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第一部
28. 寝台に一人
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目を覚ますとカーテンの隙間から光が零れていて、今度はどうやら昼間のようだった。
セヴィは今がいつなのかよく分からずに小さく息をつく。
恐らくあれは夜中の事で、そして結局二回目が終わった──多分あそこで終わったのだろう、というところでセヴィの記憶は途絶えている。
その日の昼なのか、それとも丸一日以上眠ってしまったのか……
だって一回目とは比べ物にならないくらいに、クードは時間をかけて、じっくりしっかりとセヴィを抱いたのだ。
あのこわい感覚──クードは『イク』という事だと言っていたけれど、それに慣れる為だなんて言いながら、何度も何度も上り詰めさせられて、恥ずかしいくらい泣いて変な声をたくさん上げてしまった気がする。
一体どんな顔をしてクードさまとお話をすれば……と思ったところで、セヴィはふと顔を上げて、きょろきょろと周りを見回した。
セヴィがいるのはクードの寝室の、大きな寝台の上。
その真ん中で、セヴィは一人で寝ていた。
「……クードさま……?」
たくさん泣いたせいか掠れた声しか出なくて、それでもセヴィは何度か呼びかけてみる。
寝室とクードの部屋とを繋ぐ扉は閉じられていて、部屋の様子を伺う事は出来ない。
「クードさま、どこ……?」
怠い身体を起こして、寝室の中をいくら見回してみても、部屋の方へ向かって何度呼呼びかけてみても、クードからの応えはなかった。
ふいにクードが屋敷を出て行ってしまった時の事を思い出して、セヴィは慌てて寝台の端まで移動する。
そして寝台から降りようとして、けれど上手く力が入らずにずるっと滑り落ちてしまった。
どたん、と大きな音がしたけれど、その音にもやっぱり何の反応もない。
「いた……っ」
打ってしまった足を押さえて、セヴィはその場にうずくまる。
最初の頃、あまりはっきりとは覚えていないけれど、クードは部屋から出なかったように思う。
少なくともセヴィの意識があるうちは、ずっと側に居た。
だからセヴィは何となく"籠る"というのは、"部屋から出ない事"なんだと思っていたのだけれど──
違うのかしら。お屋敷の中、という意味だったのかしら
それともまさか、またどこかへ行ってしまった……?
何も言わずに、私が寝てる間に?
だとすると、また抑制剤を飲んでしまったの?
ぐるぐるとそんな事を考えてとんでもなく不安を覚えてしまって、セヴィの瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
「クードさま……っ」
ひくっとしゃくり上げたその時、クードの部屋の扉が開く音がした。
そうして室内へ入ってきた足音に、セヴィの耳がぴくんと揺れる。
「クードさま………」
顔を上げて、扉を見つめる。
部屋の方で暫く何かをしていたらしい足音がこちらへ近づいて来て、そうして寝室の扉がゆっくりと開いた。
「……セヴィ?」
開かれた扉の向こうで床にうずくまっているセヴィに驚いた顔をしたクードに、セヴィはまたぽろぽろと涙を零して手を伸ばす。
「セヴィ、どうした!?」
慌てて駆け寄って来たクードに抱き上げられて、セヴィはぎゅうっとその首に腕を回す。
「起きたら、ひとりで……クードさまが、いなくて……また、どこかへ行ってしまったのかしらって、不安になって……」
ひっくひっくとしゃくり上げながらそう言ったセヴィに、クードはすまないとセヴィの背を撫でる。
「目が覚めたら何か食べたいんじゃないかと思って、厨房へ行っていたんだ」
「厨房……?」
「あぁ」
クードはセヴィの涙を拭うと、セヴィを抱いたまま部屋の方へと足を進めた。
寝室とは違って明るい光がいっぱい降り注いでいて、セヴィはパチパチと瞬きをする。
そうして目にしたのは、窓際に置かれているテーブルの上に置かれているトレー。
