番なんて知りません!

桜月みやこ

文字の大きさ
上 下
57 / 81
第二部

07. 夢みたい

しおりを挟む
でもやっぱりこんな年で恥ずかしいと渋るカーニナに対して、カーニナがドレスを着られなかった事をそこまで未練に思っているなら是非とも一緒にやらせて頂きたいと、ブライドがやる気を見せた。
まだもごもごと否を唱えようとしているカーニナを他所に三人がじゃあその方向で、などと話をまとめたところで、店の奥から何やら賑かな声が響いてきた。

「あら、時間切れかしら」

カーニナが顔を上げて苦笑を零したところで店のバックヤードに繋がるのであろう扉が開いた。
何かしらと視線を向けたセヴィはすぐにわぁっと声を上げる。

まだ覚束無い足取りの小さな子供が、ヨチヨチと歩いて来たのだ。

「母様のところに行くってきかなくて……ごめんなさい」

そう言いながら、ヨチヨチ歩きの子と同じくらいの小さな子を抱いた男の子を先頭に子供たちがやって来る。

異種族同士の婚姻の場合、子供は全て父親と同じ種で産まれてくる。
ブライドとカーニナの子供たちも、多少の濃淡はあるものの、七人全員がブライドと同じ銀灰色の髪色で、そうして狼の耳と尻尾をもっている。
よくよく見れば顔立ちはカーニナに似ている子も居て、セヴィはまたわぁと声を上げた。


ブライドとカーニナの子供たちを紹介して貰ったものの、まだまだやんちゃな子供たちが隊長クードに剣技みせて!と強請り始めたり、さっきヨチヨチと歩いてきた一番下の双子の兄妹が泣き始めてしまったりで、御披露目を行う日やらドレスのデザインやら、細かい事はまた日を改めて、という事になった。

「慌ただしくなってしまってごめんなさい」
「ううん、こうして会えただけでも嬉しいのに、姉さんと一緒に御披露目まで出来るなんて夢みたい。それに姉さんの子供たちもとっても可愛いし」

カーニナの腕の中で泣き疲れてうとうとしている子供の姿に目を細めているセヴィに、カーニナが微笑む。

「今度は家の方にも来て頂戴──もちろん、クード様がお許し下さるなら、だけどね」
「うん、行きたい!」

きゃっきゃとはしゃぐ、屋敷では見ることの出来なかったセヴィの様子に目元を緩ませていたクードは、ふと気付いたようにブライドに顔を向ける。

「ドレスは早めに決めた方が良いのだろう?」
「そうですね。既製品にしても直しが必要になるでしょうし、フルオーダーとなりますと更に時間もかかりますので……」
「ならばまずはそちらを決めないことには、だな。すまないが──」
「えぇ。きっと妻が張り切って見立てますので、お任せ下さい」
「いくらかかっても構わない。セヴィの望むようにしてやってくれ」
「畏まりました」

控えめに頭を下げたブライドに頼むと伝えると、クードはセヴィの方へ足を向ける。

「セヴィ、そろそろ」
「ん、はい……」
「またすぐに会える。ドレスを決めなければならないだろう?」

名残惜しそうにしているセヴィの頭を撫でてそう言ったクードに、セヴィはそうですねと微笑んで、カーニナと子供たち、そして最後にブライドに礼を言うと、店を後にした。



「少し買い物でもするか?」

店を出て、来た時と同じように抱き上げられながらのクードのその言葉に、セヴィはうーんと少し難しい顔をしてみせる。

「……下ろして貰えるなら」

このままでは恥ずかしいから嫌ですと訴えたセヴィに、クードは暫く考えると一つ息を落としてセヴィを下ろした。

「その代わり、絶対に手を離すなよ」

手を差し出してきたクードに、セヴィははい!と微笑むと、クードの手を取らずにその腕に抱きつく。
しっかりと腕を絡めてクードにピッタリと寄り添うと、セヴィは嬉しそうにクードを見上げた。

「クードさまとこんな風に町を歩けるなんて嬉しいです。私今までデートってした事がなくて……だから、今日をすごくすごく楽しみにしてたんです」

頬を染めて本当に嬉しそうに笑うセヴィに、クードはぐぅと呻くと顔を覆って天を見上げた。



*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
ブライドさんの言い訳タイム
 「私はこんな仕事ですから披露目の事を完全に忘れていたわけではないんですよ。子供の事もありましたし、それでタイミングを逸したと言いますか……」


ちなみに以前別のお話でえらい目にあったので、このお話では名付けを省きまくっているため、子供たちの名前は誰一人決めてません(ˊᵕˋ;)
何せクードさんの家名すら考えていないので……(;´-∀-`)ゞ 
(さすがに端折りすぎたなと反省している今日この頃……)

最初は使用人sの名前も出さないつもりだったんです
さすがに「クードの秘書」「年嵩のメイド」「メイド」では厳しすぎたし思いのほか出番が多かったので付けましたが……w
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

処理中です...