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01.
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勢いだけで書いたので、細かい事はお気になさらず勢いだけで読んで下さいm(_ _)m
Rはとても控え目なので怒らないで下さい。
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*
「ユリアナ、お前に縁談が来た」
お父様のその一言に、私はついにその時が来たと手を握りしめた。
私ユリアナ・クラーセンは、公爵家の娘として生を受けた。
優秀なお兄様がいらっしゃるから家督どうこうは何の問題もなく、となると娘の私の役割は良縁を得る事。
政治利用どんと来い! と、どんな嫁ぎ先でも受け入れる心構えは出来ていたものの、隣国との関係悪化によって勃発してしまった戦の影響で国中が混乱している間に私ももう二十二。
行き遅れに片足を突っ込んでいる年齢となってしまった。
といってもその戦の影響で適齢期を迎えているにも関わらず嫁ぐことの出来ていない令嬢はそこそこ多いので、今なら「まだまだ適齢期」で通用するのだけれど。
「お相手は、どのような方でしょうか?」
私の婚約者はどなたかしら? どんな方かしら?
心構えは出来ているとはいえ、やはりお相手はどんな方かしらとドキドキはするもので。
もしも望みを言っても良いのだとすれば、出来ればあんまり年は離れていない方が良いし、出来ればお肉のたっぷりついた身体よりも細身の方が良いし、出来れば髪もふさふさの方が良い。
一番の望みを言っても良いのだとすれば、出来れば男女間の恋情はなくとも、互いを思い合える穏やかな情愛を育める相手であれば最高に嬉しいのだけれど……と思いながらお父様に問いかけた私は、お父様から告げられたお名前に三拍ほどの間固まってしまった。
「……申し訳ありません、お父様。もう一度、仰って頂いても……?」
「カイゼル侯爵――先だっての戦において、救国の英雄と呼ばれるようになったエーヴァウト・カイゼルだ」
「エーヴァウト・カイゼル様……」
呆然とその名を繰り返した私に、お父様は目頭を揉みながら息を落とした。
「私としても、お前が嫌であれば断りたいところではあるのだが……」
「……お断り、出来るのですか……?」
恐る恐る確認してみると、お父様は小さく唸った。
「これは、王命だ」
――詰んだ。
「それは……お断り出来ませんね……」
「……いや、二十二年前のあのネタを持ち出して脅せば……それとも二十六年前のあれの方が……」
真剣な表情でブツブツとそんな事を呟くお父様に、私は思わずぱちりと瞬く。
「国王陛下を脅せるほどのネタというのは、とても興味がありますが」
お若い頃は親友として過ごされたという国王陛下とお父様。
もしも私が本気で嫌がれば、お父様は国王陛下に対してそこまでして下さるおつもりなのだと思えばくすぐったい気持ちになる。
エーヴァウト・カイゼル様は、先の戦において最前線で指揮を執り、自らも剣を振るい、劣勢と思われていた我が国を勝利へと導いて「救国の英雄」と呼ばれるようになった御方。
そんな英雄と、公爵家の娘との王命による婚姻。
それは国を救った英雄への褒賞、なのでしょうか。
公爵家の娘と言えど、行き遅れに片足を突っ込んでいる私が褒賞に成り得るのかは、よく分からないけれど。
何にしろ私には勿体なさすぎる程の縁談だという事は分かっているし、ただの「救国の英雄」であれば、そんな方に嫁げるなんて名誉な事だと胸を高鳴らせる事が出来たに違いない。
「救国の英雄」の前に「冷徹非情の」なんて冠が付かなければ。
戦場でのエーヴァウト様は、それはもう恐ろしかったのだそう。
隣国の兵士たちを一切の情け容赦なく斬り捨てまくり、その様には味方でさえも震え上がったとか。
侯爵であるがゆえ、また隣国とも長らく緊張状態にあった為にあまり領地からお出にならず、現カイゼル侯爵の人となりはあまり知られていない。
戦場においてのみ人柄ががらりと変わる、という事もないだろうから、恐らくは日頃からそのような――冷徹で非情な方なのだろう。
あぁ、憧れの結婚生活よ、さようなら。
――いいえ、エーヴァウト様は御年二十八。私とはたったの六歳差。
凱旋の時に遠目に拝見しただけだけれど、丸くはなかったように思う。剣を振るうのならその身についているのはぷよぷよのお肉ではなく、がっしりとした筋肉に違いない。
そして遠目に拝見しただけだけれど、頭髪にも何ら問題はなかったように思う。
こんなに好条件なのだから、何の文句もない。
ただ私の一番の望み――互いを思い合える穏やかな情愛を育める相手であれば良いな、という点だけがどうやら絶望的だというだけで。
「救国の英雄様の元へ嫁ぐのが私で良いのかは分かりませんが……」
私はすっと息を吸うと、スカートを持ち上げてお父様に向けて頭を下げた。
「陛下からのお話、謹んでお受けいたします」
Rはとても控え目なので怒らないで下さい。
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「ユリアナ、お前に縁談が来た」
お父様のその一言に、私はついにその時が来たと手を握りしめた。
私ユリアナ・クラーセンは、公爵家の娘として生を受けた。
優秀なお兄様がいらっしゃるから家督どうこうは何の問題もなく、となると娘の私の役割は良縁を得る事。
政治利用どんと来い! と、どんな嫁ぎ先でも受け入れる心構えは出来ていたものの、隣国との関係悪化によって勃発してしまった戦の影響で国中が混乱している間に私ももう二十二。
行き遅れに片足を突っ込んでいる年齢となってしまった。
といってもその戦の影響で適齢期を迎えているにも関わらず嫁ぐことの出来ていない令嬢はそこそこ多いので、今なら「まだまだ適齢期」で通用するのだけれど。
「お相手は、どのような方でしょうか?」
私の婚約者はどなたかしら? どんな方かしら?