ボウルいっぱいのサラダにセヴィの好きな少し硬めのパンを薄くスライスしたもの、チーズやハム、フルーツなんかがたくさん乗っている。
目にした途端にセヴィのお腹がくぅっと可愛く鳴いたものだから、クードは小さく笑うと一緒に置かれていた水差しを手に取った。
「まずはこれだな」
水差しから直接口に水を含んで、そしてすぐにセヴィに口移す。
流れ込んできたまだ冷たい水を飲み込んで、セヴィは口に広がった爽やかな香りにん、と声を上げた。
あの日、クードが屋敷を出て行ってしまう直前にカーサが入れてくれた、柑橘系のフルーツを絞った水だったからだ。
「カーサがセヴィはそれが気に入ってそうだったから、と言っていたが」
「ん、はい。好きです……嬉しい」
ほわっと微笑んだセヴィに、クードはもう一度水を口に含むと口移す。
そうして四度程口移しで水を飲んだセヴィは、思ったよりもずっと乾いていたらしい喉が潤されてはふっと息をついた。
「後でカーサさんにお礼を言わないといけませんね」
嬉しそうに微笑んでいるセヴィのその一言に、クードの眉間にくっと皺が寄る。
首を傾げたセヴィに、クードはバツが悪そうに少し視線を逸らした。
「……出来れば、まだセヴィには部屋から出て欲しくない……お前は出てるじゃないかと、思うだろうが……」
ボソボソとそう言ったクードに、セヴィはシェーラが言っていた「嫉妬して八つ裂き」云々の話を思い出して、分かりましたと頷く。
「じゃあ、クードさまからカーサさんに伝えておいて下さいね」
「すまない……必ず伝える」
まだ少し冷たさの残った唇でキスをされて、セヴィはお願いします、とクードにキスを返した。
クードはもう一度すまないと言ってセヴィを抱き上げ直すと、テーブルの上へと視線を移す。
「飯にするか──と言いたいところだが……その前に風呂の方が良いか?」
問われて、セヴィは「お風呂でお願いします」と即答した。
セヴィは今がいつなのかよく分からずに小さく息をつく。
恐らくあれは夜中の事で、そして結局二回目が終わった──多分あそこで終わったのだろう、というところでセヴィの記憶は途絶えている。
その日の昼なのか、それとも丸一日以上眠ってしまったのか……
だって一回目とは比べ物にならないくらいに、クードは時間をかけて、じっくりしっかりとセヴィを抱いたのだ。
あのこわい感覚──クードは『イク』という事だと言っていたけれど、それに慣れる為だなんて言いながら、何度も何度も上り詰めさせられて、恥ずかしいくらい泣いて変な声をたくさん上げてしまった気がする。
一体どんな顔をしてクードさまとお話をすれば……と思ったところで、セヴィはふと顔を上げて、きょろきょろと周りを見回した。
セヴィがいるのはクードの寝室の、大きな寝台の上。
その真ん中で、セヴィは一人で寝ていた。
「……クードさま……?」
たくさん泣いたせいか掠れた声しか出なくて、それでもセヴィは何度か呼びかけてみる。
寝室とクードの部屋とを繋ぐ扉は閉じられていて、部屋の様子を伺う事は出来ない。
「クードさま、どこ……?」
怠い身体を起こして、寝室の中をいくら見回してみても、部屋の方へ向かって何度呼呼びかけてみても、クードからの応えはなかった。
ふいにクードが屋敷を出て行ってしまった時の事を思い出して、セヴィは慌てて寝台の端まで移動する。
そして寝台から降りようとして、けれど上手く力が入らずにずるっと滑り落ちてしまった。
どたん、と大きな音がしたけれど、その音にもやっぱり何の反応もない。
「いた……っ」
打ってしまった足を押さえて、セヴィはその場にうずくまる。
最初の頃、あまりはっきりとは覚えていないけれど、クードは部屋から出なかったように思う。
少なくともセヴィの意識があるうちは、ずっと側に居た。
だからセヴィは何となく"籠る"というのは、"部屋から出ない事"なんだと思っていたのだけれど──
違うのかしら。お屋敷の中、という意味だったのかしら
それともまさか、またどこかへ行ってしまった……?
