを纏った。
セヴィとカーニナの準備が整ってしばらく、カーサが迎えにやって来た。
最後の仕上げであるベールをお互いにかけあって、セヴィとカーニナはカーサの先導で部屋を出る。
会場となるのは、東屋のある裏庭だ。
廊下を歩きながら何度も何度も深呼吸をしているセヴィの手を、カーニナは大丈夫よと握る。
その温もりに少し緊張を解いたセヴィだったけれど、庭に出た瞬間にまたかちんと固まってしまった。
普段は東屋と緑以外何も無い庭が、すっかりとその様相を変えていた。
東屋に向かって真っ直ぐに白いカーペットが敷かれ、その両脇にはフラワースタンドが並んでいる。
真っ白なテーブルクロスの掛けられたテーブルが配置されて、そうしてそこには既に招待客たちが揃っていた。
セヴィが緊張してしまうだろうからと、招待客は随分と絞ってくれたらしい。
大好きな家族たちや幼馴染たちの姿を捉えたものの、それでも自分たちに視線が集まっていることにセヴィは身を固くして足元に視線を落とす。
カーニナと並んでカーペットの端に立ったものの、セヴィはどうしたって緊張で震える体を止めることが出来なかった。
本当はここに一人で立たなければいけなかったのかと思うと、想像だけで倒れてしまいそうになる。
小さく震えているセヴィの手を、またカーニナがそっと握った。
「セヴィ、クード様とっても素敵よ」
カーニナから小さな声でそう言われて、セヴィはやっとカーペットの先、東屋の下に立っているクードを視界に収めた。
御披露目で男性が纏うのは真っ白なタキシードだ。
普段黒い隊服ばかりを見ているせいか、セヴィはふわっと小さく声を上げて、思わずカーニナの手をキュッと握りしめる。
「まぁ、一番素敵なのはブライドだけどね」
セヴィの手を握り返しながらそんな事を言ったカーニナに、セヴィは小さく唇を尖らせる。
「ブライドさまも素敵だけど、一番はクードさまだわ」
カーニナはセヴィのその言葉にくすくすと笑って、握っているセヴィの手を軽く持ち上げる。
「それじゃあ、素敵な旦那様のところへ行きましょうか」
あんまりのんびりしてると迎えに来てしまいそうだもの、とパチリと片目を瞑ったカーニナに、セヴィもそうねと、ぎこち無いながらも小さく笑った。
少し緊張が解けたセヴィは、姿勢を正してから改めてクードに視線を向ける。
真っ白なタキシードを纏って緊張など全くしていなさそうに背を伸ばして堂々と立っているクードに、セヴィは一時ぽわんと見蕩れてしまう。
けれどクードの尻尾が──よくよく見ればブライドも、ゆったりと揺れているのを見つけてしまった。
ドレスを喜んでくれているのか、それとも皆の前で番をお披露目出来る事が嬉しいのか──
多分ブライドはどっちもだわとカーニナが可笑しそうに笑ったものだから、セヴィもクードさまも同じかしらと微笑んで、
そうして二人は手を繋いだまま、ゆっくりとカーペットの上を歩き始めた。
東屋の下、真ん中を空ける形で立っていたクードとブライドの間に着くと、カーニナはそれまで握っていたセヴィの手をクードに向けて持ち上げる。
予定になかったその動きに、セヴィがえ?とカーニナを見ようとしたその時、クードがカーニナに一礼してからとても自然にセヴィの手を受け取って、自分の方へゆるくセヴィを引き寄せた。
クードと向き合って、セヴィはようやく身体の力を抜く事が出来た。
この人の隣にいれば大丈夫──
そんな安心感を覚えてほっと息を落としたセヴィに小さく笑んで見せて、クードはセヴィと向かい合うように立つと、姿勢を正す。
この日を迎えるまでに何度か練習をしたから、セヴィはクードが姿勢を正す時に僅かにカツ、と鳴らした靴の音に合わせて少しだけ膝を落として頭を下げた。
クードの手がセヴィの顔を覆っているベールにかかって、そうしてゆっくりとベールが持ち上げられる。
ベールを後ろに流して、クードはセヴィの手を取って顔を上げさせるとセヴィの腰を抱き寄せてから正面を向いた。
クードとブライドとでタイミングを合わせていたから、二人の花嫁は同時に招待客に向き直った。
セヴィはクードを、カーニナはブライドを、意図せずに同じタイミングで見上げた二人にクードとブライドも柔らかな笑みを返して、
そうして四人は招待客たちに向けてゆっくりと頭を下げた。
本日はお集まりいただきまして、というようなブライドの謝辞から始まって、カーニナもセヴィも思わず頬を染めて俯いてしまうような最愛の番と出会えた事への感謝や一生を共に出来る事への喜びの言葉をブライドとクードが順に紡いで、そしてささやかながらもてなしさせて頂くのでゆるりと楽しんで頂きたいという言葉でクードが締めると、形式ばった”御披露目”は終了となった。
少しひんやりとしてはいたもののここ数日の中では暖かな日となった。
セヴィとカーニナは、クードの屋敷の一室でメイドたちの手によって完璧に仕立て上げられた。
セヴィのドレスの身頃には胸元からウェストまで刺繍が施され、大きく開いたネックラインとスカートの裾に沿って花を模した飾りが散りばめられている。
スカート全体にレースが重ねられているため、膝下が出ていても楚々とした雰囲気が損なわれる事もない。
髪は緩やかにまとめられたローポニーテールに、全体的に小さな花を散らしている。
カーニナのドレスはマーメイドラインだった。
