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第一部
45. まだ独り占めしたい
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二人の姿が完全に見えなくなっても、クードは暫く何も言わずにセヴィの髪をふわふわと弄んでいた。
「……セヴィは、子供が欲しいか?」
ややあって静かに問いかけられて、セヴィは何となく自分のお腹に手をあててみる。
「クードさまの赤ちゃん……欲しい、です……でも……」
ふっと言葉を切って俯いたセヴィに、クードはどうした?とお腹にあてられたままのセヴィの手に自分の手を重ねる。
「あの……私、まだ全然……考えて、なくて……ぼんやり、欲しいなって、思うくらいで……自分が赤ちゃんを産むなんて、想像も出来なくて……そういう事してるって、分かっていたはずなのに、全然………」
ぽつん ぽつん と呟くように話していたセヴィが、ふつりと言葉を切る。
そしてほんの僅か、自分のお腹をさするように手を動かす。
「月の………月の障り、も……そういえば、来ていませんでした………」
どこか呆然としたようなセヴィの呟きに、クードもあぁ、と息を落とす。
「すまない、俺も……いや、俺こそが気をつけててやらなければならなかったのに」
「クードさまはなんにも……」
ふるふると首を降って俯いてしまったセヴィを、クードは緩く抱きしめる。
クードの胸に顔を埋めて、セヴィは考えた。
元々セヴィは月の障りはとても軽くて、母や姉が言うような不調なんて何にもなかったから、毎月その時になって「あぁ、もう一月経ったのね」と思うくらいだった。
下着が汚れてしまうのが困るくらいで、だからカレンダーを眺めてそろそろだわと溜息をつくなんて事もなくて、周期なんてほとんど気にしていなかった。
(だからって、四月も気が付かないなんて……)
この屋敷に連れて来られた最初の頃は自分の身に何が起こったのか飲み込めなくて、ただ恐くて不安で、
その後はただただ温かくて幸せで、幸せ過ぎて愛される事にすっかり溺れてしまっていた。
カーサ達が気付かなければ、今頃自分の中に新しい命が宿っていてもちっとも不思議ではないくらい、クードと共に過ごしている。
それが嫌だなんて事では、勿論ないけれど──
「クードさまの赤ちゃんは、欲しい、です……でも、私はまだ子供で……自分が赤ちゃんを産むなんて、よく分からなくて……だから、その……ごめんなさい……もう少し……時間が、欲しい、です……」
クードは小さな身体を更に縮こまらせているセヴィの顔を上げさせると、こつんと額を合わせる。
「何を謝る?なぁセヴィ、カーサも言っていただろう。まだ暫く、俺が落ち着くまでは──と」
恐る恐るといったようにクードと視線を合わせたセヴィの頬を撫でると、クードは少しだけ身体を離す。
「俺がまだ、だめなんだ。例え子供でも、セヴィに俺以外のやつに目を向けて欲しくない。まだ俺だけを見ていて欲しい──まだセヴィを、抱きたい」
「クードさま……」
「セヴィ。まだ暫く、俺にセヴィを独り占めさせて欲しい──だめか?」
セヴィの手を取って、その大きな手で包み込む様に握り込まれて懇願するように言われて、セヴィはじわりと溢れそうになった涙を必死に堪えて首を振る。
「独り占め……してください。クードさまがもう良いって、思うまで」
「そうすると一生という事になりそうだが……」
とても真面目な顔で言われて、セヴィは思わず小さく笑う。
「それは、さすがに……私、クードさまの赤ちゃん見たいです」
「俺はセヴィの子供が見たい───同じ事か」
「……同じ事、ですね」
セヴィがくすりと笑ったのを見て、クードも僅かに頬を緩める。
「すまない、待たせてしまう事になるが」
「いいえ、私も……ちゃんと、考えます。これからの、いろんな事」
クードがもう一度セヴィと額を合わせてその瞳を覗き込むと、セヴィはあと少しで触れそうだった鼻をちょんと合わせてから瞳を閉じた。
啄むようなキスを繰り返されて、握られていた手が離れたかと思ったらクードの手が背中に回る。
セヴィもクードの背中に手を回してきゅっと力を込めると、クードからのキスが少しずつ深くなっていって、そしてくちゅっと舌が絡められた。
「ん………」
とろりと甘えるようにクードの胸にもたれ掛かったセヴィの背中から腰へと、クードは手を滑らせる。
その動きにセヴィの身体がぴくんと小さく反応して、セヴィは眉を下げてクードを見上げた。
「クードさま、ここでは………」
「ダメか?」
「ダメです」
少しだけ唇を尖らせてみせたセヴィにちょんとキスをすると、クードはセヴィを抱き上げて立ち上がる。