心構えは出来ているとはいえ、やはりお相手はどんな方かしらとドキドキはするもので。
もしも望みを言っても良いのだとすれば、出来ればあんまり年は離れていない方が良いし、出来ればお肉のたっぷりついた身体よりも細身の方が良いし、出来れば髪もふさふさの方が良い。
一番の望みを言っても良いのだとすれば、出来れば男女間の恋情はなくとも、互いを思い合える穏やかな情愛を育める相手であれば最高に嬉しいのだけれど……と思いながらお父様に問いかけた私は、お父様から告げられたお名前に三拍ほどの間固まってしまった。
「……申し訳ありません、お父様。もう一度、仰って頂いても……?」
「カイゼル侯爵――先だっての戦において、救国の英雄と呼ばれるようになったエーヴァウト・カイゼルだ」
「エーヴァウト・カイゼル様……」
呆然とその名を繰り返した私に、お父様は目頭を揉みながら息を落とした。
「私としても、お前が嫌であれば断りたいところではあるのだが……」
「……お断り、出来るのですか……?」
恐る恐る確認してみると、お父様は小さく唸った。
「これは、王命だ」
――詰んだ。
「それは……お断り出来ませんね……」
「……いや、二十二年前のあのネタを持ち出して脅せば……それとも二十六年前のあれの方が……」
真剣な表情でブツブツとそんな事を呟くお父様に、私は思わずぱちりと瞬く。
「国王陛下を脅せるほどのネタというのは、とても興味がありますが」
お若い頃は親友として過ごされたという国王陛下とお父様。
もしも私が本気で嫌がれば、お父様は国王陛下に対してそこまでして下さるおつもりなのだと思えばくすぐったい気持ちになる。
エーヴァウト・カイゼル様は、先の戦において最前線で指揮を執り、自らも剣を振るい、劣勢と思われていた我が国を勝利へと導いて「救国の英雄」と呼ばれるようになった御方。
そんな英雄と、公爵家の娘との王命による婚姻。
それは国を救った英雄への褒賞、なのでしょうか。
公爵家の娘と言えど、行き遅れに片足を突っ込んでいる私が褒賞に成り得るのかは、よく分からないけれど。
何にしろ私には勿体なさすぎる程の縁談だという事は分かっているし、ただの「救国の英雄」であれば、そんな方に嫁げるなんて名誉な事だと胸を高鳴らせる事が出来たに違いない。
「救国の英雄」の前に「冷徹非情の」なんて冠が付かなければ。
戦場でのエーヴァウト様は、それはもう恐ろしかったのだそう。
隣国の兵士たちを一切の情け容赦なく斬り捨てまくり、その様には味方でさえも震え上がったとか。
侯爵であるがゆえ、また隣国とも長らく緊張状態にあった為にあまり領地からお出にならず、現カイゼル侯爵の人となりはあまり知られていない。
戦場においてのみ人柄ががらりと変わる、という事もないだろうから、恐らくは日頃からそのような――冷徹で非情な方なのだろう。
あぁ、憧れの結婚生活よ、さようなら。
――いいえ、エーヴァウト様は御年二十八。私とはたったの六歳差。
凱旋の時に遠目に拝見しただけだけれど、丸くはなかったように思う。剣を振るうのならその身についているのはぷよぷよのお肉ではなく、がっしりとした筋肉に違いない。
そして遠目に拝見しただけだけれど、頭髪にも何ら問題はなかったように思う。
こんなに好条件なのだから、何の文句もない。
ただ私の一番の望み――互いを思い合える穏やかな情愛を育める相手であれば良いな、という点だけがどうやら絶望的だというだけで。
「救国の英雄様の元へ嫁ぐのが私で良いのかは分かりませんが……」
私はすっと息を吸うと、スカートを持ち上げてお父様に向けて頭を下げた。
「陛下からのお話、謹んでお受けいたします」
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