何も言わずに、私が寝てる間に?
だとすると、また抑制剤を飲んでしまったの?
ぐるぐるとそんな事を考えてとんでもなく不安を覚えてしまって、セヴィの瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
「クードさま……っ」
ひくっとしゃくり上げたその時、クードの部屋の扉が開く音がした。
そうして室内へ入ってきた足音に、セヴィの耳がぴくんと揺れる。
「クードさま………」
顔を上げて、扉を見つめる。
部屋の方で暫く何かをしていたらしい足音がこちらへ近づいて来て、そうして寝室の扉がゆっくりと開いた。
「……セヴィ?」
開かれた扉の向こうで床にうずくまっているセヴィに驚いた顔をしたクードに、セヴィはまたぽろぽろと涙を零して手を伸ばす。
「セヴィ、どうした!?」
慌てて駆け寄って来たクードに抱き上げられて、セヴィはぎゅうっとその首に腕を回す。
「起きたら、ひとりで……クードさまが、いなくて……また、どこかへ行ってしまったのかしらって、不安になって……」
ひっくひっくとしゃくり上げながらそう言ったセヴィに、クードはすまないとセヴィの背を撫でる。
「目が覚めたら何か食べたいんじゃないかと思って、厨房へ行っていたんだ」
「厨房……?」
「あぁ」
クードはセヴィの涙を拭うと、セヴィを抱いたまま部屋の方へと足を進めた。
寝室とは違って明るい光がいっぱい降り注いでいて、セヴィはパチパチと瞬きをする。
そうして目にしたのは、窓際に置かれているテーブルの上に置かれているトレー。
ボウルいっぱいのサラダにセヴィの好きな少し硬めのパンを薄くスライスしたもの、チーズやハム、フルーツなんかがたくさん乗っている。
目にした途端にセヴィのお腹がくぅっと可愛く鳴いたものだから、クードは小さく笑うと一緒に置かれていた水差しを手に取った。
「まずはこれだな」
水差しから直接口に水を含んで、そしてすぐにセヴィに口移す。
流れ込んできたまだ冷たい水を飲み込んで、セヴィは口に広がった爽やかな香りにん、と声を上げた。
あの日、クードが屋敷を出て行ってしまう直前にカーサが入れてくれた、柑橘系のフルーツを絞った水だったからだ。
「カーサがセヴィはそれが気に入ってそうだったから、と言っていたが」
「ん、はい。好きです……嬉しい」
ほわっと微笑んだセヴィに、クードはもう一度水を口に含むと口移す。
そうして四度程口移しで水を飲んだセヴィは、思ったよりもずっと乾いていたらしい喉が潤されてはふっと息をついた。
「後でカーサさんにお礼を言わないといけませんね」
嬉しそうに微笑んでいるセヴィのその一言に、クードの眉間にくっと皺が寄る。
首を傾げたセヴィに、クードはバツが悪そうに少し視線を逸らした。
「……出来れば、まだセヴィには部屋から出て欲しくない……お前は出てるじゃないかと、思うだろうが……」
ボソボソとそう言ったクードに、セヴィはシェーラが言っていた「嫉妬して八つ裂き」云々の話を思い出して、分かりましたと頷く。
「じゃあ、クードさまからカーサさんに伝えておいて下さいね」
「すまない……必ず伝える」
まだ少し冷たさの残った唇でキスをされて、セヴィはお願いします、とクードにキスを返した。
クードはもう一度すまないと言ってセヴィを抱き上げ直すと、テーブルの上へと視線を移す。
「飯にするか──と言いたいところだが……その前に風呂の方が良いか?」
問われて、セヴィは「お風呂でお願いします」と即答した。
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