「なら部屋に戻るか」
「………はい」
きゅっと抱き着いてきたセヴィの頬にキスを落とすと、クードは足早に東屋を後にした。
「……セヴィは、子供が欲しいか?」
ややあって静かに問いかけられて、セヴィは何となく自分のお腹に手をあててみる。
「クードさまの赤ちゃん……欲しい、です……でも……」
ふっと言葉を切って俯いたセヴィに、クードはどうした?とお腹にあてられたままのセヴィの手に自分の手を重ねる。
「あの……私、まだ全然……考えて、なくて……ぼんやり、欲しいなって、思うくらいで……自分が赤ちゃんを産むなんて、想像も出来なくて……そういう事してるって、分かっていたはずなのに、全然………」
ぽつん ぽつん と呟くように話していたセヴィが、ふつりと言葉を切る。
そしてほんの僅か、自分のお腹をさするように手を動かす。
「月の………月の障り、も……そういえば、来ていませんでした………」
どこか呆然としたようなセヴィの呟きに、クードもあぁ、と息を落とす。
「すまない、俺も……いや、俺こそが気をつけててやらなければならなかったのに」
「クードさまはなんにも……」
ふるふると首を降って俯いてしまったセヴィを、クードは緩く抱きしめる。
クードの胸に顔を埋めて、セヴィは考えた。
元々セヴィは月の障りはとても軽くて、母や姉が言うような不調なんて何にもなかったから、毎月その時になって「あぁ、もう一月経ったのね」と思うくらいだった。
下着が汚れてしまうのが困るくらいで、だからカレンダーを眺めてそろそろだわと溜息をつくなんて事もなくて、周期なんてほとんど気にしていなかった。
(だからって、四月も気が付かないなんて……)
この屋敷に連れて来られた最初の頃は自分の身に何が起こったのか飲み込めなくて、ただ恐くて不安で、
その後はただただ温かくて幸せで、幸せ過ぎて愛される事にすっかり溺れてしまっていた。
カーサ達が気付かなければ、今頃自分の中に新しい命が宿っていてもちっとも不思議ではないくらい、クードと共に過ごしている。
それが嫌だなんて事では、勿論ないけれど──
「クードさまの赤ちゃんは、欲しい、です……でも、私はまだ子供で……自分が赤ちゃんを産むなんて、よく分からなくて……だから、その……ごめんなさい……もう少し……時間が、欲しい、です……」
クードは小さな身体を更に縮こまらせているセヴィの顔を上げさせると、こつんと額を合わせる。
「何を謝る?なぁセヴィ、カーサも言っていただろう。まだ暫く、俺が落ち着くまでは──と」
恐る恐るといったようにクードと視線を合わせたセヴィの頬を撫でると、クードは少しだけ身体を離す。
「俺がまだ、だめなんだ。例え子供でも、セヴィに俺以外のやつに目を向けて欲しくない。まだ俺だけを見ていて欲しい──まだセヴィを、抱きたい」
「クードさま……」
「セヴィ。まだ暫く、俺にセヴィを独り占めさせて欲しい──だめか?」
セヴィの手を取って、その大きな手で包み込む様に握り込まれて懇願するように言われて、セヴィはじわりと溢れそうになった涙を必死に堪えて首を振る。
「独り占め……してください。クードさまがもう良いって、思うまで」
「そうすると一生という事になりそうだが……」
とても真面目な顔で言われて、セヴィは思わず小さく笑う。
「それは、さすがに……私、クードさまの赤ちゃん見たいです」
「俺はセヴィの子供が見たい───同じ事か」
「……同じ事、ですね」
セヴィがくすりと笑ったのを見て、クードも僅かに頬を緩める。
「すまない、待たせてしまう事になるが」
「いいえ、私も……ちゃんと、考えます。これからの、いろんな事」
クードがもう一度セヴィと額を合わせてその瞳を覗き込むと、セヴィはあと少しで触れそうだった鼻をちょんと合わせてから瞳を閉じた。
啄むようなキスを繰り返されて、握られていた手が離れたかと思ったらクードの手が背中に回る。
セヴィもクードの背中に手を回してきゅっと力を込めると、クードからのキスが少しずつ深くなっていって、そしてくちゅっと舌が絡められた。
「ん………」
とろりと甘えるようにクードの胸にもたれ掛かったセヴィの背中から腰へと、クードは手を滑らせる。
その動きにセヴィの身体がぴくんと小さく反応して、セヴィは眉を下げてクードを見上げた。
「クードさま、ここでは………」
「ダメか?」
「ダメです」
少しだけ唇を尖らせてみせたセヴィにちょんとキスをすると、クードはセヴィを抱き上げて立ち上がる。
「なら部屋に戻るか」
「………はい」
きゅっと抱き着いてきたセヴィの頬にキスを落とすと、クードは足早に東屋を後にした。
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