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第二部
15. ブランシュールのドレス
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「セヴィ、手紙が来ていたぞ」
夕食を終えてクードがレナードに呼ばれている間に、セヴィは出しっぱなしだった裁縫道具を丁寧にしまった。
その後シェーラに促されて入浴を済ませて、髪を梳かして貰っている頃になってようやくクードが戻ってきた。
いつもであれば自室の方へ入るクードがそんな言葉とともにセヴィの部屋に顔を出したものだから、シェーラはセヴィの髪に手早く櫛を通し終えると、おやすみなさいませ~とするりと部屋を出て行く。
おやすみと返しながらシェーラを見送ったクードが、手にしていた手紙をセヴィに差し出す。
封に書かれている宛先はクードだけれど、封筒をひっくり返してみたセヴィはあっと声を上げた。
裏には『ブランシュール』という店名、そしてその下にカーニナの名前が書かれている。
クードを見上げると頷き返されたので、セヴィは手紙を開いてみた。
そこにはセヴィのドレスの相談をしたいからまた近い内にお店の方へお越しください、という事と、三週ほど先までの候補日が書かれていた。
「すまないが俺は暫く休みが取れそうにない。だがドレスは早めに決めた方が良いだろうからな。カーサとシェーラを連れて、セヴィだけで行ってくると良い」
そう言われて、二人で出かけられないことを残念に思いながらもセヴィは頷いた。
そうしてそれならばと、候補日の中でも一番早い日──五日後の午後に伺います、と返事を認めた。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
「セヴィ様のお姉様があのブランシュールの奥様だったなんて!」
「有名なお店なの?」
ウキウキと弾むような足取りで前を行くシェーラに問えば、シェーラがはい!!!と勢いよくセヴィを振り返る。
「お披露目でブランシュールのドレスを着るのは、全女子の憧れですよ!」
「そんなに……。シェーラさんも、着たの?」
こてんと首を傾げたセヴィに、シェーラがまさか!!と首を振る。
「私たちには手が届きませんし、それにあれです。親からのドレスを引き継いで~っていう田舎の風習もありましたから……。多少リメイクはしちゃいましたけどね」
「そうなのね……。でも、受け継がれていくドレスも素敵ね」
ほわほわと笑いながらも、セヴィはブランシュールはやっぱり高いお店なのねと心の中でそっと溜息を落とす。
そして絶対に一番安いドレスを選ぼうと、ぐっと拳を握りしめた。
「いらっしゃい、待ってたわ」
店に入ると、ブライドではなくカーニナがセヴィたちを出迎えた。
パッと顔を綻ばせて嬉しそうにカーニナの元へ駆け寄るセヴィの後ろで、カーサとシェーラが本日はよろしくお願いしますと頭を下げる。
色々話したいけれどまずは採寸してドレスを決めてしまいましょう、という事で、セヴィはすぐにクードと訪れた時に通された立派な部屋に連れて行かれて、室内に設置されていた衝立の奥でつるんと下着姿にされて女性店員たちに採寸された。
全身くまなく測られる経験などなかったセヴィが、慣れない事に既に少しばかり疲れを覚えつつ衝立から出てみれば、満面の笑顔のカーニナとカーサとシェーラ、そしていつの間に運び込まれたのか、たくさんのドレスに迎えられた。
「ね、姉さん……あの、もっとシンプルなのが良いんだけど……」
「ダメよ!セヴィには絶対ふわふわしてるドレスが似合うもの!」
「でも……」
「あぁ、こちらもお似合いになりますね」
「良いですね~。やっぱりセヴィ様はふんわりしたラインの物がお似合いになりますね」
「そうですよね?そう思いますよね?なのにこの子ったらさっきから……」
カーニナとカーサとシェーラの会話に、セヴィはうぅぅと小さく唸る。
カーニナの出してくるドレスはどれもこれもレースや刺繍がふんだんに使われている。
とても綺麗で可愛いそのドレスたちは、ただ眺めているだけであればセヴィも素直にどれが好きだとかを口に出来ただろう。
けれどこれは、セヴィが着る目的で並べられているドレスだ。
こんなの絶対に高いわ!!とセヴィは必死で少しでもシンプルな物を選ぼうとしているのに、カーニナだけではなくてカーサやシェーラからもセヴィの選ぶドレスはことごとく却下され続けているのだ。
「兎族は小柄な子が多いから、ハイウエストのドレスをお薦めしているのよ」
これなんかも可愛いわよ、とまた新たに出されたドレスはベルラインでハイウエストのふんわりとしたシルエット。
「わぁ、かわ……っ!あっ……いえ、あの、でもこれはちょっと可愛すぎないかしら。やっぱりこう、すとんってしたシンプルで大人っぽい感じの……」
「あら、これ良いですねぇ。セヴィ様の雰囲気によく合ってますよ。着てみましょう、セヴィ様!絶対絶対似合います!!」
「いえ、でも……だからね?私はもっとシンプルで大人っぽい……」
「さぁさぁさぁ!」
ニコニコとシェーラに衝立の奥に引きずり込まれて、セヴィは渋々とドレスを身に付けた。
そうして鏡に写った自身の姿に、思わず出そうになった息を飲み込んで緩みそうになった頬を引き締める。
「あ……あんまり、似合わないと、思うの……」
「えー?そんな事ありませんよぉ。とってもお似合いです!」
候補に入れましょうね~と言われて、セヴィは「私はあんまり……」と小さく呟く。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