小柄な女性には倦厭されがちなマーメイドラインのスカートにたっぷりとフリルをあしらってボリュームを出すことで、小柄である事が目立たずにバランスがとれるのだと、カーニナは「ちびっこの意地ね」などと鮮やかに微笑んだ。
緩く編み込んだ髪をサイドで垂らして大きなカサブランカを一輪飾って、手にはセヴィが編んだフィンガーレースを付ける。
そして二人とも寒くないようにと、ドレスを邪魔しないシンプルなケープを纏った。
セヴィとカーニナの準備が整ってしばらく、カーサが迎えにやって来た。
最後の仕上げであるベールをお互いにかけあって、セヴィとカーニナはカーサの先導で部屋を出る。
会場となるのは、東屋のある裏庭だ。
廊下を歩きながら何度も何度も深呼吸をしているセヴィの手を、カーニナは大丈夫よと握る。
その温もりに少し緊張を解いたセヴィだったけれど、庭に出た瞬間にまたかちんと固まってしまった。
普段は東屋と緑以外何も無い庭が、すっかりとその様相を変えていた。
東屋に向かって真っ直ぐに白いカーペットが敷かれ、その両脇にはフラワースタンドが並んでいる。
真っ白なテーブルクロスの掛けられたテーブルが配置されて、そうしてそこには既に招待客たちが揃っていた。
セヴィが緊張してしまうだろうからと、招待客は随分と絞ってくれたらしい。
大好きな家族たちや幼馴染たちの姿を捉えたものの、それでも自分たちに視線が集まっていることにセヴィは身を固くして足元に視線を落とす。
カーニナと並んでカーペットの端に立ったものの、セヴィはどうしたって緊張で震える体を止めることが出来なかった。
本当はここに一人で立たなければいけなかったのかと思うと、想像だけで倒れてしまいそうになる。
小さく震えているセヴィの手を、またカーニナがそっと握った。
「セヴィ、クード様とっても素敵よ」
カーニナから小さな声でそう言われて、セヴィはやっとカーペットの先、東屋の下に立っているクードを視界に収めた。
御披露目で男性が纏うのは真っ白なタキシードだ。
普段黒い隊服ばかりを見ているせいか、セヴィはふわっと小さく声を上げて、思わずカーニナの手をキュッと握りしめる。
「まぁ、一番素敵なのはブライドだけどね」
セヴィの手を握り返しながらそんな事を言ったカーニナに、セヴィは小さく唇を尖らせる。
「ブライドさまも素敵だけど、一番はクードさまだわ」
カーニナはセヴィのその言葉にくすくすと笑って、握っているセヴィの手を軽く持ち上げる。
「それじゃあ、素敵な旦那様のところへ行きましょうか」
あんまりのんびりしてると迎えに来てしまいそうだもの、とパチリと片目を瞑ったカーニナに、セヴィもそうねと、ぎこち無いながらも小さく笑った。
少し緊張が解けたセヴィは、姿勢を正してから改めてクードに視線を向ける。
真っ白なタキシードを纏って緊張など全くしていなさそうに背を伸ばして堂々と立っているクードに、セヴィは一時ぽわんと見蕩れてしまう。
けれどクードの尻尾が──よくよく見ればブライドも、ゆったりと揺れているのを見つけてしまった。
ドレスを喜んでくれているのか、それとも皆の前で番をお披露目出来る事が嬉しいのか──
多分ブライドはどっちもだわとカーニナが可笑しそうに笑ったものだから、セヴィもクードさまも同じかしらと微笑んで、
そうして二人は手を繋いだまま、ゆっくりとカーペットの上を歩き始めた。
東屋の下、真ん中を空ける形で立っていたクードとブライドの間に着くと、カーニナはそれまで握っていたセヴィの手をクードに向けて持ち上げる。
予定になかったその動きに、セヴィがえ?とカーニナを見ようとしたその時、クードがカーニナに一礼してからとても自然にセヴィの手を受け取って、自分の方へゆるくセヴィを引き寄せた。
クードと向き合って、セヴィはようやく身体の力を抜く事が出来た。
この人の隣にいれば大丈夫──
そんな安心感を覚えてほっと息を落としたセヴィに小さく笑んで見せて、クードはセヴィと向かい合うように立つと、姿勢を正す。
この日を迎えるまでに何度か練習をしたから、セヴィはクードが姿勢を正す時に僅かにカツ、と鳴らした靴の音に合わせて少しだけ膝を落として頭を下げた。
クードの手がセヴィの顔を覆っているベールにかかって、そうしてゆっくりとベールが持ち上げられる。
ベールを後ろに流して、クードはセヴィの手を取って顔を上げさせるとセヴィの腰を抱き寄せてから正面を向いた。
クードとブライドとでタイミングを合わせていたから、二人の花嫁は同時に招待客に向き直った。
セヴィはクードを、カーニナはブライドを、意図せずに同じタイミングで見上げた二人にクードとブライドも柔らかな笑みを返して、
そうして四人は招待客たちに向けてゆっくりと頭を下げた。
本日はお集まりいただきまして、というようなブライドの謝辞から始まって、カーニナもセヴィも思わず頬を染めて俯いてしまうような最愛の番と出会えた事への感謝や一生を共に出来る事への喜びの言葉をブライドとクードが順に紡いで、そしてささやかながらもてなしさせて頂くのでゆるりと楽しんで頂きたいという言葉でクードが締めると、形式ばった”御披露目”は終了となった。
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