あれでいてシェーラさんは既婚者でした。子供はまだいません。
夕食を終えてクードがレナードに呼ばれている間に、セヴィは出しっぱなしだった裁縫道具を丁寧にしまった。
その後シェーラに促されて入浴を済ませて、髪を梳かして貰っている頃になってようやくクードが戻ってきた。
いつもであれば自室の方へ入るクードがそんな言葉とともにセヴィの部屋に顔を出したものだから、シェーラはセヴィの髪に手早く櫛を通し終えると、おやすみなさいませ~とするりと部屋を出て行く。
おやすみと返しながらシェーラを見送ったクードが、手にしていた手紙をセヴィに差し出す。
封に書かれている宛先はクードだけれど、封筒をひっくり返してみたセヴィはあっと声を上げた。
裏には『ブランシュール』という店名、そしてその下にカーニナの名前が書かれている。
クードを見上げると頷き返されたので、セヴィは手紙を開いてみた。
そこにはセヴィのドレスの相談をしたいからまた近い内にお店の方へお越しください、という事と、三週ほど先までの候補日が書かれていた。
「すまないが俺は暫く休みが取れそうにない。だがドレスは早めに決めた方が良いだろうからな。カーサとシェーラを連れて、セヴィだけで行ってくると良い」
そう言われて、二人で出かけられないことを残念に思いながらもセヴィは頷いた。
そうしてそれならばと、候補日の中でも一番早い日──五日後の午後に伺います、と返事を認めた。
❊❊❊❊❊ ✽ ❊❊❊❊❊
「セヴィ様のお姉様があのブランシュールの奥様だったなんて!」
「有名なお店なの?」
ウキウキと弾むような足取りで前を行くシェーラに問えば、シェーラがはい!!!と勢いよくセヴィを振り返る。
「お披露目でブランシュールのドレスを着るのは、全女子の憧れですよ!」
「そんなに……。シェーラさんも、着たの?」
こてんと首を傾げたセヴィに、シェーラがまさか!!と首を振る。
「私たちには手が届きませんし、それにあれです。親からのドレスを引き継いで~っていう田舎の風習もありましたから……。多少リメイクはしちゃいましたけどね」
「そうなのね……。でも、受け継がれていくドレスも素敵ね」
ほわほわと笑いながらも、セヴィはブランシュールはやっぱり高いお店なのねと心の中でそっと溜息を落とす。
そして絶対に一番安いドレスを選ぼうと、ぐっと拳を握りしめた。
「いらっしゃい、待ってたわ」
店に入ると、ブライドではなくカーニナがセヴィたちを出迎えた。
パッと顔を綻ばせて嬉しそうにカーニナの元へ駆け寄るセヴィの後ろで、カーサとシェーラが本日はよろしくお願いしますと頭を下げる。
色々話したいけれどまずは採寸してドレスを決めてしまいましょう、という事で、セヴィはすぐにクードと訪れた時に通された立派な部屋に連れて行かれて、室内に設置されていた衝立の奥でつるんと下着姿にされて女性店員たちに採寸された。
全身くまなく測られる経験などなかったセヴィが、慣れない事に既に少しばかり疲れを覚えつつ衝立から出てみれば、満面の笑顔のカーニナとカーサとシェーラ、そしていつの間に運び込まれたのか、たくさんのドレスに迎えられた。
「ね、姉さん……あの、もっとシンプルなのが良いんだけど……」
「ダメよ!セヴィには絶対ふわふわしてるドレスが似合うもの!」
「でも……」
「あぁ、こちらもお似合いになりますね」
「良いですね~。やっぱりセヴィ様はふんわりしたラインの物がお似合いになりますね」
「そうですよね?そう思いますよね?なのにこの子ったらさっきから……」
カーニナとカーサとシェーラの会話に、セヴィはうぅぅと小さく唸る。
カーニナの出してくるドレスはどれもこれもレースや刺繍がふんだんに使われている。
とても綺麗で可愛いそのドレスたちは、ただ眺めているだけであればセヴィも素直にどれが好きだとかを口に出来ただろう。
けれどこれは、セヴィが着る目的で並べられているドレスだ。
こんなの絶対に高いわ!!とセヴィは必死で少しでもシンプルな物を選ぼうとしているのに、カーニナだけではなくてカーサやシェーラからもセヴィの選ぶドレスはことごとく却下され続けているのだ。
「兎族は小柄な子が多いから、ハイウエストのドレスをお薦めしているのよ」
これなんかも可愛いわよ、とまた新たに出されたドレスはベルラインでハイウエストのふんわりとしたシルエット。
「わぁ、かわ……っ!あっ……いえ、あの、でもこれはちょっと可愛すぎないかしら。やっぱりこう、すとんってしたシンプルで大人っぽい感じの……」
「あら、これ良いですねぇ。セヴィ様の雰囲気によく合ってますよ。着てみましょう、セヴィ様!絶対絶対似合います!!」
「いえ、でも……だからね?私はもっとシンプルで大人っぽい……」
「さぁさぁさぁ!」
ニコニコとシェーラに衝立の奥に引きずり込まれて、セヴィは渋々とドレスを身に付けた。
そうして鏡に写った自身の姿に、思わず出そうになった息を飲み込んで緩みそうになった頬を引き締める。
「あ……あんまり、似合わないと、思うの……」
「えー?そんな事ありませんよぉ。とってもお似合いです!」
候補に入れましょうね~と言われて、セヴィは「私はあんまり……」と小さく呟く。
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あれでいてシェーラさんは既婚者でした。子供はまだいません。
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